表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
謎のおっさんオンライン(改)  作者: 焼月 豕
Rising of the Tyrant
36/38

駄女神降臨!?干物女神イリアさん(下)

「ポーションの改良をしましょう」

 イリアはそう提案した。

「そうか、そんなに不味かったか……」

「ええ、控え目に言って最悪の味でした」

 良薬口に苦しという言葉があるが、それにしてもイリアが飲んだポーションは酷い味だった。

「そこまで言う程かね?」

 おっさんは多少味が悪くても平然と飲み干す事が出来るが、味覚も子供舌になっているイリアにとって、苦味の強いポーションを飲むのは辛いのだろう。

「まあ俺らは普段、瓶ごと叩き割って浴びてるからな……」

 ポーションはHPやMPを素早く回復してくれる便利な回復アイテムで、強敵と戦う時には欠かせない物だが、戦闘中にいちいち栓を開けて飲むような暇が無い事が多々ある。その為に飲む時よりは効果が落ちるが、プレイヤーの多くは戦闘中にポーションを使う際に、瓶を割って中身を浴びて使用していた。

「まあ確かに、どうせ使うなら美味いほうが良いわな。それに同じ効果のポーションなら、味が良いほうがよく売れるかもしれねぇ」

「ですよね!では早速作っていきましょう」

 乳鉢やビーカー、フラスコといった器具がセットになったポーション調合キットを取り出して、イリアがやる気に満ちた表情で調合に臨む。

「じゃあ最初は、普通にMPポーションを作ってみるか」

 おっさんは最初に、【マナハーブ】と呼ばれる青色の葉を持つ薬草を取り出した。

「このハーブの、葉っぱの部分だけを使う。取り方が甘いと途端に品質が落ちるから注意しな」

おっさんは精緻な指先でハーブの根や茎を取り除き、残った葉の部分を乳鉢で擦り潰す。イリアもそれに倣い、同じように作業を進めていった。

「次にこの【魔力の粉】をすり潰したハーブと混ぜる。こいつの品質によってポーションの効果は大きく変わるから、良い物を作るには高品質な粉が必須だ」

 この魔力の粉は大気中に存在する魔力が凝固した物で、各地の採集スポットでの採集で入手可能な他にも、モンスターのドロップ品としても頻繁に手に入れる事が出来る、ごくありふれた品だ。それだけに使い道は多く、ポーションの制作の他にも魔法武器や魔力弾の素材として使われ、また装備の強化にも使用される。

「そして最後に蒸留水を入れて完成だ」

 おっさんが最後に、ハーブと魔力の粉を混ぜ合わせた物をビーカーに移して、それに蒸留水を注いだ。これは普通の水でも作る事は可能だが、不純物が入ると品質が落ちるため、蒸留した綺麗な水を使う事が望ましい。

