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♂と♀とセフレ女神(挿絵アリver)


【コレクション獲得】


神の断罪ジャッジメント


ランク:EX

種類:魔法

系統:爆破型

属性:光

規模:単体~複数


高濃度の魔力を圧縮し巨大な光の柱を出現させ、それを爆破させる女神の『神域』と呼ばれる魔法。

柱そのものにもダメージはあるが、あくまでメインは身動きや呼吸さえ不可能な柱そのものの空間。

柱で身動きできなくなったところを、柱ごと爆発させることで、より確実により強く破壊力を増すという派手な魔法となっている。

獲得後は、対象規模がある程度広がった。





「おはようございます、ラギ様。魔王様の補佐官を務めておりますクルイスです」


「……おはよう」



 翌日。

 神殿から自分の部屋に帰って、そのまま眠りこけていた俺を起こしたのは『クルイス』だった。


 いや、少しばかり雰囲気が昨日と違う気がするが、クルイスと名乗ったしそうなのだろう。



「さて、起床なされたばかりで大変恐縮なのですが。ラギ様にご報告するニュースが幾つかございまして」


「……因みに、良いニュースと悪いニュースどっちがある」


「どちらともご用意がありますね」


「なら良い方から頼む」


「ラギ様に持ち掛けられていた魔王様の『婚姻』。これが正式に破棄されました」


「おぉ、意外だな」



 てっきり魔王が駄々でもこねて、破棄は認めないだの何だの抜かしそうだが。



「はい。魔王様の心境は私でも計りかねますが、とにかく一安心ですねラギ様。しかし、魔王様がラギ様の元にお邪魔する事が消えたわけではありません」


「まぁいい、魔王の来訪くらい許容してやるさ」


「それは魔王様もお喜びになられる事でしょう。そして良いニュースはまだあるのです、ラギ様に特別な手当て。要するに魔王様や私までお救いくださったことに関する恩赦が与えられます」


