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 朝になった。結局、昨夜はあまり寝られなくて。だって、デートよ。デート。涼君とのデート。考えたら寝られるわけないじゃない。私はバックの中にそっとプレゼントを忍ばせていた。


「夕ご飯までには帰ってきてくださいね」


はるちゃんに笑顔で見送られ、私たちは家を出る。


「涼君、今、誰の展示をやってるの?」

「えっと、ダリだって」


涼君はクーポン券を見て答える。


「ダリって?」

「溶けた時計の絵を描く人」


首を傾げる私に涼君はその券を見せてくれる。


「ごめん。よくわからない」


あまり有名じゃないのかな。私の知らない画家だった。


「まあ、好みがあるかなら。誰が書いたとか関係なく、気に入る絵があるといいな」


そんな無知な私にも涼君は優しい。勘違いしちゃあ駄目だ。涼君はいつも、みんなに優しい。それを忘れちゃあダメ。


「それでいいの?」

「当たり前だろ。大体、美術品って時代によって価値が変わるんだ。それができた時代には価値のなかったものが時代を追うごとに価値が増してくる。それに、今は人気でも、将来どうなるかわからない。だから、自分の好きを大切にすればいいんだよ」

「そうなんだ。えへへ」


私は微笑みをこぼす。涼君は私が変なこと言っても絶対に馬鹿にしない。こんな時、やっぱり好きだなって感じる。


「涼君は好き?」

「はっ?」


涼君が焦った声を上げる。私、おかしなこと聞いたかなぁ。


「展示の人の作品、好き?」

「ああ、そっちか。まぁ、そうだな。面白い絵を描くとは思うよ」


涼君の頬が赤い。変なの。




 涼と葉那が出かけた後、悠は皐月と唯を前にレシピを開いていた。


「では、こういうことでやっていきたいと思います」


涼の誕生日のご馳走についてだ。バイトが休みの二人に手伝ってもらい、料理を作ることにする。


「じゃあ、この泡立て関係は皐月に任せて、俺はこっちのサラダとローストビーフ、カボチャのポタージュをやろう。はるちゃんは、メインのアクアパッツァとケーキをお願い」


レシピを見て唯が言う。


「バケットは?」

「もちろん、皐月が捏ねる」


特に力がいる仕事を皐月に押し付ける。そして、皐月がやった仕事を形にするのは悠の仕事だ。自分は敢えて手間のかかるところを引き受ける。二人の邪魔をしないように。


「那須はそれでいいのか?」

「大丈夫ですよ」


もともと、悠が計画したことだ。何を作れと言われてもできる。異論はなかった。


「それにしても、涼に葉那を連れ出してもらうって、確信犯だな」

「いい加減、見守るのもじれったくなりましたからね。それに、葉那さん昨日から元気ないですし」


それは、皐月も唯も気になっていたことだった。その理由も思い当たらない。


「椎名君と出かければ、少しは元気が出ると思うんですけど」


悠はポツリと呟く。


「でも、いい加減、二人とも気付いてもよくない?」


唯の言葉に悠はちょっと困った顔をする。


「人って、自分に向けられる好意には気づきにくいものなんですよ」

「それって、はるちゃんも?」

「私も同じですよ」


困ったように笑う悠が信じられなかった。すぐに璃子に対する自分の思いを見抜いたのに。唯は皐月を見る。皐月は何とも言えない顔をしていた。





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