職人達の本気!強化祭り開催!
「武器強化の時間だオラァ!」
「「「「「!?」」」」」
突然おっさんが叫びながら扉を蹴り開けて工房に入ってきた事で、工房内に居た職人プレイヤー達は全員、驚いた顔で作業の手を止めた。
そのおっさんの後ろに続いて、初心者プレイヤー達が工房に入ってくる。中には初めて工房に入った者も少なくないようだ。何人かが落ち着きなく工房内を見回している。
「おう、鍛冶屋ども集まれ!お客さんが来たぞ!」
おっさんがそう声をかけると、その場に居た鍛冶職人達が集まってくる。
「ようおっさん。その子達の武器を強化すればいいのか?」
彼らのリーダー格の男、テツヲの問いにおっさんが頷いた。
「お前ら、こいつはテツヲって言って、アルカディアで一番腕の良い鍛冶職人だ。他の連中も腕の良い奴が揃ってる。今日はこいつらが、お前らの武器を強化してくれるそうだ。挨拶しな」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
おっさんが促すと、初心者達が鍛冶師集団に頭を下げる。
おっさんは廃坑を出た後、入手した鉱石を使って初心者達に武器の強化をさせようと考えた。だが流石のおっさんと言えど、これだけの人数分の武器を一人で強化するのは大変な手間だ。よってテツヲに遠隔チャットで連絡を取り、彼とその仲間達の手を借りる事にしたのだ。
「ふっふっふ、強化ならば我らに任せて貰おうか!」
その時、おっさん達の前に四人のプレイヤーが躍り出た。
「なっ、お前達は!」
その顔を見て戦慄するおっさんの前で、彼らはポーズを取って名乗りを上げる。
「フォルグレン!」
「ファンガス!」
「ドゥードゥー!」
「モニ子!」
「「「「武器の事ならお任せあれ!我ら、暗黒四天王!」」」」
暗黒四天王と名乗る彼らの背後で爆発のエフェクトが発生する。おっさんは魔導銃を装備すると、一切躊躇する事なく彼らに向かって発砲した。
「大人しく座ってろ」
四人組を無慈悲な銃撃で大人しくさせ、おっさんは初心者達に強化の説明を行なう事にした。
「それじゃあ装備品の強化について説明するぞ。まず、アイテムに品質ってパラメータがあるのは分かるな?十段階評価で、数字が高いほど良品だ。装備品は一回強化するごとに+1、+2と強化値が上がっていくんだが、品質と同じ値までは安全に強化できる」
おっさんの説明に、初心者達が頷く。例えば品質が5の装備であれば、+5まではリスク無しに強化できるという事だ。
「そして、品質を超えた強化をやろうとすると【大失敗】や【ファンブル】が発生する事がある。大失敗が起きると、良くて強化値が減少、運が悪いと最大耐久度が下がったり、破損状態になって修理が必要になったりするな」
「あの、ファンブルの場合は一体どうなるんで……?」
「ファンブルの発生率はどれだけ強化値を上げようが1%で固定だが、代わりにそれを引いた場合……一発で装備が消滅する。何をどうやっても修復はできねえ」
「ヒェッ……」
「他に質問はあるか?……無いようだな。それじゃあ始めるぞ!後で気になる事が出来たらその都度、近くの職人に聞きな!」
おっさんがそう言って手を叩くと、初心者達はそれぞれ鍛冶師に武器と素材を手渡し、強化を依頼し始めた。
「お前らはこっちだ」
おっさんはナナとアーニャを連れて工房の奥、普段おっさんが使っている定位置に移動した。彼女達の武器はおっさんが作った物である為、おっさんはその強化を他の職人に任せるつもりは無かった。
「さて……どっちから先にやるんだ?」
「ナナちゃんから先でいいよ」
「そう?じゃあ、あたしからで」
控え目な性格のアーニャが譲り、先にナナの武器を強化する事になった。おっさんの予想通りの展開だ。
「素材は何を使う?レアな金属を使えばその分強くなるし、種類によっては特殊な効果も付くぜ。それと当然、素材の品質が高いほど強化した時に数字が大きく上がる」
「うーん……よくわかんないから、お任せで!」
おっさんから説明されたは良いが、細かい事を考えるのが苦手なナナは専門家に任せたほうが良いと判断し、持っていた素材を全ておっさんに渡して丸投げする事にした。
「お、おう……。それじゃ、こいつを使うか」
おっさんが手に取ったのは、軽鉄鉱石という名の鉱石素材だ。これを製錬すると、ライトメタルという金属を作る事ができる。鉄と同等の強度を持ちながら、重さはその半分以下という驚くべき軽さを誇る金属だ。斧や鈍器のような重さが威力に直結する打撃系の武器には向かないが、短剣や双剣のような手数を重視する武器には最適な素材と言える。
おっさんがナナの為に作った手甲と一体化した双剣は、品質6だ。おっさんはそれを安全に強化できる+6まで、軽鉄を使って強化した。
「さて、ここからが問題だ。この先は大失敗やファンブルが発生するリスクと引き換えに、強化した時のステータスの伸びが上がり、運が良ければ大成功やクリティカルも発生する。どうだ、挑戦してみるかい?」
