採掘大作戦!稀少鉱石を手に入れろ!(後)
こちらは後編になります。
前編を同時投稿しておりますので、そちらからお読みください。
上層にて採集を終えたおっさん達は、モンスターを蹴散らしながら廃坑内を進み、遂に最下層へと辿り着いた。
最下層は岩石で出来た人型の魔法生物【ロック・ゴーレム】や、更に硬く強力な【アイアン・ゴーレム】といった、ゴーレム系モンスターが出没する危険地域である。これらは初心者にとっては荷が重い相手だが……
「邪魔だ!」
おっさんがゴーレムの重い体を掴んで軽々と投げ飛ばし、倒れたところに掌から気弾を飛ばす遠距離用格闘アーツ【オーラショット】を放つと、岩や金属で出来ているはずのゴーレムが、あっさりとバラバラに砕け散った。
「ゴーレムは切断と刺突の耐性は高ぇが、衝撃に弱いから鈍器や格闘を使え。それと物理には強ぇが魔法防御はゴミだ。魔法や魔法属性のアーツで攻めてもいいぞ」
「さすがおっさん!」
「凄ぇ!ゴーレムの群れがあっという間にスクラップだ!」
このように、最下層の敵はおっさんがあっさりと片付けつつ、初心者向けの解説もしっかりと行なっていた。
「ところでおっさん、やっぱり武器って何種類か使えたほうが良いんですかね?」
シンクの質問に、おっさんが頷く。
「おう、そうだな。特定の属性に耐性持ってる敵は多いからな。物理属性は切断、刺突、衝撃、射撃の四つあるが、その内の最低二つくらいは使えるようにするべきだな」
「ですよね……。メインは短剣として、サブウェポンは何がいいでしょう?」
「そうだな。魔導銃はどうだ?練習すれば右手で短剣、左手で魔導銃とか出来るぜ?」
「それは……恰好良いですけど、なんだか難しそうですね」
「ま、その気になったら言いな。銃の使い方くらいは教えてやらぁ」
道中でシンクの相談に乗ったりしながらしばらく進み、おっさん達は最下層の採集ポイントに到着した。
「さぁて、始めるか」
彼らは再び武器を鶴嘴へと持ち替えて、採掘を開始しようとする。
だがその瞬間、おっさん達の前に立ち塞がる者達が居た!
「ヒャッハー!ここは俺達の縄張りだ!」
「ヒャッハー!この鉱石は俺達の物だ!」
「ヒャッハー!採掘したけりゃ使用料を支払いやがれ!」
その正体は五人の男達。素肌の上に羽織った革ジャンに革パン、棘付き肩パッドに髑髏を模したアクセサリを付け、顔にペイントを施し、珍妙なヘアスタイルをした荒くれ者達だった。
勘の良い読者の方々は、既に彼らの正体にお気づきであろう。そう、彼らは正式サービス初日に街でおっさんに喧嘩を売り、返り討ちにあった五人組、モヒカンと愉快な仲間達(仮)である!
