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謎のおっさんオンライン(改)  作者: 焼月 豕
Bigining of the Tyrant
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謎のおっさん熱血指導!ドデカい敵をブッ飛ばせ!(前)

 街の衛兵達を相手に大立ち回りを演じた挙句、金を渡して全てを無かった事にしたおっさんはその後、街の外に向かって歩き出した。そして今、おっさんは【始まりの草原】フィールドを歩いていた。最初の街、城塞都市ダナンの城門をくぐれば、すぐにこの草原フィールドに出る。つまりこのエリアは名前通りに、一番最初の冒険の舞台となる場所である。

 草原には小型の猪型のモンスター【スモール・ボア】の姿が多数見える。このゲーム内で最も弱いモンスターの一体であり、初心者が戦闘に慣れるために戦う相手として最適だ。もう少し街から離れれば、強化版の【ラージ・ボア】や狼型モンスターの【グレイ・ウルフ】、【ホワイト・ウルフ】といった敵が出現する。

 草原の各所では、スモール・ボア相手に戦う初心者プレイヤーが多く見受けられる。どうやら苦戦しているようで、猪の突進をまともに食らって吹き飛ばされる者達もいた。そんな初々しいプレイヤー達の姿を見ていたおっさんは、微笑ましいような、もどかしいような複雑な気分になった。

「う、うわあああああああ!」

 と、その時であった。猪の全力突進を食らって派手に吹き飛んだ中学生くらいの少年プレイヤーが、情けない悲鳴を上げながらおっさんに向かって飛んでくるではないか。このままでは彼はおっさんに衝突してしまう。そんな少年をちらりと見たおっさんは、

「ぶべらっ!」

 無慈悲にも飛んできた少年をひらりと回避し、少年はそのまま顔面から着地する。その姿を見ておっさんは愉快そうに笑った。なんて野郎だ。そして少年と戦っていたスモール・ボアが、彼に更なる攻撃を加えようと突進してくる。

「やれやれ、仕方ねえな」

 おっさんは素早く少年とスモール・ボアの間に割り込むと、右手一本で猪の頭を押さえてその突進を食い止める。

「おい坊主、大丈夫か?」

「は、はい……何とか」

 おっさんに声をかけられ、顔を上げた少年が見たのは小型とはいえ猪の突進を片手で止めながら、びくともしないおっさんの姿。そのおっさんが、顔だけで振り向いて言う。

「HP残り少ねぇようだし、少し休んでな」

 そう言うと、おっさんは腰の鞘から短剣を抜き、素早くスモール・ボアに斬りかかった。攻撃を受けた事で標的がおっさんに切り替わり、スモール・ボアが牙を突き上げて反撃しようとする。

「遅ぇッ!」

 その攻撃を半歩下がって射程外に出る事で悠々と回避しながら、おっさんが回し蹴りを放った。そのカウンターで牙をへし折り、スモール・ボアを大きくのけぞらせる。そしてすれ違うように素早く、さりげなく敵の背後に回り【バックスタブ】を発動し、背中に短剣を深々と突き刺してトドメを刺した。

「プギィィィ……」

 断末魔と共にモンスターが倒れ、数秒後にその死体が消滅する。敵を倒した事でおっさんは僅かな経験値とゴールドを獲得し、そして戦利品がドロップされた。魔獣の毛皮、猪の肉、猪の牙の三点だ。おっさんは地面に落ちたそれらを拾い、少年に投げ渡した。

「えっ、あの、これは……」

「元々はお前さんが戦ってた敵が落とした分だ。取っときな」

「えぇ……でも、ほとんど貴方が倒したような物ですし、悪いですよ……」

「律儀なのは良い事だが、別に構わねえよ。大体、それくらい簡単に集められるしな」

 おっさんは申し訳なさそうにする少年に背を向けると、自らの言葉を証明するために、近くにいるモンスターを狩る事にした。幸い、付近には多くのスモール・ボアが生息している。おっさんはそれらに襲い掛かった。

