謎のおっさん熱血指導!ドデカい敵をブッ飛ばせ!(後)
【Emergency Mission!】
その文字列が表示されたのに続いて、以下のようなメッセージがその場に居る全プレイヤーに伝えられた。
『短時間の内にエリア内のモンスターが一定以上討伐される条件が満たされた事により、緊急ミッション【怒りの大猪】が発生しました。十分後に、始まりの草原に手配モンスターが出現します。同時に、該当エリアに居るプレイヤー全員にクエストが配布されます』
そのメッセージを呼んだプレイヤー達が騒ぎ出す。
「一体何が始まるんだ!?」
「なんか手配モンスター?ってのが現れるらしいが、どんな奴だ?」
「おっさん、俺達はどうすればいい!?」
「そうだ、おっさんなら何か知っているはず……!」
混乱したプレイヤー達は、すがるようにおっさんを見た。そのおっさんは、緊急ミッションの告知を受けても、いつもと変わらぬ様子で煙草を吸っている。彼らの視線を受けて、おっさんは煙を深く吸い込み、吐き出した後に口を開く。
「まず落ち着けガキ共。こいつは俺も初めて見るが、どうやら大物がお出ましのようだ。推測になるが、俺らが派手にザコ共を殺しまくったせいで親玉が怒ったんだろうな」
今回発生した緊急ミッション、これはおっさんも初めて体験するものだ。つまりはβテスト時代には無かった、正式サービス開始と同時に実装された物だという事だ。どうやらエリア内で特定の条件を見たした時に発生する、隠しクエスト的な物らしい。
「俺にも敵がどれくらい強いのかは分からねえ。だが、戦い方は叩き込んでやったはずだ。さっきまで教えた事をちゃんと出来れば大丈夫だろうよ。落ち着いて、自信を持っていけ」
おっさんの態度と言葉によって、初心者達は段々と落ち着きを取り戻していった。おっさんはエリア内に散らばっていた彼らを一箇所に集めて、指示を行なう。
「今のうちにHPとMPは全回復させておけ!それと今までの狩りで手に入れた経験値を割り振って、強化するのを忘れんな!それが終わったら近くに居る奴とパーティー組んで、敵襲に備えろ!行動開始だ!」
おっさんの号令の下、プレイヤー達が急いで準備を開始する。彼らはステータスウィンドウを開いて各ステータスを上昇させたり、新しくスキルやアビリティ、アーツ、魔法を習得させたりしている。
このゲームでは敵を倒す、クエストを攻略する、生産スキルでアイテムを作る等の様々な行動によって、経験値を入手できる。大抵のRPGでは経験値を溜める事でレベルが上昇するシステム、つまりレベル制が主流だが、このゲーム、アルカディアにはレベルというものは存在しない。
では経験値は何のために存在するのかと、疑問に思うのも尤もだ。その疑問に答えよう。このゲームにおいて経験値は、基礎ステータスの上昇や新たなスキルの習得などの成長のために消費する物である。多くの場合、ステータスポイントやスキルポイントといった数字で管理されるそれは、全て「経験値を消費して成長する」方法に一元化されている。
それこそが、このゲームの最大の特徴と言っていいだろう。何故ならば経験値は無限に取得する事が出来るので、それによる成長もまた際限が無い。理論上は全てのステータスをどこまでも上げる事が出来るし、ゲーム中に存在する全てのスキルを覚える事も可能という事だ。ちなみにステータス値に上限という物は設定されておらず、個人が習得できるスキルの数にも上限は無い。やろうと思えばどこまでも強くなれる、無限大の成長性と凄まじい自由度こそがこのゲームの最大の売りであった。
