恐怖のクリーチャー出現!?謎のおっさんVSサメ怪人
釣り上げた巨大魚の正体はサメだった!その事実に驚き、戸惑うおっさんと仲間達。彼らはしばらく、地面に横たわったまま動かなくなった巨大サメを見つめていた。
「まさか、正体はサメだったなんて……」
「つーか、ここ湖だよな!?何でサメが泳いでるんだよ……」
「サメの中には淡水に生息できるやつも居るみたいだけど……」
「いやいや、それにしたってデカ過ぎだろう……?」
「この世界の生態系どうなってんだ」
「今更じゃね?これまでも散々巨大生物見てきただろ、俺ら」
口々にそれについての疑問を口にしながら、プレイヤー達は巨大サメを観察する。その中の一人が、ゆっくりとサメに近付いていく。
「しかし俺達、よくこんなの釣れたよなぁ。苦労したけどその分、見返りは大きかったな。これだけデカけりゃ、フカヒレが大量に……もしかしたらキャビアなんかも採れるかもな!」
嬉しそうに笑いながら、彼が巨大サメに触れようとした、その時だった。
「待て、迂闊に近寄るんじゃねぇ!そいつはまだ生きてやがるぞ!」
おっさんがそう叫びながら、無防備なプレイヤーを掴んで後方に投げ飛ばした。その直後、倒れて動かなくなっていた、死んだと思われていたサメの目と、巨大な口が開かれる。
「うわぁっ!」
「こ、こいつ動くぞ!」
突如動き出した巨大サメが、その大口を開けておっさんに迫る。避ける間も無く、おっさんは巨大な鋭い歯に挟まれ、サメの口内に消えた。
おっさんを飲み込んだサメはその巨体を跳ねさせながら、周囲に残った敵を睨み付ける。サメは己を水中から引きずり出した不届き者を皆殺しにせんと、殺意を漲らせている。
「う、うわあああああああ!?」
「おっさんが食われちまった!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
あまりにも唐突で非現実的な光景に、プレイヤー達が恐慌状態に陥る。無理もないだろう。誰だって陸上で十メートルを超える化け物のようなサメに襲われるような異常事態に遭遇すれば、必然的にそうなるだろう。だがその中にも、冷静に事態に対処しようとする者達も居た。
「皆、落ち着いて!距離を取って態勢を立て直すんだ!近くに居る人とパーティーを組んで、助け合っていこう!」
「前衛は防御姿勢を取りつつ、後衛を護って!盾持ちはカバーリング準備!」
「ヒーラーは急いで下がりつつ、支援と回復の準備をしてくださいぃ!」
シンク、ナナ、アーニャの三人がプレイヤー達に指示を出しながら、それぞれの愛用の武器を構えて勇敢に前に出る。
「それに大丈夫、おっさんは生きてるよ!皆、冷静になって考えるんだ。おっさんがあれくらいで死ぬと本当に思うか!?」
シンクのその発言に、ナナとアーニャも苦笑を浮かべながら頷く。他の者達も、
「言われてみれば、おっさんがあの程度でやられる訳がない!」
「俺としたことが、つい冷静さを失ってしまったぜ!」
「確かに。おっさんはそんな簡単に死んだりしないわよね」
「むしろ、どうやったら死ぬんだろうな」
その場の全プレイヤーがおっさんに対する謎の信頼を発揮し、瞬時に冷静さを取り戻した。
「おっさん!そろそろ出てきていいぞ!」
誰かが放ったその言葉と同時に、閉じられていたサメの鋭い歯の一部が罅割れて、体の内側から粉砕される。そして歯が無くなって出来た空間から、おっさんが飛び出してきた。
「ふん……待たせたな!」
空中で宙返りをした後に華麗に着地し、おっさんは獰猛な笑みを浮かべて巨大サメを睥睨する。歯を剥き出しにして、口角を上げているが、大きく開かれ、つり上がった目は全く笑っていない。そんな殺人的に凶悪な笑顔だ。ただでさえ悪い人相がよりパワーアップしている。
