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外伝二話 悪しき者

これはかつて、存在そのものが伝説として語られた者の話のごく僅かな物語である。






「クックック」


ある1人の男性が笑っていた。

背が高く、鋭い瞳も相まって、目の前に少年少女がいた場合、泣いて逃げ出すであろう威圧感を放っている。背景には夕陽が差し込み、それによって余計に怪しさまでもが味方をしていた。

これでは大の大人でさえも恐怖を感じる事だろう。だがしかし、大人がこの者を恐れる大半の理由は、形容し難き殺意とも言える覇気であろうか。

あくまでも背景は雰囲気だけ。経験豊富な者ならば察する、強烈な【悪】その物だとも思える様な不穏な赤色の目の輝き。

人ではないナニか。魔物だと言われてもストンと胸に落ちてしまう。そんな存在。


黒き龍。悪意の象徴として畏怖された者。

人の姿をしているが、それは仮初の姿。

その者を認識出来た者は数少ない。見たら忘れようが無い存在感であるが、その者は自由な存在だった。全てにおいて。


見られたくなければ、見えなくできる。

覚えられたくなければ、覚えられなくできる。


その者は、全てを物として見ていた。

全ては等しくその者の下に位置し、その事実に対して、その者は極めて正しくその事を理解していた。

欲しい物は力によって為し、得られぬ物は無い。

それ程の強大な存在なのだが、他の者において幸運だった事は、その者は欲が少ない事だった。

ただ、慎みとは違う。では何から来る無欲かと言えば、ごく単純な事なのだが、万物に対してひたすらに興味が無いだけ。全てが下だから故の。


その者は笑うのは珍しい。

基本的には殆ど退屈そうな表情で、不機嫌に見える事が多い。

今回は笑ったとは言え、とても恐ろしく映り、とても笑っている風には見えないかもしれないが。

さて、そこに別の1人の声が混じる。

若い青年の声。こちらも言葉に覇気を纏うかの様な。


「珍しいですね?」

「ん?居たのか」


青年の方を向き、鋭い瞳で睨む黒き者。

殆どの者が怯む眼圧だが、青年は笑いながら答える。


「はい、ただ今。式典には出ませんか?」

「我には興味が無い」

「折角、御名前を披露するつもりでしたのに」

「注目を浴びるであろうが。まあ、思惑通りなのか?」

「まさか、そんな」


苦笑いの青年。

親に悪戯をしようとして見透かされ叱られたが、それを誤魔化している様な。


「フン。全く油断も無いな」

「失礼しました。黒龍殿。いえ、イヴェトラ・ロード=リベリオン様」

「誤魔化しおって」

「笑っていたのは名前ですか?」

「まあ、そう、だな」


歯切れ悪く答える黒龍。

事実であるが、思い返せば少し恥ずかしくなってしまった。


「結局、知る者は私だけですか。勿体無いですね。良い御名前だと思いましたが」

「それとこれとは別だ。だがまあ、良い名か。その通りだな」

「はい。仰る通りです。そして、イヴェトラ様は主役として参加すべきだと思うのです。違いますか?」

「違うな。面倒が増えるのは敵わん。よって答えはノーだ」

「残念です」


そう言いながらも、そう答える事を知っていた青年は、笑いながらお辞儀をして、この場を去ろうとした。

しかし、それを呼び止める黒龍。


「待て」

「は!何でしょうか?」

「これをやる」


そう言って投げたのは小さな短杖。

黒色の小道具で、玩具にも見える。


「これは?」

「名前の礼だ」

「どういった物です?」

「竜を操る道具だ。魔力を込めておいた。無駄遣いはするなよ」

「‥‥‥頂戴します」


そう言って青年は、今度は深々と頭を下げてから踵を返し、去っていった。

そして、再び1人となった黒龍は、誰に言うのでなく喋る。


「何が主役だ。奴が王なのだから、我が出ても混乱するであろうが。まして数多の者に話し掛けられる筈なのに、態々来おってからに。やはり馬鹿なままだな。立場を理解しておらぬ。本当に、手のかかる小僧だ」


