表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

6


 喫茶店を出て、辺りを散策する。十月の風は心地いい。美術館のすぐ近くには、紅葉に染まる公園。


「涼君、あれ、食べよう」


その公園にはクレープのキッチンカーがあった。とってもおいしそう。涼君は仕方がないとついてくる。


「どれがいいんだ?」


メニューの看板を見る私に涼君は声をかける。


「うーん。どれもおいしそうで……」


簡単には決められない。そんな私たちをクレープ屋のお姉さんは微笑ましそうに見ていた。




 発酵の終わった生地の形を整え、悠はオーブンに入れる。丁度お昼時だった。


「那須、昼にしよう」


皐月は悠に声をかけた。


「え、もうそんな時間ですか?」

「そんな時間。ほら、作ったから」


皐月の手には、オムライスの乗った皿がある。悠はその皿と皐月の顔を見比べた。皐月も料理ができるとは聞いていたが、実際に作ったものを見たのは初めてだ。そして、それはともすれば不良に見える皐月の外見に似合わないものだった。


「これ、本当に阿南君が作ったんですか?」


疑うまでもないのだが、悠には信じられなかった。


「それ、どういう意味だよ」

「あ、いえ、阿南君とオムライスのイメージが結びつかなくて……」


悠は失言したと慌てて取り繕う。


「正直、もっと、男の料理って感じのものかと思っていました」

「まあ、いいけど。冷めないうちに食べようぜ」


皐月は違う部屋にいた唯にも同じように声をかける。


「皐月の飯、久しぶりだな」


以前から知っている唯には特別なことではないのかもしれない。だが、オムライスを見てポツリと言った。


「なんか、普通だな」

「はぁ?」

「ケチャップでデコってるかと思った」

「やるか!!」


皐月が叫び声をあげる。


「なんで、はるちゃんの位やってもいいじゃん。ハートを書くとか」

「そんなのできるか」

「昔はよくやってくれたのに」

「それは、お前らがやらしたんだろうが」


悠はクスリと笑う。ケチャップで絵を描くなんて、ますます皐月のイメージではない。


「まあまあ、落ち着いてください。早く食べましょう」


リビングの椅子に座り、いただきますと手を合わせる。一口食べて悠は呟いた。


「……あ、おいしい……」


それは、とても優しい味がした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