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謎のおっさんオンライン(改)  作者: 焼月 豕
Bigining of the Tyrant
19/38

開発チームの殺意!卑劣な罠を打ち破れ!(2)

「【コールサーバント:ボーンドラゴン】!来たれ我が従僕!その暴威を以て我が敵を粉砕せよ!」

 エンジェが懐から黒い骨を取り出し、魔法を発動させる。彼女が使用したのは【召喚魔法】スキルに属する魔法だ。召喚魔法は触媒を利用して魔物を召喚し、下僕として従えるスキルだ。彼女が使用した召喚触媒である黒い骨は、以前おっさんと共に髑髏の王を倒した時に入手した物だ。

「【コールパートナー:ルクス】」

 同時にカズヤもまた、アビリティを発動させる。彼が使用した【コールパートナー】は、【テイミング】スキルに属するアビリティだ。テイミングはモンスターと心を通わせ、共に歩む為のスキル。

「グオオオオオオオオオッ!」

「キュイー!」

 恐ろしい唸り声を上げる黒き骨竜がエンジェの前に、可愛らしい鳴き声を上げる白き幼竜がカズヤの隣に、それぞれ同時に出現した。

「ククク、見るがいい兄上!これぞ我が最凶の(しもべ)だ!」

 自慢げに小さな胸を張りながら、エンジェが骨竜に攻撃命令を出す。カズヤは素早く自身と幼竜に支援魔法をかけると、二本の剣を抜き放って骨竜を迎え撃った。

 エンジェは骨竜を戦わせている間に、魔法の詠唱を開始する。彼女が詠唱している魔法は範囲・威力ともに絶大だが、詠唱時間が非常に長い奥義だ。

 召喚魔法スキルによって召喚した下僕に足止めをさせ、強力な攻撃魔法で仕留める。これがエンジェの最も得意とする戦い方であった。

 骨竜が巨大な骨の爪を振るう。カズヤはそれを左の剣で受け流し、右手に装備した剣で骨龍の腕を切断。更に炎の矢を骨竜の頭へ向けて放った。主であるエンジェを狙いたい所ではあるが、骨竜がその巨体で上手く射線を遮り、エンジェをかばっている為、それも叶わない。

 相棒の幼竜、ルクスもその小さな体から光属性のブレスを放ち攻撃する。だが骨竜の耐久力はかなり高いようで、そのHPはまだ多く残っていた。

「ガアアアアアアアッ!」

「チッ……【アラウンドカバー】【クロスガード】!」

 咆哮を上げながら、骨竜が強烈な暗黒属性のブレスを放った。広範囲のブレスがカズヤとルクスをまとめて飲み込もうとするが、その寸前にカズヤはアビリティとアーツを同時に発動させた。

 範囲攻撃の対象を自分一人に変更させ、味方を庇う【アラウンドカバー】により、幼竜ルクスを攻撃から守る。それと同時に【二刀流】と【武器防御】スキルを上昇させる事で取得可能な防御用アーツ【クロスガード】を発動し、ジャストガードによって自身へのダメージを軽減する。

 それによって被害を最小限に抑える事は出来たが、それでもカズヤのHPは二割ほど削られてしまい、更に毒の状態異常が付与されてしまった。

「ククク……いかに竜とは言え、生まれたての幼竜などその程度よ!そんな役立たずをかばって不利になるとは、兄上もヤキが回った物だ。どうせ習得するならば召喚魔法のほうが手軽で便利だろうに……なにゆえ兄上はそうも、使えないスキルに拘っているのやら」

 テイミングモンスターを庇って負傷し、毒を受けたカズヤを見て嘲笑するエンジェ。彼女の言うように、カズヤの戦闘スタイルはその多くが、所謂【不遇スキル】や【ネタスキル】、あるいは【地雷ビルド】などと呼ばれる物だ。

 使い手に高い技術が要求され、アーツも威力とヒット数こそ優れているが隙の大きい物が多くて扱いにくい二刀流。要求されるステータスの種類が多く、他の複数のスキルと組み合わせなければ、まともに使い物にならない魔法剣。これらのスキルは見た目が格好いい為、習得する者はそれなりに多く居たが……その使い勝手の悪さゆえに、その殆どが挫折していた。