「俺がやる。てめえらは離れて援護しつつ、こいつの動きを観察しな!」
おっさんはそう指示を出すと同時に、二挺の黒く巨大な魔導銃剣【ブラックライトニング】を装備して、その銃口から雷光を纏った魔力弾を発射した。
大口径・大出力の、拳銃と呼ぶには威力もサイズも桁違いのこの武器は、アーツもアビリティも使わない通常の射撃攻撃であっても、ボスモンスターに十分なダメージを与える事が出来る。そして一部の例外を除いて、電撃属性は水棲生物の弱点である。結構な量のダメージを受けた巨大サメはおっさんに対して大きな敵対心を抱き、彼に向かって襲いかかる。
「来るぞ、散らばれ!俺の後ろには居るなよ!」
サメが行なったのは突進攻撃だ。腹で地面を這っているとは思えない速度と、まるで氷の上を滑っているかのようなスムーズで無駄の無い動きでおっさんに迫る。同時にその大口を開けて、再びおっさんを飲み込もうとするが、
「馬鹿の一つ覚えが!まだ懲りてねぇようだな!」
おっさんは再び魔力弾を放ちつつ、横っ飛びでそれを躱す。攻撃と回避を同時に行なうおっさんの技巧を目撃したプレイヤー達が思わず瞠目するが、まだ終わらない。おっさんは突進を紙一重で回避すると同時に、すれ違いざまに魔導銃剣のブレードを使って、サメの肌を切り裂いていた。
だがサメもただではやられんとばかりにその場で急停止し、その巨体を高速で回転させ、分厚い尾ビレで周囲を薙ぎ払う。
おっさんはアビリティ【ハイジャンプ】を使って跳躍し、その範囲攻撃を回避しつつ、上空にて格闘アーツ【ヘヴィストンプ】を発動させた。急降下しての踏みつけ攻撃を行ないつつ、サメの背中に乗ったおっさんが、ここぞとばかりに攻撃を続行しようとするが、寸前で止まる。
「チッ!」
舌打ちをしつつ、おっさんがサメの背中から飛び降りつつ射撃を行なう。サメの背中が隆起し、無数の鋭い棘が生えて反撃を行なってきたのは、その直後の事だった。
「危ねぇなこの野郎……!」
仮にその棘による迎撃に気が付かず、直撃を受けていれば決して浅くはない傷を負っていただろう。その事実に悪態を吐くおっさんに、ナナが話しかける。
「おっちゃん、今の何でわかったの?」
「殺気や危険の匂い。あとは足裏から伝わる感触に違和感を感じた。双剣使いは回避が命だからな、おめぇもこれくらいの危機察知は出来るようになれ」
「えぇ……」
さらりと難しい課題を出されて困惑するナナであった。
「しかし、まさか棘まで生やして来るとはな……どうなってやがる」
そう呟いたおっさんの目の前で、サメの姿形が変化していく。おっさんは思わず苦笑いを浮かべ、
「……どうやら、生えるのは棘だけじゃねぇようだな……」
サメの体から生えた手足を見て、呆れたようにそう言った。
もう一度言おう。サメの体から、人間のような手と足が生えたのだ。勿論、十メートルを超えるサイズのサメの体を支えるための、相応に巨大な手足が、だ。
「うわっ……うわぁ……」
「キモッ……」
「何だこれ……いやマジで何だよこれは……」
その、あまりにも奇怪な容姿に、ドン引きしつつ総ツッコミを入れるプレイヤー達。その彼らを高みから見下ろす、二足歩行する手足の生えたサメのような何か。あまりにも非現実的で冒涜的なその光景は、見る者の理性と正気を失わせるに十分な物だろう。
「うろたえるんじゃねぇ!所詮は手足が生えた、デカいだけのサメに過ぎねぇ!」
その時点で十分すぎる程に恐ろしい気はするが、おっさんはそう言って仲間を鼓舞した。だがサメの変化は、単に手足が生えるだけに留まらなかった。
なんと、サメの頭の付け根の部分が三又に分かれて伸びると、その先端に三つの頭が生えてきたのだ。その合計六個の目が、ぎょろりと動いて冒険者達を見下ろす。