「……何やってんだお前ら」
「ゲゲェーッ!?あの時のおっさん!?」
「な、何故ここにおっさんが!?」
おっさんが呆れながらモヒカン達を睨むと、彼らはおっさんを見てビビりながら後退りした。どうやら、相手の姿を確認する前に襲い掛かってきたらしい。
「おいクソガキ共、俺達はこれからここで採掘をする。てめえらがここで何してたかは俺の知ったこっちゃ無ぇし、邪魔をしねぇなら見逃してやるから、さっさと消えな」
「ぐっ……!」
おっさんが軽く威圧すると、彼らが怯んで道を開けようとする。だがその中で一人だけ、おっさんに対して怯まずに立ち塞がり、声を上げる者がいた。
「てめえらビビるんじゃねえ!俺達が今まで何のために修行してきたと思ってんだ!」
大声で仲間達で鼓舞したのは、彼らのリーダーであるモヒカン頭の少年だった。彼の声に、他の少年達も目を見開き、闘志を取り戻して足を踏ん張り、おっさんに向かって一歩を踏み出す。
「……ほう?」
その時初めて、おっさんは彼らに興味を抱いた。
少し前に会った彼らは弱い癖に虚勢を張り、こちらが強いと分かればすぐに逃げ出すような、取るに足らない弱者であったはずだ。奇妙な髪型とファッションセンスのせいで記憶に残ってはいたが、そうでないならば、すぐに忘れ去られるような路傍の石。それがおっさんの、彼らに対する評価であった。
だが今の彼らはどうか。実力的には以前に比べたら相当強くなったようだが、それでも今も尚、おっさんと彼らでは天と地ほどの差がある事は明らかだ。そういう意味では大差は無い。
大きく違うのは精神面だ。この少年達はおっさんと自分達の力の差をハッキリと認識した上で、逃げずにおっさんと立ち向かった。そこには以前の彼らにはない「勇気」と「覚悟」があった!
「こいつぁ……少し見ない間に、随分と成長したようだな。一体何があった?」
その違いを見て取ったおっさんの問いにモヒカンが答え、語り始める。
「あんたに無様に負けた後、自棄になっていた俺達に手を差し伸べてくれた人がいたのさ……」
「チクショウ!何なんだよあのオッサンは!」
おっさんに敗北した後、彼ら五人は路地裏に身を潜めながら、座り込んで今後どうするかを相談していた。だが、その口から出てくる言葉はネガティブな物ばかりだ。
「βテスターってのは、皆あんなに強ぇのか……?」
「これからどうするよ……頭下げたら許してくれるかなぁ……?」
「あんなのが居たんじゃ、大人しくするしか無いのか……」
おっさんに敗北し、逃げ出した事で彼らの心は折れかけていた。悪党プレイなど辞めて、普通のプレイヤーに戻って大人しく生きていくしかないのか……と、そう考えていた。
だがその時、彼らの前に一人の男が現れた。
「お前達、そんな所で何をしている?」
路地裏に座り込み、立ち上がる気力すら失いかけていた彼らにそう声をかけた男との出会いによって、彼らの運命は変わり始めた。
最初は警戒していたモヒカン達だったが、根気強く親身に相談に乗ろうとするその男に根負けし、おっさんに喧嘩を売って返り討ちにあった事や、自信を失ってこれからどうすれば良いのか分からなくなった事を打ち明けた。
「お前達にその気があるなら、俺が鍛えてやれるが……どうする?」
モヒカン達の話を最後まで聞いたその男は、そんな提案をしてきた。
迷った末にその提案を受け入れたモヒカン達はその後、男と行動を共にして指導を受けた。
その男の実力は本物だった。独特な戦闘スタイルと、それを使いこなす技量。高いステータス値や多彩なスキル。そして何よりも、このゲームに対する知識が深かった。効率の良い狩場やモンスターの弱点や行動パターン、複数のアビリティの組み合わせによる相乗効果など、知らない事など何も無いようで、その男は教えを乞えば何でも教えてくれた。
「やっぱPKとか、止めたほうが良いんスかね……?」
