「まな板(異味)」
この部分はだいぶ脳死で書いている部分があったので後日改訂版を投稿する可能性があります。
「それは赤い紅い空だった、どちらが天か地か分からないせかい。もしくは天や地は存在しない。重力があるから天と地は決められるわけであってその世界にはないのかもしれない、そんな世界にそんな世界の中心に、恐ろしい化け物がいた。」
最初はナレーションだったが次第にBGMが流れ始め、次に数人のキャラクターが現れ、それに合わせてタケマユが声をつけていった。
キャラクター一人一人雰囲気の異なる声調で、
「そうか」
アニメを作る場所だったのか、確かに個人で作っているから映像がカクついたり見辛かったりするが、タケマユの演技力、個人で作った映像作成の凄さからか、その映像、人物は生きているように感じられた。
前で流れるアニメに向かって魂を吹き込むように、時には胸を張り、時には背中を曲げ、弱弱しく、様々な表情をタケマユは作り出す。
俺と話した短い間だけでも多くの表情を彼女は見せたのに、俺のまだまだ知らない表情があるのだろう。
10分間くらいだろうか、俺は圧倒され、そのアニメに魅入った。アニメに気持ち悪いだとか、変だとか言ってたことが恥ずかしくなるくらいに。
「ど、どうかな。」
タケマユがこちらに近づき聞いてくる。下を向いているため、顔が見えない。
「す、すげえよ!絵とか声優?とか音楽とか、詳しいことよく知らないんだけど、知らない俺でもわかるくらい感動した!久々に鳥肌が立った!!」
「ほんと!?」
明るい声とともに明るい表情で勢いよく顔を上げる。
“にへらぁ”という表現が適する表情を間近で見せられ思わずこちらの顔も崩れる。
守りたいこの笑顔
「私ねこの作品を完成させることがこの学校での、私の夢なの。できれば学園祭までに完成させたいのだけれど、映像とBGMはできているのだけれど声がね、足りないの」
おっと?
「私たちのサークルね、女性しかいなくって、男性役の人がいないのよ。さすがに私が男性の声を入れるとなると違和感がどうしても隠せないの。」
するといきなり真剣な表情で顔を鼻が当たる寸前のところまで近づかせ、しまいには手を握ってきた。自分の手汗がだらっと出てきた。心臓が暴れる。
「キリンさん!! お願い、私の夢を手伝って!」
すべて彼女の計算で狙っていたかのかはわからないが、恋愛経験のほとんどないチキンで童貞の俺が、このシチュレーションで断れる訳がなかった。
「やったぁ!」
ほとんど裏声で飛び跳ねはしゃぎだした、彼女を見て、計算ではないと分かった。
付き合っていくのか・・・・・マンアゲと!!!!
俺はいつから、何故オタクを嫌いになったのだろう。
そんなことを考えていても仕方がないのだが、多分そんなに深い理由ではないのだと思う。
頭が、脳がムリ、そう決めつけてしまっているのだ。だが、それはおかしいことなのだろうか。
世間がそういう風潮なのだ、オタクと聞いたら嫌な顔をする。オタクを見たら笑う。文系大学生がオタク批判を行う。SNSの普及によって、オタクは受け入れられ始めているというが、逆に反対意見を唱える人も増えている気がする。
もしかしたら俺は多数派に逃げているのかもしれない、オタクはどちらかと言えば少ないから、大勢の方が安全だから、めんどくさくないから、もしそれが理由ならかっこ悪い。
この大学に入って俺はオタクには様々な種類があることを知った。
一日中スマホかゲームをし続けるゲームオタク。
アニメだけにとどまらずフィギュア、ポスターなどのグッズを持ち歩き肌身離さない、萌えアニメ系オタク。
授業中Twitterを三列にも並べ(別アカなのか何か知らない)ずっと張り付いているSNSオタク。
よくわからないがホモビデオが好きなオタク。
彼女は “人間全員オタク” といった。
確かに俺は片栗粉48みたいなアイドルグループが好きでライブとかに行くこともあるし、アイドルオタクなのかもしれないが、何故かわからないが、“そちら側”のと違うイメージが付いているのだ。
だが、関係ない。俺は今日からそちら側のオタクの仲間入りとなるのだろう。
・・・何故なら、お昼休憩時に突然現れた美女のせいでそのサークルが作成する作品の制作に携わることになったためだ。
それはイコール マンガ・アニメ・ゲーム研究会、略称マンアゲ研究会に入るということになる。それはまたイコールの オタクになるということ。なのだ。
ああーーー!!! 高校の友達になんていえばいいんだろう。
菊宮サークルなに入ってるの? → マンアゲ研究会だよ♪ → え?オタクじゃん キモくない?
