炎狼、駆ける
短めです。
ここから場面の切り替えが激しくなります。
ソニアは全速力で、ダンジョンを駆け下っていた。
スタンピードのせいか、すでに、第二階層にも魔物がひしめいている。
それでも、ソニアは歩みを止めない。拳に炎を宿し、最小限の力で、魔物たちを焼き払いながら一直線に突き進む。
感覚は研ぎ澄まされ、呼吸をするように魔物を殲滅しながらも頭の中は姉のことでいっぱいだった。
(お姉ちゃん、どうして……)
魔力で無理やり身体能力を向上させたせいで、呼吸をするたびに肺が焼けそうだ。
かしこい姉思いの妹には、すべて、わかっていた。何が最善か。愛する姉がどんな判断を下すか。そして姉がいかに頑固者で一度やると決めたら何があってもあきらめない芯の強い人間か。
(それでも、お姉ちゃんと一緒に……)
ソニアは姉と違って騎士になど興味はない。ただエルノアの稽古に付きあわされている。エルノアはそう思っている。
(違うよ。本当はお姉ちゃんに置いていってほしくなかった)
姉の横、姉の後ろは、ソニアにとって一番心安らげる場所だ。確かに、才能はソニアのほうが恵まれていたかもしれない。だが、いつも、エルノアはソニアにとってはたった一人の家族だ。いつも寄り添って暮らしてきた。
(みんな、私を置いてどこかに行っちゃう)
ソニアは、本当の家族を知らない。エルノアの両親がどこからともなく連れてきた孤児だった。
スタンピードで両親が戦死して、同じく孤児となったエルノアは、ソニアを必死に守った。エルノアとて寂しかっただろう、泣きたかっただろう。それでも、いつも笑顔で、ずっとソニアのそばにいた。本当の家族でも何でもない。言ってみれば、赤の他人である。そんなソニアをエルノアは家族と呼んだ。
読み書きや町のこと、ダンジョンや騎士のこと、そして死んだ両親たちのこと。いろいろ教えてくれた。
そんな姉を追いかけ、真似をしてきた。髪型だって、服装だって、姉の真似っこだ。ソニアにとって、エルノアは唯一の家族。血の絆よりも固い絆で二人は結ばれている。
(死なないで、お姉ちゃん。絶対に助けて見せる)
体は悲鳴を上げていたが、ソニアはまだあきらめていない。
(私を置いていかないで!)
ソニアは無我夢中で駆ける。
「ソニアちゃん、止まってえええ!」
意識が飛びかけた時、何かがソニアを呼び止めた。