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謎のおっさんオンライン(改)  作者: 焼月 豕
Rising of the Tyrant
31/38

打ち上げバトルロイヤル!てめえら全員かかって来やがれ!

 まだ最後のイベントが残っている。

 おっさんが放ったその言葉を聞いて、覚悟を決めてその詳細を言うのを待つ観客達。彼らに向かって手招きしつつ、おっさんは言った。

「ここまでの戦いを見て、お前らも血が滾ってきてるんじゃねぇか?自分もこの場所で戦いたい。見てる最中にそう思ったんじゃねぇのか?だからよ……」

 おっさんが、客席に向かってファイティングポーズを取る。

「ここから先は何でもアリ、ルール無用の打ち上げ……エキシビションマッチだ。やる気がある奴は全員降りてきな!全員参加のバトルロイヤルを開始するぜ!」

 おっさんが提案した最後のイベントとは、この場に居る誰でも参戦可能な乱闘だった。

「勝利条件はたった一つ、三十分後に生きて闘技場内に立っている事だ。その条件を満たした奴に、この賞金をくれてやるッ!ちなみに複数居た場合は、そいつら全員で山分けだからな!」

 おっさんが百人全員を倒してしまった為に、結局支払われる事が無かった五百万ゴールドの賞金。それが手に入ると聞いて、観客達は目の色を変えた。


「それじゃあ早速……ゲームスタートだ!」

 おっさんの宣言と共に、プレイヤー達が一斉に観客席から飛び降りて、闘技場に雪崩れ込んだ。賞金に目が眩んだ者、とにかく戦いたい者、何でもいいから騒ぎたい者など参加の理由は様々だが、とにかく大量のプレイヤーで闘技場が埋め尽くされ、会場全体で戦闘が開始された。

 彼らの多くは手当たり次第に近くに居る他のプレイヤーに殴りかかっているが、中には結託して強力なライバルを蹴落とそうとする者達も居る。また、姿を隠すアビリティを使用して姿を隠し、漁夫の利を狙おうとする者達も一定数存在していた。

 その中には、シリウスとその幼馴染姉妹の姿もあった。

「カエデさん、レッド。僕達も行こうか」

「ええ。お供しましょう」

「へへっ、それじゃ一暴れしようじゃねぇか!」

 シリウスが鉄壁の護りで全ての攻撃を受け止め、レッドが圧倒的な火力とスピードで猛攻を仕掛け、カエデが状況に合わせて二人を支援する。しっかりした役割分担と息の合ったコンビネーションにより、彼らは近づくプレイヤーを蹴散らしていった。

 そして同時刻、闘技場の通路の一角では……

「エンジェ。もうダイジョーブ?」

「……うむ。情けない所を見せたが、我はもう大丈夫だ。この胸に宿った焔は二度と消える事が無いだろう」

 すっきりとした顔で、エンジェはアナスタシアに背を向け、闘技場に向かって歩き出した。

「ククク、無知蒙昧な凡愚どもに、我が力を思い知らせてくれるわ」

 夢中で戦っている連中を、最高のタイミングで横から最大火力でブン殴り、最強は自分だと思い知らせてやる為に、エンジェは詠唱を開始する。

「グッドラック、エンジェ」

 そう呟き、アナスタシアは妹分の小さな背中を優しい目で見送った。

(このまま闘技場に出ると同時に広範囲魔法をブッ放して、会場内の全プレイヤーを纏めて焼き払ってくれるわ)