ある時、モヒカンはその男にそう言った。PKとはプレイヤーキル、すなわち他のプレイヤーを殺害して、経験値やアイテムを奪う行為である。実行すれば悪名値が大きく上昇する犯罪行為だ。
モヒカン達は当初、徒党を組んでいわゆる【悪人プレイ】を行ない、PK集団として名を上げようとしていたのだが、もし今後それを行なってしまえば、世話になった彼の顔に泥を塗るのではないかと危惧していた。
モヒカン達は、こんな見た目の自分達に嫌な顔一つせず、親切に指導をしてくれた男に感謝していた。もしも世話になった彼が止めろと言うなら、真っ当なプレイヤーとして更生しようと考えていた。
だがその男は、モヒカンの質問に対してこう答えた。
「別にPKでも良いじゃないか。お前がやりたいようにやるのが一番だ。俺に気を遣って、自分がやりたい事から目を逸らすんじゃない」
「俺はお前達がPKになろうと態度を変える事は無い。俺がお前達に失望する事があるとしたら、それはお前達の心が折れ、諦めた時だけだ」
「だから恐れずに、自分の心の声に従え」
彼の言葉に、モヒカンは男泣きに泣いた。そして決意した。強くなろうと。最強のPKと呼ばれるくらいに強く、全てのプレイヤーから恐れられる男になってみせると宣言した。
「ふっ……そうか。そうなった時は俺が相手になろう。楽しみにしている」
そう言って、その男は笑った。
その後、その男の下を離れたモヒカン達は、自分達の強化のためにこの廃坑に潜り、ここをキャンプ地として狩りや採掘を行なっていたのだ。周囲を見れば、彼らが使っていたと思われるテントや携帯用溶鉱炉、鍛冶台などが設置されている。どうやら掘った鉱石を、鍛冶スキルを使ってこの場で加工していたようだ。
過去を語り終えたモヒカンが、おっさんを正面から睨んで宣言する。
「だから逃げねえ!俺達はいつか最強のPKとしてあの人……【龍王様】の前に立つ!それが俺達流の恩返しってヤツだ!その為にも今、ここでてめえに勝つッ!」
おっさんはその言葉と視線を、正面から受け止めて笑った。
「そうか……誰かと思えばあいつの仕業か。ああ、確かにあいつの言いそうな事だ」
おっさんは、モヒカンが龍王様と呼んだ男に心当たりがあったようで、納得した様子を見せた後に、闘志をむき出しにしてモヒカンを睨んだ。
「だったら遠慮も手加減もしねえ!いいぜ、かかって来やがれ!」
「おう!てめえら手を出すな、このおっさんは俺の獲物だ!」
モヒカンは今の自分の力を試すため、あえて単身でおっさんに挑む事に決めた。おっさんと行動を共にするプレイヤー達と、モヒカンの仲間達が共に、彼らから距離を取る。
「行くぜオラ!見やがれ、これが俺様の新しい力だ!」
そう言ってモヒカンが武器を装備する。モヒカンが装備した武器は、以前おっさんと戦った時に装備していた物よりも性能はかなり高いが、武器の種類自体は以前と同じバトルアックスだ。
だが、一つだけ大きく異なる点があった。それは彼が取り出した斧が二つあるという事だ。
「モヒカン・ダブル・アーックス!」
そう、彼は重く、本来は両手で扱う事が推奨されている戦斧を左右それぞれの手に装備していたのだった。
「あっ、あれは二刀流!?」
「二刀流ってお前……あれは斧だろ?」
「いや、このゲームの【二刀流】スキルは、左右の手にそれぞれ武器を一つずつ装備する事が条件だ!槍だろうと斧だろうと問題なく発動する!わざわざやる奴が居るとは思わなかったがな!」
モヒカンの二刀流、いや二斧流を見たプレイヤー達がそんな会話を交わす。
彼らが言う通り、二刀流スキルは左右の手にそれぞれ武器を持つ為のスキルであり、必ずしも刀剣類である必要は無い。武器を二つ装備した二刀流の状態では本来であれば攻撃力に大きなペナルティが課せられるが、二刀流スキルを鍛える事でそのペナルティを軽減できるのが主な効果だ。また成長させれば、いずれは逆に攻撃力を上昇させる事も可能になるだろう。また、二刀流状態でのみ使用可能なアーツも多数あり、それらを習得する事もできる。