「キングギドラならぬ、シャークギドラってか?煌夜の野郎、クソ映画の観すぎで本格的に頭がおかしくなったようだな……」
おっさんが漏らしたその呟きの通り、この奇妙なモンスターは四葉煌夜が徹夜続きの末に、突然変異した巨大なサメが陸上に上がって街を破壊し、人を食らい尽くすB級映画から着想を得て作り出した怪奇生物だ。そして、おっさんの言葉に反応した者がこの場に居た。
「ほう……良き名だ。これより余はそう名乗るとしよう」
その言葉を発したのは何と、眼前の人間のような手足と三頭を持つ巨大サメ、その真ん中の頭であった。その言葉通りに、サメの名称が【シャークギドラ】へと変更される。
「うわあああああああああああああ喋ったああああああああああああ!?」
「しかも無駄に渋いイケメンボイスだあああああああああああ!?」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
これまでの手足が生え、頭が三つに分かれるだけでも見る者の正気を失わせるに十分な状況だったが、ここに来て人語を話し始めた事で、いよいよプレイヤー達の混乱は頂点に達した。
「フフフ……怖いか人間共」
「小さく、弱き者達よ。頭を垂れ、命乞いをするが良い」
続けて左右の頭がそれぞれ、威圧的な台詞を口にする。だが次の瞬間に、二発同時に放たれた魔力弾が、それらの眉間を正確に撃ち抜いた。
それを放ったのは当然、謎のおっさんである。おっさんは二挺の魔導銃剣から同時に放った魔力弾で左右の頭を黙らせると、続けて奥義アーツ【地龍昇天脚】を使用して跳躍し、中央の頭の鼻先に強烈な蹴りを叩き込んだ。おっさんはそのまま蹴りの反動を使って跳び上がり、シャークギドラの頭の上に乗って、それを踏みつけて見下ろす。
「ゴチャゴチャうるせえんだよカスが。大物ぶってねぇで、さっさとかかって来やがれ」
おっさんの挑発的な物言いに、シャークギドラは激怒した。
「おのれ人間!」
おっさんを頭の上に乗せたまま、シャークギドラは二本の太い脚に力を込めて、大地を砕き割りながら、百メートルに届く程の大ジャンプを行なった。
「おっさーん!」
「くそっ、あんな高く跳ばれちゃ手が出せねぇぞ!」
「落下地点に回り込むのよ!」
地上に残されたプレイヤー達は、何とかおっさんを助けようと手段を考えるが……
「無駄だ!」
「地を這う虫ケラ共め!力の差を知るがいい!」
「見よ、これぞ我が真の姿だ!」
シャークギドラが三つの頭を使ってそう言うと、その背中に巨大な翼が生えた。まるで天使のような純白の大きな翼だが、巨大なサメの化け物の背にあるのは不似合い極まりない。
だが、それによってシャークギドラが飛行能力を得た事も事実である。これで地上の者達が手を出す事は不可能になったと言っていいだろう。
「このまま振り落としてくれるわ!」
シャークギドラは高速飛行しつつ、急旋回や上昇・下降を繰り返しておっさんを地上へと振り下ろそうとする。仮にこの高さから落下すれば、例えシリウスのような超耐久力を持つプレイヤーだろうと、凄まじい落下ダメージを受けて即死することだろう。
だがおっさんは、平然とシャークギドラの頭の上に乗ったまま、ブラックライトニングを連射して攻撃を続けていた。素晴らしいバランス感覚である。
「無駄な努力、ご苦労さん。ダンスはもう終わりかい?」
「おのれ!嘗めた口をきいた事を後悔させてくれる!」
「これならどうだ!」
左右の口が叫び、シャークギドラが体に棘を生やしておっさんを攻撃する。
「冥途の土産に良い事を教えてやる。おっさんに一度見せた攻撃は通用しねえッ!」
その宣言の通りに、おっさんは一瞬で靴を装備解除してアイテムストレージへと収納すると、右足の指で棘の先端を挟み、片足の指だけで体を支えて何事も無かったかのように攻撃を続行した。片足の指だけで全身の体重を支えるだけでなく、その状態で平然と攻撃を続けられるとは、人間離れした恐るべき力と技術である。
