危機一髪!少女の窮地を救えおっさん!
城塞都市ダナンより南に位置する深い森。ここは【迷いの森】と呼ばれるエリアだ。街周辺のエリアである【始まりの草原】よりも強力なモンスターが棲息する事から、ある程度このゲームに慣れたプレイヤーが腕試しに訪れるほか、木材を求める木工職人や、薬草やキノコ等を求める調合師、料理人など、多くのプレイヤーにとって需要がある場所である。
また、最深部には深い霧が発生する地域があり、非常に迷いやすい地形になっている。ここに限った話ではないが、街へと期間する為のアイテム【帰還の羽】を準備しておく事は必須と言えるだろう。そしてその霧に包まれた深い森を抜けた先には、妖精達が住む村があると言われている。
その森の入り口から少し進んだ場所でモンスターと戦っているのは、二人の見目麗しき少女達だった。一人は修道女のような服装の清楚な美少女。名をアーニャといった。髪型は亜麻色のストレートロング。大人しく、少々気弱そうな顔が庇護欲を掻き立てる。そして控え目な性格や大人しそうな見た目に反して体つきは成熟した大人のそれだ。その手にはどういうわけか、金属バットが握られている。
もう一人は彼女の親友、ナナ。服装は露出度の高い、動きやすそうな軽装で、装甲は胸部を保護する胸当てのみという軽戦士らしい恰好をしている。相棒のアーニャとは正反対に、ボーイッシュで活発そうな少女だ。その胸はまるで一面に広がる大平原の如く平坦であった
彼女の武器は、両手の手に装着した、刃と一体化した金属製の手甲である。この刃は手甲の内部に隠す事が出来、格闘武器としても利用可能な可変武器である。
つい先日、おっさんと出会って新しい武器を作って貰った彼女達は、今日も二人でパーティーを組んで狩りをしていた。昨日までは始まりの草原にて猪型のモンスター【ラージ・ボア】や、狼型のモンスター【グレイ・ウルフ】などを狩っていたのだが、新しい強力な武器を手に入れ、ステータスやスキルも強化された事で草原のモンスターを苦も無く倒せるようになった為、思い切って上位の狩場に挑戦してみようと考え、迷いの森へと足を踏み入れたのだった。
狩りは順調だった。二人ともまだまだ初心者らしく、動きはぎこちない。そのため敵の攻撃を何度も受けたが、新しく入手した武器の力もあり、このエリアのモンスター程度ならば十分にゴリ押しで勝利を得る事が可能だった。アーニャの補助・回復魔法の助けもあって、二人は順調にモンスターを狩る事ができていた。
「いやー、意外と何とかなるもんだね!この武器も良い感じだし」
「うん、そうだね。でも敵の攻撃は結構痛いかも。ナナちゃん防御力は低いんだから、あんまり突っ込み過ぎないようにね」
「いやー、ついテンション上がって防御が疎かになっちゃったよ。いつも回復助かってます」
「もう、調子いいんだから」
ある程度魔物を狩った後、二人は座って休憩しながら話をしていた。このエリアに棲息しているのは、こちらから攻撃を仕掛けなければ無害な大人しいモンスター、ノンアクティブ・モンスターばかりであった事もあって、彼女達が油断していたとしても、それを責めるのは少々酷であろう。
二人がそれに気付いたのは、脅威がすぐ近くに迫ってからだった。
ズシン。ズシン。足音というには少しばかり重く、大きすぎるその音に二人が振り返ると、そこに居たのは一頭の熊であった。ただしその熊は全高およそ四メートルほどの巨体で、二足歩行する巨大な熊だったが。
見たこともないモンスターだ。しかも、殺気を漲らせて二人を見下ろし、睨みつけている。その目はギラギラと妖しく輝き、口からは美味そうな獲物を見つけたと言わんばかりに涎を垂らしており、そこらじゅうに生えている木の幹よりも更に一回り太い腕を、今にも振り下ろそうとしている。
ある日、森の中。熊さんに出会った。熊さんは殺る気マンマンで、こちらを見下ろしています。突然そんな状況下に置かれ、二人の頭が一瞬フリーズした。