 邪悪な笑みを浮かべながら、エンジェは戦場に向かってまっすぐに歩き出した。

 そして闘技場内では、おっさんに負けた百人の戦士達が再び武器を手に立ち上がっていた。

「一度は敗れた俺達だが……」

「一般プレイヤーを相手に後れを取る訳にはいくまい」

「丁度やり足りねぇと思ってた所だ。誰でも良いからかかって来い!」

 おっさんに敗れたとはいえ、彼らは全員が百戦錬磨の古強者だ。群がるプレイヤー達を相手に無双する様は、まさしく一騎当千と呼ぶに相応しい。

「決着をつけるぞゴンザレス!今日こそ槍が最強である事を証明してやる!」「来やがれ槍キン!俺様の斧は無敵だ!」

「はああああああああ!ジャベリィィィィィィン!」

「ぬおおおおおおおお!アーーーーーーーックス!」

 また、このように挑戦者達の中には、βテスト時代からの宿敵同士であるスピアキングとゴンザレスのように、ライバルとの戦いを楽しむ者の姿もあった。


 そして当然、この男もまた立ち上がり、おっさんに挑んでいた。

「剣士としての戦いは終わり、俺は敗北した。それは認めよう……」

 先程まで両手に握っていた長剣は背中の鞘に納められており、代わりにその右手には片手用の魔導杖が握られ、反対側の左手には魔導書を抱えたカズヤが、そこに立っていた。

「だが、俺の二刀流は剣だけではないぞ!」

 カズヤは両手に魔法武器を装備した、魔法戦闘スタイルで再びおっさんに挑む。

「しつけぇなこの野郎……一日に二回も同じ相手に負ける恥を晒す前に、大人しく別の奴と戦った方が良いんじゃねぇのか?」

「ふっ……冗談を。そこに僅かでもチャンスがあるなら、リスクを恐れず飛び込むべきだ。負けた時の事など、その後に考えればいい」

 そう言って杖の先端をおっさんに向けるカズヤの下に、五人の男達が駆け付ける。それは特徴的な髪形と服装をした少年達であった。

「ヒャッハー!」

「世威奇抹喪非漢頭参上!夜・露・死・苦!」

「カズヤさん!俺達も手を貸しますぜ!」

「憎きおっさんを倒し、カズヤさんに恩を返すチャンス!ここで行かなきゃ男じゃねぇぜ!」

「壁でも囮でも何でもやりますんで、どうか俺らも一緒に戦わせて下せぇ!」

 彼ら、世威奇抹喪非漢頭を名乗る五人組は、かつておっさんに喧嘩を売り、こっぴどく返り討ちにされた後にカズヤに拾われ、戦闘や冒険のイロハを叩き込まれた者達だ。今こそ恩返しをしつつ、おっさんを囲んでボコるチャンス到来とばかりに張り切っている。

「お前達……よし、ならば俺が援護する。前衛は任せたぞ!」

「「「「「イエッサー!!」」」」」

 モヒカン達が武器を手におっさんに襲い掛かり、カズヤがその後ろで高速詠唱を開始する。前衛の集団による一斉攻撃と、後衛の魔法使いの支援砲火のコンビネーションを前におっさんは、

「上等だてめぇら!だったら俺も手段は選ばねぇ!」

 そう叫び、アイテムストレージから一基の魔導バズーカを取り出して装備した。

「ちょっ……待っ……」

「いいや待たねぇ!死ね!」

 おっさんが右手に装備した魔導バズーカを肩撃ちの姿勢で撃つと、放たれたロケット弾がモヒカンの顔面に直撃し、魔導弾頭が爆発する。

「も、モヒカーン!?」

「モヒカンが死んだ!」

「この人でなし!」

「つーかそれ、人に向かって撃つようなモンじゃねぇだろ!?」

 彼らが言うように、本来は巨大ボスモンスターや施設に対して使用するべきであろう、対個人用としては破格の威力を持つ兵器による一撃必殺。それによってリーダーを失ったモヒカンズに、おっさんが無慈悲な追撃を仕掛ける。

「安心しな。すぐにてめぇらも後を追わせてやる」

 次におっさんが取り出したのは、やはり魔導兵器だった。その名も三十六連装ミサイルポッドである。その名の通り装填された三十六発の小型ミサイルを同時に発射可能な装置を両肩に担いだおっさんが、スイッチを押して全てのミサイルを斉射する。