 おっさんとモンスターの戦いは、完全なワンサイドゲームだった。一方的な屠殺と言い換えても良い。

 モンスターの動きを完全に見切り、最小限の動きで回避しながら翻弄し、絶妙のタイミングでカウンターを入れて牙の部位破壊を行ない、次の瞬間には死角から弱点を的確に攻撃してあっさりと仕留めて見せる。一切の無駄を排除した洗練された動きに、モンスターは攻撃を当てるどころか、殆ど何もさせて貰えないまま絶命した。

「ちょっ、おいおい、何だよあの動き……」

「なんというスタイリッシュな戦闘だ!敵の動きを完全に見切ってやがる!」

「やばい、おっさんの癖に華麗すぎる……」

 周囲のプレイヤーは戦いの手を止め、常人離れしたおっさんの戦いぶりに注目していたが、当のおっさんはそんな彼らの視線を全く意に介さず、モンスターを乱獲し続けるのだった。

「温いな……準備運動にもなりゃしねえ。ま、街周辺のフィールドならこんなモンかね」

 大量に稼いだ経験値とドロップ品を前に、おっさんは煙草に火を点けながらそう呟いた。そろそろ次の狩場に移動するかと考えた時、おっさんの背中に声をかける者がいた。

「あの、すみません!」

 その声の主は、先程おっさんに助けられたプレイヤーだった。短剣と革鎧を装備した、小柄な赤毛の少年だ。おっさんは振り返り、彼に向かって言う。

「おう、さっきの少年か。どうした?俺に何か用かい」

「は、はい!あの、貴方の戦い方を見て凄いと思ったので……その、よかったら指導をお願いできないでしょうか!」

 真正面からおっさんと向かい合った少年は、長身のおっさんに鋭い眼光で見下ろされてビビるが、勇気を出しておっさんにそう言った。ちなみに、おっさんの目つきが悪いのは生まれつきであり、本人は別に睨んだり威圧する気は一切ない。

「指導ねぇ……」

 ふむ、とおっさんは顎に手を当てて少考するが、別に大した用事も無かったし、まあ良いかと結論付け、少年のその頼みを快諾した。

「ま、新人(ニュービー)に色々教えてやんのも先人の義務ってヤツか。いいぜ、付き合ってやるよ」

 おっさんがその言葉を発すると同時に、周囲のプレイヤーがわっと歓声を上げて、おっさんの周りに集まってくる。どうやら彼らも赤毛の少年と同じことを考えていたらしく、様子を伺っていたようだ。

 俺にも!私も!と声を上げる彼らに、調子のいい連中だと少々呆れはしたが、どうせ教えるなら纏めてやったほうが手っ取り早いし、一度受け入れた以上は最後まで付き合ってやるのが人情ってモンか、と考えて自らを納得させるのであった。


「あー、コホン。それじゃあ実演しながら解説するぞ」

 おっさんは集まったプレイヤー達を一箇所に纏めると、モンスターと相対して実際に戦いながらコツを説明する事に決めた。

「まず、このイノシシ型モンスター、スモール・ボアだがな、よく観察すりゃあ気付くと思うんだが、攻撃パターンは三種類しか無ぇ」

 おっさんはそう説明しながらスモール・ボアに近付くと、その顔面に向かって無造作に一発、蹴りを放った。その結果、当然モンスターにダメージが発生し、蹴られたモンスターはおっさんに対して敵対行動をとり始める。

「一つ目がこの、正面に向かって牙を突き上げる攻撃だ。こいつは敵が近距離・正面に居る時によく使ってくるから、横か後ろに下がって避けりゃいい」

 その教えのまま、おっさんは太い牙を勢いよく突き上げてきたスモール・ボアの攻撃を、素早いサイドステップで回避しつつ側面に回り込んだ。

「次はこの、前足を大きく上げてから勢いよく振り下ろす攻撃だ。これはこいつが足を下ろした場所を中心に円形の範囲を攻撃する範囲攻撃だが、予備動作が長ぇし範囲も大して広くねえ。落ち着いて後ろに下がるかガードしな」

 おっさんは解説しながらバックステップを何度かそれを繰り返して、スモール・ボアから大きく距離を取った。スモール・ボアの範囲攻撃を避ける為というには下がりすぎだが、それは次の攻撃を誘発させる為でもあった。

「最後の三つめは、この突進だ。敵が離れた場所にいるとこうやって一直線に突っ込んでくるから、直前でガードするか、横に跳んで避けるかすりゃあいい。突進後は隙もでかいしな」

