採掘大作戦!稀少鉱石を手に入れろ!(前)
「てめえら鶴嘴は持ったな!行くぞォ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」」」
おっさんの号令に、その場に集まったプレイヤー達が大声で応え、その手に握った鶴嘴を掲げる。
ここは城塞都市ダナンから北東の方角にある廃坑前。かつては多くの人で賑わった炭鉱だったが、内部にモンスターが出現するようになって急激に寂れ、今ではモンスターの住処と化しているエリアである。
とはいえ凶暴なモンスターが現れるリスクはあるものの鉱脈は健在であり、危険ではあるが稀少な鉱石を採集できる場所であり、特に鍛冶師に人気のエリアだ。その入口に、おっさんと彼に付き従うプレイヤー達は立っていた。
彼らが何故ここにいるのか、それを説明する為には時間を少しだけ巻き戻す必要がある。それでは早速、時計の針を戻してみる事にしよう。
先日、ナナとアーニャの二人組を助けて熊を倒したおっさんは、その際に多くのレアアイテムを入手した。街の工房に戻り、ストレージ内のアイテムを整理整頓していたおっさんは、その入手したアイテムの中に一つ、気になる物を見つけたのだった。
「ん?何だこいつは」
おっさんが手に取った物は鉱石だった。鍛冶スキルを習得しているおっさんは普通の鉱石ならば見慣れているが、その鉱石はまるで墨を塗ったような真っ黒い色をしていた。このような色の鉱石は、おっさんも初めて目にする物だった。
「名前はブラックストーンか……まあ、鉱石なら精練してみればいいか」
【製錬】。それは文字通り炉で鉱石を加熱し、溶かして不純物を取り除き、純粋な金属を作り出す効果の、鍛冶スキルに属する基礎アビリティだ。おっさんはそれを使い、その鉱石……ブラックストーンを製錬しようとするが、途中で問題が発生した。
「むむむ、なかなか溶けやがらねえぞ……こいつぁ、もっと温度を上げる必要があるか……」
銅や鉄であれば余裕で溶けるくらいに炉の温度を上げてやっても、ブラックストーンに含まれた金属が溶解しないのだ。おっさんはその問題を解決するために、ある人物を呼んだ。
「おーいゲン爺!ちょっとこっちに来てくれ!」
おっさんが大声で呼ぶと、遠くで床に座って作業をしていたその男が立ち上がり、ゆっくりとおっさんに歩み寄ってくる。
「なんじゃい小僧、わしに何の用じゃ」
おっさんを小僧と呼ぶその男は、白髪に白い髭の、着物姿の老人だった。その名はゲンジロウ。おっさん以上に珍しい老人のプレイヤーで、元βテスターの木工職人だ。特に弓作りの腕前に関しては右に出る者が居ないほどであり、彼自身もまた、優れた弓使いでもある。
「ゲン爺、薪を売ってくれねぇか。出来るだけ高級な奴を頼む」
「ふむ……どうやら急ぎのようじゃな。良かろう」
おっさんの手元を見て事情を把握したゲンジロウが頷き、アイテムストレージから薪の束を取り出しておっさんに手渡した。おっさんはそれを受け取って炎の中に放り込むと、一気に火の勢いが増していった。
「よし、この火力ならいけるぜ!」
このゲーム内に存在する全てのアイテムには、品質という物が存在する。それは1~10の十段階に分かれており、数字が高いほど良品である事を示している。同じアイテムであっても、品質が違えば効果も大きく変わってくるという訳だ。
先程ゲンジロウがおっさんに渡したのは、優れた木工職人であるゲンジロウが作った品質7の高級薪であった。生産素材として優れているのは勿論、燃料として使えば大火力を齎してくれる。
「よーしよしよし。良い感じだぜぇ」
黒い金属が順調に溶けていくのを見て、おっさんは満足そうに笑いながら作業に没頭する。ゲンジロウはそれを見て呆れたように溜め息を一つ吐き、踵を返した。
「小僧、代金の代わりに今度、暇な時に採集に付き合え」
去り際にそう言い残してゲンジロウが立ち去ってから暫くして、おっさんが精練を終える。
「こいつは……」
その結果、完成したのは漆黒のインゴット(金属の延べ棒)だった。妖しく黒光りするそのアイテムの名称は【ダークメタルインゴット】。おっさんも初めて目にする代物だった。
「あれ?おっさん、それってもしかしてダークメタルか?」
その時、おっさんが手に持ったそれを目敏く見つけた男が声をかけてきた。金槌を持った筋骨隆々の褐色肌の男、鍛冶師のテツヲだ。