「ヒャッハー!」
モヒカンが左右の斧を豪快に振り回しておっさんに襲いかかる。牽制や様子見など欠片も頭にない様子で、初手からいきなり大技を仕掛けるつもりのようだ。
「くらいやがれ必殺奥義!【喪非漢剛双風塵撃】ぉぉぉぉ!」
モヒカンが両手に持った斧と頭のモヒカンヘアーが光り輝き、その場で斧をめちゃくちゃに振り回す。すると彼の持つ斧の刃が風を纏い始めた。
「ヒャッハー!」
そしてモヒカンが跳躍し、自らも回転しながら跳び上がり、おっさんに向かって突進した。
「見たか!これがリーダーの新必殺技!」
「龍王様の下で修行した成果だ!」
「こいつを食らえばひとたまりもねぇぜ!」
「体の回転と斧の回転!その相乗効果で生み出される嵐に耐えられるか!」
モヒカンの仲間が口々に叫ぶ。確かに彼らの言う通り、この技をまともに受ければ流石のおっさんとして、無事には済まないだろう。
だがおっさんは、逃げずにその奥義に立ち向かった。おっさんは大地を力強く踏みしめると深く息を吸い込み、集中する。
「コォォォォォォォォォッ……」
精神を統一し、姿勢を低くしたおっさんに向かって急降下しながら、モヒカンが風を纏った二振りの斧で斬りかかる。それに対しておっさんは大地が割れるほどの力強さで地を蹴り、跳躍しながら真上に向かって蹴りを放つことで迎え撃つのだった。
「【地龍昇天脚】!」
おっさんがモヒカンの奥義アーツによる攻撃を、同じく奥義を使って迎え撃った。おっさんが使用したアーツ、【地龍昇天脚】は発動までに溜めが必要で、使用後に数秒間動けなくなり大きな隙が出来るデメリットこそあるが、一撃必殺級の威力を持つ対空用の単発格闘奥義である。
「ぐはあああああああっ!」
大地に潜む龍が大地を割りながら天に昇り、獲物を食らうかのような凄まじい勢いの蹴りが直撃し、モヒカンが吹き飛ばされる。
「「「「も、モヒカーン!?」」」」
奥義対奥義のカウンターアタックが直撃した事で即死したモヒカンを、仲間達が慌てて助け起こし、蘇生薬を使って復活させた。
空中で一回転して華麗に着地したおっさんは、それを見ながらツナギの胸ポケットから煙草を取り出し、火を点ける。
「少しはやるようになったが……その程度じゃアイツや俺に勝つには、まだまだ早い」
倒れたモヒカンを見下ろして、おっさんはそう言い放った。だがモヒカンは、倒れながら見た。余裕そうな表情で煙草を吹かすおっさんの、ツナギの肩がざっくりと裂けているのを、はっきりと目撃した。
(当たっていた……俺の攻撃が!)
以前戦った時は、五人掛かりで一発も入れられずに、あっさりと撃退されたモヒカン達だったが、今回は一対一で戦い、敗れたとはいえ奥義を使わせた上に、服を傷付けただけで本人は無傷とは言え、おっさんに攻撃を当てる事が出来た。
「次は……俺が勝つ……!」
負けた悔しさと同時に確かな手応えを感じて、モヒカンは倒れながらそう宣言した。
「おう、いつでも来やがれクソ野郎。どうせ次も俺が勝つがな」
おっさんはそう言い残して、彼らに背を向けるのだった。
なお、おっさんの目当てであった鉱石採集だが、この場所の鉱石は全てモヒカン達が採集し終えており、もう掘れる鉱石は残っていなかった。しかもタイミングが悪い事に少し前に掘り尽くしたばかりであり、採集ポイントが復活するには、後数時間ほど待つ必要があった。
「オラッ!鉱石出せ!ブラックストーン持ってんだろ!隠しても無駄だぞ!」
「ちょっ、やめろぉ!返しやがれ!」
おっさんは怒りのカツアゲをモヒカン達を相手に敢行し、彼らが隠し持っていたブラックストーンと、幾つかの稀少鉱石を強奪したのだった。まさに悪魔の所業である。