この戦いは進化の常識を超えた化け物と、人間の限界を超えた化け物の人外対決と呼んでいいだろう。もはや唯の人間が立ち入る隙間など存在しない。
「おのれ、猪口才な!」
「貴様、本当に人間か!?」
「だがその状態で、これに耐えられるかな!」
シャークギドラが空中で宙返りを行ない、その体の上下が反転する。それと同時にシャークギドラは、体の表面に生やしていた棘を引っ込めた。すると掴む物が無くなったおっさんは、当然のように重力に引かれて、成す術も無く落下する羽目になるのだが……。
「下らねぇ小細工を!」
おっさんはアイテムストレージから金属製のワイヤーロープを取り出し、フックの付いた先端をシャークギドラの腕へと投げつけて、その手首に巻き付けた。そして反対側を左手で持ち、ぶら下がった状態で戦いを続ける。
「左手は使えなくなったが、てめえごとき右腕一本で十分だ!」
おっさんは魔導銃のアーツ【ヘキサショット】を発動し、右手に装備した魔導銃剣から六発の魔力弾を一瞬で放つ。それらは全て弱点にクリティカルヒットし、シャークギドラに傷を負わせる。
「【実体化:エクスプロード・ボム】!こいつはオマケだ、取っときな!」
おっさんがアイテムストレージ内のアイテムを実体化させるコマンドを口にすると、目の前に直径十センチメートル程の球体が現れる。このアイテムこそがエクスプロード・ボム。調合スキルによって製作可能なこのアイテムは、その名の通り爆弾である。強い衝撃を受けると、ちょうど三秒後に大爆発を引き起こす性質を持つ。
おっさんは、取り出したエクスプロード・ボムを、まるでサッカーボールのように蹴り飛ばした。それは放物線を描いて、シャークギドラの左の頭、その口腔内へと飛び込んだ。
「ぐぎゃああああああああっ!?」
直後に、それがシャークギドラの体内で爆発して大ダメージを与え、左の頭を吹き飛ばした。そして思わず怯んだシャークギドラの目に、恐るべき光景が飛び込んで来る。
「二発目だオラァ!」
先程と同じように、再びおっさんがエクスプロード・ボムを蹴り飛ばし、今度はそれが右の頭に向かって飛来する。避ける間もなく、それが先程のリプレイのように口内に飛び込んで爆発する。
「おかわり自由だ、どんどん食らいやがれ!」
そして間髪入れずに三発目が、中央の頭に向かって蹴り出され……
「いい加減にしろ貴様ァ!」
それは命中する直前に、シャークギドラが目から放った光線によって撃ち落とされた。目の前での爆発によって多少のダメージを与える事は出来たものの、先程までのように体内で爆発させるのに比べれば、威力は大きく落ちるだろう。
「チッ、ハットトリックは成らずか」
「このまま貴様も射殺してくれるわ!」
シャークギドラは無事に残った中央の頭、その両目から再び光線を発射しておっさんを狙う。おっさんは巧みなロープワークでそれを回避しつつ、魔導銃剣による射撃で応戦した。
「おのれ、ちょこまかと!ならばそのロープを焼き切ってくれるわ!」
業を煮やしたシャークギドラが、狙いをおっさんから、彼我を繋ぎとめているロープへと変更した。狙うべきは、シャークギドラ自身の手首に巻き付いている部分だ。自分の手にも多少ダメージを与える事になるが、下手におっさんを狙っても避けられるだけだと判断しての事だ。冷静かつ確実な判断だと言えるだろう。
「これで終わりだ!」
そう叫び、目から光線を発射しようとした瞬間に、シャークギドラは見た。
「しつけぇんだよこの野郎。てめぇごときに出来る事がなぁ……」
おっさんの、眼光だけで人を殺せそうなほど目つきの悪いその両目が、地獄の炎の如く赤黒い輝きを放つのを目撃した。
