はじまりのカタチ
まだそう遠くない過去、この世界を訪れた異物達が文明を急速に発展させる。
神として生み出された存在達は、数多ある並列世界において、それぞれ突出する進化を遂げた種族の一部をこの世界に呼び寄せた。
選定理由は、自らを信奉する者への施しであったり、この世界の観測に成功した者への招待など多岐にわたる。
そんな世界に集められた異物達に存在達が与えたのは、後に統一言語と称される言語知識だけであった。
当初、異物達は自らと容姿も文化も生態も異なる未知の隣人に恐怖したが、流石は進化の最前線達を走った者達の環境適応能力は高かった。
多くの違いはあれど、呼び寄せられた異物達は一様に自らを人間であると称した事から、種族単位で統一言語を用いる者は大分類として人間とする事を決めた。
各種、自らに適した環境を探し方々へ散りはしたが、今は大多数が良き隣人として暮らすまでとなっている。
時は巡り、交る事の無かった知識と技術が文明として形を成した時代。
「10歳になったら学校へ行きましょうか」
母との約束を胸に、アラクネ種の容姿を持つ少女リリィは10歳の誕生日が来るのを楽しみに待っていた。
聞くところによると、学校に行けば友達ができるらしい。
リリィは特別な友達が欲しかった。
リリィの住む町は森に近く、ワーウルフ族やウェアキャット族を筆頭とした獣種の人間が多い。
他にもこの町へと訪れるいくつかの種族を見たことがあるが、自分と全く同じ種族の人間に会ったことがないのだ。
以前、母に聞いたことがある。自分や母と同じ見た目をした人間はどこに多くいるのかと。
母はどこから説明しようかと少し考え、種族というものを教えてくれた。
狼に似た特徴を持つ人間は、獣種・ワーウルフ族であり、猫に似た特徴を持つ人間は、獣種・ウェアキャット族に分類されるという。
この町では特に多い種族なので、とても分かりやすかった。
人種にヒューマン族、ドワーフ族、エルフ族が居たり、翼種にハーピィ族と分類されたりしている。
この町で見かけるのはだいたいこのくらいだが、他にも様々な種族が居るという。
そして母は魔種・アラクネ族。ならば自分もそうだと思ったのだがどうやら少し違うらしい。
広く見れば正解らしいが、厳密にはアラクネ族とナーガ族の混種であり、分類外とされているようだ。
今まであまり気にして来なかったが、皮膚表面の薄い鱗が父から受け継いだ種族特徴だと教えて貰った。
そもそも種族を超えて子供ができる事がほとんど無く、両親それぞれの特徴を持って生まれ育つ事は更に稀だという。
そんな中、生まれてきてくれてありがとう。そう言って抱きしめてくれた母のぬくもりは今でも覚えている。
アラクネ族が多くいる場所ならと説明を続けてくれたが、この町から出たことがないリリィは聞いても良くわからなかった。
ならばと、仲良くなったお爺さんから先日聞いた学校という場所には居ないのかと聞いてみた。
お爺さんは、この国の学校には色々な人間が集まると言っていたからだ。
すると、この町にあるよりももっと大きな学校ならばアラクネ族の子も居るかもしれないし、星の巡りが良ければリリィみたいな特別な生まれの子も居るかもしれないと母は言う。
ならば、行ってみたいと思った。
リリィは自分のような子と友達になりたいと思ったので、母にお願いしてみた。
「ならその学校に行きたい!行ってもいい?」
「良いわよ。でも学校は勉強する場所ですからね。準備もしっかりとしないと」
大きな学校を楽しみに、いつになったら行けるのかリリィは聞いてみた。
「そうねぇ、10歳になったら学校へ行きましょうか。それに合わせて準備をするから、リリィも少しお勉強を始めてみる?」
新しく始める勉強への興味と学校へ抱く期待で、その日リリィは中々寝付けなかった。