表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

外伝一話 美しき冬の出来事

投稿が不定期になりますので、お詫びの一話です。


もし、この話を読むのであれば、百一話を読んでからにするのをお勧め致します。


本編では無いのでアレですが、伏線回収があったりとかしますので、ネタバレにお気をつけ下さい。


白が降り注ぐ、銀世界を見つめる1人の女性が居た。1枚の窓を隔て、外を眺めている。中も外も白い景色で、呆然と雪の動きを観察している。

退屈そうに、何かを諦めている様にも見える。



無音の空間に、ガラガラと何かが転がる様な音がする。ゆっくりと首を動かせば人が来ている。


冬の学生服を着た女の子。高校一年生の頃からの初めての友人である。

私は来てくれた親友の名前を呼ぶ。


「メイちゃん」


呼ばれた親友は、歯を見せて笑う。親友が私のところまで歩いて来て、椅子に座る。だが何故か、立ち上がって宣言する。


「アイさん参上!」


ポーズをとってドヤ顔である。静かになってしまう。元々静かだったので、戻っただけとも言える。そして親友が話し始める。


「ミーちゃんだけだよ?私をメイって呼ぶのは」

「それは、まあその」

「ミーちゃんが、最初に呼んでくれたのに」

「間違えちゃったから。あの時はごめん」

「謝らなくていいけどさ。まあ、そのお陰で、アイちゃんて呼ばれてる訳だし」


親友の言葉を聴いて、私は思い出す。




そう、アレは入学式を終えて、クラス分けをした後の教室。


私は自分の席を調べて、座って待っていた。


すると、私の後ろの席に座る女の子が、チョンチョンと背中を触っている。

何だろうか?と思い振り返る。そうすれば、私は話し掛けられる。


「これから、よろしくね。あなたの名前は?」


問い掛けられたので私は答える。


「私は、高里美冬。えっと、貴女は」


そう言いながら、私は相手の名札を、見つけて読む。


「つきみや、あい?」


私が名前を呼べば苦笑いする、女の子。


「あはは、やっぱり間違えたか」

「え!?」

「メイ、だよ。私の名前は月宮愛生(つきみやめい  )