 おっさんはスモール・ボアの突進が当たる寸前に、最小限の動きでひらりと回避した。まるで闘牛士のような華麗な回避に、ギャラリーから歓声が上がる。

 おっさんの解説通り、スモール・ボアは突進を終えた後はしばらく静止し、隙が出来ていた。おっさんはその間にスモール・ボアの背後に回って短剣の一撃で葬ると、プレイヤー達に向き直った。

「さて、このようにモンスターの行動はある程度パターン化されていて、それを覚えちまえば対処するのは簡単だ。これを踏まえた上で、防御に使えるテクニックを幾つか教えてやろうじゃねえの」

 おっさんはそう言うと、プレイヤーの一人に近付いて声をかける。

「つーわけでアンタ、ちょっとその盾を貸してくれねえか」

「あ、はい。どうぞ……」

 おっさんはプレイヤーの一人から小型の盾【ウッドバックラー】を借りると、それを装備した。

「それじゃあ実践だ。まずモンスターの攻撃を、普通に盾で防御してみよう」

 おっさんが再び近くにいたスモール・ボアに攻撃し、それに対してスモール・ボアが反撃の牙を剥く。その攻撃に対し、おっさんはそれまでとは違って回避をしようとせず、盾を構えて防御姿勢を取った。

「【シールドガード】!」

 おっさんは盾スキルの基礎防御アビリティ【シールドガード】を発動させた。その後、スモール・ボアの攻撃がおっさんに命中し、ガキィン!という音と共に牙と盾がぶつかり合い、おっさんに少量のダメージが与えられた。

「お前らが今まで防御スキルを使ってた時って、こんな感じだったろう?」

 おっさんの質問に、盾持ちたちがうんうんと頷く。その中で疑問を抱いた一人が声を上げる。

「って事は、そのやり方は間違いだったって事ですか?」

「別に間違いって訳じゃねえが、もっと良いやり方があるって事さ。まあ見てな!」

 おっさんが再びスモール・ボアに相対する。スモール・ボアが一瞬の溜めの後、再び牙を突き上げる動作を行なった。その瞬間。

「ここだ!【シールドガード】!」

 パァン!という乾いた音と共に、攻撃が命中したおっさんの盾が発光するエフェクトが発生し、スモール・ボアが体勢を崩した。対して攻撃を受けたはずのおっさんはHPが全く減っておらず、その頭上には【Just Guard!!】の文字が一瞬現れて消えた。

「「「「「おおおおおおおおおっ!?」」」」」

 プレイヤー達から賞賛と疑問の入り混じった声が上がる。おっさんはすぐさまそれに応える。

「これが【ジャストガード】だ。攻撃が命中する直前、ギリギリのタイミングを狙って防御スキルを使う事で発生するバトルボーナスで、敵の体勢を崩せる上にダメージ軽減率も大きく上がるのさ」

「すいません!バトルボーナスって何ですか!?」

「おっと、そこからか。バトルボーナスってのは、今見せたジャストガードの他に、敵の背後から攻撃すると発生するバックアタック、弱点部位への攻撃で発生するウィークポイントアタック、アーツで敵にトドメを刺すアーツフィニッシュ、空中で敵にトドメを刺すエアリアルフィニッシュ、敵の残りHPを大きく超えるダメージを与えるオーバーキル。こんな風に、戦闘中に特定の条件を満たす事で発生するボーナスの事を言うのさ。こいつが発生すると戦闘が有利になるのは勿論、ボーナス経験値が貰えるから積極的に狙っていきな!」

 解説しながら、おっさんはウッドバックラーを持ち主に投げ返し、自前の短剣を装備した。

「さて、次に盾を使わねえ連中!特に大剣とか斧とか両手槍使う連中はよく見とけ、必須技能だぞ!」

 おっさんの言葉に、両手武器使いのプレイヤー達が目を見開いて、その動きに注目する。おっさんは彼らの視線を受けながら軽快なステップを踏み、スモール・ボアの攻撃に備える。