 そして完成した薬液を漏斗を使って瓶に移せば、ポーション製作は完了なのだが……

「問題は、ここからどうやって味を改善するかだな」

 目の前にある青いポーションが入ったビーカーを睨み、おっさん達は考える。

「まずは甘い物を入れてみましょう」

「そうだな。まずはそこから始めるか」

 おっさん達はポーションに砂糖と蜂蜜を少量投入し、それを試しに飲んでみる。

「どうだ?」

「……確かに甘味は増えましたが、肝心の苦味や酸味が消えていませんね。逆により複雑で奇妙な味になってしまっています」

 そのような感想を述べたイリアは涙目になっていた。

「なら次だ。何でも試してみるぞ」

 おっさんはまず、ハーブそのものの味を何とかしようと考えた。

「茹でてみるか。火を通せば苦味が消えるかもしれねぇ」

 おっさんは沸騰した水が入った鍋にハーブを入れ、塩をひと摘み加えて茹でた。これは野菜のアクを抜く方法と同じだ。

 そうして暫く待つとアクが出てきたので、おっさんはそれを丁寧に取り除いていったが、

「こいつはダメだな。ハーブの効能まで無くなっちまった」

 茹で上がったハーブは色素が抜け落ち、薬効も失われてしまっていた。おっさんはそれを掴むと、そのまま口に運んでみる。

「だが、味もかなり薄くなってるぜ。どうにか薬の効果だけを残して、灰汁を抜ければいいんだが」

「熱のせいですかね?火を通さずに出来る方法があればいいのですが」

 おっさん達は次に、ハーブを冷水に三十分ほど浸けてみてから調合を試してみた。

「……少しはマシになったか?」

「私の舌には、あまり変わったようには感じられませんが……」

 だが結果は、僅かに苦味や雑味が取れた程度に留まった。しかし方向性は間違ってないようだとおっさんは感じた。

 その後も試行錯誤を続けた結果、おっさん達はハーブを軽く塩揉みした後によく水洗いし、最後に酢水に浸けるという方法を発見した。

「これならどうだ。これで苦味や渋味はかなり消えたぞ」

「確かに……ですが今度は、お酢のせいか酸っぱい味が気になりますね」

「ふむ……だったら、こいつを使うとするか」

 そう言っておっさんが取り出したのは、黄色い小さな果実だった。

「レモンですか……成る程、それならば……」

 レモンは強い酸味と酸性を持つ。その搾り汁に浸ける事で、酢水に浸けた時と同じような効果が発揮できるとおっさんは考えた。おっさんは早速レモンの皮を器用に剥き取ると、その握力でレモンを握り潰して汁を絞る。

「レモンなら蜂蜜や砂糖とも相性が良いだろうよ。こいつを試してみようじゃねぇか」

 そうしてハーブをレモン汁に浸けたおっさんは、残ったレモンの果肉と皮を包丁で細かく刻んだ後に、それらを鍋に投入した。

「そして、余ったこいつはマーマレードにでもするか」

 おっさんがレモン・マーマレードを作っている間にイリアがポーションの調合を行ない、両方が完成したところで試飲・試食をする事になった。

 おっさんは完成したマーマレードを、カリカリに焼いた厚切りのトーストにバターと共に塗った物を、自分とイリアの二人分用意した。

 飲み物はイリアが完成させた、MPポーション(蜂蜜レモン味)だ。

「もぐもぐ……苦っ。このジャムみたいなの苦くないです?」

「皮を丸ごと煮込んでるから、どうしても苦味は出るんだよな。ちなみに皮の下拵えをしっかりやらねぇと、これとは比べ物にならねぇくらいに苦くなるぜ」

「ひぇっ……」

 マーマレードトーストを食べつつ、二人は本命のポーションの試飲に臨んだ。

「どうだ?」

「やや薬臭さはありますが……これなら十分ではないかと」

「そうだな、上出来だ。後はこれを元に改良していこうぜ」

 そして二人は掌を合わせて、互いの成果を称え合うのだった。


  *


 一方その頃、下界ではカズヤが率いるプレイヤー達が、グランドクエストを進行していた。

 既に火霊窟、水霊窟、地霊窟の三つは攻略され、残るは現在彼らが居る四つ目の精霊窟……風霊窟を残すのみである。

 その風霊窟の最奥にて、カズヤとそのパーティーメンバーは風の宝玉を手に入れる為に、ボスモンスターに挑んでいた。

 彼らと対峙するは、全身に吹き荒れる風を纏った青白い肌の女性型モンスターだ。その名は【テンペスト・クイーン】。非常に素早い動きと軽やかな身のこなしで敵を翻弄しつつ、疾風属性の魔法を連発してくる厄介な敵だ。

 だがそんな強敵も、カズヤ達の猛攻の前に追い詰められ、虫の息であった。

 無理もないだろう。何せ、今回このダンジョンに挑んでいるのはカズヤ、シリウス、レッド、カエデ、エンジェ、アナスタシアの六名からなるパーティーなのだから。おっさん以外の七英傑が六人揃っており、その役割も万能型(オールラウンダー)壁役(タンク)物理火力(メインアタッカー)支援・回復役(バッファー&ヒーラー)魔法火力(メイジ)遊撃役(サポートアタッカー)と非常にバランス良く、高レベルで纏まっているのだ。


「そろそろ終わりにしようか……ユニゾン行くぞ!シリウス、カエデ、アナスタシア、俺、レッド、エンジェの順だ」

「「「「「了解!」」」」」

 カズヤがパーティーメンバーと力を合わせて連携攻撃を行なうアビリティ【ユニゾンアタック】を発動させた。このアビリティは初期状態では、自分とメンバー一人による二人連携しか出来ないが、熟練度を上げる事で連携に参加するメンバーの数を増やす事が出来、最終的にはパーティー全員による総攻撃が可能になる。

