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 夕暮れとなり、後は料理を盛り付けるだけとなった。二人が帰って来るまで、少しばかりのコーヒーブレイクとする。


「はるちゃんってどこで料理を覚えたんだ?」


唯は尋ねた。転勤族の悠の父親に付き添う悠の母親はきっと専業主婦であろう。きっと、毎日の食事も母親がきちんと作っているに違いないと唯は思う。


「中学三年の時でしょうか。母と一緒に作るようになったんです」


フッと悠は遠い目をする。素敵な王子様を見つけたいなら料理もできるようになりなさいと言われたことがきっかけだった。そういうことは、口には出さないけれども。


「男を落とすにはまず胃袋からって?」


唯の言葉に皐月はコーヒーを噴き出す。


「阿南君、大丈夫ですか?」


慌てて悠はティッシュの箱を差し出す。


「ッ、ゴホッ。だい、丈夫……」


皐月はティッシュを受け取ると口元を抑えた。もし、本当に唯の言う通りならば、自分はしっかり胃袋をつかまれている。敵うはずがないと思いながら。悠の作ったエビフライはどこの店で食べるよりも好きだった。


「……やっぱ、敵わないよなぁ……」


唯は小さく呟く。その声は、二人には届いていなかった。悠と皐月の間には誰にも邪魔できない何かを唯は感じていた。それは、葉那と涼が持つ空気と似ているようで、似ていないような何とも言えないものだった。




 涼君はパズルリングを眺めたまま何も言わない。ずっと、何か考えているよう。私はそんな涼君を邪魔しないようにそっと息を殺した。時間ばかりが過ぎていく。


「……葉那は本当に俺でいいのか?」


やっと口を開いたと思ったら、涼君は不思議なことを口にする。今までの話は何だったのって気分。


「いいも悪いもないよ。私が好きなのは涼君なの」


私は呆れて言った。どれだけ私の気持ちを伝えたら涼君に伝わるのだろう。少し、悲しくなる。


「……そっか、俺はずっと皐月が好きなんだと思っていたから……」


呟くような声。私は続く言葉を待つ。


「これ、パズルリングだろ。もう一つないのか?」

「……あるけど……」

「貸して」


涼君に言われ、私はバックの中から涼君に渡したのと同じ包みを取り出す。涼君はそれのリボンもシュッとほどいて、中身を取り出した。


「葉那、手を貸して」


涼君に言われ、私は左手を出した。涼君は真剣な顔で、私の薬指にその指輪をはめる。


「俺も葉那のことが好きだよ。俺と付き合ってくれるか?」


そして、私の手を見てクスッと笑う。


「大きいな」


涼君の指に合うようにと買った指輪は私の指には大きすぎた。私がつけるなんて考えていなかったから、私に合う大きさなんて考えていなかった。


「今度の休み、一緒にネックレスを買いに行こうか」


涼君は笑いを含んだ声で言う。このままだと落としそうだもんね。


「うん。そうだね。涼君、これからもよろしくね」


私は指にはめられた大きな指輪を見て笑顔で答えた。これで、涼君は私の恋人。涼君の好きが続いてくれるよう、私は私を磨いていこう。いつまでも、一緒にいられるように。




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