私は慌てて謝る。だが気にして無いのか、すぐさま笑顔になっている女の子。


この光景を眺めている周りの生徒。私はざわめきの中心に居る。次々と、メイちゃんに話し掛けるクラスの人達。応じるメイちゃん。


「メイちゃんって言うんだね?」

「アイで良いよー。可愛いよね!?ミーちゃんが、あだ名を付けてくれたんだよ」

「ミーちゃん?」

「そう!美冬ちゃん。名付けてミーちゃん」


紹介されて、私は恥ずかしくなる。


クラスの子達は、積極的に話し掛けて来る。友達が出来るか不安だった。だが、メイちゃんのお陰で馴染めた。高校に入って、最初に出来た大切な親友なのだ。




私は目を細めて記憶を辿っていれば、声が聞こえて現実に引き戻される。


大切な親友が話し掛けて来る。


「なーに、してたの?」

「雪、眺めてた」

「そっか。早く、良くなるといいね」

「うん」

「良くなったらさ、どこか行こうよ。ね?どこか行きたい場所ある?」


問われた私は考える。

そう言えば、昨日テレビで温泉特集を見た。


とても、心地良さそうに入浴する女優さん。

もう、暫くお風呂に入れていない。今の私は、お医者さんに体を拭かれるだけだ。露天風呂に少し憧れている。なので


「温泉」

「え?」

「露天風呂に入ってみたい」

「そっか」

「うん」


少し無言になる。しかし繋いでくれる私の親友。


「ならさ、行こうよ。治ったら、私とデートしよ?」


照れながら笑う親友。とても眩しい笑顔で、目を合わせられず、避けてしまう。


私は下を向いて頷く。それを見て悲しみの表情を浮かべる親友。


そして、それをかき消すために、急に動く親友。悲しみを吹き飛ばす様に、何かを取り出して言う。


「これ!誕生日!!」


可愛らしい、箱の様な何かを私の前に置く。そして、続け様に口を動かす親友。


「ミーちゃん。誕生日おめでとう」

「あ、そっか。そうだね。ありがとう」


忘れていた。今まで家族には、お家で祝って貰ってたから。まあ、そんな事よりも凄く嬉しい。なので私は開けて良いか訊いてみる。


「開けて良い?」

「うん!是非。あ、でも手紙だけは、その」


許可を貰って、私はリボンを解く。そして、中から出て来たのは、丸くて透けている球のような物。雪の様な模様が浮いていると言うか、何と言うか。


所謂スノードームと呼ばれる物である。

とても綺麗で、私が見惚れていると、話し始める親友。


「これさ、手作りなんだ」

「綺麗だね」

「でしょ?ミーちゃんをイメージしたんだよ」

「そっか。嬉しい」

「えへへ」


2人はお互いに笑い合う。優しげな空気が漂う。

そしてそこに入って来る、1人の大人。その人を見て反応する2人。


「あ、お父さん」


片方がそう呼べば、その父親が口を動かす。


「おや?確か、月宮さんかな?」

「あ、はい。お邪魔してます」

「いや、いつもありがとう。丁度良いかな?少し良い?」

「え?ここでは駄目ですか?」

「うん」


親友とお父さんが会話を繰り広げている。しかし、お父さんが親友に許可を取ってから、部屋を出て行く。


そして、退屈な私は親友が居ないのを良い事に、手紙を読む。




暫くして、お父さんが戻って来た。親友がいないので、私は疑問に思い、首を傾げれば父が話し始める。


「あっと、その、月宮さんなんだが、用事があるらしくて、帰ってしまったんだ」

「そうなんだ」


気まずそうにする父。そして父からも誕生日プレゼントを貰う。


綺麗な写真立てを貰ったので、早速家族3人の写真を入れる。


悲しそうな表情を浮かべて、写真を眺める父。私は思わず、喋る。それはお礼の言葉だ。



「ありがとう」

「急に、どうしたんだ?」

「私は何も出来ないから。お礼だけでも言わなきゃって」

「っ、!気に、しなくても良い」

「ううん。いつも、ありがとう。お父さん」

「‥‥‥ああ」


感謝を述べていれば、母が来て会話をする。


それは、他愛のない話だ。母も誕生日プレゼントを渡してくれて、私は今とても幸せだと思う。親友からも大切なお手紙を貰い、家族からも優しくされている。それも先週から特に。元々優しかった親は、もっと優しくなってしまった。



そう、私は察している。


最近なんだか、起きれない。ゆっくり薄く伸ばされる様な、鈍い感覚。間違い無い。




私はきっと、もうすぐ死んでしまう。




痛くない。何も感じないから。


怖くない。もう、過ぎてしまったから。


辛くない。今はもう、幸せだから。


だから、お礼を言おう。幾らでも。数え切れない恩がある。


その全てにお礼を言おう。


全てが、終わるまで。返し切るまで。






日は巡る。


寒さは厳しいが、親友が来てくれたから、寒さは気にならない。静かに見合っていたら、重々しく口を開く親友の言葉に、耳を傾ける。


「ミーちゃん」

「どうしたの?」

「辛く無いの?」

「え?」


急に涙を流す親友。それに笑顔で答える私。


「辛く無いよ?」


表情が歪み、私よりも辛そうな顔で、私に問いかける親友。


「どうして!?」

「幸せだからだよ」

「なんで、どうして」


私の答えが納得出来ていないらしい。


問われても決まっている。大切な家族。大切な親友が、側に居てくれるのだから。

私は答える。


「メイちゃんのお陰だよ?」


悲痛な面持ちで私を見つめ、親友は叫ぶ。


「どうして、お礼なんて言うの!?」

「感謝してるからだよ?」


私の無表情が良くなかったのだろうか?感情的な親友は怒鳴る。


「ミーちゃんの馬鹿!」


色々な想いが混ざっているのだろう。親友はそう言って、部屋から飛び出す。



もう、心は無くしていた。半分諦めていたのだから。


心は痛む。幸せの筈なのに。


前が滲んで、何も見えない。泣く感情は消えていた筈なのに。



私の感情は、生きていた。そして最後に親友が動かしてくれた。そうだ。諦めたら駄目だ。何があっても私は頑張るんだ。


少女は願う。生を。無駄だとしても。諦めない。





大切な親友を怒鳴ってしまった。


そんなつもりじゃなかったのに。辛い筈なのに、弱音を吐かない親友。


もう何もかもがぐちゃぐちゃで、苦しい。謝らなきゃ。そう思い、また明日会いに行く事を決める。涙を拭い、言葉を紡ぐ。


「謝って、明日はずっと、ミーちゃんとお話しする。ごめん。ミーちゃん。ごめんね」



女の子は約束をする。果たされぬ約束を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