「ブモォッ!」

「ふっ!【パリィ】!」

 スモール・ボアが攻撃する瞬間、おっさんはそれを迎え撃つように右手の短剣を鋭く振るい、武器防御アビリティ【パリィ】で牙を弾き返した。先程のジャストガード成功時と似たようなエフェクトが発生するとともに、おっさんの頭上に【Just Parry!!】の文字が表示される。そしてジャストガードと同じように、スモール・ボアが大きく体勢を崩す。そして、

「【シャープストライク】!」

 間髪入れずに、おっさんが鋭く踏み込みながら全力で短剣を突き刺す単発アーツ【シャープストライク】を発動させ、一撃でスモール・ボアを絶命させた。

「ジャストパリィで体勢を崩した所にアーツでカウンター!もうお前らもわかってると思うが、アーツは強力な代わりに隙がでかい技も多い。鈍重な両手武器なら特にだ!だがこうすりゃあ、体勢を崩した所にノーリスクで必殺の一撃入れられるって寸法よ!わかったか!」

「凄ェ!流石おっさん!」

「このテクニック超助かる!」

 両手武器使い達はおっさんが披露したテクニックを見て、習得していなかった者達は急ぎスキルウィンドウを開き、武器防御スキルを習得した。

「ま、防御に関してはこんな所だな。序盤はしっかり相手の動きを見極めて、それに対応することを覚えるこった。そうすりゃ安全に戦えるし、そうこうしてる内に戦い方も上達すんだろ。じゃあ次はいよいよ、攻撃のほうを指導するとするか」

 そしておっさんは、プレイヤー達を使う武器ごとのグループに分け、それぞれの武器を実際に使ってみせながら実践的な指導を行なった。

 その結果、なんという事でしょう!ついさっきまで最弱モンスターであるスモール・ボア相手に苦戦していた初心者達が、まるで別人のような動きになっているではないか!

 最初におっさんに話しかけた赤毛の少年は、短剣を軽く握りながら近くに居るモンスターに狙いを定めた。

「動きが固ぇ……。お前は無駄に力が入りすぎだ。短剣使いがブンブン振り回してどうする」

「短剣の基本は蝶のように舞い、蜂のように刺す事だ。力押しがしてえなら斧でも使うんだな」

 おっさんはそう語った。その言葉を頭の中で繰り返し、少年は素早く敵の背後に忍び寄る。

(正面から正々堂々と戦う必要はない。狡賢く立ち回れ。弱点攻撃は基本……!)

 少年はスモール・ボアの背中の弱点に狙いを定め、短剣を力が入りすぎないように気を付けつつ握り直し、習得したばかりの【暗殺】スキル、その初期習得アビリティである【不意討ち】を発動する。その効果は名前の通り、こちらを見ていない相手への攻撃の威力とクリティカル率を上昇させるものだ。

(必要以上の力はいらない。素早く、正確に!)

 スモール・ボアの無防備な背中に短剣が突き立てられる。【バックアタック】と【ウィークポイント・クリティカル】のバトルボーナスを獲得すると共に、確かな手応えが右手に伝わる。

(欲張るな。攻撃だけに集中するな。短剣の基本は一撃離脱!)

 スモール・ボアが前足を上げて範囲攻撃で反撃しようとする前に、少年は余裕を持ってバックステップで離脱し、腰のベルトに挟んである物に手を伸ばす。

「軽くて片手がフリーになるのも短剣の長所の一つだ。素直に盾を持つのも悪かねぇが、動きが阻害されるから、あまり重い盾は持てねえからな。こういうのと組み合わせるのもいいぜ」

 そのアドバイスと共におっさんから渡された、小さな投げナイフ。それを空いた左手でベルトから抜いた少年は、これまた取得したばかりの【投擲】スキルのアーツを発動する。

「【クイックスロー】!」

 素早い動きで手に持った投擲武器を投げる、隙の少ない遠距離攻撃。威力はさほど高くはないが、安全な距離から素早く攻撃が出来る為、使い勝手が良い技だ。

 攻撃を空振ったスモール・ボアに、放たれた投げナイフがカウンターヒットし、強制的にのけぞらせる。

「威力は低いが軽くて使いやすい短剣は、他の武器に比べて攻撃出来る機会が多い。僅かなチャンスを見逃すな、常に目を光らせろ!小せぇ隙を突いて、でっかく広げるのがお前の役目だ!」