「【アイスボルト】」

 だが発射と同時にカズヤが冷気属性の魔法を放ち、それらを撃ち落とした。杖や魔導書のような魔法武器を扱うスキルには、魔法の弾数を増やす物も存在する。それによってカズヤは五十発以上の氷弾を同時に放つ事が出来たのだった。それによってミサイルを全て撃墜しつつ、おっさんに対する反撃も行なった。

「【エコー・キャスト】」

 更にカズヤは詠唱スキルに属するアビリティを使用した。これは直前に使用した魔法を、クールタイムを無視しつつ詠唱無しで再発動するという強力な効果を持つ。MP消費が激しく、奥義魔法に対しては使用出来ない等の制限はあるものの、魔法使いにとっては便利な切り札の一つだ。

 それによって、再び大量の氷弾がおっさんに降り注ぐ。それを見て、好機とばかりにモヒカンズもおっさんに向かって突撃する。

「今がチャンスだ!やっちまえ!」

「おもしれぇ。来いや小僧共!まとめて叩き潰してやる!」

 残像を残しながら高速移動して大量の氷弾を回避しつつ、おっさんは二挺の魔導サブマシンガンを取り出して乱射する。

「オラオラ!魔法を詠唱しながらこいつを避けられるかカズ坊!」

「俺をそこらの軟弱な魔法使いと一緒にしないで貰おうか!」

 おっさんが走り回りながら次々と銃弾を浴びせると、カズヤは右手に握った杖を回転させてそれらを叩き落しながら、構わずに詠唱を続ける。

 そんな彼らに触発されて周囲のプレイヤーも更にヒートアップし、乱闘はますます激しさを増していった。だがそれは、唐突に終わりを迎えた。


「クックック……ハーッハッハッハ!」


 高笑いと共に現れたのは、黒いマントを風に靡かせ、長い杖を掲げる銀髪の少女、エンジェだった。彼女は闘技場全体を見回すと、おっさんがよく見せるような、ふてぶてしい笑みを浮かべながらこう言った。

「参加者諸君、実にご苦労だった。そしてさようなら」

 そして彼女は、ここに来るまでに移動しながら詠唱を続けていた魔法を発動させる。

「【メテオストーム】ッ!」

 彼女がその名を唱えると、上空に闘技場全体を覆う程の巨大な魔法陣が出現した。

「ちょっ……おまっ……!」

「じょ、冗談じゃ……!」

 その魔法の正体を知る者達から悲鳴が上がる。

 【メテオストーム】。それは宇宙の彼方より隕石群を召喚し、広範囲に叩き付ける強力無比な奥義魔法である。それを習得するには【元素魔法】【召喚魔法】【暗黒魔法】【詠唱】【瞑想】の五つのスキルを90以上まで上げる必要があり、正しく魔法を極めた者にしか使う事を許されない秘儀中の秘儀である。

 だが強力な反面、欠点も多い。それを発動する為には通常の魔法とは比較にならないほど莫大なMPが必要であり、全プレイヤー中トップの魔力を持つエンジェをもってしても、一発撃つ為にその最大MPの六割以上を費やさなければならない。更に詠唱時間も極端に長く、敵に狙われている最中に詠唱を完遂させる事はまず不可能と言って良く、大抵の状況ならばそのMPと時間を使って他の魔法を使ったほうが余程効率が良いだろう。

 そんな究極の浪漫砲とも呼べるメテオストームだが、この魔法にしか存在しない利点というのも確かに存在する。そしてそれは、この状況においては何よりも重要な物だった。

 その利点だが、まず一つ目は威力。そして二つ目が攻撃範囲だ。闘技場全体を攻撃可能なほどに広い攻撃範囲を持ち、まともに受ければシリウスでも沈みかねないほどの威力は、この場に居るプレイヤーを全員纏めて葬るには必要不可欠である。