「【シールドバッシュ】!」

 素早く動き回り、距離を取ろうとするテンペスト・クイーンに、シリウスは一瞬で肉薄する。レッドやアナスタシアのような素早さに長けた者達に比べると流石に劣るものの、重い騎士甲冑を着ているとは思えない程の俊敏さだ。

 そして彼の十八番である盾殴りにより、テンペスト・クイーンの足が短時間だが止まる。

「カエデさん!」

「はい。【烈射・雷上動】!」

 直後に弓を引き絞っていたカエデが、電撃を伴う一矢を放つ。それがテンペスト・クイーンの眉間に命中すると同時に、その矢に向かって落雷が発生した。

 弱点属性である電撃によるダメージを受け、テンペスト・クイーンが苦悶の表情を浮かべる。

「アナスタシアさん、お願いします」

「任せるデス!」

 カエデが素早く支援魔法をかけ、それを受けたアナスタシアが飛び出す。

「【忍法・影縫い】!アーンド【五月雨】!」

 アナスタシアはまず、忍術スキルのアビリティ、影縫の術で敵の移動を封じた。止められるのはあくまで移動だけであり、ボスモンスターが相手では効果時間は短いが、ごく僅かな隙があれば彼女には十分であった。

 移動を封じられたテンペスト・クイーンに、百を超える無数の手裏剣が降り注ぐ。忍術と投擲の二つのスキルによる複合奥義アーツ、五月雨による怒涛の手裏剣攻撃で大ダメージが発生した。だが、これはまだ始まりに過ぎない。

「【リンク・チェイン】!カズ兄ヨロシク!」

「ああ」

 アナスタシアが自身のコンボボーナスを味方に譲渡するアビリティを発動させ、カズヤに後を託した。それを受けてカズヤが躍り出る。

「【天魔雷皇剣】!」

 片手剣または細剣のどちらかと魔法剣のスキルをそれぞれレベル90以上まで鍛えつつ、前提アーツである【稲妻突き】の熟練度を一定以上まで上げなければ習得できない最上位の複合奥義、天魔雷皇剣による電撃ダメージを伴う必殺の刺突が炸裂した。

 その技の性質上、細剣を用いての使用が最も効果的ではあるが、片手剣でも十分に高い威力を発揮する大技だ。電撃が弱点である今回の敵ならば尚更である。

 そして、彼の攻撃はまだ始まったばかりである。

「行け、アンブラ!」

「ガルルルルルッ!」

 カズヤの命令に従い、漆黒の狼が疾駆する。一直線にテンペスト・クイーンの喉元に目掛けて飛びかかった狼が、その喉笛を噛み千切る。

「アウラ、続け!」

「オッケー!あたしに任せなさい!」

 カズヤの後方に浮かんでいた、背中に半透明の羽を持つ身長二十センチ程の妖精が、電撃属性の魔法【ライトニングボルト】を使用し、多数の雷弾を次々に放つ。

「ルクス、行くぞ!」

「キュオオオオオオオオオン!」

 最後はカズヤの相棒である純白の幼竜、ルクスが口を大きく開け、【極光のブレス】を放つ。それに合わせて、カズヤも奥義を放つ。

「【ドラゴニック・エンド】!」

 全力で振り下ろした二刀から、ドラゴンの頭を象ったオーラが放たれる。それはルクスが吐き出したブレスと混ざり合いながら、テンペスト・クイーンを飲み込んだ。

「うへっ、おっかねぇ。おっさんとやり合ってから益々強くなってねぇか、あの人」

 カズヤの怒涛の連続攻撃を見て驚嘆と呆れが入り混じった感情を吐露するレッドに、カズヤがリンク・チェインを使用し、アナスタシアから受け取た分も含めたコンボ・ボーナスを譲渡する。

「レッド、出番だ!」

「イエッサー!待ってました!」

 出番を待ちきれずにウズウズしていたレッドが猛然と飛び出した。

「行くぜ!【マルチウェポン・デストロイ】!」

 無数の武器を使い分ける彼女ならではの必殺技、スキルレベルが50を超えている武器スキルひとつにつき、その武器を装備した分身を出現させて波状攻撃を仕掛ける奥義が発動した。