「うーん……成功率ってどれくらいなの?」
「+7だと確率はクリティカルとファンブルが1%、成功が50%、大成功が20%、失敗も20%、大失敗が8%だな」
「へぇ、思ったより成功率高いんだね」
「ま、そこは俺の腕が良いからな」
「でも9%でアウトか……いいや、行っちゃえ!」
「ところで、課金アイテムには大成功率を上げたり、逆に大失敗を防ぐ物もあるが……」
「うっ!……いや、やめとく!」
おっさんが口にした課金アイテムの誘惑に一瞬負けそうになるナナだったが、ブンブンと頭を振って誘惑を振り切った。
「了解。それじゃあ祈りな!」
おっさんがライトメタルとは別の素材を取り出し、それを使って強化を施す。今回おっさんが使用する強化素材は、稀少金属であるミスリルだ。
おっさんが金槌で双剣の刃を数回叩くと、刀身が眩い黄金の光を放つ。先程までの強化とは明らかに異なるエフェクトに、ナナが目を見開く。
「……おめでとう。大成功だ」
「おおおおおお!」
刀身がミスリル特有の青白い輝きを放つ。生まれ変わった双剣をナナは早速、両手に装着する。
「軽っ!前よりすごく軽い!それに、何だか凄く腕に馴染む感じがする!」
大喜びで手甲から刃を出したり引っ込めたりするナナに、おっさんはニヤリと笑って言う。
「ところで、+8への強化はどうする?」
「………………やめとく」
かなり迷った末に、ナナはここで止めておく事にした。欲張って大失敗やファンブルでもしたら、目も当てられない。
「ところで大成功の効果ってどんなの?」
「まず強化で増える攻撃力や防御力が、普通の成功よりも高くなる。それと付与効果が一つ増えてる筈だぜ」
「どれどれ……?あ、本当だ。この【錬技Ⅰ】、アーツの威力が10%増加し、消費Mpが10%減少するってやつが増えてる」
「良いエンチャントじゃねえか。双剣はアーツを小刻みに連発する事が多いからな」
「おぉー、大当たりだ」
ひゃっほう!と叫びながら喜びの舞を踊るナナを無視して、おっさんはアーニャへと向き直った。
「待たせたな。何か注文はあるかい?」
「そうですねぇ……では全体的にもう少しだけ重くしつつ、重心が先端に寄っていると使いやすそうです。後はできれば、爆発する時の反動を軽くしてほしいですね。あ、それからグリップが少し滑りやすいので、交換もお願いしたいです」
「お、おう。お前さんは結構色々考えてるんだな……」
おっさんに丸投げしたナナとは対照的に、アーニャは細かい部分まで指定するタイプのようだった。おっさんは多少面食らったものの、細かい指定があったほうが逆にやりやすいと考えた。
「だったらアダマンタイトを使って、更に先端のほうに鉛を入れてトップヘビー気味にするか。それからグリップはどうするかね……。この間の熊から取れた革でも巻くか」
おっさんは方針を決めると、作業に取り掛かった。ナナの双剣同様に、アーニャのバットを一気に+6まで強化する。
「安全圏の強化は終わったが、どうする?過剰強化いっとくか?」
「いいえ、私は遠慮しておきます」
一切迷う事なくアーニャは断った。彼女は印象通りにギャンブルはせず、堅実に行くタイプのようだ。
「何だ、即答かよ。つまんねぇの」
「そ、そんな事言われても……あれを見ると挑戦する気なくなりますよ……」
ギャンブル大好きなおっさんが残念がるが、アーニャは遠くを指差して、おっさんにそちらを見るように促した。
アーニャが指差した先に広がっていた光景、それは……
「クホホホホッ!クホホホホッ!クホッ!クホホホホホホッ!すまん、失敗した」
「ぎゃああああああ!また折れたああああああっ!」
「完璧な修理だ!1ポイント修理が終わって、残りの15ポイントは失敗したぞ」
「うわあああああああっ!耐久度があああああ!」
「素晴らしく運が無いな君は。また来たまえ」
「離せ!俺にこいつを殺させてくれえええええ!」
「力不足ですぅwwwごめんなさぁいwwww」
「草生やしてんじゃねえぞこのアマあああああ!」
……そこでは暗黒四天王が大活躍していた!
そう、彼らこそは暗黒四天王。スキルレベルや能力値などの腕は決して悪くない筈なのだが、どういうわけか修理をさせれば装備の耐久度をゴリゴリ削り、強化をさせればここぞというタイミングで狙ったようにファンブルを出す。新たに装備を作成させたならば、能力値だけなら優秀なのに極端に使い難かったり、癖のあるキワモノばかりを作りだす鍛冶職人界のアンタッチャブル。
「大人しくしてろって言ったろうが、このアホ共が!」
おっさんは二挺の超大型拳銃を抜き放ち、前方に大量の銃弾を放つ範囲攻撃アーツ【バレットストーム】を放って彼らを吹き飛ばした。
だが、これが最後だとは思えない。いずれ第二、第三の暗黒四天王が現れ、プレイヤー達の装備と精神を破壊し尽くす時が来るだろう。
頑張れおっさん。いずれ来るその時に、彼らを止められるのはおっさんしか居ないのだから。