「何だテツ、こいつを知ってんのか?なら詳しい話を聞かせろよ」
「いや俺も直接見るのは初めてだけどよ。以前、図鑑に載ってるのを見たんだよ」
「図鑑……だと?何の図鑑だ?それはどこにある?」
「図書館にある鉱石とか金属の図鑑だよ。色々と見た事無い金属が載ってたんだが、その中にその、ダークメタルもあったはずだぜ」
「そうかい。なら早速行ってみるとするか」
おっさんは早速、図書館でその図鑑を確認する事にした。すぐに向かおうと歩き出すおっさんの背中に、テツヲが声をかける。
「おっさん!詳しい事がわかったら俺にも教えてくれよ!」
「おう、考えといてやるよ」
決して教えるとは約束しないおっさんであった。大人って汚い。
工房を出たその足で、おっさんは街の中心部にある図書館へと向かった。中央広場からすぐ近くにある大きな建物に入り、受付のNPCに声をかける。
「ちょっと良いか?金属の図鑑がどこにあるか知りてぇんだが」
「図鑑でしたら、二階の西側に本棚がございます」
「ありがとよ」
NPCに礼を言い、おっさんは二階に向かった。
「おっと、こいつか」
教えてもらったエリアを探し、おっさんはその本を見つけた。図鑑のページをめくっていくと、青銅や鉄といった普通の金属から、ミスリルやアダマンタイトのような稀少な物まで様々な金属についての入手方法、加工法、特徴などの情報が記載されていた。その中には、おっさんが目当てにしていたダークメタルの情報もあった。
「ダークメタルは邪悪な魔力を溜め込んだ鉱石、ブラックストーンから精製される金属である。それは強大な魔物の体内で生成される他、陽の光が当たらない地下深くより稀に採掘できる。最大の特徴として強い暗黒属性を宿しており、武器の素材に使えば暗黒属性の追加ダメージを与える効果が付与されるだろう。防具ならば逆に暗黒耐性を持つ物が出来るはずだ。また金属としても非常に硬く極めて頑丈であり、耐熱性、耐腐食性も非常に高い。反面、加工は難しく、扱うには高いスキルレベルが必要となるだろう……」
おっさんが図鑑に記されたダークメタルについての記述を読み上げる。おっさんは最後までそれを読むと、図鑑を閉じて本棚へと戻した。
「入手方法は大きく分けて二つ。強大な魔物……つまりボスモンスターを倒して入手するか、あるいは地下深くから採掘するか、か……」
おっさんは少し考えた後に、右手を振ってシステムメニューを表示させ、その中から「メール」を選択した。この機能を使えば、他のプレイヤーや一部のNPCに対してメールを送る事が可能である。
おっさんがメールの宛先に選んだのはアナスタシア。犬耳を付けた忍装束の少女だ。なぜ彼女に?という疑問に対する答えは、彼女が情報屋であるからだ。
このゲーム、アルカディアは「この世界はもう一つの現実である」という運営・開発チームのコンセプトに従い、攻略サイトやwikiの作成が規約で禁止されている。過去、βテスト時代に規約を無視してそれらを作った者も居たが、作って五分もしない内に見つかって強制的に削除され、作成者も一瞬で特定されて三日間のアカウント停止処分を受けた。正式テスト開始後も過去の事例を知らずに同じ轍を踏んだ者が何人か居たが、やはり同様に一瞬で削除されて、犯人も一瞬で特定された上にアカウント停止処分を受けた。
「アルカディアのスタッフには恐ろしいハッカーが混ざっている」
結果として、そのような噂が出回った。そしてそれは真実である。このゲームの開発責任者、四葉煌夜はかつて【クローバー】と呼ばれた世界最強のハッカーである事は知る人ぞ知る事実だ。
話が逸れたが、そのような理由で攻略サイトに頼れない以上、情報はゲーム内で入手する必要がある。その為ゲーム内で情報の収集と提供を行なう、情報屋と呼ばれる者達が生まれた。
アナスタシアはその情報屋の一人である。βテスト時代からアテナという名のプレイヤーとタッグを組んで、数多くの有力情報を他のプレイヤー達に提供してきた実績がある。彼女達は正式サービスが始まってからは後発プレイヤーを情報屋として育て、より大規模な商売を始めようとしているようだ。
「これで良し」
おっさんがメールを送信する。その内容は、フィールドボスについての調査依頼だ。ボス討伐はブラックストーンを入手する為の手段の一つだが、フィールドボスは普通のモンスターと違って、そう簡単に出会える物ではない。