 以前おっさんと戦った時は十二体だった分身が、今回は二十体まで増えていた。弩、薙刀、鞭、魔導銃剣、旋棍(トンファー)、ブーメラン等の変わり種の武器を装備したレッドの分身が、ずらりと並ぶ。彼女はあくまで、複数の武器を自在に使い分けるという自身の持ち味を伸ばしているようだ。

「まるで武器の展覧会だ」

「そろそろネタ切れかと思ったら、まだ増えてますからね……」

「【新武器製作】で妙な武器を作る職人が結構居るしな……」

 それを見て、カズヤとシリウスがそんな会話をする間にも、レッドは多数の分身と共に、自らも巨大な処刑鎌を豪快に振り回して敵を切り刻む。

「【R・E・D・SLASH】!」

 レッドがオリジナルアーツを発動させると、出現していた分身達が彼女の周りに集結した。先程までとは異なり、その手には本人が持つ処刑鎌と同じものが握られている。それらを伴いつつ、レッドが疾走する。

「オラァッ!」

 レッドがすれ違いざまにテンペスト・クイーンを斬りつけ、分身達が次々とそれに続く。無数の斬撃によって、ボスモンスターの生命力が大きく削られた。

「じゃ、魔王様。トドメは譲るぜ」

「ククク……大儀であった。幕は我が引こう」

 そしていよいよ、最後の攻撃を行なうべくエンジェが攻撃に移る。

「ヘイ、レッド。ところでそのアーツの名前、何の略デス?」

 退がったレッドに、先程のアーツの名前が気になったアナスタシアがそう訊ねると、レッドはその豊満な胸を張って自慢げに言い放った。

「レイジング・エンドレス・デストロイ・スラッシュだ!」

「ワーオ」

 エンジェはそんな彼女らの会話を聞き、

「ククク……赤き死神め、なかなか悪くないセンスだ」

 中二病を患っているエンジェ的にそのネーミングセンスは心に来るものがあったのか、ニヤニヤと笑いながら魔法を発動させた。

 仲間達が攻撃している間に、詠唱は完了させている。後はその荒ぶる力を解放するのみだ。

「これで終幕(フィナーレ)だ!【メテオ・ストライク】!」

 隕石群を召喚して降らせる最強の攻撃魔法を放ったエンジェは、杖を掲げたまま兄の姿をチラリと見て、彼に呼びかける。

「兄上!」

「何だ!?」

「もう一息だ、パワーをメテオに!」

「……フッ」

 エンジェが口にした台詞を聞き、カズヤが苦笑する。

 彼が知る限り、その台詞に対する返しは一つしか存在しない。そしてゲーマーである以上、それを言われたならばこう返すしかあるまい。

「いいですとも!」

 カズヤは【クイックチェンジ】によって武器を長剣の二刀流から杖と魔導書へと換装した後に、パーティーメンバーが直前に使用した魔法をコピーし、使用する事が出来る【クローンスペル】というアビリティを使用し、メテオ・ストライクを発動する。

「おい、ちょっと待てカズヤさん。何だそのクソ速い詠唱」

 本来は四十秒以上かかる筈のメテオ・ストライクの詠唱を、僅か一秒程度で終わらせたカズヤに、レッドが思わず突っ込みを入れた。

「カズ兄……神威使ったデスね……?」

 アナスタシアが呆れと心配が入り混じった目でカズヤを見る。

 そう、カズヤは魔導書をはじめとする装備品の効果や自身のアビリティによって詠唱時間を最大限に短縮した上で疑似的な時間停止を行なう事で、メテオ・ストライクの詠唱を一秒で終えるというチートじみた離れ業を実現してみせたのである。妹に頼られたからといって、そこまで張り切らなくても良いだろうに。

 ともあれ、二人分のメテオ・ストライクによってボス部屋には無数の隕石が降り注ぎ、残ったボスのHPを消し飛ばして余りある大ダメージが発生した。

 こうして彼らは風霊窟を攻略し、四つ目のクエストアイテム【風霊の宝玉】を手に入れた彼らは、ダンジョンを後にしたのだった。


  *


 そして、夜が明けて次の日。カズヤはイリアの下に四つの宝玉を届けるために、試練の塔へと向かった。彼は既に塔をクリアしている為、一階から六十一階へと直接転移し、そこから女神の居る部屋へと移動した。