というオチが見える。
今までのキャラとのギャップもあるし、相当変にみられるだろう。
だが、悪い点だけではないのかもしれない。
これからは“いつもと同じ生活を送る必要”はなさそうだからだ。少しだけだが前を向けるか。
大学の送迎バスが到着し、乗り込む。
旅行用バス?観光バスのようなとても揺れるバス。こんないつもの行動もなぜか違った景色に見える。
ガタッ
何か落ちる音。頭を下げると、携帯が落ちていた。隣の席のものだろうが、自分の足元にあるため取ろうとする・・・ん!?
落とし主を見上げる。
「あ」
大学生に見えない小柄な蒼髪の少女がペンダントをブラブラさせながらこちらを見下ろしている。
すみませんという声が聞こえそうな表情から、あっという少し驚いた表情に変わり、その次にニッと笑った。少し恥ずかしかったのか、ほんのりと顔が赤い。くそっ、かわいい!
俺らと同じマンアゲ研究会のメンバーの一人だ。そういえば、名前をまだ聞いていない。
彼女は俺に分かるように。オ、ハ、ヨ、ウ。と口パクをする。くそっ、かわいい!
彼女は声が出せない。理由は知らない。が。会って今日で二回目の人間が探索できるわけもない。
「おはよう。あ、えっと名前、聞いてなかった」
そっか、と口を三角にし、んーっと伝える方法を考えて申し訳なさそうに、俺のもっている彼女のスマホを取り、画面に打ち込む。そして ばっ! と画面をこちらに向ける。
『白音 紗夜香 (しらね さやか) です』
と俺が読んだのを確認すると、たたたたたん。
『しらねだと呼びづらいと思うので、さやかで大丈夫ですよ!』
エッヘン!と偉そう胸を張る。
「無い胸をはるな」
ガビーンという衝撃の表情のあと、たたたたたたたん
『ちょっと!?無い胸って!会って二回目のレディーになんてことを!』
「あれ?否定しないの?ふーーん。ニヤニヤ」
たたたたたたん
『否定しますよ!私あれですからね!脱いだらすごいですから!』
「おいおいおい、会って二回目のボーイになんてこというんだ。」
たたたたん!
『あなたが言わせたんでしょーGa!!!!』
焦って変換ミスしてるし。
「まあ、よろしくね、さやか。」
むっとした表情をなおして、たたたん。
『よろしく!』
こんなバカみたいな会話。久しぶりだった。まだ、女性としゃべると少しキョッドってしまうが、それも一つの楽しさとしておこう。
肩をとんとたたき
『ところで、なんですけど。』
紗夜香が話題を切り出す。
「ん、なに?」
『違ったら申しわけないのですけど、もしかして、燐音さんって耳悪かったりします?』
「え?」
正直に驚いてしまった。確かに耳、正確に言えば左耳が悪いのだが、沙夜香にはそのことを伝えていない。
「え、なんで?」
さやかは気まずそうな顔をしたがすぐに顔を元に戻し、長い間考え込んでいたが打たれた文章は
『なんとなく。です』
だった。まあ、隠していてもしょうがないだろう。
「うん。左耳が小4くらいの頃に聞こえなくなったんだ。病名は確か、ムンプス難聴だったかな、おたふくかぜの菌が耳の中に入って聴力がダメになるやつ。」
紗夜香が困った表情をしている。
「左から“話しかけたら”たまに無視しちゃうかもだけど、そしたらいつものかって思ってくれればっ、、あ。」
余計なことを言った。しかし、紗夜香はニヤニヤしながら、携帯に文字を打ち込んでいる。
『私は話せないですよー! ばーか!!』
紗夜香が指で目をむき舌を出す。
「すまんすまん」
『大変ですね、難しいかもしれないですけど、なんか力になれることがあったら言ってくださいね^^』
グハッ
と心の中で叫んでいた。大学に入り全く人と接してこなかったからか、人のやさしさが身に染みる。神かこの子は。
俺が悶えている中、沙夜加は俺が驚いていると勘違いしたのか、
『当たり前ですよ!もう同じマンアゲメンバーなんですから当然です!!』
はい天使。もう天使。うん。サークルの略称変えようか。
「あ、ありがとな、さ、沙夜香の方こそ困ったことが、あ、ああったらいつでも相談乗るからな。」
キョドりまくりやんけ俺。
それを聞いた紗夜香はグッと親指を立てる。余裕のない俺は紗耶香から目をそらしながら親指を立てる。
紗夜香の方がつらいはずなのに逆に明るくフォローされてしまった。
そんなこんな大学に到着。こんなに近かっただろうか。
『ここでお別れですね、またサークルで会いましょ!また登校中にあたらヨロシクです!』
「ああ、じゃあ」
「・・また・ね!・」
「え?」
紗夜香は俺の顔を見て満足そうな顔をしたあと、走ってどこかに行ってしまった。
今、喋ってなかったか。ノイズの混ざった音で。