表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

3


「椎名君、話があります」


 夕食の後、悠はそっと涼の部屋へ行った。悠の手には参考書がある。


「はる、どうした?お前に勉強教えるほどじゃないぞ」


涼は首を傾げながらも悠を部屋へ招き入れる。パタンと扉が閉まってから、悠は参考書を開いた。


「明日、葉那さんを連れて行ってきてください」


参考書の間から出したのは美術館のクーポン券だ。以前、駅で配られていたもので、学生証を見せることで無料になるものだ。一枚で5人使える代物。


「本当は私が行こうと思っていたんですけど、葉那さんが元気ないので使ってください」


これで葉那が元気になるとは思っていない。第一、この展示が葉那の好きなものかもわからない。それでも、好きな人と出かけることで、少しは元気になれるかもしれないと悠は考えた。


「誘うときには私の名前を出さないでくださいね」

「ありがとう」


涼は首を傾げながら券を受け取る。悠は参考書も涼に押し付けた。


「椎名君、それでしっかり勉強してくださいね」


悠は扉を開いて言う。その声はリビングにいても聞こえるはずだ。涼は苦笑するしかなかった。なにかも計算して悠はここに来ている。




 参考書を持って、はるちゃんは涼君の部屋に入っていった。少しして、涼君に勉強するように言って部屋から出てくる。きっと、授業のわからないところの参考書よね。そう思うのに私はなんだか落ち着かない気分になった。私がはるちゃんに抱いている劣等感のせいかもしれない。


「葉那、まだ、ここにいたのか」


少しして涼君がリビングにやってきた。手にはマグカップ。コーヒーの香りが漂ってくる。涼君は私の隣に腰を下ろした。


「葉那、明日、美術館に行かないか?」

「美術館?」

「ああ。学生無料のクーポン券をもらったんだ」


涼君はコーヒーを飲みながら言う。嬉しけど、私はいい返事を返せない。


「はるちゃんを誘えばいいじゃない」

「なんでそこにはるが出てくるんだ?」


私の答えに涼君は首を傾げる。仕方ないよね。涼君は私の考えていることがわからないんだから。


「はるちゃんの方が、話合うでしょ」


涼君は苦笑する。


「はると行ったら、絶対に楽しむどころじゃなくなるな。絶対に難しい話になる。絵の蘊蓄を聞かされそうだ」


私はクスリと笑った。確かに、はるちゃんならやりそう。そして、涼君はドキリとするようなことを言った。


「俺が、お前を誘ったらおかしいか?」

「そ……」

「それとも、俺と一緒に出かけるのが嫌なのか?」


ちょっと寂しそうな声で涼君言う。……ずるいよ。そんなこと言われて嫌だって言えるわけないじゃない。私は涼君が好きなのに。それも、ずっと前から。それこそ、私はずっと涼君に守られてきたずっと小さいことから。


「……嫌じゃない……」


私は顔を上げられなかった。きっと、真っ赤になっているんだろう。頬が熱い。だから、涼君がどんな顔で私を見ていたかなんてわからなかった。


「じゃあ、明日九時半に家を出るから。学生証、忘れるなよ」


涼君はそんな私の頭をポンポン叩いて立ち上がる。マグカップはもう空だった。


「早く寝ろよ」


涼君はそう言ってリビングを後にする。私はしばらくそこから動けなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