以前に始まりの草原で戦った【フューリー・ボア・ロード】のように、出現させるために特殊な条件が必要なボスも居るし、他のプレイヤーに討伐されてしまって出会えない事もありえる。その為、出来る限り正確で詳しい情報が必要だった。
その調査をアナスタシアに依頼したおっさんは、その間にもう一つの手段を試してみる事にした。そう、地下深くでの採掘である。
おっさんは採掘のために、街の北東にある廃坑へと向かう事に決めた。早速街を出ようと図書館を出て、街の北門に向かって歩いていたおっさんは、見知ったプレイヤーの集団と出会った。
「あれ、おっさんじゃないですか!この間はお世話になりました!」
「ん?おぉ、あの時の坊主じゃねえか。えーと、名前は確か……」
「シンクです」
「そうだったそうだった。数日ぶりだな。元気だったか?」
「はい、お蔭様でゲームのほうも順調です」
おっさんに話しかけたのは、正式サービス開始の日に始まりの草原でおっさんが指導した赤毛の少年、シンクとそのパーティーメンバーだった。
「おっさんは、今日はどちらに?」
「俺はこれから廃坑の最深部に潜るつもりだ。ちょっと欲しい鉱石があってな」
シンクの問いにおっさんがそう答えると、シンクは少し考えて、パーティーメンバーに視線を向けた。それだけで彼の言いたい事は伝わったのか、仲間達が頷く。それを受けてシンクがおっさんに、こんな提案をする。
「よろしければ、僕達もご一緒させていただいて良いでしょうか?僕達も装備強化のために鉱石は欲しいと思っていましたし、おっさんが欲しがっている物が出たら譲る事も出来ますが」
「ほう……?」
シンクからの思わぬ提案に、おっさんは少考する。おっさんはシンクとその仲間達を軽く観察した後に口を開いた。
「今のお前達の実力じゃあ、少しばかりキツい場所だが……良いんだな?」
おっさんの質問に、シンクは笑って答えた。
「でもその分、経験値や良いアイテムが手に入りやすいって事ですよね?おっさんが一緒に居るなら安全でしょうし、良い稼ぎが出来そうです」
「こいつめ、それが狙いか!随分と染まってきたじゃねえか」
シンクの言い様におっさんが苦笑しながら、彼の頭を荒っぽく撫でまわした。初々しい初心者だと思っていたが、いつのまにか上級プレイヤーのような強かさや、ふてぶてしさを身に付けていたようだ。
「よし。それじゃあ準備して北門に集合だ。道具屋で鶴嘴を買うのを忘れんなよ?あれが無ぇと採掘は出来ねぇからな。あと、ついでに一緒に行きたいっていう知り合いが居たら連れてきな。折角だし大勢で採掘ツアーと行こうじゃねえか」
おっさんがそう言って、準備のために解散する。
それから十五分後、北門の前には二十人を超えるプレイヤーが集まっていた。その中には先日知り合った少女達、ナナとアーニャの姿もある。彼女達にはおっさんが誘いを出した。
こうして大所帯になったおっさん一同は、ぞろぞろと北東に向かって移動を開始した。
そして、話はようやく冒頭へと戻る。
鶴嘴を背負ったプレイヤー達が、おっさんを先頭に廃坑内に雪崩れ込んだ。
「敵だ!戦闘準備!」
廃坑内に居るのは蝙蝠型のモンスター【ドレイン・バット】や、ヘルメットを被り、錆びた鶴嘴を持った人骨といった見た目のアンデッド型モンスター【スケルトンマイナー】、巨大なモグラのようなモンスター【ジャイアント・モール】等であった。それらが次から次へと湧き、プレイヤー達に襲い掛かってくる。
「いいかてめえら、骨には刺突は殆ど効かねぇ!代わりに衝撃が弱点だから、斧や鈍器、格闘でブン殴るんだ!」
「了解!俺に任せてくれ!」
おっさんのアドバイスに、両手持ちのロングハンマーを持った男が名乗り出て、スケルトンマイナーを横から殴りつける。
「俺も続くぜ!」
続いて、ナックルを装備した格闘家の男が躍り出て、素早い拳の連打で攻撃する。格闘のアーツ【ラピッドブロー】による高速四連打だ。それによってスケルトンマイナーの体勢が崩れる。
「崩したぞ、今だ!」
「はい!任せてくださいっ!」
格闘家がバックステップで下がるのと同時に、入れ代わるようにして一人の少女が前に出る。バットを両手で持った修道服の少女、アーニャである。アーニャは左足を上げ、右足だけで立ってバットを構える。おっさんの指導によって習得した一本足打法だ!