「えっ、ちょっ、ふぇぇぇぇ!?」
「ちょっ……何こいつ、でかっ!?」
一瞬の硬直の後、二人は慌てて立ち上がって武器を構えた。
「アーニャ下がって!やぁーっ!」
アーニャを後ろに下がらせながら、ナナは勇敢にも双剣を構えて巨大熊へと斬りかかった。手甲と一体化した、左右の剣による二連続斬りが命中する。だがその攻撃は、熊の頭上に表示されたHPゲージを、1%も削れてはいなかった。しかも斬った時の感触が今まで戦ってきたモンスターとは全く違う。まるで硬い岩を叩いたような感触だった。未知の体験に驚き、硬直したナナに大きな隙ができる。
「……えっ?」
「ナナちゃん、危ないっ!」
無造作に振るわれる熊パンチ。スピードはそれなりにあったが大振りのテレフォンパンチであり、普段のナナであれば回避するのは、そう難しくない筈だった。だが敵を目の前に隙を見せてしまったナナは防御も回避もできず、派手に吹き飛ばされて木の幹に衝突した。その一撃で、ナナのHPが一気に八割も減少するる。ナナの視界の隅では、彼女自身の僅かに残ったHPゲージが瀕死である事を示すように、赤く点滅していた。
「【ヒーリング】!」
アーニャが即座に回復魔法を使用する。大ダメージを受けたナナを回復魔法が癒す。現在習得している最大レベルの回復魔法によって、ナナの残りHPが六割程度まで回復した。
だが、その迂闊な行動によって、熊の狙いがアーニャへと変更された。アーニャをギロリと睨みながら、熊が右腕を振りかぶる。
このゲームには……いや、殆どのMMORPGには敵対心というパラメータが存在する。それはモンスターやNPCが敵対者に抱く敵意や殺意を表す隠しパラメータであり、対象のモンスターを攻撃する等の敵対行動を取る事で上昇する。プレイヤーと敵対状態にあるモンスターやNPCは、基本的にその敵対心の値が最も高い相手をターゲットに選ぶ仕様になっている。
そして、「敵であるナナのHPを回復する」という行動を取ったアーニャに対して、熊は激しい敵対心を抱いた。回復役というのは、敵にしてみれば非常に厄介な物だ。それゆえ、味方の回復を行なうという行為は敵対心を稼ぎやすい行動である為、敵に狙われやすい。「敵の神官は真っ先に殺せ」という名台詞もあるくらいだ。
その為、普通は攻撃が後衛へ向かわないよう、盾役が意図的に敵対心を稼ぎ、後衛は敵対心の上昇を抑えるように立ち回るのが一般的なパーティー戦術である。だが二人は、これまで比較的楽な相手とのみ戦い、回復も基本的に戦闘後に済ませていた為、そんなモンスターの習性を知らなかったのだ。当然のように、敵対心の仕様についての知識も持ち合わせていない。
そのため突然自分へと攻撃の矛先を変えた熊に対して驚きながら、アーニャは恐怖を堪えてバットを握る。
「ま、負けませんっ!」
アーニャは手にした爆殺バットをフルスイングし、熊の太い脚を殴りつける。打撃と同時に殴った箇所が爆発し、熊に少なくないダメージを与えるが……
「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
全く怯む事なく熊が拳を叩き付けると、アーニャ先程のナナと同じように吹き飛ばされる。咄嗟にバットを構えて武器防御アビリティ【パリィ】を使ってダメージを軽減したものの、、アーニャのHPも一気にレッドゾーンに突入した。
「ちょっと、何こいつ!?いくら何でも強すぎじゃないの!」
「ふぇぇ……やっぱり無理だよぉ、こんなの……」
「誰か……!誰か助けて!」
二人は既に勝つ事を諦め、何とか逃げようとする。だが、それをさせじと凶暴な熊は無力な少女達へと迫り、とどめを刺そうと拳を振り下ろす。嗚呼、二人の少女はこのまま無残にも、熊の餌食になってしまうのか?
否、そうはならなかった。何故ならば、そこにあの男が現れたからだ!
