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ブロークンハーツ  作者: 橘光
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第1話 壊れたハートの右側

「……か……るか……遥!」

暗闇に包まれた視界の中で声が聞こえる。目頭を圧迫されるような感覚を思い出して頭を上げる。最初に目に映ったのは机の上で交差された自分の腕。そして、目の前には声の主の橋本先生。ジャージ姿のせいで顔の顎部分が少々隠れているが、それでも目立つ髭は健在だった。

「授業中に寝るな。ほら、ここの問題わかるか?」

遥の机の前に立っていた橋本先生はずかずかと擬音がつきそうな勢いで黒板に向かい、ある数式を指して言った。

「えっと……53万ですか…?」

「どちら様の戦闘力だよそりゃ。」

先生が呆れたように笑う。それにつられて、教室は笑いに包まれた。



「遥は本当に返しがうまいよね。」

昼休み、食堂へ行く道のりで羽根田晴之(はねだ はるゆき)が話をふる。橋本先生は、高校教師にしては生徒に優しい…いや、甘い人だ。先ほどのような減点される行為をしてしまっても、先生を笑わせられるようなギャグやボケを返せば、減点が少なく、機嫌の良い日は減点をされないときだってある。一ノ瀬遥(いちのせ はるか)は先ほどのボケで減点を少なくしてもらったのだ。

「まあ、あれはぎりぎりだったけどね。」

「遥く~ん、寝てたからノート写してないでしょ~。俺の見せてあげよっか~?」

隣から木下修也(きのした しゅうや)が顔を出しながら聞いて来た。

「……晴之、ノート見せてくれ。」

「え?いいよ。」

「なっ……!?」

修也はその場で固まってしまう。二人は修也を気にせず置いていき食堂へ急ぐ。

「遥…!…お前は俺の親切を無下に…!」

「どうせ金を取るつもりだったんだろ?」

「う……」

「図星だね…修也はいっつもそうなんだから…」

一瞬止めた足も、修也の様子を見て歩みを再開する。その様子を見た修也も黙って遥達に混ざった。



「ただいまー。」

家に帰り、ドアを開けると玉ねぎを炒める甘い匂いがした。リビングに入って左側のキッチンで、カレールーを用意した一ノ瀬智子(いちのせ ともこ)が調理をしていた。

「母さん、今日はカレー?」

「あら、お帰り。その通りよ。」

「やった!これは久しぶりにまともに食べられるやつかなー?」

「ちょっと!」

遥は子供のように笑って見せた。そして、智子に怒られない内に階段を上る。時計は午後5時を示していた。



自分の机が勉強道具で溢れていく。少しの照明の光だけが差し込むこの空間は、時間が経つほど静けさを増していく。開いた参考書の35ページには、初めて見る髭の生えた偉人の写真が大きく載っていた。右手に持ったペンは、ノートの上を走っていく。しかし、右ポケットに振動を感じて右手を止めた。遥は、ポケットから振動していた筒状の物を取り出す。

「今日は少し早いな……」

それは、『ミストランスプレー』と名付けられたものだった。手のひらサイズのそれは筒状で、ふちが黒色で全体的には白っぽい色合いをしている。中央には壊れたハートマークの右側の形のボタンがあり、細くなっている先端部分はLEDような青色の光を発している。それは『敵が来たぞ』と繰り返し訴えるように、振動しながら持ち主に教えてくれる。時計は6時手前を示していて、日が完全に沈んだ頃合いだった。

「……行くか。」

遥はベランダに出ると、ミストランスプレーを手にする。そして、右手で左頬の近くで構えた。

「ミストアップ!」

こう叫ぶと同時に、中央のボタンを押しながら右腰付近をゴールにスプレーを振り下ろす。スプレーの先端から白い煙のような気体が噴き出した。

『Stand up! to protect! Fight! Fight! Fight!』

ミストランスプレーから音声が鳴り響く。どこの誰がこの機能を付けたかは分からないが、

「嫌いになれねぇ歌だ…いつ聞いても。」

気体が晴れた頃には、遥の体に白い鎧が装備させられていた。右手には『ライトニング』という剣が。遥にとっての敵とは、『次人種』という生命体であり、次人種に魂を食われると、その人間は生きた証を失う。分かりやすく言うと、魂を食われた人間の私物は無くなり、関係者からも忘れられて、この世に存在していたという証拠が無くなる。その次人種は指が六本あり、顔は目がないサメのような顔をしている。体長は6mある紛れることさえできない化け物である、一般人には見ることが叶わないが。

遥は、振動しながら放たれるミストランスプレーから出てくる光を壁に当てる。すると、『北西700m:1体』と映し出された。


目標にたどり着いた遥は、目視で次人種を確認する。体長6mもの体で住宅街を呑気に歩いていた。まず次人種に自分の存在を気付かせるために目の前に接近した。家の屋根に飛び移ると、

「こっちだぜ!やーい!ノロマー!」

と、腕を大きく振りながら挑発した。遥の存在に気付いた次人種は六本指の手を振り上げて遥に攻撃をする。その攻撃をジャンプでかわし、腕をライトニングで両断する。離れた腕は煙のような気体と化し、その場で滞留する。

「次は右だ。」

ライトニングをかざしながら宣言する。次人種は失った左手を気にしながら、右足を遥に大振りで当てようとする。しかし右足の指は全て斬られ、右腕も無くなっていた。たまらず次人種は呻き声を上げる。

「足はついでだ…っと逆か、今の流れじゃ腕がおまけだわな。」

遥は右腰のホルダーに手を伸ばすと、ミストランスプレーのボタンを押しながら、ライトニングに向けて気体を噴射した。

『Radiation!』

噴射された気体はライトニングに吸収される。ライトニングは光を帯び、遥は攻撃の準備をする。

「さあ、お空へおかえり。」

遥に対して右足での攻撃を試みる次人種は、両腕をなくしてバランスが悪く四苦八苦している。跳びあがった遥に必死に右足を伸ばすが、遥のライトニングで右足は呆気なく切られ、次人種の胸元へ遥が迫る。

『Rightning Attack!』

光を帯びたライトニングは次人種をきれいに一刀両断した。形を維持できなくなった次人種は、完全に気体と化して滞留する。



彼は一ノ瀬遥(いちのせ はるか)、18歳の高校2年生。この街に出てくる次人種を倒す事を目標とした魔法少年。これは、そんな彼がどう生きるかを語った物語である。

【次回予告】

『Absorption』

「……お酒弱いのに好きだよな…」

「まあまあ、多分おいしいよ?」

「説得力無いんですけど!?」

「くそっ!」


次回 第2話 カレーとストレス


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