 そして三つ目。これが最も重要である。その恐るべき効果を以下に記載しよう。それは、


【この魔法は発動後、他の効果によって打ち消す事ができない。またこの魔法は防御できず、発生するダメージは他の効果によって軽減/無効化/反射する事ができない】


 ……という物であった。

 一度発動してしまったが最後、いかなる効果によっても打ち消す事が出来ず、あらゆる防御系アビリティや魔法の効果を貫通して大ダメージを叩き込む事が出来る。攻撃するプレイヤーを指定するのではなく、指定した地点を中心とする範囲攻撃のため、ターゲット変更系の技能で標的を逸らす事も出来ないし、多段ヒット攻撃なので壁役による【カバーリング】等の味方を庇うアビリティも、ほぼ無意味だ。それが意味する事はつまり、発動されたらどう足掻いても助からないという無慈悲な現実だ。

「うわああああああああ!」

「ぎゃあああああああああああっ!」

「ぬわーーーーーーーっ!」

 上空の魔法陣から次々と隕石が出現し、それらが闘技場へと降り注ぐ。この魔法を持つ効果を知らなかった為に、防御アビリティを使用するも貫通されて潰される者もいれば、何とか攻撃範囲の外に出ようと脇目も振らずに逃走しながら、結局は逃げきれずに死ぬ者もいる。そのように過程は異なるものの、最後に行き着く結果は皆等しく同じだった。

 そしてそれは、おっさんやカズヤも例外ではない。彼らがどれだけ化け物じみた戦闘力の持ち主であったとしても、今この状況においては抗う術を持たない。

「やってくれたな……ま、こうなった以上は仕方が無ぇ」

「そうだな。今回はあいつが上手くやったと褒めておこう」

 おっさんと、妹に対しては人一倍厳しいカズヤまでもが素直にエンジェを誉め称える。それは、事実上の敗北宣言にも等しかった。

 エンジェが行なった超火力の魔法による不意討ちを、卑怯だ等と謗る者はこの場に誰一人として存在しない。そんな言葉は負け犬の遠吠えに過ぎず、最初に主催者であるおっさんが何でもあり、ルール無用と言った以上は、何をされようが対応出来ないほうが悪い。やられた方が間抜けなのだ。

 だから、これから負ける彼らに出来る事は、たった二つだけだ。一つは、最高のタイミングで横から思いっきりブン殴ってくれやがった少女を、素直に称賛する事。

 そして、もう一つは……

「だが許さねえ!覚悟は出来てんだろうなぁ!」

「逃がさんぞ、お前も死ね!」

 どうせ死ぬなら、最後に全力の攻撃で自分を殺す相手を道連れにする事だ。

 おっさんが魔導対物ライフルによる銃撃を行なうと同時に、カズヤが魔法を放つ。他にもスピアキングが槍を、ゴンザレスが斧を投げつける等、彼らは隕石が頭上に落ちるまでの間に、最後の力を振り絞ってエンジェに総攻撃を仕掛けるのだった。

 しかし、彼らがそうするであろう事はエンジェも想定済みだ。

「【コールサーバント:オリハルコン・ゴーレム】!」

 彼らの攻撃に対し、エンジェは次に唱える魔法の詠唱時間を0にする効果を持つ詠唱スキルのアビリティ【ゼロ・キャスト】によって無詠唱で召喚魔法を発動させた。代償として本来の詠唱時間に比例してMP消費量が増加する為、メテオストライクのような大技に対しては使えないが、緊急時にはとても役立つ技能である。

 それによってエンジェの残ったMPと触媒のオリハルコンインゴットを犠牲にして、全身がオリハルコンで出来た黄金色のゴーレムが出現した。

「ゴォォォォォォォォォォレェェェェェェェム!」

 咆哮と共に現れたオリハルコン・ゴーレムは、すぐさまエンジェの前に立ち塞がって、彼女へと向かう攻撃を全てその身で受け止めた。

「ゴゴ……ゴー……レム……」

 最高の金属であるオリハルコンの体をもってしても、トッププレイヤー達による全力総攻撃を受けては只では済まず、そのHPがみるみるうちに減少していく。だが流石はオリハルコンと言うべきか、それでもゴーレムは、十数秒というごく短い時間ではあるがエンジェを護り切った。

