王と事件と娼館と 【後書きにお知らせアリ】
「よく来たな、旅の者よ」
俺達が通された王の間というのは、まぁよくある豪奢な赤いカーペットに、周りに配置された兵と玉座という間取り。
天井は高く等間隔に設置された高い窓からは陽気が差し込んで、王の間という厳粛な部屋とは裏腹に、何処か安穏とした空間だった。
少なくとも、犯罪者を目の前にした雰囲気じゃない。
玉座に座る王も、荒れ狂う独裁者ではなく、含蓄や人生の深い経験を思わせる、堂々とした50代程の男だった。
「エイシス王。このお三方でよろしいのでしょうか」
先導して歩いた騎士団長キシムは、確認するように俺と王を見る。
エイシス王は間違いないと首肯し、キシムと俺達を囲む兵だけを下がらせた。
……空気から察するに、俺達は犯罪者として罰せられる為に呼ばれた訳じゃないらしい。
「仰々しく招いてすまなかった。これも、貴殿らを違和感なく我が城へ招くための方便だったのだ」
「我は良いがダーリンを犯罪者として扱うなど、身の程を弁えよ」
「人の子よ。理由はどうあれ、濡れ衣は駄目よ」
「そう、濡れるのは股だけで充分だ」
「ねぇそのネタまだ引っ張る!?」
「お前らこの国の王相手だぞ!? 慎めよ!?」
「いや我魔王だし」
「私は神だし」
「「敬語いる?」」
コイツら……!!
「いやいや、良い。元々こちらの事情でお呼びしているのだ。それに自身を魔王だ女神だと自称する豪胆さ、時としてそれは大きな武器にもなろう」
「「自称……?」」
「ちょっとお前らは黙っていような。俺が話進めるから」
「まぁダーリンが言うなら。失礼の無いように振る舞うがよい、王よ」
「ラギがいいなら私はいいけど。早く終わらせなさいよ、国を治めし人の子よ」
「あぁ、心得た。かような美しい御仁との時間をやたらに裂く程に、私は無能ではないよ」
……本当、この王様がすげぇできた人で良かった。
なんだこの人間性。この二人、特に女神以上に高い。
「それで、エイシス王。俺達を犯罪者という隠れ蓑使わねぇといけない状況なんだよな。まず……そうしなくちゃならなくなった『経緯』を教えて欲しい」
「おぉ、素晴らしい慧眼だ。その若き齢でその洞察力、ただならぬ事があったのだろう、それは時があれば是非ともお聞きしたいものだが……今話すべき話題は、そうではないな」
「……国家機密であれば、この二人も席を筈させるが」
「いや、これは誰でも知っている事だ。私が危惧しているのはこの『事件』の解決を担ったのが誰か判明する事、故に犯罪者として貴殿らを捕らえさせてもらった」
そうして、俺達に事のあらましを語った。
国王が言うには、ここ最近原因不明の怪事件が勃発しているそうで、どんなに捜索の根を巡らせても一向に尻尾すら掴めていないらしい。
その怪事件とは……『娼館の増加』。
風俗店がある日を境に爆発的なまでに増加して、今や国の一角がそういった店に占領されているらしい。
「確かに性産業は人を豊かにする必要な仕事だ。民の幸福には切っても切り離せないだろう。我が国にもそういった店は存在したが……しかしここまでの規模ではなかった。区画の一つを占める程に栄えてなどいなかったのだ」
「なら、どうして俺達が必要なんだ? 栄えているなら良い事じゃないか」
「生活を崩してまで娼館に通う者が後を絶たぬのだ。今は影響は少ないかもしれんが、放置すればいずれ大きな問題となる」
「なるほど。理不尽に国王の命令で店を取り壊せないからな」
「実力のある旅人に依頼しようと内密に騎士団長へ命じておったのだ、そして見事あの騎士団長が認めたのが貴殿である」
なら……騎士団長はあの騒動も影で見ていたかもしれないな。
ったく、見てたんなら面倒になる前に仲裁にでも入って欲しかったぜ。