その代償として戦闘力が次々とインフレし、初心者と上級者の差がとんでもない事になったり、ゲームバランスが非常に大雑把だったり――それまで無双していたプレイヤーが、次のエリアに行ったらあっさりと即死したりする等――と様々な問題はあるが、これはこれで受け入れられているようだ。当然運営・開発チームに対する苦情も少なからずあったが、それに対する彼等の反応は、
「自由度の為ならバランスなんぞ投げ捨ててやる。ついて来れる奴だけついて来い」
「敵が急に強くなりすぎ?頑張れば頑張っただけ強くなれるんだから、いつかは先に進めるさ」
といった内容であった。これは酷い。また、それに対するβテスター達の評価は、
「インフレ上等オンライン」
「ゲームバランスぶん投げを臆面も無く公言するクソ運営」
「他のMMORPGがド〇クエだとしたらこのゲームはディスガ〇ア。それくらいかけ離れてる」
「「「だがそれがいい」」」
この様である。どいつもこいつもガンギマリ過ぎだ。
さて、ゲームシステムを軽く紹介するつもりが話が逸れた。軌道修正するとしよう。
経験値を割り振って成長を終えたプレイヤー達は、近くにいる者同士で即席のPTを作り、連携を確認しながら敵襲に備えていた。彼等の視界に映るシステムウィンドウに表示されていた、ミッション開始までの時間を示す数字が徐々に減っていき、遂にそのカウントが0になった。
『緊急ミッションが開始されます』
その一文と共に、ドドドドドドドド……と、大音量の足音と共に、出現したモンスターの大群がプレイヤーに向かって迫り来る。
「来た!でかいぞ、気をつけろ!」
敵の姿を視認したプレイヤーが叫ぶ。現れた敵は先ほどまで彼らが戦っていたモンスター【スモール・ボア】と同じ、猪型のモンスターだ。だがその体は大型の【ラージ・ボア】と比べても更に一回り大きく、牙も鋭く巨大に進化している。そして体毛は、燃え盛る炎のような赤色。
そのモンスターの名は【マッド・ボア】。大きさは勿論の事、戦闘力もこれまで戦ってきたボアとは比較にならない強敵である。また普通のボアはこちらが攻撃するまでは何もしてこない大人しいモンスターだったが、この赤い猪はプレイヤーを見つけ次第襲い掛かってくる、アクティブモンスターと呼ばれる凶暴な個体だ。
そして、大量に出現し、こちらに向かって突進してくるマッド・ボアの群れの最後尾に、遠目からでもはっきりと分かるほど、一際巨大な一頭の猪が出現した。
その名は手配モンスター【フューリー・ボア・ロード】。怒れる猪達の王だ。その姿を認めたおっさんが、一人走り出す。
「先に行くぜ!てめえらは後からついて来な!」
「ちょっ、おっさん!いくらなんでも無茶だ!」
迫り来る群れに向かって単身突撃するおっさんを、他のプレイヤーが慌てて止めようとするが、彼らを置き去りにしておっさんが走る。その正面から迫るは数十頭もの巨大な猪。このまま正面からぶつかり合えば、あっという間に群れの勢いに飲み込まれてしまうだろう。
だがおっさんは敵群に激突する寸前に、力強く大地を蹴って空中に舞い上がる。そしてアイテムストレージから、とあるアイテムを取り出して装備した。
「あれは……魔導銃か!」
誰かがそう叫んだ。そう、おっさんが装備したのは魔力によって銃弾を射出する魔導兵器、魔導銃だった。おっさんが使う魔導銃は片手で扱える拳銃型であり、それを左右の手にそれぞれ装備する二挺拳銃スタイルだ。
「……あれ、気のせいか?なんかデカくねぇ?」
「うわ本当だ!何だあの拳銃!?」
おっさんが装備した、その拳銃型の魔導銃は一つだけ、普通の拳銃と異なる点があった。大きさである。銃身が二〇インチ(約五一センチ)という極端な長さの、もはや拳銃と呼べるかすらも怪しいそれを、二挺同時に扱うという暴挙!