「ふっ……よくやった。貴様のおかげで間に合ったぞ」

 連続で降り注いでいた隕石群の締めくくりとして、最後に超巨大隕石が上空に出現し、重力に引かれて落下する。それが命中する寸前に、おっさん達はゴーレムを倒す事に成功したが、残念ながらそこでタイムアップだ。

「うおおおおおおおおおおおっ!?」

 エンジェのメテオ・ストライクによるダメージで、おっさん達が纏めて吹き飛ばされる。凄まじい衝撃に大地が揺れ、土煙が巻き上がった。

 そこでようやくメテオ・ストライクの効果が終了した。先程までの喧騒が嘘だったかのように、闘技場が静寂に包まれる。

 そして今、闘技場に立っているのはエンジェただ一人であった。

「フッ……フハハハハ!見たか、これが我の真なる力だ!愚民共よ、我が名を称えよ!我こそは理想郷に舞い降りた漆黒の魔王、エンジェなり!」

 場内はプレイヤーの死体で埋め尽くされており、自らが殺害した者達の躯の上で高笑いする彼女は、まさに魔王と呼ぶに相応しいだろう。

 これまでも彼女は魔王を自称し、他のプレイヤーの一部も彼女をそう呼んではいたが、エンジェというプレイヤーが本格的にそう呼ばれるようになるのは、今日この時からだった。

「ククク……やったぞ。遂に勝った!勝ったんだ!」

 おっさんやカズヤを筆頭とするトッププレイヤー達を一網打尽にし、頂点に立ったエンジェは勝利の喜びに打ち震えていた。

 ゆえに気が付かない。今の自分が隙だらけであり、虎視眈々とその隙を狙う者が居た事に。

 ドスッ、という音と共に、エンジェの背中に矢が深々と突き刺さる。

「……えっ?」

 呆然とした表情でエンジェが振り返ると、そこには……


「【天羽々矢(アメノハハヤ)】」


 矢を放ち終え、残心する黒髪の巫女服を着た女性……カエデがそこに居た。

「ばかな……何故、生きている……」

 カエデが放った【天羽々矢】は弓と神聖魔法スキルの複合奥義アーツだ。魔法に特化し、防御面は非常に脆弱なエンジェが無防備な状態で背中にそんな物を受ければ即死は免れない。

 だが問題は、どうしてそれを放ったカエデがこの場に生存しているのかだ。確かに彼女もメテオストームの範囲内に居たはずだ。それなのに、どうして生きている。

「……そうか。貴様かシリウス」

 混乱する頭を必死に回転させて、エンジェはその疑問の答えに辿り着いた。

 彼女が死に際に呟いた通りに、カエデが生き残る事が出来たのはシリウスの活躍によるものだった。前述した通りに大量の隕石が連続で降り注ぎ、多段ヒットする上に降下によるダメージ軽減が出来ないメテオストライクは、普通に仲間を庇うアビリティを使ったのでは、仲間を護りきる事が出来なかった。その為、シリウスは二つのアビリティを使用した。

 彼が使った一つ目のアビリティの名は【献身】。その効果は使用してから百八十秒の間、指定したパーティーメンバー一人が受けるダメージを全て肩代わりするというものだ。それによって、シリウスはカエデが受ける筈だったダメージを代わりに受けて倒れたが、代わりにカエデを生き残らせる事に成功したのだ。

 だが、それだけでは不完全だ。流石のシリウスでもエンジェが放ったメテオ・ストライクのダメージを二人分も受ければ、途中でHPが尽きて死ぬだろう。そうなれば献身の効果もその時点で途切れ、カエデもすぐに後を追う事になってしまう。その為、シリウスは献身の後にもう一つのアビリティを発動させたのだった。

