みえないもの
俺とタケマユは誰か心優しい人が届けてくれているかもしれないので、とりあえず大学の落とし物とかが集められている学務課に向かうことにした。
学務課は講義棟からそこそこ離れたところにあるため少し歩く必要があった。
外は緑の木々が揺れ、右耳にザーっという音が聞こえるくらい風が強かった。
「パンツァーフォー!」
意味の分からない言葉を発しながらタケマユがトタトタと先を行き俺は後ろをついていく。照り返しが激しくとてもまぶしく目を開けていられない。
タケマユの左側を歩く。
「そういえば落としたお金ってそのままの状態で落としたのか?もしそうだとしたら戻ってくる可能性は低くなるかもしれないのだけど。」
「いやいや見くびらないでキリンさん。しっかりと茶封筒に入れさせてもらっているわ。抜け目のない私えらい。」
「いや、落としている時点で抜け目しかないだろ、節穴だな。大穴だな。 」
「うるさい」
茶封筒に入れているのならもしかしたら中身も見ずにそのまま届けてくれる人もいるかもしれない。どちらにせよ可能性は低いとは思うが。
俺は会話が苦手な方ではないが、この春風の吹く自然の中で二人で何も会話をせずただただ歩いている時間がとても気持ちよくて、ずっと黙っていた。いつの間にか俺が先を行きその後をタケマユが付いてくる。
学務課が見え始めたころ
さっきからずっとこっちを向いていたタケマユが口を開く。
「ねねね、やっぱりさ、キリンさんて左耳聞こえない?」
「は?」
は?え?まてまてまてまて!こいつらエスパーか?朝の紗夜香といい、タケマユと言い。なんでわかるんだ。しかもタケマユは左右も当てやがった。一周回って怖え。マンアゲ怖い
「そ、ソウデスよ」
「やっぱりかー!まあ全然気ぃ使わないでいいからね。マンアゲのメンバーにも軽く伝えといてあげる。いろいろ不便だものね。」
当たったことが嬉しかったのか右手でガッツポーズをしながら気を使っている。
「あ、ありがとう」
「あ、あとなんか困ったらすぐ言ってよ。こういうのはすぐに協力できる仲間がいれば心強いでしょ。」
マンアゲ怖くない。もう天使。おじさん涙でそう。いやそれより
「てか!何で左耳聞こえないの分かったの!?」
当然のごとく俺はタケマユに話していないし紗夜香から聞いていたとしたら早すぎる。
「え、何でって、」
当たり前のことを否定されたような顔をしている。簡単にわかるものじゃない。
聴力は“見えない”ものなのだから
タケマユは頬をぽりぽりと掻きながら。
「いやー、だって私が最初あなたに話しかけたとき左から話しかけたんだけど右を向いたでしょ、その時から気にはなってたんだけど、今もあなたできるだけ私の左側歩こうとしてるから。それって右側にいると声が聞こえないからでしょ。」
後に俺はこの出来事に対して「タケマユまじで名探偵かよ」と思い返し、彼女の洞察力に感心するのだが、この時の俺の感情は
うれしい
という気持ちがとても強かった。