「……何だ、これは」

 以前来た時には一部屋しか無かったその場所は、すっかり様変わりして一軒の家のようになっており、更に足を踏み入れた瞬間にコンビニの入店音が鳴り響く始末だ。

「……おっさんの仕業か」

 当たり前のように、カズヤはその結論に行き着いた。

 当然の帰結だ。こんな妙な真似をする人間が、おっさん以外に居るわけが……いや、変人揃いのプレイヤーの中には似たような事をしそうな者は居そうだが、それでもこの場所に到達した者で、それをやりそうな人物はおっさん以外にいない。

(奴等のあの反応は、そういう事か……)

 風霊窟の攻略にあたって七英傑のメンバーを誘った時、シリウスとレッドが試練の塔をクリアしたと聞いたカズヤは、なんの気なしに

「女神は元気だったか?」

 と訊ねたのだが、その時の二人の反応は、

「え、ええ……元気でしたよ……」

「お、おう。むしろ元気が有り余ってるっつーか、なぁ」

 と、気まずそうに目を逸らしたものだった。

「くそっ、おっさんを放っておいた俺のミスか……最早手遅れかもしれんが……」

 乱暴に扉を開けて、カズヤは礼拝堂へと駆け込むが、そこにイリアの姿は無かった。

「ならば二階か!」

 廊下に戻り、階段を駆け上がったカズヤの耳に話し声が届く。片方は若い女性のもので、もう片方は聞き慣れた男の声だ。

「ここかッ!」

 カズヤがリビングの扉を勢いよく開く。すると……

「おいしいれす!おかわりを所望します!」

「おう、どんどん飲め!ビールもあるぞ!」

「びーるは苦いのでだめれす!」

 そこではおっさんとイリアが酒盛りをしていた!

 どうやらイリアは甘い味のする果実酒やワインを、おっさんはビールを中心に飲んでいるようだ。実年齢が千歳を超えているとは言え、幼い少女の姿をしたイリアが豪快に酒を一気飲みする姿からは酷い犯罪臭がする。

