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外伝四話 アイ・らぶすとうりい



私は黒龍の少女。




私は生まれて間も無いながらも意思を持つ。

それ即ち。恐らく、私は天才なのだろう。


天才が故に考える。考えなければならない。

これからの生を。人生ならぬ龍生を。


「生きる」とは何だろうか。その定義とは。


「生きる」と言うのは心臓が動き続ける事を指すのだろうか?

私達魔物には、心臓の代わりに魔力核と呼ばれる物がある。それは人間の心臓と同じ様な物と言っても差し支えない物だが、人間の心臓よりも遥かに頑丈だ。勿論壊れたら龍と言えど死ぬのだが。

まあそれも自分から壊そうとしない限りは有り得ないが。


死から最も遠い存在。それが龍であり、自殺以外で死ぬ事は無い。

そんな父が死を選んだ。私を守る為だけに。


こんな死にかけの私を守るなんて無駄な事をしなくても良かった。

私なんか見捨てて、新たな相手を作れば良かった。そしてまた子供を作れば、私の代わりを作って、見捨ててしまえば良かった。

そうだ。そうすれば良かっただけなのに。


‥‥‥理解ってる。

それだけ大切に想ってくれていた事は。



‥‥‥‥。


《ぐすっ》


また‥‥‥考えてしまった。

自分が孤独だと理解してからは、どうしようもない寂しさを感じて弱音を吐いてしまう。


《どうして。どうして私は孤独なのだろう》


迫り来る死への恐怖と、このまま変わり映えの無い場所でただ朽ちていくだけの生命。

無駄に生かされ、何の価値も残せず消える。

そんな自分の無力さに苛立ち、人間への憎しみが溢れて止まない。


《人間共の所為で母は》


悲しみを怒りに塗り替える。

そうしなければ耐えられない。復讐と言う名の目的が無ければ今にも挫けてしまいそうで。


諦めたら死ねる。

だが、それをしてしまったら、私を守ろうとした父はどうなる。それこそ無駄死にになってしまうのでは無いか。


《死んでたまるか。人間に復讐するまでは》


唯一人の部屋でその声は淡く描き消えて行く。

遮る物は何も無いので虚しく音は空気に溶けた。

それに伴いさっきまでの高熱は一瞬で冷めていった。

続く一言は寂しさを詰め込んで絞り出す様な声だった。


《馬鹿馬鹿しい。さっさと能力開発を行うか》


どうでも良い、と言わんばかりの感情すらも投げ出す様な諦めの入り混じった声。怒りを通り越してしまった諦観。

そしてこれからやる事は、繰り返しいつも行なっている自分自身の解析だ。日課とも言う。

身体を調べ、自分の出来ることを増やす為。いつかその時が来るかも判らぬ復讐に備え、一つでも多くの能力を身に付ける為だ。



‥‥‥無駄だと理解っている筈なのに。



そんな感情を抱き続けていたそんなある日。

この空間に何かが出現した。

最初はそれが人かどうかすら戸惑った。

しかし、あろう事かそれは私に話し掛けてきたのだ。

意思を持っている事からその何かを生き物だと判断する。そうなってしまえば、私は瞬時にそれを敵だと認識した。


仕方ない。私の味方など疾うの昔に居亡くなってしまっているのだから。


つまりあるとしたら敵。少なくとも味方では無い。これは滅ぼすべき憎悪の対象だ。

しかしそれも今更。今の私に何が出来る訳でも無い。人間を滅ぼしたとて自分はどうせ死ぬ。


それよりも、だ。

私は今まで悠々自適に過ごしていた。

そうだ。私は一人の時間が好きで、暇を見つけては記憶を読み取り、残りの生を謳歌していた所だ。

家族の思い出を読み込む場所。

そんな、そんな私の大切な空間に入って来たんだ。



ユルセナイ。



とっとと追い出してやる。

此処は、私の世界だ。かけがえのない、何よりも大切な思い出の場所なんだ。人間如きが居て良い場所ではない。

そう思って強い言葉で拒絶した。

しかし何故か通じない。



‥‥‥は?コイツ何を言ってる?


‥‥‥助けに来た?


何を馬鹿な。簡単に助けるとか言って。


あっ、やめてよ。イヤだ。


‥‥‥私は‥‥‥殺してまで‥‥‥違う。


切り離さなきゃ。黙ってよ。受け取れないよ。


意味がわかんないよ。


‥‥‥はは。


それなら。信じて見ていい?