そう語る表情は、厳格な父が息子を叱るみたいなもので、馬鹿にしながらもどこか笑っている。

恐ろしくもあるが、それと同時に少しだけの優しさを兼ねている。しかしどこか寂しそうにも見えてしまえる。

ただ、その表情も一瞬。

感情の色は消え、それを追う様に黒の帳は国に覆い被さるのだった。





違う刻。同じ場所。遥か彼方。単位に従って表すなら数百年後。

殆どは移ろい、ほぼ変わらない物もあったが、唯一変わらなかったモノがある。

ほぼ変わらなかった国の地に居る、変化の無い黒き龍。

黒龍は高価なベッドに寝転がり、足を組み大胆に寛いでいる。目を閉じ、眠っているのかもしれない。

そして、それをベッドの外から眺める正座の女性。黒龍と違い、緊張しているらしい。

硬く結んだ口を開き、懇願する様に部屋の主人へと言葉を伝える。


「黒龍様」


呼び掛ければ目を薄く開き、瞳だけが動いた。


「なんだ」


空気が凍てつく冷たい声。

それが益々、女性に緊張を齎す。


「は、はい。陛下がお呼びですが、その、いかが致しましょう?」

「アルバートか。用件は?」

「アルティア帝国からの使者が来ましたので、判断を仰ぎたいとの事です」


黒龍は、女性の言葉を聞いて思考を巡らせたのか、一つ間を置いて答える。


「仕方ないか。巫女よ。よく伝えてくれた」


ふわりとベッドから離れ、無造作に女性を撫で、部屋を出て行った。

女性はと言うと放心していた様子だが、慌てて黒龍を追いかける。


そして着いたのは王城。黒龍の屋敷からすぐ目の前の建物。

数人が王の御前に立ち、会話をしていた。

そこに無言で参加する黒龍。その姿を目に捉え、会釈をする者達。その者の中には王も含まれる。

逆に頭を下げなかったのは、所謂使者と呼ばれた者のみだった。しかし、それは仕方ない。未だ何も知らなかったから。

何も知らない使者が会話を続けていた。それは一方的で、今も尚続く。空気が変わってしまったのにも気付かずに。


「それで!どうなのだ!?」

「ぬう」


王が目線を彷徨わせて声を詰まらせる。その反応は誰かに助けを求めているのだが、助け舟を出す者は居ない。一部は話を遮ってでも助けたいと思っている者もいるが、この場に部外者がいてかつ、王よりも敬意を示すべきお方が参加した事が原因で、全員が黙りこくってしまった。

そのせいで、使者の口調が悪くなるのも、ある意味仕方無いかもしれない。


「我らが帝国が態々来たのだぞ!?理解しているのか!」


王に対しての相当な暴言。

隣に立つ女性は、腰の隣の手を握り締め、目付きが鋭くなっている。今にも怒りだそうかといった瞬間。

巫女を除外した、この場への入場が最後の男性が喋った。


「失礼。帝国の使者殿だったか?」

「なんだお前は!」

「事態を知らん故、説明願いたいが、如何だろうか?」


黒龍は訊ねた。

訊ねたが、ほぼ情報は理解した上で敢えて質問したのだが、その使者は余計に怒りだしてしまう。

黒龍としては「ここは外交の場であるから冷静になれ」と思って伝えたつもりだが、勿論そうとは取れず。


「後から来ておいて何様だ!?この愚図が!」


その言葉で黒龍は怒らなかった。しかし周りは、特に巫女が慌てふためいてしまう。

そして黒龍は、この会話で使者の人間性を理解した。なので黒龍は少しだけ笑う。

この場にいる使者以外は、表情を固めてしまったが。


「すまぬな。確か戦争だったか?それで、援軍の要請か?」


訊ねる相手は使者でなく巫女。訊ねられた巫女は咄嗟に答える。


「は、はい!その通りです。こ、イヴェトラ様」

「ふむ。で?使者殿は何故お怒りなのかな?」


あくまで下手に出る黒龍。

久しぶりに遠慮の無い人間を見つけて、少し楽しんでいるのかもしれない。


「我らが帝国が依頼をしてやっているのに、即座に答えんからだ!竜聖国は弱小国の癖に、立場を理解しているのか!?全く。良いか?黒龍を出せ。それで今後は助けてやろうと言っているのだ。かなり良い条件だろうが!」