「俺の実力がねぇ」
「少々武力による鎮圧も視野に入っておるのだ、腕が立つ者でなければならぬ」
「それで具体的には俺達は何をすれば?」
「貴殿らには、この事件の真相捜索、及び首謀者の捕縛を依頼したい。私はこの事件の裏に何か、誰かが関与していると確信しておるのだ。自然発生の現象にしては兆候も何もなさすぎるのでな」
「なら、依頼の報酬としてこっちの要求も提示していいか?」
「もちろんだ、貴殿は何を望む?」
「この国にどっか空いた土地……そうだななるべく街から外れた場所がいい。そこの土地を譲ってくれ。そこに俺達が住む家を建てたい」
街中じゃ人が多いからな。なるべく人のいない場所……郊外なんかが望ましい。
こっちは女神と魔王を引き連れてんだ、不測の事態に対応する際周りの人間は邪魔でしかない。
「いいとも、応じよう。であればその建築は今から始めても構わぬよ」
「お、いいのか? 報酬前払いで」
「家を建てるのに時間はかかるものだ、すぐに私が手配しよう」
「それには及ばない。こっちで話をつけた外部の奴がいる」
クルイスに伝えれば、あっちで建築を始めてくれるだろう。
その間は何処か適当な宿屋で過ごすとしよう。
「ならば後は土地だな。今から詳しい者を呼ぼう、その者と相談し決めるがよい。といっても利便性のある土地はどれも持ち主がおるからなぁ」
……と、そう話した僅か1時間後。
俺は土地を決定し、城を離れ……その土地のまえであ然としていた。
「ダーリンよ。召喚陣で屋敷を転移させたぞ」
湧いて出た屋敷のまえで、何も言う言葉が出ない。
「こんな辺境誰も通らぬ。我とダーリンの新居で、共に愛を語ろうではないか」
王のマントのようにその透き通るような白髪をなびかせ、真紅の瞳を淫猥に細めて魔王は俺の手を握る。
魔王ってすごい、と子供じみた感想しか出てこず……ツッコめなかった。
……まさか、誰が屋敷ごと転移させるなんて思うだろうか。
「愛はともかく。立地はいいな、中も見て周ろうぜ」
街から離れた程よい郊外で、周囲は土の道と木々の並ぶのどかな風景。
馬車で移動なんかすれば、牧歌的な雰囲気を楽しみながら街へと繰り出すことができるだろう。
のどかな風景、人通りの少ない自然豊かな立地、他に家々は無く広い庭もついている。
また屋敷の方も一体どこから持ってきたのか知らないが、三人が住むには十分すぎる程の大きさだ。
二階建てでレンガを使用したぬくもりのある朱の色合いの屋敷は、内装もマホガニー色の落ち着いた床に高級そうな木材を使用したドア。
ロビーも広々としており、各部屋や廊下に繋がる階段の手すりから、調理室にある器具のレパートリーに至るまで、お洒落で気の行き届いた造りで感嘆の声が思わず漏れてしまう。
確かに城や大豪邸には劣るかもしれないが、充分に落ち着けるとても良い家だ。
貴族が済む権力を表すような豪奢な造りでなく、ともすれば民家のようなラフな雰囲気が実に良い。
俺の拠点には申し分ない。
「――――さて、ある程度内装も見たが、どれも素晴らしいな。俺は気に入った」
俺はロビーで改めてそう思う。
過度に華美な装飾も無い、しかしところどころに職人のこだわりを感じる味の深い屋敷だ。
「それなら良かったぞダーリン。ただ、我は少し気がかりがあってな」
「どうした? なにかあったのか?」
「こうも人通りが少ない立地だと、ダーリンとの露出プレイに支障をきたすのではないかと」
「よし何もないな。おい女神、お前はこの家どうだ?」
「強いて言うなら、魔王を家って表すのは気持ち悪いわ」
「はぁ?」
「そうか! 子宮が赤ちゃんの部屋という事は、さしずめ我は家という事か! ダーリンの表現力には脱帽だな!」