「よう嬢ちゃん達、奇遇だな。助けが必要かい?」
絶体絶命の危機に思わず目を瞑っていた二人が目を開けると、目の前にはその男の広い背中があった。
ぼさぼさの黒髪に白いツナギ、咥え煙草に無精ヒゲ、獲物を狙う鋭い目つき。もう皆様お分かりだろう。謎のおっさんの登場である!
たまたまこのエリアに用があり、近くを通りかかっていたおっさんは、その地獄耳で二人の悲鳴を聞き届けると、迷う事なく駆けた。少女の危機を救わんと、音を置き去りにして韋駄天の如く駆け抜けた。そうして間一髪で間に入り、熊の拳を受け止めたのだった。
「ところで……こいつぁフィールドボスじゃねぇか。こいつぁラッキーだ」
その巨拳を受け止めながら、目の前の熊を見ておっさんが呟いた。
フィールドボス。おっさんは目の前の熊をそう呼んだ。それは各フィールドに一定周期で現れるボスモンスター達の総称だ。ボスというだけあって、奴等の戦闘力は、そのフィールドにいる通常モンスターの何倍も、何十倍も強い。それはもう、理不尽なほど強い。
そんな相手に対して、プレイヤーたちが取れる手段は二つ。一つ目は遭遇を避けて、見つけたらすぐに逃げる事だ。そして二つ目は準備をしっかりと整えて、大人数でパーティーを組んで討伐する事だ。
だが、物事には例外が存在する。一部の上級者にのみ実行可能な、三つ目の手段が存在するのだ。
「ところで嬢ちゃん達……この熊だが、俺が貰っちまっていいよな?」
突如現れてそんな事を言うおっさんに困惑しながらも、二人の少女はこくこくと頷いた。
彼女らの反応に、おっさんはニヤリと満足そうに笑って、口に咥えていた煙草を投げ捨てる。現実世界において煙草のポイ捨ては厳禁だが、おっさんが捨てた煙草はあくまでゲーム内のアイテムでしかなく、データの塊であるため延焼などをする事はなく、その場で耐久度を失って消滅した。
「よぉし。そういう訳でクマ公、てめえの相手はこの俺だ!」
そして、おっさんは熊に向かって猛然と駆け出す。おっさんは走りながら両手で魔導銃を抜き放ち、二挺の大型拳銃で弾丸を連射しながら熊に向かって走ると、一瞬で懐に潜り込んだ。
熊はおっさんを振り払うように、フックじみた横殴りで迎撃しようとする。
「あ、危ない!」
ナナが叫ぶ。
「大丈夫だっつーの。まあ見てな」
おっさんはあっさりと、熊の拳をダッキングで回避する。上体を屈めて敵の攻撃を回避する、ボクシングの防御技術だ。
この程度の大振りで隙だらけの拳など、βテスターなら誰でも見てから避けられる。ましてや相手はおっさんである。この程度の攻撃、何百発放とうと当たる確率は皆無に等しい。
おっさんは上体を屈めたまま両手の拳銃を巧みに操り、正確に熊の弱点を狙って撃ち抜く。弱点を突かれた熊は苦しそうな呻き声を上げた。ちなみにこの熊は正式名称を【ジャイアント・キングベアー】というのだが、実際どうでも良い事なので以後、こいつを熊と呼ぶ事にする。非常に高い攻撃力・生命力を持つ強敵ではあるが、おっさんの敵ではない。どうせすぐ死ぬ事になる熊の名前など、熊で十分である。おっと、ついうっかりネタバレしてしまった。
おっさんは至近距離で両手の魔導銃から更に数発、熊に鉛弾を撃ち込んだ。それに対して熊は再び反撃するものの、その攻撃はあっさりと空を切った。
「ハッ、遅ぇ遅ぇ。止まって見えらあ」
回避と銃撃を繰り返し、時々蹴りも混ぜながら、おっさんは次々と熊に攻撃を加えていく。よくおっさんの動きを観察してみれば、彼の動きは一つの動作の終点が次の動作の始点となっており、そのため全く無駄の無い連続的な動きになっている。相手の攻撃を完全に見切って最小限の動きで回避しながら、途切れる事なく攻撃を重ねるその動きに、ナナが瞠目する。
「すごい……」
ナナはその場に突っ立ったまま、呆気に取られた目でおっさんを見つめていた。
あれがトッププレイヤーの戦闘。目で追うのがやっとだが、彼が凄い事をしているという事だけはわかった。それと、ただ闇雲に剣を振り回すだけの自分の戦い方とは、次元が違うという事も。
きっと、あれこそが自分の理想とする戦い方だ。それを本能で理解し、無意識に双剣を握る両手に力が入った。
「あっ……!支援します!」
一方アーニャは自分達に代わってフィールドボスと戦うおっさんを少しでも援護しようと、支援魔法を飛ばす。
【ブレッシング】による全ステータス強化、【パワーゲイン】による攻撃力上昇。恐らく必要無いとは思うが【プロテクション】による防御力上昇といった様々な支援効果がかかり、おっさんが強化された。
「おっと、支援ありがとよ」
熊をあしらいながら、おっさんが笑顔を浮かべて礼を言う。
だがその時、支援魔法を使った事により、再び敵対心を稼いでしまったアーニャに再び熊が襲いかかろうとした。彼女のHPは未だ危険水域にあり、もう一度攻撃を受ければ今度こそ死亡は免れないであろう。少女の危機だ!