「この俺様に出来ねぇ訳がねぇだろうがぁッ!」
そして、おっさんが新たに習得した必殺技を放つ。
「おっさんビィィィィィィィィム!!」
おっさんの両目から、赤黒い光線が放たれる。それはシャークギドラが放った光線と正面からぶつかり、それを押し返し、遂にはシャークギドラの両目へと直撃した。
「ウッギャアアアアアアアアア!」
両目をおっさんビームに射抜かれて、シャークギドラが空中で悶絶する。同時におっさんの視界の隅に、以下のようなシステムメッセージが表示された。
『オリジナルアーツ【おっさんビーム】を習得しました。効果を以下に表示します』
『種別:アーツ/オリジナル 所属スキル:眼力 消費MP:200 クールタイム:60秒
両目から魔力光線を放ち、命中した相手に魔法攻撃力と眼力スキル依存の魔法ダメージを与える』
新たな力を得て満足げな表情のおっさんとは対照的に、左右の頭を潰され、残った中央の頭も両目を失ったシャークギドラは苦悶し、満足に動けない状態だ。
今が好機。おっさんはブラックライトニングを装備解除すると、ワイヤーロープを両手で持ち、全力でそれを振り回した。
「行くぜオラ!これで終わりだ!」
「な、何をする気だ……ば、馬鹿な!や、やめろおおおお!」
おっさんが、ワイヤーロープで繋がれたシャークギドラの体を振り回す。大きさも重さも大きく上回る相手を軽々と振り回す非常識な光景に、地上に残されたプレイヤー達が驚きの声を上げた。
「み、見ろ!竜巻が発生しているぞ!」
「あそこでおっさんがサメ野郎を猛烈に回転させているんだ!」
「凄ェ!流石おっさん!」
恐るべき力でシャーク・サイクロンを発生させたおっさんは、そのままワイヤーロープを地上に向けて振り下ろして、同時にその手を離した。
「サメ野郎が落ちてくるぞぉぉぉ!」
「そ、それよりおっさんが!このままだとおっさんも落ちるぞ!」
心配する彼らに向けて、落下中のおっさんが叫ぶ。
「俺は大丈夫だ!それよりも、後は任せたぞ、てめえら!」
その言葉を受けて、シンクが短剣を構えて真っ先に声を上げる。
「聞いたな、皆!おっさんは大丈夫だと言った。全員、全力攻撃用意!弱ったボスが落ちてくるぞ!僕達がトドメを刺すんだ!」
その言葉で、あまりにも非現実的な光景が続いて混乱していたプレイヤー達の目に闘志が戻る。
「そうだ、俺達がやるんだ!」
「ここまでおっさんに頼りきりだったんだ、最後くらい俺達も!」
「うおおお!【チャージ】!【バトルオーラ】!【バーサーク】!【フルパワーアタック】!」
「今のうちに支援をかけ直すぞ!」
「落下と同時にデバフかけます!合図で攻撃を開始して下さい!」
「魔法使いチーム、詠唱開始!一斉に撃つわよ!」
「とっておきを出してやる!来い、【コールサーバント:シルバーゴーレム】!」
「やってやるぜええええええ!」
意気揚々と待ち構える彼らの前に、シャークギドラが着弾する。
「突撃ぃぃぃぃぃぃぃ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「畳んじまえーっ!」
「オラッ、サメ野郎!よくも今まで調子に乗ってくれやがったな!」
そして始まるのは、一方的な蹂躙劇だ。
まだまだ未熟なプレイヤー達とはいえ、おっさんの指導を受けて、彼の戦いを間近で見て来た者達である。その力量は決して甘く見て良い物ではない。
シャークギドラも必死に抵抗はしたものの、おっさんに視界を奪われた上に全力で振り回され、最後には遥か上空から地上に向かって投げ落とされて弱った状態では、勢いに乗った集団の猛攻を耐える事は不可能であった。
そして遂に、その時が訪れる。
『フィールドボス、シャークギドラが討伐されました』
