第6話 ガスト
大分遅れました。文化祭準備と当日で忙しかったため、申し訳ございません。
「ちょっとお話しようぜ?……楽しくさ。」
その次人種は、少し笑いながら言った。だんだんと風が吹いてくる。
「……喋る奴は初めてだな。」
「そりゃそうさ、俺とお前は今ここで初めて会ったんだからな。」
次人種は、少し座る位置を変えて足を組んだ。
「言葉が分かるんなら、もう人を食べるのはやめろ。」
「無理だね。」
次人種は即答して、大きく伸びをしてから頭の後ろで手を組んで、続けた。
「それにしても、さっきは風に恵まれなかったねぇ。」
「よく言うぜ、どうせお前がやったんだろ?」
「ほう…?」
次人種は手を頭から離し、前のめりになって遥を見つめる。
「どんな攻撃手段でも、行う前には何らかの動作がある。仮にそういった動作が不要な奴がいたとして、さっきの次人種はそれには入らない。」
「なんでそう言い切れるんだい?」
「もし、あいつが本当にあの突風を予備動作無しで使えるんだったら、俺が蛇行しながら突っ込んだ時にパンチの準備なんかしてねーよ。正面から風ぶっ放した方が断然強いし当たりやすい。ま、それも対処できるがな。」
「…なるほど、面白い推理だ。」
遥の説明を聞いて、次人種は2回ほど頷いた。前のめりな姿勢も直して、家の屋根に深く座っている。
「正直、俺の位置からじゃ、あんなに蛇行されちゃあ風は当たらないし、無理に当てれば場所もバレちゃうからね。いっそ台風でも起こした方がよかったかな?」
「ふざけんな!こちとら毎日台風みたいなのと寝起きで戦ってんだよ!少しは休日でも作ったらどうだ!」
「アハハハハ!『台風の目』に言ったって仕方ないさ。大人しく台風を蹴散らしてくれたまえ。」
「……お前が頭首か?」
「否定はしないな。」
答えを聞くなり、遥は正面から次人種に突っ込んだ。しかし、ライトニングを振り下ろすと、次人種の体を手ごたえ無く貫通した。いや、『すり抜けた』の方が正しいだろう。
「…これで分かっただろう?俺は『台風の目』だ。お前に対して『敵意』が無い。」
次人種の後ろ側に立った遥に対して、振り向きながら話した。
「お前……何なんだ?」
「まあ…自己紹介くらいはするかな。」
そう言うと、その次人種はゆっくりと立ち上がった。改めて見るとやはりでかい。
「俺はガスト、お前をずっと見てた。」
「見てた?」
「ああ。」
ガストはうなずきながら答えると、家の上から降りた。
「そのスプレーには感知されないもんでね、今まで気づかれずにお前を見ることができたんだよ。」
「何故感知されないんだ?」
「…なんだよ、質問ばっかりだな。」
ガストは呆れたような態度で遥に近づいた。
「今回はただの気まぐれで話しかけたが…お前がそこまで答えを焦る必要があるのか?」
「敵のボスが目の前にいるんだ、情報が欲しくない奴の方がそういない。」
「まったく…初対面の人にそこまで質問攻めじゃあ嫌われるぞ?」
「化け物が人のプライベートの心配してんじゃないよ。」
「心配くらいするさ、ずっと見てきたんだからな。」
ガストは笑いながら言った。
「さて、今回はここまでだ。俺が話したくなったら、また質問に答えてやるからよ。」
そう言うと、ガストは屋根に勢いよく手をついた。するとガストの周りに風が集まり、次第に竜巻になっていった。ガストの煙を帯びているからだろうか、ガストの風が視認ができる。竜巻は上空まで伸びて次第に上から竜巻が細くなっていき、やがてつむじ風となった。すでにガストは風の中にはおらず、つむじ風は原型を保てなくなって消えた。
『Absorption』
自宅のベランダで変身を解いた。時計は10時半を示している。今日は珍しく早めに寝れるかもしれない。遥はその思いと空腹感よりも、頭に引っかかることがあった。
「ガスト……」
遥が今まで見た中で一番異端だった。まず、会話できることがあり得ない話だった。ガストは友好的に見えたが、なぜ遥を見ていたのか。なぜいくつかの質問には答えたのか。
「頭首だということはバレてもよかった?……敵意が無いからというのは少し裏がありそうだが……また質問に答えるというのは本音なのかそれとも……」
遥は小さな声でブツブツと独り言を言う。だがそれも長くは続かなかった。
「はぁ…」
大きくため息をついて伸びをする。今日はもう考えるのをやめて寝てしまおう。そう考えた。スマホのアラームをセットして、パジャマに着替えて布団に入った。明日は気分のいい目覚めでありますようにと願って目を閉じた。しかし、遥の空腹感が収まることは無く、気分のいい目覚めになるか不安になる遥であった。
【次回予告】
「そんな時にはだ。」
「……父さん。」
「じゃあ、また後でね。」
「よう、今戻った。」
「…なら、俺の筋書き通りの結果を辿るかもな……」
第7話 準備と影と