「【バレットストーム】!」
おっさんが空中で回転しながら、左右の魔導銃を振り回して連続で無数の銃弾をばら撒く。傍目からは碌に狙いもつけずに、連続でデタラメに撃ちまくっているように見える。だが放たれた弾丸は全てマッド・ボアの眉間を正確に撃ち抜いていた。
十匹を超える敵を一度に倒したおっさんが着地する。そこへ生き残ったマッド・ボアが殺到するが、おっさんは突進を跳んで躱しながら、その内の一匹の背中に飛び乗った。そして、ボアの背中を次々と飛び移りながら、群れの奥深くへと進んでいく。
「おっさんがボスに向かっていったぞ!残った敵は僕達が片付けるんだ!」
魔獣の群れを物ともしないおっさんの姿に勇気付けられ、残ったプレイヤー達もまた、一斉に突撃を開始する。プレイヤーとモンスター、それぞれの軍団同士がぶつかり合うのを尻目に、おっさんは進む。遂に手配モンスター、フューリー・ボア・ロードの下に辿り着いた。黒い体毛の、全高五メートル程もある、とんでもなく巨大な猪の王がおっさんを睨み付ける。
ボア・ロードがその長大な牙をおっさんに突き立てようとするが、その寸前におっさんの姿が視界から消え去る。おっさんは一瞬で、ボア・ロードの巨体の下に潜り込んだのだ。猪の王体を回転させておっさんを探すが、その姿は当然、どこにも見つからない。
体が大きければ大きいほど力は強く、攻撃範囲は広くなるがその分、死角も多くなる。おっさんは腹の下の弱点に向かって、二挺の魔導銃の弾を連続で撃ち込んだ。
「フゴッ!?」
突然の攻撃に驚いたボア・ロードだったが、攻撃された位置からおっさんが自身の体の下に居ると判断したのだろう、その巨体でおっさんを押し潰そうと、その場で跳び上がった。
だが、そのような雑な攻撃がおっさんに通じるわけもなく、おっさんは余裕をもって体の下から離脱し、フライング・ボディプレスを回避した。ボア・ロードが腹から地面に落ち、大地が揺れる。
その次の瞬間、ボア・ロードの腹の下で複数回、轟音と共に爆発が発生した。ボア・ロードは凄まじい衝撃を受けて転がり回る。
この爆発は当然、おっさんの仕業だ。おっさんは離脱する前に、その場に罠を仕掛けておいたのだ。おっさんが使ったのは罠スキルのアビリティ【マイントラップ】だ。携帯用トラップツールを消費し、その場に踏むと爆発する地雷を設置する効果がある。何度も使用して熟練度を上げて、経験値を使って強化する事で複数の地雷をまとめて設置する事も出来る高威力トラップである。
「かかったなアホが!」
罵声と共におっさんが襲いかかる。おっさんは銃を仕舞うと、次は長い柄の付いた大きな金槌を取り出した。
「ハンマーチャーンス!」
おっさんがハンマーを大きく振りかぶって、ボア・ロードの牙に叩き付ける。二度、三度と連続で叩いて手応えを確かめたおっさんは、ハンマーを肩にかついだまま大地を蹴り、ボア・ロードの巨体よりも高く跳躍した。そして落下しながら、勢いよく金槌を叩き付ける。
「いただきぃ!」
鈍器アーツ【ハンマーフォール】。跳び上がり、落下しながらハンマーを叩き付ける、隙は大きいが高威力のアーツが牙に直撃し、片方の牙がへし折れる。部位破壊を受けてボア・ロードが悲鳴を上げて倒れた。当然その隙を見逃すおっさんではない。
「オラッ!もう片方もよこしやがれ!」
おっさんが金槌を振り上げ、アビリティ【フルパワーアタック】を使用して力を溜めた後に、アーツ【ブレイクスマッシュ】を放つ。部位破壊に特化したアーツによるおっさんの渾身の一撃を受けて、もう片方の牙も呆気なく根元からへし折れる。おっさんはレアアイテム【大魔獣の牙】を二個手に入れた。
「ゴアアアアアアアアアアアアッ!!」
倒れて無抵抗な相手にやりたい放題のおっさんだが、遂にボア・ロードが怒りの咆哮を上げながら立ち上がった。その目が赤く充血し、体がドス黒いオーラを纏う。
ボスモンスターは大ダメージを受ける事で怒り状態になり、このように見た目に変化が表れる。当然変わるのは見た目だけではなく、攻撃力や防御力が上昇し、動きが速くなる、行動パターンが変わって強力な技を使ってくる等の危険な変化が発生するのだ。それまで有利に戦いを進めていたプレイヤーが、怒り状態になったボスモンスターに瞬殺される事もβテストの時によく見られた光景だ。
猪の王が四本の脚で地面を蹴り、跳んだ。その巨体に似合わぬ大跳躍で百メートルを超える距離を跳び、距離を取ったボア・ロードはおっさんに向き直り、その場で数回、前足で地面を蹴った。どうやら、その位置からおっさんに向かって突進をするつもりのようだ。