シャークギドラのHPが尽き、プレイヤー達が勝利したのだ。そのメッセージを確認した皆が誇らしげに武器を掲げ、鬨の声を上げる。
「あっ……おじさんは無事ですか!?」
だが、アーニャが上げたその声に、夢心地だった彼らは現実に引き戻された。
「そうだ、おっさんは何処に!?」
「おっちゃーん!大丈夫ー!?」
シンクとナナも声を張り上げておっさんを探す。他の者達も同じように、大声でおっさんを呼ぶものの……返事は無かった。
「そんな……おっさんが……」
「無理も無ぇよ……いくらおっさんでも、あの高さから落ちたら……」
「仮に【落下耐性】アビリティを鍛えてても、あれだけの高さからの落下ダメージを無効化するのは、流石に無理だろうな……」
「そんな、おっさん……俺達のために……」
彼らの多くがおっさんの生存を諦め、悲しみに暮れたその時だった。
「ぶはぁっ!クソがっ、死ぬかと思ったぜ!」
全身がずぶ濡れだが、五体満足のおっさんがそう言って、湖から飛び出してきた。
「お、おっさーん!」
「おっさん、生きてたのか!」
「どうやって……ハッ、そうか!湖に落ちたのか!」
そう、このゲームでは高所から地面に落下した際に、落下速度に比例した量の落下ダメージを受けるが、それはあくまで地面に落下した時の話だ。このゲームの仕様上、水中に落ちれば落下ダメージを受ける事はない。
「思ったより勢いが付きすぎて、湖の底近くまで沈んで溺れかけたがな!俺も水泳スキル鍛えとかねぇとな、ガハハハハ!」
おっさんが死んだと思っていた彼らの不安を吹き飛ばすように、おっさんは豪快に笑う。
こうして一行は無事に怪奇生物を討伐し、大量の経験値や貴重なアイテムを獲得した上で、キャンプの続きを楽しむのであった。
「おうお前ら、おっさん特製のフカヒレスープが出来たぞ!遠慮しねぇで食えや」
「おっさん……そのフカヒレってもしかして……?」
「……美味そうだけど、あのサメ怪人の姿を思い出すと……なぁ?」
「うん……なんか食欲無くなるよな……」
仲間と共にキャンプファイアを囲んで、採れたての素材を使った海鮮料理に舌鼓を打つ。そんな楽しい時間を共有して英気を養い、彼らはまた冒険へと向かう。
「いいから食えやオラアアアア!おう小僧、腕を押さえろ!そっちのお前は口を開けさせろ!」
「……すまん!おっさんには逆らえねぇ!」
「俺達のために犠牲になってくれ!」
「ちょっ、離せお前ら、この裏切り者ぉぉ!あ、でもこのスープ普通に美味ぇぇぇ!」
こうしてひと騒動あったものの、気分転換を行なったおっさんは、次の日からまた試練の塔を攻略を再開した。そしておっさんは破竹の勢いで塔を駆け上がり、遂には最終ステージである六〇階層へと辿り着いたのだった。
*
一方その頃、アルカディア・ネットワーク・エンターテイメント社の開発室では、四葉煌夜が心底悔しそうな顔でぐぬぬ、と呻き声を上げていた。
「くそっ、やってくれたな恭志郎!だがあのサメは我がクソ映画モンスターシリーズの中でも一番の小物、四天王の面汚しよ!次はどれを出してやろうか……」
そう独り言を漏らしながら高速でキーボードを叩き、血走った目でモニターを睨む煌夜。やはりと言うべきか、彼は先日散々見たB級映画に影響されて、複数の奇妙なクリーチャーを作り出していたようだ。
そう、煌夜は友人二人と共に、夜が明けるまでサメやゾンビや作り物感満載の未確認生物が暴れ回るB級映画を鑑賞し続けた結果、元々残っているのか疑わしかった正気を更に失った。そして衝動のままにそれらを元ネタにした怪物を生み出し、運営チームに無断で実装させるという暴挙に出たのだった。怪しげな笑みを浮かべながら候補を順番に指差し、どれにしようかなと楽しそうに歌っていた煌夜だったが、突如その肩が背後から叩かれる。
「何だ、俺は今忙しいんだ。後にしろい」