だがそれは、熊がおっさんから目を離したという事であり、当然そのような隙をおっさんが見逃す筈がなかった。
「どこ見てんだコラァ!」
怒声と共に一撃。おっさんが跳び上がりながら熊の股間を全力で蹴り上げた。急所への痛烈な一撃に、思わず熊が膝を付く。更におっさんは、蹴った場所を足場にして熊の体を駆け上がる。股から腹へ、腹から胸へ、胸から肩へ、肩から頭へ。次々と連続で蹴りを入れながら、おっさんは熊の頭上に飛び上がりつつ、両手に装備した魔導銃を空高く放り投げた。そして腰に挿していた短剣……先日作成したグルカナイフを抜き放ち、両手で強く握った。
「【フェイタル・ストライク】ッ!!」
【両手持ち】というスキルがある。片手武器を両手で持った際に攻撃の威力を上昇させる常時発動型アビリティや、両手持ち時に使用可能なアーツが習得可能になるスキルである。おっさんが放ったのはその中のアーツの一つ、【フェイタル・ストライク】だった。片手用の刀剣類を両手持ちにした状態で、強烈な刺突攻撃を繰り出す技だ。両手持ち状態で無ければ使えないのと、やや隙が大きいのが難点だが、その分攻撃力に優れたアーツである。
おっさんが放ったそのアーツにより、短剣の刃が根元まで熊の脳天に突き刺さって大ダメージを与える。ダメ押しとばかりに刺さった短剣の柄を踏んで、おっさんは高く跳躍した。
そしておっさんは先程、真上に放り投げた魔導銃を空中でキャッチする。再び二挺拳銃スタイルになったおっさんは熊の頭上、空中で上下逆さになりながら、両手の銃を真下に向けた。完全に死角となっている頭上から、おっさんのアーツが放たれる。
「見てろよ嬢ちゃん達!おっさんが格好良く決めてやっからよ!」
魔導銃のアーツ【チャージショット】を発動し、おっさんは両手の魔導銃で二発同時に、魔力を溜めてからの強烈な射撃を行なった。それを受けて熊が地面へと倒れる。
おっさんはクリティカルヒット、ヘッドショット、弱点攻撃、空中攻撃、スタン付与といったバトルボーナスをまとめて獲得した。敵が強敵であれば、それだけバトルボーナスによる経験値も大量に手に入る。おっさんは元々それらを積極的に狙っていくスタイルだが、ボスが相手という事で、今は特に積極的に狙いに行っていた。現にこの戦闘中のボーナスだけで、おっさんは結構な量の経験値を稼いでいた。
「ステータスオープン!」
おっさんは落下しながら口頭でシステムに命令を下す。システムAIはそれに従ってステータスウィンドウを開き、おっさんの目の前に表示した。おっさんはそれに手を伸ばし、獲得した経験値を消費してDEX(器用さ)とMAG(魔力)を可能な限り上昇させる。この二つはどちらも、魔導銃の攻撃力に影響する値だ。
ステータスを上昇させ終えたおっさんは、続けてアビリティを発動した。発動したのは魔導銃スキルのアビリティ、【クイックリロード】だ。その効果によって、おっさんは一瞬で左右の魔導銃に弾丸を再装填した。
「さぁて、トドメといくか!」
スタン状態の熊へ二挺の魔導銃を向け、おっさんは【奥義】を発動させた。以前、フューリー・ボア・ロードに対して使用した【デッドエンド・シュート】とは別の、拳銃型魔導銃を二挺装備した状態でのみ使用できる奥義。その名は、
「【バレットカーニバル】!」
おっさんの発声に呼応して、奥義アーツが発動し、おっさんが両手に握った拳銃が光り輝く。