理不尽極まりない依頼。もはや恫喝。

そして、立場を理解していないのは使者の方なのに。この場の者は黒龍以外、沸騰寸前である。

特に、王の隣の王妃は隠そうともせず。一触即発。風が当たるだけで暴発しかねない。

ただ一人冷静な黒龍は、笑って返事をした。


「ハッハッハ。成る程。さて?」


笑っていたのに急に笑顔を消したかと思えば、くるりと首を動かし王の方を向く。そして口に出す。


「リアーナよ。何か言いたい事があるのでは無いか?」


リアーナと呼ばれた人は、憤怒の表情を消し、慌てて平静を装いながら答えた。


「い、いえ!」

「そうか。そなたはどう思う?意見は無いのか?」

「あ、」


黒龍は質問をしたのではなく、言いたい事を言えと命令をしたのだ。その事を理解し、リアーナ王妃は努めて冷静に喋り始めた。その相手は使者へ。


「失礼致しました。それではまず一つ目。なぜ私達が帝国を助けたいと思ったのでしょうか?」

「な、何!?」


使者はなぜか混乱する。

恐らくは援助して貰えると高を括っていたのだろう。

もしくはリアーナ王妃の皮肉が通じていないのかも。


「次に二つ目。この国において、黒龍様は絶対です。そして、黒龍様を侮辱する帝国如きに出せる兵は、一兵たりとも有りません」

「き、貴様!帝国を如きと言うか!?」

「最後に三つ目。テメリア王国に負けた国如きと協力する理由は何でしょうか?」

「ま、負けたのでは無い!それに、王国は卑怯にも女神を出して来たのだ!だから、黒龍を出せと言っているのだ。大体貴様は女の癖に何様だ!」


バチバチと睨み合う双方。口喧嘩と言っても差し支え無い。このままでは泥沼になりそうなので、再度黒龍は口を出す。


「リアーナ、それがそなたの意志か?」

「はい。そうです」

「そうか。だが、我は興味が湧いた。女神とやらにな」

「行くのですか?」

「そうだ。我は自由だからな。そなた達と違ってな。その結果をどうするかは好きにせよ」

「承知しました」

「と言う事だ。使者殿よ」


黒龍が話し相手を使者に戻せば、怒り止まないのか、また噛み付いてしまう。


「貴様はさっきから私の邪魔ばかりしおって!お前は何なのだ!」

「くふふ。未だ理解せぬか。残念な事だ」

「何!?」

「我こそが黒龍である。使者殿?理解出来たかな?それとも、その首の上にあるそれは、音の鳴る飾りかな?」

「な、何だと!」

「帝国の使者様。黒龍様の命令あれば、即座にその首を斬って差し上げます。ですからこれ以上の無礼、お止め願います。命、惜しいでしょう?」


その言葉を発したリアーナ王妃を始め、全ての者から注がれる侮蔑の視線。使者は屈辱を味わう事になった。しかしてそれは当然の結果。

そして、それらを無視した黒龍は、一つ宣言をして外へ飛ぶ。


「女神を倒して見せよう。そして、その恩を忘れるな。愚かな帝国の飾りよ」


一人舞う。黒龍に協力する気は無い。

個々の意思によって全員が動く。

自由、規律、強欲。それら三つの伸びた先。戦争という名の災いを齎してしまうのだった。

黒龍様。災いの象徴ですね。


それはそうと、色々と書きたい事も多いのですが中々。何せ時間が。(言い訳)

その、更新ペースが落ちそうなんですよね。本当に申し訳ないです。ちょくちょく予兆がありましたけどね。

ですからお詫びのつもりなんですけどね。この一話。


折角読んでくださる方もいるので。

‥‥‥いますよね?え?いない?そ、そんな。

何はともあれ頑張ります。


最後になりましたが、読者様もとい神様。

読んでくれてありがとうございます。m(*_ _)m

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