 その名は【ラスト・スタンド】。効果は以下のような内容である。


 【ラスト・スタンド】

 ①発動時に、現在使用している防御アビリティを一つ選択する。

  選択した防御アビリティの効果時間中、あなたはHPが0になっても死亡しない。

  また、発動中の防御アビリティの効果は他の効果によって打ち消されなくなる。

 ②効果時間が終了した時、あなたはHPの残量にかかわらず死亡する。

  この効果による死亡は他のいかなる効果・耐性によっても打ち消す事が出来ない。


 使用すれば自身には確実な死が約束されるが、その代わりに使用中の防御アビリティの効果時間中は、どれだけのダメージを受けても耐え続け、仲間を護る事が出来る。

 この二つのアビリティの組み合わせによって、シリウスはカエデを生き残らせたのだった。

「不覚であったわ……貴様もまた、打倒すべき宿敵だったというのに……」

 あの時、エンジェの目にはおっさんとカズヤしか入っていなかった。どうせ耐えられる筈が無いと高を括って、シリウスを意識の外に追いやっていた。それこそが彼女の敗因だった。

 これにてエキシビション・バトルロイヤルの決着が付いた。

 最後まで生存し、勝利者となったプレイヤーの名はカエデ。彼女もまた七英傑として名を知られるプレイヤーではあるが、彼女の得意分野は他のプレイヤーへの支援であり、トッププレイヤーに相応しい力量を備えてはいるものの、単体での戦闘力という面では七人の中でも下から数えた方が早いだろう。そんな彼女が唯一の生存者にして勝者となった事は、誰にとっても予想外であった。

 いや、より正確に言うならば、ただ一人を除く全ての者にとって、だろう。

「カエデさんが死ぬ訳がないだろう。この僕が、死んでも護るんだから」

 彼女の勝利を確信していた少年は、倒れ伏しながらも誇らしげな笑みを浮かべていた。


  *


 こうして戦いは終わった。

 その後はカエデと、通路に避難していた救護班が手分けして倒れたプレイヤー達を蘇生して回り、起き上がった多くの者達が観客席へと戻っていった。

 それを見届けたおっさんは、再び闘技場の中心で声を張り上げる。

「あー、皆お疲れさん!今日のイベントはこれで本当に終わりだ。参加してくれてありがとよ!」

 おっさんが閉会の挨拶をすると、観客が全員で拍手をする。

「それじゃあ最後に、ファイトマネーと賞金の受け渡しをするぜ」

 おっさんがそう言うと、金貨がぎっしり詰まった袋を持った職人プレイヤー達がぞろぞろと闘技場へと入ってきて、その袋をおっさんと試合をした百人に手渡していく。

「そしてバトルロイヤルを制したプレイヤー、カエデに賞金の五百万ゴールドをプレゼントだ!」

 おっさんが台車の上に山積みになったゴールドを、カエデに渡そうとする。

「おめでとう!」

「ありがとうございます」

 カエデは綺麗な姿勢でお辞儀をして、それを受け取った。

「では、こちらのお金を寄付いたします。どうか闘技場の修繕にお使い下さいませ」

 そして直後に、それを全額おっさんに突き返した。

 確かに闘技場は先程までの激闘の余波と、エンジェが放ったメテオ・ストライクにより色々な部分が破損しており、修理が必要な状態だ。カエデは賞金をその為に使って欲しいと申し出たのだ。

 まさかそう来るとはおっさんの目をもってしても読めなかったのか、おっさんは一瞬驚いた表情で固まるが、次の瞬間には思わず吹き出していた。

「欲の無ぇこった。ありがてぇが、ちょっとくらい持ってても良いんだぜ?」

「いいえ。今回の催しは大変楽しいものでございました。ですのでそのお金はまた、この場所で皆様を楽しませる為にお使い下さい。わたくしにとっては、それが一番の報酬です」