「テメェら会話の流れ理解しような?」
「そんなことよりねぇラギ。それでこれからどうするのよ、国王の依頼のやつ」
……そうだな。
原因不明の怪事件の黒幕を暴けって言われても、結構な無理難題だ。
そもそもの情報が少なすぎる。
手掛かりは国の一区画が風俗街になっていて急激に発展したという事だけ。
「国王から、その風俗街の区画へ転移する札を貰ったはいいが……今行っても店は殆ど閉まっているだろう」
「そうよねぇ、そういうお店って夜に開いてるイメージ。今は昼だものねぇ」
「なればクルイスでも呼ぶか? 奴ならば打開案を講じるやもしれぬ」
「これ以上クルイスに負担はかけらんねぇよ。本職があるってのに」
「……むぅ、そうか」
「なんだよ、顔むくれさせて」
「ダーリンはクルイスにだけ何やら親しげだな。どういう了見だ、おい貴様」
魔王は不機嫌そうに、じとーとした目で見てくる。
「どうもこうも、俺はお前よりクルイスの方が好きだぞ。アイツは良い奴だ」
「なっ!!? わ、我! 我魔王ぞ!」
「だからって好きになるとでも思ったか。権力や位でやすやすと俺の感情が変わると思うなよ」
「そう……か。ダーリンはクルイスの方が好きなのか……そうか……どうしよう凄い負けた気分……」
魔王は見るからにしょぼんと項垂れた。
別に本当の事を言ったまでだ、魔王を嫌いとは言っていないのに何を落ち込んでいるんだ。
「あーあ、魔王落ち込んでるじゃない。馬鹿ねアンタ」
「馬鹿に馬鹿と言われるとは心外だ」
「私馬鹿じゃないし! めっちゃ賢い美少女女神様なんですけどー!!」
「ならその賢い頭脳で打開案を教えてくれよ、女神サマ」
「みそすーぷ」
「そんなに考えるの嫌か!? てかなんだその究極の馬鹿面は!? お前凄いな!?」
「私にかかればこんなもんよ! ふふん、見直したでしょ!」
俺もまだまだだった。
この世にこんな、芸術的なまでの馬鹿面を晒せるような奴がいようとは……。
「だがお前がどんなに世紀末よりも凄まじい馬鹿面を披露したところで、現状何も思い浮かばない」
「……ダーリンよ、らしくないな。……聡明な貴様ならばたやすく解決できるものとはぁつらい」
「……後で慰めてやるから元気出せよ」
「慰めックスは基本だと本で習ったぞ!! やったー!」
「行間読みすぎてんじゃねぇぞ! それに俺はあくまで、穏便に事を進める手段を考えていただけだ。解決だけでいいならもう思いついている」
一応、荒療治は国王からそれとなく許可は貰っているが……なるべくこの策は使いたくない。
下手をすれば俺達はこの街を出ていかなくちゃならなくなるし、上手くいったとして必ず恨みという名の禍根が残るだろう。
俺の目的は『神の保有する能力』であり、それに関係しないこの依頼で……そこまで乱暴な解決策は執りにくい。
「あ、そうだ。はい! 私いい事思いついちゃった!」
俺が正規の手段を考案していると、女神が自信満々に手を挙げていた。
……こんな状況だ。馬鹿の考えももしかしたら何か役に立つかもしれない。
「なら答えてみろ」
「ふっふーん。良くってよ! 女神の宣託を心して聞きなさいよね!」
女神はふんすと鼻を鳴らし、若干うざいテンションで言った。
「直接女神を叩けばいいのよ!」
「は?」
「いった!? どうして私を叩くの!? バカぁ!」
「いや女神を叩けって」
「そーじゃないわよ! ほんっとバカね! 将を射んとする者はまず馬を射よって言葉があるけど、その将を先に倒しちゃえばいいのよ! 街はその後でも直せるわ!」
「いやいやいや。俺が言いたいのはそうじゃねぇぞ殴るぞ」
「いったい! 殴るって言ってまだぶったー! SMプレイなら魔王とやんなさいよ!」