 絨毯が敷かれた部屋の床には空の酒瓶が転がり、彼らが入っている炬燵の上には酒と共に焼き鳥やフライドポテト、スモークチーズ等のおつまみ各種が乗っている。

「おい……」

 その部屋の惨状を見て呆れながら、カズヤが二人に声をかける。

「おっ?カズ坊も来たか。よし、おめぇも飲め」

「あ、どうもどうも。おつまみもいっぱいありますよ」

 カズヤは酒とつまみを勧めてくる彼らの誘いを無視して、精霊窟で集めた赤、青、黄、緑の四色の宝玉を、床に並べて見せた。

「揃えたぞ。早速だが結界を解除して貰おうか」

 カズヤがそう言うと、おっさんとイリアはきょとんとした顔で、床に並べられた宝玉とカズヤの顔を見比べて、

「なんでしたっけ、これ?」

「知らね」

 などと言い始めた。

「待て。お前がこれを持ってこいと言ったのだろうが。結界を解くためにはこれが……」

 カズヤがそう言って詰め寄ろうとするが、おっさんがそれを遮って酒瓶を追加で開け、空になったイリアのコップに注ぎながら言う。

「まあ、そんな事はどうでもいいじゃねぇか。そんな事より酒だ酒」

「ですよねー。そんな事より乾杯しましょう」

「「イエーイッ!」」

 コップをぶつけ合いながらゲラゲラと笑う二人に、カズヤの堪忍袋の緒が切れた。

「正気に戻れ、酔っ払い共!」

 カズヤが神聖属性の範囲攻撃魔法【ジャッジメントレイ】による光線で二人を攻撃する。

「ぐわあああああああ!」

「ふっ、神である私にそんな攻撃が通用するとでもあばばばばばば!」

 正体を失っていた二人にそれを避ける事が出来る訳もなく、炬燵ごとあっさりと吹き飛ばされて床に転がった。

 続いてカズヤはアイテムストレージから聖水の入った瓶を取り出して、その中身をおっさんとイリアに頭から浴びせたのだった。

「目が覚めたか?」

「おうよ。俺は……」

「私は……」

「「しょうきに もどった!」」

「どうやらダメみたいだな。もう一本いっとくか?」

 戦隊ヒーローめいたポーズを取っていた二人だったが、カズヤが追加の聖水を取り出すと流石に大人しくなった。

「……コホン。ご苦労様でした、強き冒険者よ。約束通りに貴方達の力を認めて、この地を覆う結界を解除いたしましょう」

 イリアは立ち上がると、厳かな表情で神聖な雰囲気を身に纏いながら宣言する。

「言っておくが、今更取り繕っても先程までの失態は無かった事にはならんぞ」

「ああああああああああああああああ!」

 カズヤが冷淡な突っ込みを入れると、イリアは両手で顔を覆ってごろごろと床を転がった。

「カズ坊、話の腰を折るんじゃねぇ。ほら、謝って?」

「アッハイ、すいませんでした……」

 おっさんから受けた注意に酷く理不尽な物を感じながら、カズヤは素直に頭を下げた。仮に自分に百パーセントの非があったとしても、おっさんにだけは言われたくないのが本音だろう。

「えーと、気を取り直して話を進めましょうか……結界の解除ですが、残念ながら今すぐという訳にはいきません。少しだけ準備をする時間が必要ですので、もう数日だけお待ちください」

 イリアの言葉を聞き、カズヤはその理由はアップデートを行なう為に時間が必要だからだと察したが、それを口にするのは野暮だと感じた為、無言で頷く。

 彼の想像通り、結界を解除して新しいエリアを実装し、そこに存在するNPCやモンスターを配置し、イベントやクエストを用意する為には時間が必要だ。その為のデータの製作は四葉煌夜が率いる開発チームが既に終わらせているが、それをゲーム上に反映させる為には次の定期メンテナンスの日を待つ必要があった。

「よし。それじゃあ飲みなおすぞ。どうせその日までは暇だろ」

 おっさんはカズヤに吹き飛ばされた炬燵を置き直して、再び酒瓶を取り出した。

「カズ坊、おめぇも付き合え。どうせずっと狩りとかダンジョンの攻略してたんだろ?次のメンテまでグランドクエストは進められねぇんだから、ここらで一息ついておけよ」

「仕方ないな……」

 そうしてカズヤもおっさんの誘いに乗って大人しく炬燵に入り、三人での飲み会が始まった。


 それから数時間が経過した頃だった。コンビニの入店音と共に、集団の声と足音が家の入口から聞こえて来る。

「ヒャッハー!世威奇抹喪非漢頭参上ォー!」

「いやぁ、ドッペルゲンガーは強敵だったな!まさかおっさんに変身するとは」

「ああ。だがそれを倒した事で、俺達はおっさんを超えたと言っていいだろう。ところでこの家はいったい何だ?」

「なんだっていい、水と食料を探すぞ!」

「金目の物もだ!ヒャッハー!」

 イリアの家に入ってきた者達の正体はモヒカン軍団だった。どうやら彼らも試練の塔を突破する事が出来たようで、宿敵であるおっさんに変身したドッペルゲンガーを何十回ものトライ&エラーの末に打ち倒した興奮に任せて、この家の物資を略奪しようと企んでいるようだ。

 おっさんは【遠視の水晶球】という、離れた場所の光景を見る事ができるアイテムを通してそれを確認すると、ツナギのポケットからリモコンを取り出し、そのスイッチを押した。

「う、うわあっ!」

「何だ、いきなり床が抜けたぞ!?」

 するとモヒカン達が立っていた場所の床が開いて、落とし穴と化した。モヒカン達は突然作動したトラップに対応する事が出来ず、床に開いた穴に落下していった。

 そして、このイリアの家は城塞都市ダナンの上空に浮かんでおり、外からは視認できないように魔法で隠蔽されている。

 そこから落とされるという事は、つまり……

「お、親方!空からモヒカンが!」

「は?何言ってんだおめー……って本当に降ってきやがったああああ!?」

 空の上から地上に向かって自由落下するという事だ。このゲームでは高所から落下すれば、落下速度に比例したダメージを受けるのは以前にも伝えた通りだ。そうである以上、地上千メートルを超える高さから落下したモヒカン達に待つのは当然、避けられぬ死である。

「何だこいつら、どこから降ってきたんだ!?」

 こうしてアルカディアにまた一つ、一体どこから落ちて死んだのかまるで不明なモヒカン落下死事件という、新たな伝説が生まれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