 そのおっさんの教えを、今こそ少年は理屈ではなく本能で理解した。

「見えたッ!今がチャンスだ!」

 僅かな隙を見逃さず、少年が無防備なスモール・ボアに飛び掛かる。

「【ソニックダガー】ッ!」

 短剣に風を纏わせ、切断と共に疾風属性の追加ダメージを与えるアーツが発動し、風の刃がスモール・ボアをズタズタに引き裂いた。

「やった……!僕にも出来た……!」

 少し前まであれほど苦戦していた敵に、無傷の勝利出来た事で思わずガッツポーズを取る。草原を見渡せば、似たような光景をいくつも見つける事が出来るだろう。

 例えば少し離れた場所にいるレイピア使いの少女。おっさんの指導を受けた彼女は手にした細剣でモンスターの弱点を次々に狙い打つ。

「細剣は攻撃力が低い、耐久度も低い、刺突しか出来ねぇと欠点が多い武器だが、とびっきりの長所が一つだけある。攻撃範囲が狭い……このほっそい剣の先っぽの点しか無い分、狙った場所をピンポイントで攻撃できるって事だ」

「つまり、弱点部位へのクリティカルだけを徹底的に狙えって事だ!適当に攻撃するな、弱点を見抜いて、そこを正確にブチ抜けるように常に意識しろ!」

 その教えの通りに、少女は剣先を弱点に向けて最速で、最短距離で突き刺す事だけに集中する。弱点を集中攻撃されたスモール・ボアはたまらず悲鳴を上げながら、破れかぶれの反撃を試みようとするが、その攻撃よりも……

(私のほうが……速いッ!)

 一瞬の判断で、少女は回避ではなく迎撃を選択した。突き出される牙、その根元を狙って右手に握った細剣を突き出す。弱点攻撃、クリティカルヒット、カウンターと三拍子揃ったその一撃は、スモール・ボアの牙を根元から粉砕した。追加で部位破壊のバトルボーナスも獲得し、彼女はその戦果に満足そうな笑みを浮かべるのだった。

 また、更に別の場所では右手に槍を、左手に円形の盾を装備し、金属製の重鎧を着た騎士風の青年が戦っていた。彼もまた、おっさんの指導を思い出しながら目の前のモンスターと対峙する。

「正面から受けるだけが防御じゃねえぞ。敵の攻撃を受ける時は、基本的に斜めに受ける事を意識してみろ」

「斜めに……ですか?」

「おう。そうだな、例えばこうやって地面を殴る時の事を考えてみろ」

 おっさんが拳を握り、地面に当てながら説明する。

「地面に向かって垂直に拳を下ろすのと、斜めに殴るのと、どっちが威力が出ると思う?」

「そりゃ当然、まっすぐ突いた時のほうが……ああ、そういう事か!」

「理解できたようだな。攻撃に対して受ける面が垂直に近いほど衝撃は強くなる。逆に、水平に近ければ近いほど威力を逃す事が出来るってわけだ。そんな風に攻撃を受ける角度を意識してみな。上手い壁役(タンク)は皆、そうやって工夫してるぜ」

 スモール・ボアの牙を、青年が盾を斜めに構えて受ける。

(なるほど、これだけでも受けた時の感触がかなり違う)

 初めて戦った時は正面からまともに受けたせいで、盾があっても大して役に立たないと思って後悔したが、しっかりと技術を身に付ければ楽に受け流せる事が実感できる。

「よし、それじゃあこのまま盾スキルを鍛えつつ防御の練習だ。付き合って貰おうか」

 この青年と戦っているスモール・ボアはこの後、まともに通用しない攻撃を延々と繰り返し、彼の盾スキルと防御技術を鍛える為の練習台にさせられるのだった。

 ここまで紹介した彼らのように、おっさんの指導を受けた初心者プレイヤー達は、それまで苦戦していたのが嘘だったかのように、草原のモンスター達をスムーズに狩っていった。そのまま数十分が経過し、彼らの成長を見届けたおっさんは、そろそろ指導を終えようと考えていたが、その時。


 【Emergency Mission!】


 突然プレイヤー達の前にシステムメッセージ・ウィンドウが出現し、上記のメッセージが大きく表示されたのだった。

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