「話がまた脱線す「我は慰めッSMに変更可だ!」語呂悪ぃなおい! ともかく、ともかくだ!」
俺は何故か四つん這いになっている魔王を無視して女神に問い詰める。
「よく聞け女神。なんでお前の口から女神なんて言葉が出たんだよ」
すると俺の言葉に女神は、不思議そうな顔をして。
「へ? だって、コレどう見ても女神の仕業よ?」
女神連盟の誰かのね。
と、答えた。
「……や」
「うん? どしたの?」
「そんな大事な事に気づいてんなら最初から言えやあああああああああああああああああああ!!!!!!」
「いたひたい! ほっへつねらない、ちょ、ひゃ、ごめんなひゃいいいいいいいいい!!」
「おいダーリン! 自分を好いている者の前でSMプレイに興じるでない痴れ者が!!」
「ちっげぇよ!」
「ちょっと興奮しちゃうだろうが!!」
「しちゃうのかよ!」
「もう我も混ぜろ! そのまま慰めッSMと洒落込むぞ!」
「洒落込むかクソが!!」
「糞!? ス〇トロは……いや我頑張る! 見るがいい貴様の妻の愛を!!」
「うわあああああ頑張るなぁあああああああ!!」
「私の神性おちちゃうううううううう!!!!」
【おしらせ】
みなさんご愛読ありがとうございます、作者です。
皆様のおかげでハイファンタジーランキングのトップ10以内に、総合ランキングでは100位以内を飛び越えて20位以内という好成績を残せました。
更新し始めて一週間未満、わずか5日でここまでこれたのは、ひとえににみなさまのおかげです、ありがとうございますそしてこれからもよろしくお願いします。
さて、お知らせというのはこのご報告ではなく、運営からのダイレクトメールの件です。
皆さんご存知の通り、当小説はタイトルがPTAを躊躇なくブン殴るようなタイトルであり、身体を持て余した人妻(PTA)からのクレームが殺到するようなものに仕上がっていますね。
そんなタイトルを見たなろう運営ちゃんは
作者が人妻に人気が出るのに嫉妬したのか
なろう運営ちゃん「ふぇぇ……このサイトは未成年者も見てるから……タイトル変更してよぉ、ダメだよぉ……」
という、お手紙を送ってきました。
なろう運営ちゃんは。
なろう運営ちゃん「タイトルの修正がなきゃ……消しちゃうよぉ……お兄ちゃんの小説とっても面白いし私大好きだし……あぁ! お兄ちゃんが好きって意味じゃなくて! あ、あ、でも嫌いじゃなくて! えと、えと! とにかく! 変えなきゃ駄目なんだよ! それにPTAよりも私の方がいいでしょ! ね、ね!」
という姿勢らしく。
タイトルの変更を余儀なくされました。
ただ、先ほど申しました通り、ここまで読者の皆様に支えていただいたこの小説、その看板ともいえるタイトルの変更というのは苦渋の決断ともいえるでしょう。
しかしなろう運営ちゃんの言う事も、もっともですし、私はそんななろう運営ちゃんの悲しむ顔を見たくない。
ゆえに。タイトルの変更、これに踏み切る事にしました。
具体的にはタイトルを、誤解を招かないようにしました。
旧
【魔王が肉便器】&【女神がセフレ】になったので【神狩り】始めました~【能力複製】で最強の異能コレクション(超サキュバスを添えて)~
↓
新
【魔王が肉〇器】&【女神がセ〇レ】になったので【神狩り】始めました~【能力複製】で最強の異能コレクション(超サキュバスを添えて)~
これにはなろう運営ちゃんも
なろう運営ちゃん「ふぇぇ……お兄ちゃんしゅき」
とニッコリ笑顔間違いなしでしょう。
新たな看板をひっさげた当小説をどうぞよろしくお願いいたします。
あと、当小説を見ている未成年の方々へ。
当小説を読んでIQ下がって受験やら勉学についていけなくなっても責任は一切取りませんので、あしからず。