突進攻撃は、限度はあるが基本的に助走距離に比例してスピードと威力が上がる。おっさんとボア・ロードの距離は約一二〇メートル、十分すぎる距離だ。左右に回避しようにも、ボア・ロードは途中で軌道修正をしながら迫ってくる事は想像に難くない。あの巨体が猛スピードで突撃してくるのを回避するのは、なかなか難易度が高そうである。
「ブモォォォォォォォォォォッ!!」
ボア・ロードが遂に、突撃を開始した。加速しながら猪の王がおっさんに迫る。おっさんはそれに対して、回避を行なう様子は見せなかった。
代わりにおっさんは装備していたハンマーをアイテムストレージに仕舞い、装備変更を行なった。おっさんが次に取り出したのは、魔導銃であった。
だが魔導銃と言っても、おっさんが新たに装備したのは、少し前まで使っていた拳銃型のものではない。それはスコープが付いた長銃……スナイパーライフルだった。
「悪いな、わざわざ力押しに付き合う気は無ぇんだ」
おっさんはそう呟きながら素早く狙撃銃を構え、スコープを覗き込む。そして照準を、突撃してくるボア・ロードの眉間に合わせると、アーツを発動させてトリガーを引いた。
「【デッドエンド・シュート】ッ!」
おっさんの体と彼が構えた狙撃銃が眩い光を放つ。通常のアーツを発動した時には見られないエフェクトだ。それもその筈、おっさんが今発動したアーツ、【デッドエンド・シュート】は、奥義と呼ばれるアーツの一つである。
奥義は通常のアーツや魔法とは異なり、習得するために難しい条件が設定されていたり、消費MPが莫大であったり、発動までの準備時間やクールタイム(一度使用してから、再度使用出来るようになるまでの時間)が極端に長かったりと、扱い難い部分は多いものの、その分効果は絶大だ。
おっさんが奥義を使って放った銃弾は赤光を纏いながらボア・ロードの眉間に狙い違わず突き刺さり、銃弾に込められた魔力がボア・ロードの頭の中で大爆発を起こした。それにより、草原を疾走していたボア・ロードの巨体がぐらりと傾き、そして地響きと共に倒れ伏した。それと同時に、王の敗北を目の当たりにしたマッド・ボア達が一目散に逃げ出していく。
【Mission Complete!】
『緊急ミッション【怒りの大猪】がクリアされました。参加したプレイヤーの皆様には、戦果に応じて報酬が支払われます。現在、結果の確認と報酬の準備を行なっております。参加者の皆様は少しの間、その場でお待ち下さい』
ボスモンスターが倒れ、ミッションがクリアされた事を示すシステムメッセージが流れると同時に、おっさんの背後から喝采が上がった。
おっさんが振り向くと、マッド・ボアの群れと戦っていた初心者達が拳や武器を振り上げて雄叫びを上げていたり、共に戦った仲間とハイタッチをしたりしている。どうやら、彼らも無事に生き残る事が出来たようだ。
その中の一人、短剣使いの赤毛の少年が、真っ先におっさんに駆け寄ってくる。
「おっさん!」
「おう坊主、生き残ったか。ちゃんと稼げたか?」
「はい!僕らのパーティーは全部で十五匹倒しました!僕はその、一匹だけしかトドメを刺せませんでしたけど……」
恥ずかしそうにそう言う少年だったが、彼と一緒に戦っていたパーティーメンバーの一人、大剣を背負った巨漢がその肩をバシバシと叩く。
「お前はその分遊撃にサポートに大活躍だったじゃねーか!なあリーダー!」
彼に続き、残りのパーティーメンバーもぞろぞろと集まってきた。そして少年をフォローしつつ、大剣使いを弄り始める。
「そうだぞリーダー。少なくとも、この脳筋に比べたらずっと良い動きだった」
「そうそう。この突撃バカが生き残ってるのもリーダーのおかげだし」
「つーか、お前は何で壁役の俺より前に突っ込んだんだ?」
「ちょっ、悪かったって。勘弁してくれよ……」
パーティーメンバーからの集中砲火を受けて困った様子の大剣使いだったが、そんな彼を赤毛の少年が庇う。
「まあまあ、皆さんそのくらいで……。何だかんだで一番ダメージは稼いでくれましたし」
「おおっ!やっぱり俺の味方はリーダーだけだぜ!」
「こらっ!調子に乗るんじゃないの!」
「いってぇーっ!」
槍使いの女性プレイヤーに尻を蹴り飛ばされて、思わず跳び上がる大剣使い。そんな彼を指差して笑う残りのメンバー達。