「あれは……伝説のホームランキング!?」
アーニャがバットをフルスイングし、スケルトンマイナーの肋骨を粉砕しながら高く吹き飛ばす。打球はぐんぐん伸びて天井にブチ当たり、着弾と同時に爆発した。
「何だこの女、強ぇぞ!?」
「見た目は可愛いのに弾道がエグすぎる……」
「ホームランシスター……」
可憐な容姿に似合わぬ豪快な打撃に驚いたプレイヤー達が、ひそひそと噂をする。彼女の異名が決定した瞬間であった。
「コウモリは小さくて素早いから重い武器は相性が悪い!短剣や双剣持ちは出番だ!刺突が弱点だから細剣もいいぞ!」
おっさんの指示に、シンクとナナが同時に飛び出した。
「僕がやります!」
シンクが【クイックスロー】を使用して左手で素早く投げナイフを放ち、それがドレイン・バットの翼に突き刺さり、飛行能力を奪う。シンクは蝙蝠の落下地点へと先回りし、右手の短剣で下から突き刺し、あっさりと一匹の蝙蝠を撃破した。
「あたしも行くよっ!」
ナナが壁を蹴り、天井付近まで高く跳躍して蝙蝠の群れへと飛び込む。そうすると当然、複数のドレイン・バットがナナに襲いかかるが、ナナはそれを承知の上で飛び込んだ。
「【旋風双刃】ッ!」
蝙蝠の群れが一斉にナナに噛みつこうとした瞬間、ナナが空中で体を回転させながら、両手に装着した双剣に風を纏わせて振り回した。双剣での攻撃に加えて疾風属性の追加ダメージを与える範囲攻撃アーツで、ナナはドレイン・バットを一網打尽にした。
「モグラ野郎は動きは遅ぇが攻撃力・防御力ともに高ぇ強敵だ!ここは遠くから攻撃しな!弓使い、銃使い、魔法使い!お前らの火力を見せてみろ!」
巨大なモグラ型モンスター【ジャイアント・モール】に向かって、射撃武器や魔法による遠距離からの一斉攻撃が開始される。
ジャイアント・モールが怒り狂って彼らに向かっていく。動きは確かに遅いが、防御力の低い後衛が殴られれば一撃で沈みかねない強敵である。だが、その前に立ち塞がる者達が居た。
「盾持ちは前に出ろ!絶対にそこで止めて、抜かれるなよ?自分より先に後衛を死なせるのは、盾役にとって最大の恥らしいからな。気合入れて足止めしろ!」
「イエッサー!」
「俺達が居る限り、後衛をやらせはせんぞ!」
「デブの守備範囲を甘く見るなよ?何匹来ようが受け止めてやるぜ!」
鎧を着込んで盾を持った重装甲の前衛が、巨大モグラにアビリティ【タウント】を使って注意を引きつける。対象の敵が持つ、自分に対する敵対心を大きく上げる効果の、盾役には必須のアビリティである。それによって敵の狙いを自分に向け、後衛に安全な位置から攻撃をしてもらうのが盾役の仕事だ。彼らが足止めをしている間に、後衛達は再び遠距離アーツや魔法による攻撃でジャイアント・モールを攻撃し、次々と倒していくのだった。
そのようにして快進撃を続けるおっさん一同は、やがて採集ポイントと呼ばれる場所に辿り着いた。
「こいつが採集ポイントだ。見た事ある奴も居るんじゃねえか?」
壁から突き出た、淡く光る石をおっさんが指差すと、何人かのプレイヤーが頷いた。
「そういえば、前にフィールドでこんなの見た覚えが……」
「こんな風に光る樹を、迷いの森で見た事があります」
彼らが見たように、各地にある採集ポイントは目印として、このように光を放っている。
「鉱石なら鶴嘴、樹なら伐採用の斧って感じで合った道具を使って叩けば、ここからアイテムが入手できる。早速やってみるか」
そう言っておっさんは鶴嘴を握ると、採集ポイントの岩に向かって叩き付けた。すると採集ポイントが一際強い光を放ち、その場に複数の鉱石がドロップした。
「こんな感じに鉱石が掘れる。採集ポイントはこの近くに複数あるから、手分けしてやってみな」
