ブースト!! ~強ければ良いってモンじゃあない~
見切り発車?
異世界ではありませんが、魔法や異能力が飛び交います。
「ぶぐわぁぁぁっ!?」
大袈裟すぎるまでに仰け反る大男。
頬には強烈なまでに拳がヒットしていた。
気のせいか焦げ臭い。
いや、それは気のせいではなかった。
燃え盛る焔を拳に宿した男が言い放つ。
「見たか! 我が必殺拳法!! 灼熱のトルネードを!!」
どこから突っ込んで良いのやら。
そもそも中二病らしき痛々しい台詞なのだ。
見て見ぬふりをしたかったのだが逐一突っ込まざるを得ない。
突っ込み役を買って出るのは私の性分。
先ず ──
拳法と言ったクセに、それはあからさまに邪道。
あまりにも世の常から逸脱していた。
常軌からかけ離れすぎた所業。
よもや自らの拳に焔を灯せる者などいようか。
いや、いない。
だが本当に突っ込まねばいけないのは ── そう、トルネードだ。
確かに全身を捻った様は嵐のようであり、トルネードを彷彿させるであろう。
寧ろタイフーンを名乗っても良いぐらいだ。
またはサイクロン。
大袈裟に抉られた地面は儚くも美しい真円を描いていたのである。
しかし冷静に事を視てみれば彼が勢いだけでやり遂げた事は明白であり、あまりにも愚かであったのだ。
斯くして見事、華麗に吹き飛ばされた大男は大地に突っ伏す。
天高くを見上げながら、かつて味わったことのない一撃を噛み締めているようだった。
まさか……王道パターンか、青春劇か。
告げられた一言に頭が痛くなる。
「やるじゃあねぇか……相棒……」
「へへっ。お前こそ……」
いったい何の茶番を見せつけられているのだろうか。
私は初めての高校生活に意気揚々と心機一転。
散々だった過去にオサラバしようとしていたハズ。
私立・獅子王高等学園。
様々な異能力者が群雄割拠する、常識では計り知れない高校生達が青春を謳歌する高等学校。
辺りを見渡せば、いや、見渡すまでもなく、思わずため息が漏れそうなほど中世時代の城壁宛らにして高い壁に囲まれていたのである。
ふいに素材が気になったので手を添え、私は ── いや俺は本気を出してみることにした。
幼少の頃から、というか産まれた時から授かった異能力。
ひとはそれを超能力と呼ぶ。
「ふんっ!!」
掛け声などは特に気にするまでもなく曖昧かつ大雑把。
この力は己の意に反して作用することもしばしばであったが、大抵はちゃあんと言うことを聞く。
ちなみに今選択したのは破壊の力。
過去、この力を使って良い思いをしたことなど一切無かったのだが致し方ない。
気になってしまったからには止めようがないのである。
好奇心旺盛と言ってしまえば片は付くか。
されど、何ともなかったようにして壁は一部たりとも欠けることはなかった。
「……んな、バカな……」
絶対の自信などはなかったのだが、傷ひとつ付けられないとか。
整えられていないボサボサ頭が更に深まる謎により、はてなマークを浮かび上がらせる。
俺は呆然と立ち尽くしながらも、再度気合いを入れて力を放出した。
「「「ぎゃあああああっ!?」」」
余波に捲き込まれた同級生か、または門番を務める風紀委員。
屈強な教師までもが俺の超能力によって吹き飛ばされているにも関わらず、やはり平坦な壁には僅かたりとも傷跡はつけられなかったのである。
もう、諦めるしかない。
数冊の勉学書を詰め込んだ軽い鞄を背負い、全てを見なかったことにして俺は新たなる一歩を踏み出すのだ。
果たして、これから先。
如何なる人生が待ち受けているのだろうか。
見た目はみすぼらしい、至って平々凡々な高校生。
しかし強大な超能力を持った鹿王院 太郎。
これは彼の痛々しくも在りし日の青春を綴った物語である。
── と、ナレーションが入る矢先から開かれた窓に肘をかけ、怪しい目付きの数名の眼差し。
「ふふふ……。 せいぜい、楽しませてくださいよ……」
早くも嵐の予感。
吹き荒ぶ学園生活。
のちに校長は語る。
「勝てば官軍! 負ければ敗者よ!!」
百獣の王を想わせる髭を準え、豪快に轟く笑い声は決して消え去ることはなかったのであった。
短篇にてのテスト。
長編向けのプロットも出来ていますが
とりあえずあげてみました。
のちに連載モノとして改編するかもです。