 更には【テイミング】スキル。これは魔物を捕らえ、仲間にして育て、共に戦う為のスキルなのは先程も述べた通りである。だがモンスターを育てて、戦力として鍛える為には非常に手間がかかる。当然その手間の分だけプレイヤー自身の成長はどうしても遅れるし、モンスター用の装備や餌代などでゴールドも消費する事になる。単純に強くなりたいならば、それらのリソースを自分の成長に使ったほうが手っ取り早い為、多くのプレイヤーはテイミングを不便な、不遇なスキルとして認識していた。

 その点において【召喚魔法】スキルはとても便利だ。召喚の行使や維持にMPを消費し、また一部の強力なモンスターの召喚には触媒が必要だが、基本的に召喚される魔物は使い捨てである。魔物の戦闘力はスキルを鍛え、アビリティを習得・強化する事で上げられるし、維持や育成について細かく考える必要はない。手軽に前衛を呼び出せる、魔法使いにとっては実に便利なスキルであり、多くの魔法使いプレイヤーはこちらを選択していた。

「……役立たず。それに使えないスキル。今、そう言ったな」

 険しい顔で、カズヤがエンジェを睨みつける。その隣では幼竜のルクスが、悲しそうに俯いていた。己の無力さゆえに主が傷を負い、馬鹿にされた事を悲しんでいるのだ。人によってはそれを、ただのAI、作り物の心と笑うであろう。だが例えそうであっても、そこにある悲しみは、その心は本物だ。少なくともカズヤは、そう信じていた。

 二本の剣を握る手に力を込め、カズヤは口を開いた。

「おい愚妹。貴様に二つ教えておこう」

「何……?」

「まず一つ目……『使えない物、不要な物など、この世界に何一つとして存在しない』。存在する以上、この世にある全ての物には誰かに必要とされるだけの力がある。使えない?役に立たない?それは単にお前たちの技量が低く、発想が貧困な為に、その真の価値に気付けないだけだと知れ」

 そんなカズヤの気迫と痛烈な罵倒に一瞬、気圧されるエンジェだったが、すぐに強気な表情に戻り、言い返す。

「ククク、随分とでかい口を叩く物だ!ならばそれを証明してみせるがいい!」

「ふん……言われるまでもない。行くぞルクス!」

「キュイー!」

 カズヤが剣を掲げ、ルクスの体が光を放つ。そんな一人と一匹へ、骨竜が猛然と襲いかかった。だがその瞬間、ルクスの小さな体がより一層、力強い輝きを放った。そして……

「限界を超え、真の力を示せ!【リミットブレイク】ッ!」

「な……なんだと……ッ!?」

 現れたのは骨竜よりも更に巨大な、白銀の鱗を持つ雄々しくも美しいドラゴン。白いドラゴンはその巨体で骨竜の体当たりを受け止め、腕を振るって殴り倒す。更に大きく口を開け、その鋭い牙で骨竜の頭を噛み砕いた。

 テイミングモンスターは主と共に戦い、経験を積む事でより強力な種族に進化する事ができる。そしてテイマーの最終奥義と呼ばれるアビリティ【リミットブレイク】は、自分のテイミングモンスター一体を、一時的にだが最大で三段階まで進化させる強力な効果を持つ。

 現在のルクスの種族は第一段階の【ホーリードラゴン・パピー】だが、それがリミットブレイクの効果によって、第四段階の【エンシェント・ホーリードラゴン】へと進化したのだ。

 そしてカズヤもまた剣と魔法を巧みに操り、骨竜を切り刻んでゆく。【魔法剣】スキルによって武器に魔法が付与され、物理攻撃と同時に追撃の魔法が自動発動する。更にカズヤは【マルチアクション】スキルによって攻撃魔法による攻撃も行ない、そしてルクスの巨体による体当たりとブレス攻撃も追加される。

 片手剣アーツ。魔法剣。元素魔法。二刀流アーツ。魔法剣。神聖魔法。格闘アーツ。いつのまにか忍び込んで宝箱を狙っていた犬耳忍者に向けて魔法を放つ。慌てて飛び退いて消える忍者。片手剣アーツ。魔法剣。ルクスの追撃。まるで嵐の如く、休む事なく次から次へと攻撃が繰り出される。それにより、骨竜のHPが一気に減少する。