‥‥‥。




私は。貴女の記憶を預かった。それを燃やして私の生命力へと変換した。驚くべき事にかなり寿命が延びた。

人間如きの記憶がこれ程価値を持つとは思っていなかったからだ。


念の為、燃やす前に私の頭の中にその記憶を叩き込んだ。それを見て私は、少しだけ信じて見たいと思った。この人間の事を。

今、目の前で倒れて眠っている女性を見つめながら。


起きるのを待っていた。

そろそろだと思う。


『んんっ』

《起きたか》


初めての人間。

所謂ファーストコンタクト。あれ程憎んでいた人間が目の前にいる。

でも、怒りはもう無い。

コイツは悪い人じゃない。命を賭けて私を救おうとしてくれた、どうしようもないお人好しのバカ間抜けだ。


『どこ?』

《私の空間だ》

『ん?空間?私?』

《言うなれば私の家だ。そしてお前は勝手に住み着いた居候みたいなものだな》

『居候。そっか、ところで貴女は?』

《尋ねる前に自分が名乗るべきではないか》

『‥‥‥ん。私は、あれ?思い出せないや』



そうだろうな。私達が混ざった影響だ。

思い出せやしないだろう。この人間の記憶を量だけで言えば、人間の五歳児よりも少ないからな。



《ふん。まあ仕方ないか》

『質問良い?』

《何だ。言ってみろ》

『私について何か知ってる?』


一応知ってる。

記憶を流し読みしたが、完全ではない。

しかし、それを馬鹿正直に答えるつもりもない。


《知らん》

『‥‥‥そう』

《何だ。不満そうだな》

『答える気が無さそうだから』

《それは、知らんだけだ》

『ふーん。仕方ないって言ったよね。さっき』

《それがどうした》

『私の記憶が無い事を知っていた気がする。そんな反応だった』

《は?人間如きが余計な詮索をするな。こっちは生かしてやってるんだぞ》



会話をしようとしたのは失敗だった。

コイツは身の程も弁えず、私に文句を言いたげだ。



『否定はしないんだ。やっぱり』

《だったら何だと言うんだ》



心の底を見透かす様に。私を真っ直ぐ見ていた。思わず目を逸らしてしまった。



『ねえ、私のこと好き?』

《はっ?》



急に意味の分からない事を言い出した。



『だってさ、人間如きがとかいいながら、私が起きるのを待ってたし。普通、わざわざ嫌いな人間に話しかけたりするかな?』

《私は情報収集の為に話しかけただけだ!》

『ふーん。人間の姿をしていて、人間が嫌いで、放ってはおけない。色々と一貫性が無いよ』

《黙れ。私に偉そうに言うな!今すぐ追い出してやっても良いんだぞ》


怯ませる為に怒鳴り声を荒げた。

しかしそれでも効果はない。

ただ冷静に見つめられていた。


『言う前にやれば良い。わざわざ言うって事は優位を保つ為かな?』


気付けば歯軋りをしていた。

出来ないだろうと理解っているかの様に挑発してくる。

勿論追い出すなんて出来ない。だからこそ悔しく感じた。


《お前に何がわかる》

『何も思い出せないけどね。それでも、貴女が無理をしている事はわかるよ』

《‥‥‥知った様な口を》

『ねえ。話して?どうしてそんなに人間が嫌いなの?』

《話す訳ないだろ。馬鹿馬鹿しい》

『何でもする。だから教えて?』

《な、何でも?》



本当は救いが欲しかった。

誰かに話を聞いて欲しかった。

この人間は信じても良いのかもしれない。

この人間は、命を賭けて私を救おうとしたんだから。私の我儘だって聞いてくれるかもしれない。



『うん。なんでも』

《あっ、》

『教えて、くれる?』





‥‥‥。


ありったけ話した。

怒りも篭っていた。八つ当たりみたいで随分と酷いことも言った。

しかし、聞いて貰ったお陰でかなり楽になった。

どうせ誰にも知られず、何も残さずに終わるだろうと思っていたから。



『そっか』

《これで全部だ》

『お母さんか』

《どんな人だったのかも知らない。父の記憶では優しい人だったと》

『うん。よーし決めた。私がお母さんの代わりになるよ』

《は!?》



突拍子も無い事を言って私をそっと包み込んだ。

初めて触れて感じたその時の温もりと全く同じのそれは、到底抗い難く逃れ得ないものだった。

しかし、それはとても心地良いもので、私の心がどうしようもなく溶けてしまいそうな感覚に陥ってしまう。


『君のお母さんには成れないけど、姉として君をよしよししてあげるからね』

《私の方が優位なんだから、姉は私だろう》

『そうだねー。よしよし』



絆されてはいない。

何とか龍としての威厳を維持しながら、初めての人間と触れ合った。姉の地位も守りきった。

当然だ。私は龍なのだから。天才なんだから。

それはそうと、あぁ、駄目かも。溶けちゃいそう。




それから少し時が流れた。

今日も今日とて龍を駄目にする人に包まれながら勉強をしていた。

私の記憶からいろんな情報を抜粋して、二人で意見交換しながら励んだ。

最初は何の気も無く会話だけのつもりだったが、参考になる考えは多く、私がこの人を見直したのはすぐの事だった。


この人の記憶が無いから、逐一説明から始まるのだが、会話をする毎に新たな発見が得られた。

とは言えこの人は、基本的にお人好し寄りの思考なので、私が例え話に罠を盛り込めばコロッと騙される。

誰かに頼って貰う事は良い事だと思っているらしい。逆に相手が自分を都合の良い様に利用すると言った考え方は理解出来ないみたいだ。


だから私は、お前を都合の良い様に利用している。撫でさせてやっているんだと言ったら、より私を甘やかして来た。

全く。チョロい人間だ。そんなんでコロッと騙される。チョロいのは私相手だけにしておくんだぞ。



おい、聞いてるのか。全く。

ちゃんと聞かないと撫でさせてやらないからな。

あっ、嘘。ごめんなさい。えへへ。


こうして、私にとって、最も大切な人が出来た。


何処にも行かないで欲しい。

本当か?一緒に居てくれるのか?

えっ、私も?分かった。

約束だからな。何処にも行かない。永遠に。



そして、片時と離れる事すら無くなった。

でも、私はそれで良いんだ。



ああ、わたしはしあわせだ。

これが、このときが、いっしょうつづけばいいのに。


わたしと、あなたと、ただふたりだけで。

やくそくしたから。ずっとそばにいようって。


わたしのたいせつなかぞくとの、たいせつなやくそくなんだ。

本編でしばらくお休みしてたので此処らへんで一つ。


十二年という月日を共に過ごし、愛を育み、影響を与え合いました。


さて、この話の主人公は他者を思いやるのは少々苦手です。

特段それが致命的と言う訳ではありませんが。

まあ別に良いのです。理解のある少女ちゃんがいますからね。


しかし、他者から好かれる妹を見てモヤモヤしてしまう面もあり、それに対して素知らぬ顔を演じ続ける可愛らしい子どもです。

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