拳銃型魔導銃の奥義の一つ、【バレットカーニバル】。その効果は魔導銃に装填された弾丸を全て、一瞬で撃ち尽くす多段攻撃である。弾倉内の弾を一瞬で全て使い切り、反動で魔導銃の耐久度も一気に削られる。消費MPも高く、使用前と使用後の隙も大きい。数ある奥義の中でも特にリスキーなアーツと言っていいだろう。だが癖が強くハイリスクな分、上手く決まればそのリターンは絶大だった。
左右の拳銃に装填された銃弾は、それぞれ二十五発ずつ。合計五十発の弾丸が、スタンして無防備状態の熊へと至近距離から放たれた。
このゲームでは、頭部に大ダメージを受けたり、連続で攻撃を食らったりする等して一定量のダメージを受ける事で気絶が発生し、行動不能状態に陥る。そしてその状態で追撃を受けた場合、被ダメージ及び被クリティカル率が大幅に上昇するのだ。
更にこのゲームにおけるクリティカル率は、攻撃側と防御側、それぞれのDEXパラメータの対決により計算される。つまりDEXの数値が相手より大きく上回っていれば、それだけ自分はクリティカルが出やすくなり、相手はクリティカルが出にくくなる。
そしておっさんのDEXの値は全プレイヤー中、ダントツの一位である、当然のように熊の持つ数値を大きく上回っている。更におっさんは元々、クリティカルや弱点攻撃を重視するスタイルであり、装備やスキル構成もそれに特化している。
その結果起こったのは、奥義アーツの五十連撃が全段クリティカルヒット。そしてそれが全て弱点に直撃という有様である。その火力たるや、熊の残ったHPを消し飛ばして余りある物である事は想像に難くないだろう。
クリティカルヒットのバトルボーナスが五十発分に加え、50ヒットコンボ、オーバーキル、更に奥義でトドメを刺した事による、シークレットアーツ・フィニッシュのボーナス。そしてボス討伐経験値に戦参加経験値によって、おっさんに大量の経験値が入った。
『フィールドボス、ジャイアント・キングベアーが討伐されました。
討伐貢献度一位、【謎のおっさん】さん、討伐貢献度二位、【アーニャ】さん、討伐貢献度三位、【ナナ】さん、討伐貢献度四位以降は該当者ありません。以上の方々に特別報酬が支給されます』
エリア内にアナウンスが流れ、撃破時のドロップとは別に、かなりの量の経験値とゴールドがおっさんに与えられた。また、あまり活躍は出来なかったとはいえ戦闘に参加したナナとアーニャにも、かなりの量の経験値とお金が与えられた。相手が強力な敵である分、参戦するだけでも結構な報酬が貰えるという事だろう。本来ならばもっと大人数で挑む事を想定されているフィールドボスの討伐報酬を、三人という少人数で分けたのだから尚更である。
そして、倒れた熊が消えたその場に現れるドロップアイテムの山が現れる。このドロップアイテムもまた大人数で分配する事を前提とした量だが、おっさんはそれを独占する。おっさんが入手したのは高品質の【大魔獣の毛皮】、【大魔獣の爪】、【熊の肉】といった生産素材や、魔導機械の動力となる魔石、稀少な鉱石、雑多な消耗品と様々だ。
「おっ、なかなか良いアイテムが出たな」
おっさんはドロップアイテムをアイテムストレージへと収納して満足そうに頷くと、思い出したかのように少女達の方を向き、
「よっ、お疲れさん。どうだい、おっさん恰好良かっただろ?」
そう言って、人の好さそうな笑みを浮かべるのだった。