「終わらせる!」

「ギャオオオオオ!」

 カズヤが二本の剣を同時に振り抜き、ルクスが爪を振り下ろす。

 その攻撃で骨竜のHPが0になり、バラバラの骨と化し……消滅した。

「これが、お前が使えないと言った物の力だ」

 カズヤがそう言い放つ。それに対し、エンジェは……

「あぁーっ!こいつ呼び出す触媒めっちゃ高かったのに!お兄ちゃんのバカ!………………あっ」

 思わず素に戻って涙目で叫ぶが、ハッと我に返るエンジェだった。

「……コホン。ククク、言うだけあって大した物ではないか!使えないと言ったのは訂正しよう。だが、もう遅い!勝ったのは!この!私だああああああ!」

 勝ち誇るエンジェ。骨竜は倒されこそしたが、一番重要な役目……時間稼ぎは果たしてくれた。そう、エンジェの詠唱が完了したのだ。

「我が魔力よ、地獄の業火となりて全てを焼き払え!【インフェルノスフィア】!」

 詠唱時間こそ長いものの、圧倒的な射程と攻撃範囲、そして火力を持つ元素魔法の奥義が放たれる。そして既に放たれたそれを止める術は、カズヤには無い。半径1メートルはあろうかという巨大な火球がエンジェより放たれる。その攻撃範囲は、着弾地点を中心におよそ半径五十メートルという驚くべき広さだ。

すなわち部屋の中央に向けて放てば、部屋全体を超火力の炎が焼き払うだろう。カズヤとルクスは勿論、離れた場所で戦っているレッドにおっさん、いつのまにか忍び込んで漁夫の利を狙おうとしているアナスタシアも巻き込んで、全員殺して大勝利。勝ったッ!第一部完ッ!

思わずほくそ笑むエンジェであったが、しかし……

「相変わらず、詰めが甘い」

 カズヤはそう言い放ち、奥の手を発動させる。先程使用した【リミットブレイク】は、あくまでテイマーとしての切り札だ。だが彼の手札はそれのみにあらず。

「【フラッシュ・キャスト】、【トリプルキャスト】」

 一定時間、詠唱時間を大幅に短縮させるアビリティ。更に一定時間、魔法を三つ同時に操る事のできるアビリティ。それらを発動させるカズヤ。

「【コールパートナー:アンブラ】、【コールパートナー:アウラ】。出番だ、お前達」

「アオーーーーーーーーーン!」

「任せなさいっ!」

 更にテイミングスキルにより黒い毛並みを持つ大型の狼【シャドウウルフ】と、羽が生えた小さな少女【フェアリー】を追加で召喚する。

「行くぞッ!」

 そしてカズヤは、高速の多重詠唱によって様々な魔法を、エンジェの火球に向けて放った。

「お前が圧倒的な火力で焼き払うと言うならば……」

 そしてテイミングモンスター達もカズヤに続き一斉攻撃。黒い狼が咆哮と共に暗黒属性の魔法【ダークボルト】を、カズヤの肩に乗った妖精が疾風属性の魔法【ウィンドカッター】や電撃属性の魔法【ライトニングボルト】を、そして【リミットブレイク】の効果により巨大化したルクスが、その巨大な口から光線を放つ。それら一つ一つはエンジェの奥義に比べれば小さく、弱い。だがカズヤは、それらの小さな力を束ね、強大な力へと立ち向かう。

「俺は圧倒的な物量で押し潰す!」

 やがて次々と、間断なくぶつけられる魔法攻撃が火球の力を弱めていき、遂には完全に相殺する。

「なん……だと……!くっ、こうなったら!」

 その出来事に愕然とするエンジェだが、すぐに立ち直るとすぐさま不利を悟り、最後の手段に出る。テイミングモンスターを魔法で攻撃し、それをかばうであろう兄の隙をつく構えだ。勝てる可能性はあまり高くはないだろうが、最悪逃げるくらいはできる筈だ。