楽しみに水を差された事で、先程までとはうってかわって機嫌が悪くなり、煌夜は背後の人物に対してそう邪険に返した。だがその瞬間、煌夜の肩に置かれた手に凄まじい力が籠もる。万力に締め上げられたかのような痛みが左肩を襲い、煌夜は思わず振り向きながら怒鳴り声を上げる。
「痛ってぇなこの野郎!誰……だ……」
だが背後に立っていた人物を視認した事で、その声が尻すぼみになる。
彼の背後に立っていたのは、一人の女性であった。その者の名は、四葉桜。彼女こそは煌夜の妻であり、一夜と杏子の母、そして謎のおっさんこと不破恭志郎の姉である。長身でスタイルの良い、優しそうな母性に溢れた美人であり、とても子供が二人居る四十代の女性とは思えないほどに若く見える。初対面の相手に二十代と言えば、大半の相手が信じるだろう。
だが煌夜はその時、妻の優しい笑顔の後ろに鬼の姿を見た。
「あなた?今、何をやっていたのかしら……?いつからアルカディアはファンタジーRPGから、B級モンスターパニックにジャンルを変更したの?」
凄まじいプレッシャーを感じ、膝が笑うのを自覚しながら、煌夜は必死に弁明の言葉を紡いだ。
「まあ待て桜。落ち着いて話し合おうじゃないか」
「はぁ……落ち着くのはあなたの方よ。煮詰まると変なデータを作りたがるのは昔からの悪い癖だけど、せめて運営に話くらい通しなさいな」
呆れた表情で夫をたしなめる桜は、この会社の運営チームの一員でもあった。夫が開発チームのリーダーである為、運営と開発の繋ぎ役として、またプレイヤーに対する殺意に溢れ、暴走しがちな運営・開発の両チームのトップのブレーキ役として、日夜奔走している。人呼んで四葉煌夜の外付け安全装置、ANE社に残った最後の良心とは彼女の事である。
「運営チームの見解としては、普通のサメや常識の範疇での巨大サメくらいなら実装しても構わないそうよ。ただ、あの変なモンスターはすぐに消す事。いいですね?」
「……ハイ」
有無を言わせぬ迫力で、桜は煌夜の首を縦に振らせた。流石はあのおっさんの姉といったところだろう。普段は優しく母性的な彼女だが、本気で怒った時の恐ろしさは弟や息子に引けを取らない。
こうして人知れず湖に出現した謎のサメ怪人は、人知れず消え去った。この後にシャークギドラの噂を聞いて、それを探し、討伐するために釣竿を手に湖を訪れるプレイヤーは何人も現れたが、誰もそれを見つける事は出来なかった。
だが時々普通のサメや、ごく稀に巨大サメが現れるようになった事で、湖は腕に覚えのある釣り人で賑わう事になった。
そうしてシャークギドラは、たった一回だけ出現し、消えた幻のボスモンスターとして都市伝説のような存在になったのだった。
だが……ここに、それを良しとしない諦めの悪い男がいた。
「ククク……まだまだ読みが甘いわ桜!」
愛する妻が立ち去った後の開発室で、四葉煌夜はほくそ笑む。
シャークギドラは消え去った。そう思わせておいて、実はまだ生きている。
つい先程、煌夜が追加したプログラムでは、湖エリアの水中にサメが出現する際に、90%の確率で通常のサメが、10%の確率で巨大サメがそれぞれ抽選される仕様になっており、運営チームのチェックを受けて承認された。だがそれは世界最高峰のプログラマーである煌夜の手によって巧妙に偽装されており、実際の抽選確率は以下の通りである。
「普通のサメ:90%」
「巨大サメ:9.9999%」
そして……
「シャークギドラ:0.0001%」
このように、非常に低い出現確率ではあるものの、シャークギドラは生き残った。数ヶ月先になるか、数年先になるかはわからない……或いはその時は永遠に来ないかもしれないが、何かの間違いでその百万分の一の確率が引かれた瞬間に、サメ怪人は再びアルカディアに甦るだろう。




