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喫茶店を出て、辺りを散策する。十月の風は心地いい。美術館のすぐ近くには、紅葉に染まる公園。
「涼君、あれ、食べよう」
その公園にはクレープのキッチンカーがあった。とってもおいしそう。涼君は仕方がないとついてくる。
「どれがいいんだ?」
メニューの看板を見る私に涼君は声をかける。
「うーん。どれもおいしそうで……」
簡単には決められない。そんな私たちをクレープ屋のお姉さんは微笑ましそうに見ていた。
発酵の終わった生地の形を整え、悠はオーブンに入れる。丁度お昼時だった。
「那須、昼にしよう」
皐月は悠に声をかけた。
「え、もうそんな時間ですか?」
「そんな時間。ほら、作ったから」
皐月の手には、オムライスの乗った皿がある。悠はその皿と皐月の顔を見比べた。皐月も料理ができるとは聞いていたが、実際に作ったものを見たのは初めてだ。そして、それはともすれば不良に見える皐月の外見に似合わないものだった。
「これ、本当に阿南君が作ったんですか?」
疑うまでもないのだが、悠には信じられなかった。
「それ、どういう意味だよ」
「あ、いえ、阿南君とオムライスのイメージが結びつかなくて……」
悠は失言したと慌てて取り繕う。
「正直、もっと、男の料理って感じのものかと思っていました」
「まあ、いいけど。冷めないうちに食べようぜ」
皐月は違う部屋にいた唯にも同じように声をかける。
「皐月の飯、久しぶりだな」
以前から知っている唯には特別なことではないのかもしれない。だが、オムライスを見てポツリと言った。
「なんか、普通だな」
「はぁ?」
「ケチャップでデコってるかと思った」
「やるか!!」
皐月が叫び声をあげる。
「なんで、はるちゃんの位やってもいいじゃん。ハートを書くとか」
「そんなのできるか」
「昔はよくやってくれたのに」
「それは、お前らがやらしたんだろうが」
悠はクスリと笑う。ケチャップで絵を描くなんて、ますます皐月のイメージではない。
「まあまあ、落ち着いてください。早く食べましょう」
リビングの椅子に座り、いただきますと手を合わせる。一口食べて悠は呟いた。
「……あ、おいしい……」
それは、とても優しい味がした。