「へぇ、良い雰囲気じゃねえか。思ったよりも立派にリーダーやってたんだな」
初めてパーティーを組んだとは思えないほど打ち解けた様子のプレイヤー達、その中心に居る赤毛の少年を見て、おっさんは満足そうに笑った。
その次の瞬間、再びシステムによるアナウンスが行なわれた。
『集計が完了しました。これより報酬の分配を行ないます。足元に報酬がドロップしますので、お受け取り下さい』
そのメッセージが表示され、緊急ミッションに参加した全プレイヤーの足元に金貨が詰まった袋や、アイテムが入った宝箱が出現する。プレイヤー達は喜び勇んで、それらに手を伸ばした。
「おおっ、ゴールドがこんなに!」
「凄ぇ!なんかレアそうなアクセサリが入ってたぜ!」
「むっ、弓か……折角だしスキル覚えてみるか……?」
「片手剣出ましたー!誰か両手槍と交換しませんかー!?」
「はーい、こちら両手槍出ました!ぜひ交換お願いします!」
報酬の宝箱を開けて一喜一憂するプレイヤー達だが、やがて彼らはある一点を見つめて、その動きを止めた。
「おい、あれ……」
「すっげ……」
「一体全部でどれくらいの金額なんだ……?」
彼らの視線の先にあるもの、それは煙草を咥えてリラックスした表情で煙を吸うおっさんと、その足元に大量に散らばった、大量の金貨袋や豪華な宝箱だった。たった一人で敵陣に切り込み、ボスモンスターを単独撃破した報酬。それは他のプレイヤーのそれとは、文字通り桁が違った。
「さて、お前達」
おっさんが、宝石で飾られた豪華な宝箱の上にどっかりと腰を下ろして、プレイヤー達に話しかけた。
「まずはお疲れさん。こうして全員無事に生き残って、ミッションをクリア出来て何よりだ。良く頑張ったな」
おっさんがニヤリと笑った。思わぬ労いの言葉に、プレイヤー達が目を丸くする。
「とは言え正直な話、お前らはまだまだヒヨッコだ。今回はたまたま俺が居て上手くいったが、今みてえな戦い方じゃあ、次はあっさり死んじまうかもしれねえ。精進しろよ」
一転して、おっさんは厳しい言葉を口にした。それに対するプレイヤー達の反応は、その言葉を真摯に受け止める者、痛いところを突かれたように目を逸らす者、むっとする者と様々だ。
「と、言うワケで……だ。これはそんなてめえらへの激励と、生きて勝ち残った事への褒美だ」
そう言っておっさんは、足元に大量に転がる金貨袋に手を伸ばした。
「バラ撒きの時間だオラァ!早い者勝ちだ、気合入れて拾いやがれ!」
おっさんはそう言って金貨袋に勢いよく手を突っ込み、掴んだ金貨を手当たり次第に放り投げ、周囲にばら撒いた。
「うおーっ!?マジかよオイ!」
「拾え拾え!」
突然の行動に驚きながらも、プレイヤー達はばら撒かれた金貨に向かって手を伸ばす。
「ちょっ、いいんですか!?折角の報酬を……」
「あぁ?良いんだよ別に!こんなもん、俺にとっちゃあ端金だ!坊主、おめー遠慮せずにも拾え!それとも、何ならお前も撒いてみるか?」
赤毛の少年が慌てておっさんを止めようとするが、おっさんはゲラゲラ笑いながらお構いなしに金貨をばら撒きながら、少年にそんな提案をする。彼はそれを受けて、少し考えた後に……
「……お手伝いしますっ!」
地面に散らばる金貨袋を手に取り、おっさんの隣に並んで金貨を投げ始めた。おっさんはそれを見て、珍しく驚いたような顔を見せた。
「へぇ、意外だな。まさか乗ってくるとは思わなかったぜ。拾う側に回らなくて良いのかい?」
「まあ、確かにゴールドは欲しいですけどね。こんな体験、滅多に出来そうにないですし。折角だから、より楽しそうなほうを選ばせていただきました!」
「ククク、そうかい。そいつぁ結構だ!」
二人は顔を見合わせてニヤリと笑い、金貨を掴んで投げまくる。そんな彼らを見て、少年のパーティーメンバーも近くに寄ってくる。
「おいおい、こんな面白そうな事に俺らを誘わないとかリーダー失格だぜ?」
「そうそう、あたし達も混ぜなさいよ」
「俺らも手伝うぜ!」
そう言いながら、彼らも笑顔で黄金の雨を降らせ始める。
「坊主、良い仲間が出来たみてぇだな」
「……はい!」
おっさんの言葉に、少年は満面の笑みで答えた。
「よっしゃ、次はこの五万ゴールド袋を丸ごと行くぜ!さあ拾えーッ!」
「「「「「「うおおおおおおおおお!!」」」」」
こうして誰も彼もが、おっさんのペースに巻き込まれていくのだった。草原にはプレイヤー達の歓声や笑い声が、いつまでも響き渡っていた。