「そうかい……なら約束するぜ。次はもっと面白ぇモンを見せてやるよ」

 おっさんとカエデが握手を交わすと、観客は彼らに喝采を浴びせた。

「おっさんお疲れ!面白かったぞー!」

「対戦者の皆も凄かったぞ、よく頑張った!」

「カエデさんマジ聖女」

「良い人すぎるだろ……五百万ゴールド、ポンとくれてやったぜ」

「で、次の開催はいつだね?」

 興奮冷めやらぬ中、感想を言い合いながら観客達がその場を後にする。そんな中で、残ったおっさんは職人仲間たちを集めていた。

「お前らもお疲れさん。闘技場の設営にイベントの準備と、お前らが居なけりゃ開催する事は出来なかった。礼を言うぜ」

 おっさんが珍しく素直に礼を言うと、彼らは水臭い事を言うなと笑い飛ばした。

「俺らも楽しかったから良し!」

「おう、それに十分儲けさせて貰ったしな」

「堅苦しい事は言いっこなしだぜ」

「ああ。また何かする時は遠慮なく声をかけてくれよ」

 彼らのその言葉を聞くと、おっさんは一転してニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。

「ようし、その言葉が聞きたかった。だったら遠慮なく、もうひと働きして貰うぜ!幸いここにはカエデ嬢ちゃんから寄付して貰った五百万ゴールドがあるからな。こいつを使って修理ついでに大改装と行こうじゃねぇか!」

「ゲェーッ!?おっさんめ、まさか最初からそれが狙いだったのか!」

「くそっ、嵌められた!」

 職人達が笑いながら悲鳴を上げる中、鍛冶師のテツヲがおっさんに声をかける。

「おっさん、一つ提案があるんだが」

「おうテツ、何だ?言ってみな」

「やっぱりこれだけの資金を寄付して貰って何も無しってんじゃあ、カエデさんに申し訳が立たねぇと思うんだ。ここはやはり、彼女の偉業を称える為の仕事をしたいと思うんだが」

「うむ。まさに我が意を得たり。この俺も丁度そう思っていたところだ」

 おっさんが歴史小説に登場する王様のような物言いをして、テツヲの提案に同意する。

「やはりここは、闘技場の前に立派な銅像でも作るべきだと思うんだが……」

「テツ……てめえ、この馬鹿野郎がッ!」

 テツヲがそう言った瞬間に、おっさんは彼の頬を全力で殴り飛ばしていた。

「ぐほぁっ!?お、おっさん……何を……?」

 いったい先程の発言の何が悪かったのか分からないといった様子のテツヲや周りの職人達に向かって、おっさんはこう言った。

「銅像だと?しみったれた事言ってんじゃねぇ!資金ならたんまりあるんだ。どうせ作るならド派手に、オリハルコン像でも作りやがれってんだ!」

 おっさんのその言葉に、彼らは雷に打たれたような衝撃を受けた。

「おっさん……すまん、俺が間違っていたああああああ!」

「テツ……分かってくれたか!」

「ああ、勿論さ!」

 おっさんとテツヲが固い握手を交わし、友情を確かめ合った。

 こうして彼らは次の日から早速修理に取り掛かり、作った時と同じように驚く程の短期間で、闘技場の修理と改修工事は終わった。

 そして闘技場の正面入り口付近には、職人達が丹精込めて作り上げた等身大の、細部まで完璧に再現されたカエデのオリハルコン像が設置された。その台座にはこう書かれている。

「初代バトルロイヤル優勝者にして闘技場に多大な寄付をした聖女の功績を称える為、この像を設置する。闘技場設立者一同」

 後日にそのド派手に目立つ像を見て、モデルとなった女性はあまりの羞恥に思わず悲鳴を上げた。何て事をしやがる。まさに恩を仇で返すような蛮行であった。

 なお犯人達の供述によると彼らに悪意は一切無く、純粋によかれと思ってやった事だった事を、ここに付け加えておく。

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