第11話 夜のお仕事
テストも終わって休学です。できるだけ続きを多く書こうかと。
時刻は午前1時13分、スプレーが持ち主を起こした。まだ眠い目を擦りながら、ベッドから降りる。床の冷たさを足の裏で感じながら、父さんの部屋を目指して歩いた。当然ながら、父さんは自室のベッドで熟睡している。俺は、父さんの体をゆすりながら声をかけた。
『お父さん、起きて。』
『…ん、あとちょっと……ってまだ夜か…』
条件反射のように更なる睡眠を求めた父さんだが、すぐに状況を理解したようだ。
『こっち…』
家族を起こさないように、小声で父さんを案内する。暗い廊下の壁を伝いながら、たどり着いたのは自分の部屋。俺は静かにドアを開けて、ベランダに立った。
『で?こんな時間になにしてんだ?』
『……そこで見てて。』
父さんの質問に答えて、ミストランスプレーを取り出して構えた。
『ミストアップ…』
ボタンを押しながら、スプレーを振り下ろす。噴き出された煙でカーテンが強くなびいた。
『Stand up! to protect! Fight! Fight! Fight!』
煙の勢いに父さんは顔を覆っていた。やがて覆うのをやめて俺をみると、驚愕を隠し切れない表情で立ち尽くしていた。
『おいおいおい、うそだろ!?』
『しー…静かに。』
大きな声を出してしまった父さんをを注意した。今は夜でありあまり大きな声を出されると困るということを理解してもらえたのか、冷静を取り戻してくれた。
『今からお仕事行くんだけど…来る?』
『い、い、いいい、行く…!』
まだ冷静になりきれていないのか、少しだけ震えている様子。しかし、父さんはベランダに向かい、俺の横に立った。
『うん、じゃあ捕まって。』
父さんをを担いで、背中に背負った状態で勢いよく跳び上がった。
『うううおおおおああああああ!!?』
夜空に響くおっさんの悲鳴。これが午前1時だというのだから、迷惑な話である。
『お父さん、もうちょっと静かに…』
『いや、すげぇよ!息子におんぶされて跳び回ってる父親俺ぐらいなもんだぜ!?』
パジャマ姿で靴を履いてない父親を背負って家々を跳び回る息子、客観的に見ればシュールで確かに他では見れないだろう。
『いや、まあそうだけど…』
『お?これを使ったのか!』
そう聞こえて俺が父さんに目を向けると、いつの間にやら右腰のホルダーからスプレーを取っていたのだ。
『いつの間に…!?…戻しといてよ?』
『分かってるって…えっと…』
そう言って父さんがホルダーに手をかけたときだった。俺が急に止まったことで、父さんがバランスを崩して背中から落ちた。
『うわっ!どうした遥!?』
そう聞いた父さんだったが、目の前に広がる光景に驚愕しそして納得したようだった。
『あれをお掃除するの。』
『あ…あれを…!?』
6m故に大きさがはっきり分かる化け物を目の前にして、動揺を隠しきれない様子の父さん。
『じゃあ…ここで見てて。』
そう言って、父さんを置いて跳び上がった。電柱の上に乗り、次人種の注意を煽る。はずだったが、次人種は電柱に対して背を向けていた。
『全く……じゃあ、こっちだ!』
次人種が注意を向けていた家の屋根に跳び移り、次人種の視界内へと入る。
『今日はお父さんが見てるんだ……早く終わらせていいところ見せちゃうよ。』
そんな独り言を無視するように、次人種は俺に対して右手に拳を作って攻撃した。そんな攻撃に動じることなく、迫ってくる拳を上に跳んでかわし、家の屋根に直撃するより前に右手をライトニングで切り落とした。
『え!?うわああ!!』
上から落ちてきた次人種の右腕が父さんに直撃……したのだが、地面についたと同時に次人種の腕は煙となって滞留した。
『え……えぇぇぇ…!?』
あまりの出来事の多さに、驚愕と動揺が同時に押し寄せたらしい。それでも、その場から離れるという理性だけは残っていたようで、すぐに次人種の足が来ないであろうという家の影に隠れた。
『さて、今度は左手が来るかな?』
俺のこの予想は、まさかのハズレ。なんと次人種は右足での蹴りを仕掛けてきたのだ。これには苦笑いするしかなかった。
『…まさか、わざわざそんな攻撃をしてくるなんてね。』
次人種が右足を屋根の上にまで持っていくまで、少し時間がかかる。そこから俺を蹴るとなるとなおさらだ。その間に右腰のスプレーに手をかけ……
『……ん?』
ミストランスプレーが…ホルダーに無い…。これで一瞬動揺してしまったのだ。気が付くと、次人種の右足は直撃していた。
『ぐっ…!』
屋根の上から蹴り落とされたが、なんとかして地面に手をついて着地が出来た。
『大丈夫か!?』
『大丈夫じゃない!スプレー!』
駆け寄ってきた父さんにそう叫ぶ。父さんは先ほどホルダーに戻せなかったミストランスプレーを、大事そうに持っていた。
『こ、これか!』
そう言って、父さんがはスプレーを投げた。それをジャンプしてキャッチして、近づいてくる次人種に対してライトニングを構えた。
『これで決める……!』
『Radiation!』
煙が剣に吸収されていく。全力で走って、次人種がたった今踏み出そうとしていた左足を切る。そのまま次人種は左へとバランスを崩し倒れた。倒れたところはまさに隙だらけで、人間で言う肩甲骨の辺りを目標に剣を振り上げた。
『Rightning Attack!』
次人種の体は胸元辺りを境に両断された。そして、次人種の体は煙へと変わり、その場で滞留する。
『はぁ…はぁ…』
へなへなと座り込んでしまった。それを支えようと父さんが駆け寄ってきた。俺がこの日体験したのは、生まれて初めての「苦戦」だった。
【次回予告】
「……最後まで見せるんだろうな。」
「で、どうだった?」
「こいつを今夜出して……」
「は、はい。」
「うん、正解だね。」
第12話 シャドウ