 一瞬でそう判断した事は流石と言えよう。しかし彼女はミスを犯した。

「まだ勝てるチャンスはあるかもしれない」

 などと考え、欲を出したのだ。結果的にこの判断は誤りであった。最初から逃げる事だけを考え、全力で遁走すれば彼女は助かっただろう。背中を向けて逃げ去る妹にトドメを刺す程、カズヤは無慈悲ではない。

 しかし彼女は迂闊にもその場に留まった。更にカズヤ本人ではなく、彼の大切な友であるテイミングモンスターを狙った事もまた、龍の逆鱗を撫で回すがごとき愚行。二度もそれを許すような龍王ではない。

「何っ……!」

 魔法が発動する前に、エンジェは手に衝撃を感じ、思わず杖を取り落す。何事かとエンジェはカズヤへと目を向けると、

「鞭……だと!?」

 そこには【クイックチェンジ】によって、左手の剣を鞭へと持ち替えたカズヤの姿。鞭の長い射程により、離れた場所から的確に、杖を持つ手を叩いたのだ。

「さっき二つ教えてやると言ったな。これがその二つ目だ……」

 右手に長剣、左手に鞭を構え、カズヤが迫る。今度こそエンジェは逃走を図る……が、既に間に合わない。カズヤが放った鞭のアーツ、【バインドウィップ】により拘束され、エンジェの動きが完全に止まった。

 そこにカズヤの片手剣アーツ【パワーストライク】による刺突が直撃する。

「『兄より優れた妹など存在しない』!お前が俺に意見するなど百年早い!」

 そしてエンジェのHPが、その攻撃によって大きく削られる。だが、それは0にはならず、ごく僅かに残された。勝負はついた。カズヤはそれを見届けると、エンジェの拘束を解除した。

「ううう……うわーん!お兄ちゃんのばか!あほ!鬼畜!」

 最後の悪あがきに涙目で捨て台詞を残すエンジェであった。

「そうか。冷蔵庫にコーヒーゼリーを作って入れておいたが不要か。では俺が処分しておこう。それからトドメも刺してやろうか」

「あっすいません待ってお願い許してお兄様」

 エンジェは土下座した。それは一片の無駄も無い見事な土下座だった。彼女が兄を超える日は、まだまだ遠そうである。

 兄が作るコーヒーゼリーは彼女の大好物なのだ。普段は店で出されるため、口に出来る機会はそれほど多くないのだ。

 ちなみにカズヤは現実世界でネットカフェを経営しており、高性能なマシンと過ごしやすい環境、そしてネットカフェらしからぬ異様に美味い料理に、店長が淹れる異様に美味いコーヒーが評判の店だ。なお近々、アルカディアを開発・運営しているアルカディア・ネットワーク・エンターテイメント社、VR機器を開発・販売しているキサラギ社と提携してフルダイブVRゲームコーナーを設けようとしているが、それはまだ極秘である。どうかご内密にお願いしたい。

 カズヤは鞭を仕舞い、剣を鞘へと戻した。そこで【リミットブレイク】の効果が切れたのか、ルクスが元のサイズに戻ると、カズヤの腕の中に収まった。だいぶ疲労している様子だ。

「ルクス、よく頑張ったな」

 全力を出し切った幼竜を腕の中に抱き、頭を撫でるカズヤ。そんな彼の元に、黒い狼や妖精もやってきて、隣に寄り添う。

 妹の手前、強気な台詞を吐いたが自分一人で勝利する事は難しかっただろう、とカズヤは考える。何しろ奥義魔法を止められなければ、ほぼ確実に一撃で勝負が付くのだ。今回はうまく止められたが、次回もそれが出来るとは限らない。

次はエンジェも工夫をしてくるだろう。結果はカズヤの完全勝利ではあるが、実際のところ彼らの実力には、今回の結果ほどの大きな差は無い。

(だが、そう簡単に妹に負けてやるわけにもいかないのでな)

 まだまだ、自分は高い壁としてあり続けなければならない。

 そして自分には頼りになる相棒達が居る。だから誰が相手だろうと負けはしない。幼竜の頭を撫で、自分の事も構えと服や体を引っ張ってくる狼や妖精の事を宥めながら、そう思うカズヤであった。

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