おっさんがそう言うと、プレイヤー達は数人ずつのグループを作って、鶴嘴を片手に散開する。
「あ、そうだ。ちなみに鍛冶スキルを取ると覚えられるアビリティ【採掘マスタリー】を覚えてると、掘れる鉱石の品質や数が上がるぜ。採掘で鍛冶スキルの熟練度も少しだが上がるから、掘った鉱石で鍛冶をやってみたい奴や、良い鉱石が欲しい奴は今のうちに覚えておきな」
おっさんのアドバイスを聞いた複数のプレイヤーがスキルウィンドウを開き、鍛冶スキルおよび採掘マスタリーを習得した。それが終わると、それぞれのグループに分かれて採掘を開始する。おっさんもまた、鶴嘴を両手で握って採掘を始めた。
「……流石に、ここじゃあ出ねぇわな」
それから数分後、おっさんは採掘した鉱石を前に渋い顔をしていた。良質な鉱石が採れる廃坑エリアとは言え、今居る場所は一番浅い場所なので、最深部ほど良い鉱石は採れない。
鉄鉱石や銀鉱石は武器や防具の材料として大量に使うし、金鉱石は上手く精練して純度の高い金を作れれば高く売れるので、決して悪くはないのだが……
「そう簡単にレアは出ねぇわな」
おっさんの言う通り、レアアイテムというのは簡単には出ないからレアアイテムなのだ。それを手にするためには非常に低い確率をくぐり抜けるための豪運、あるいは出るまで繰り返す為の忍耐が必要不可欠だ。
また、レアアイテム自体は出るのに欲しい品に限って出ない現象も頻繁に起こる。その頻度から【物欲センサー】なる、ユーザーが欲しい物だけをピンポイントで弾くシステムの存在が冗談交じりに囁かれるほどだ。
そんな物は実在しないと分かっていても、その存在を疑ってしまう。オンラインゲームをやった事がある人ならば、そのような経験があるのではないだろうか。筆者もまた、頻繁にその現象に遭遇している。誰か助けてくれ。
そして、そのように欲しい人の所にレアアイテムが行かない場合、往々にして……
「おっちゃーん!なんかミスリル鉱石ってのが出たー!」
このように、別に欲しいと思っていない人があっさり出したりする物なのである。おっさんの視線の先では、ドロップ報告をしたナナが青白く光る鉱石を掲げていた。その名の通り、魔法銀とも呼ばれる稀少金属、ミスリルの材料となる鉱石だ。
「うっそだろお前ぇ……上層のミスリル鉱石のドロップ率って確か1%以下だぞ……」
唖然とするおっさんに、ナナが満面の笑顔でミスリル鉱石を見せびらかす。
「いやー、あたしってば持ってるなー。まさに選ばれし者って感じ?うへへへへ」
その言葉とドヤ顔にイラッと来たおっさんは、アビリティ【ぬすむ】を発動した。盗賊スキルを鍛える事で習得できるそのアビリティは、対象がモンスターであればドロップアイテムを、プレイヤーやNPCが相手ならばアイテムストレージから取り出して、実体化している所持品を盗む事が出来る。ただしプレイヤーや敵対していないNPCに対して使用すると、悪名値が著しく上昇するデメリットも存在する。
そのアビリティにより、ナナの持っていたミスリル鉱石が盗まれておっさんの手に渡った。
「あーっ!返してよ!返せー!」
一転して涙目になるナナを指差してゲラゲラ笑って楽しんだ後、おっさんはミスリル鉱石をナナに返却した。
「うわーんアーニャあああああ!おっちゃんがいじめる!」
返してもらったミスリル鉱石をアイテムストレージに収納したナナは、アーニャに抱き付いて親友の豊満な胸に顔を埋めた。
「よしよし。でもナナちゃんも悪いと思うよ。無駄に煽るから……」
「そうだぞ。大体ちゃんと返したからいいじゃねえか。もしお前が男だったら返さないでそのまま強奪してた所だ」
さらっと酷い台詞を吐くおっさんだった。