「内容は?」


「今確定しているもので、屋敷の授与ですね。今の住処が良いというのであれば、却下可能ですが」


「いや、それは喜んで受け取ろう」



 この寂れた屋敷にも、思いれがあるといえばあるが。


 まぁ、神も倒して新たなスキルを手にした事だし、心機一転ってのも悪くない。



「では後日そのお屋敷にご案内するとして次なる恩赦ですが、これはラギ様がご提示ください。出来る範囲で我ら魔王軍が協力致します」


「よし、考えておこう。それで、悪いニュースは?」


「はい。そちらはまず、ラギ様が『女神連盟』から確実にマークされたという事が一点です」



 ……やっぱりか。

 そりゃ、神を一柱、失禁までさせてメンタルボコボコにしたんだ。


 外傷はないとはいえ、あれだけの事をしたらそりゃそうなる。



「幾らラギ様がお強くとも、相手は『神』。どのような手を使ってくるかは分かりません」


「そうだよな……今回みたいに、魔王とお前を処刑したりもするかもしれん」


「…………あの時は、騙す真似をして申し訳ございませんでした、ラギ様」


「いいって。魔王に仕える従者として当然の事だ、ありゃ悪いのはあの女神だよ」


「お優しいですね、私としましては、魔王様の婿養子に来ていただければと思うのですが」


「確かに、お前みたいな頭も切れる有能な奴がいれば楽しそうだが、生憎その気はない」


「そのようなお言葉、光栄の至りに御座います」



 クルイスは謙遜こそするが、戦闘でなくとも他の場面でのその働きは目を見張る者がある。

 混乱や錯乱、自暴自棄などにならずあくまで冷静に動いていたのは圧倒的に評価できる点だ。


 魔王は実力とカリスマこそあれど、冷静さは欠けているからな。

 そう考えれば、二人は良い主人と従者なのだろう。 



「…………ちょっと、アンタら。さっきから私を無視とかいい度胸じゃない」


「それで、後なんか悪いニュースあったりするか?」


「後は……特に無いかと。『女神連盟』もマークされたとはいえ、ラギ様が迂闊な行動をとらねば黙認という形をとるのではないでしょうか」


「ねぇ、神のお言葉よ? 信者たちなら卒倒モンよ?」


「迂闊な行動ねぇ。能力の複製も……グレーな気がするな」



 元々は、強くなるため。能力を奪う能力を開花させるためのダンジョン攻略だったが。

 能力が開花した今、出来ればやりたいなーくらいで考えていた『能力コレクション』もやってみたい


 というか、それ以外にしたい事とかないし消去法でそうなっているだけなのだが。



「であれば、能力の複製を無理やりにではなく合法的になさればよろしいのです」


「ほう?」


「人助けのお礼、諍いの自己防衛。『正式な手段』といえばこの二点が主でしょうね」


「良い言い方するじゃねぇか。結構好きなタイプだぜ、クルイス」


「畏れ多い。私はただ、正式以外の可能性を示唆しそうになっただけに過ぎませんよ」



 俺とクルイスは二人でニヤリと笑う。

 言葉の裏を分りやすく、しかし第三者からみれば普通の会話。


 魔王よりも仲良くなれそうだ。



「ね、ねね。私、神だけど? ねぇ神だけど? 女神様だけど?」


「また時間があるときにでもゆっくり話そう。といっても、補佐官様はお忙しいからなぁ」


「何をおっしゃいますか。それでは貴方様の為にお時間と、後は……そうですね、紅茶ティータイムなどはいかがですか?」


「もしもーし! 私! 女神! ねぇ、ちょっと!」


「そんな洒落たモンが飲めるなら、是非ともお願いしたいもんだな」


「ではそのように。私も畏れ多くもラギ様とは良い関係でおりたいと思っております。貴方様のお言葉をお借りすれば『結構好きなタイプ』です」


「互いに気が合うな」


「えぇ、一つ楽しみが増えましたよ」



 と、和やかに談笑していると。


 俺の部屋の床に、小さな光の柱が出現し、そこだけ焦げてなくなってしまった。



「なんだ、ただの魔法か」


「今日は空気が乾燥してますからね」


「……マジなのアンタら」


「ところで話は変わるんだが、除霊って塩でいけるだろうか。丁度手元にあるんだが」


「低級ならあるいは」


「はぁ!? あろう事かこの私を低級霊扱いってどういう……ちょっと!! 塩、やめて!」


「帰れ、死ね、帰れ」


「それっていじめよ!? いじめって言うのよ!? あーあ! ヤバいわよーこれは泣くんだからね!」


「除霊できましたか?」


「いや? でもまぁ、こういうのは無視が一番だろう」


「ですね」


「ま”っでよおおおおお!! 無視しないでよおおおおおお!!」



 …………。



「……なぁ、これどうする」


「……この手のタイプはしつこいですからね、もう諦めるしかないのでは」


「あー泣かしたー! 神様泣かしたーあああああああー!! うわあああああん!!」



 ……腹を、括るしかないのか。


 現実逃避は……出来ないのか……。



「あー、その、なんていうか。帰れ」


「ラギ様。お言葉が」


「死ね女神」


「はい、その通りです」


「どうして追い打ちかけるの!? もうドン引きして涙引いたわよ!?」


「これでも譲歩したよな?」


「えぇ。素晴らしい言葉繰りでした」


「何言おうとしてたのよ……怖いわ……」


「はぁ…………んで、何故あの神殿に気絶したまま放置した筈の女神がここに居るんだよ」



 俺が今日目覚めた時。

 クルイスと共に視界に入ったのは、ベットの上でなぜか仁王立ちしている女神の姿だった。


 もう明らかに触れたくない面倒な奴だったからスルーしていたのだ。



「しょうがないわね迷える人の子よ! 教えてあげるわ!」


「面倒な前口上いいからとっとと言えよ雑魚」


「口悪っ! ほんと神を何だと思ってるのよ……。いい? 私がここに居る理由はただ一つ」



 女神は仁王立ちのまま、びっ、っと。俺に指を突きつける。



「貴方、私の信者になりなさい」


「撤収だなクルイス」


「ではこれにて」


「あー! あー! 待って! 調子のった! 私神的に調子のった!」


「……次はねぇぞ」


「は、はひ」



 コホン、と女神は咳払い。



「貴方に私が協力してあげる! 感謝なさい!」


「いや別に必要ない。一人でいい」


「神の協力を断る人間始めて見た……え、嘘でしょ? 光の加護そのものを拒否するって人としてどうなの? 勇者全否定なの?」


「そんな事言ってもな。お前と一緒に行動するとして、デメリットのがデカいだろ。女神の時点で悪目立ちするし、お前ウザいし」


「こ、個性よ! 個性を認めなさい! それに、私が仲間になれば『女神連盟』の情報だって吐くわ!」


「コイツ仲間を売りやがった!」


「きっと友達いないんでしょうね」


「いるもん! 友達いるもん! 多くないけど!」



 俺はそんな涙目で訴える女神を無視して、ひとつ考えてみる。


 『女神連盟』。確かに俺はその集団についての情報が全く足りない。


 今、俺はそいつらにマークされているという事だが……そう考えれば敵対した時に少しでも多くの情報は価値がある。



「ねぇお願いよ! 私をすてないでぇえええ!! なんなら肉便器として仕えるからぁあああ!!」


「残念だったな、それは二番煎じだ」


「なんでいるの!?」



 なんでいるんだろうな。



「ならセフレ! セフレでもいいからいさせてよ! 私もう帰るとこないんだからぁ!!」



 どうして性欲処理係が増えていくのだろう。



「なんで帰るとこないんだよ、あの神殿があるじゃねぇか」


「女神連盟追い出されたから、あの神殿使えない……」


「だろうな、お前の性格ならな」


「追い出されるでしょうね」

 

「アンタらまでそう言うの!? 『ようやく追い出せた』って他の女神に言われてる私の気持ち考えた事ある!?」


「正直考えたくない。な?」


「えぇ。ラギ様の負担が増えるだけです」


「ぐぬぬ……! なによ! 人が下手にでてればいい気になって! というか! さっきからアンタら仲いいけど」



 女神は涙目のまま、今度はクルイスを指さした。



「コイツ男じゃなかったの!? どうして、女になってるのよ!?」



 と、パニック寸前のようなリアクションを起こした。

 

 俺とクルイスは目を合わせる。



「「え、それ重要?」」


「アンタら……なんでハモっちゃうのよ……」



 別に性別なぞ関係ない。


 大した問題でもないだろうに。



「あぁ、訂正しますが。女になっているではなく『女に戻った』が正解です」


「へぇ、そうだったのか」


「なんで冷静なの!? え、まって、これ私がおかしい!?」


「落ちつけよセフレ女神」


「そうですよ性欲処理用フレンド」


「じ、自分で言っちゃった事だけど……女神が言っていい言葉じゃなかったわね」



 今更気づいたのかこの馬鹿は。



「あの時は素性を隠す為にあのような容姿でしたが。もうその必要もなくなったので、こうして素性を晒しているのです」



 素性を隠すため。

 その言葉の裏には、俺の殺害が失敗した時に安易に復讐されないように。


 とかそういう理由があるんだろう。


 抜け目のない男、いや女だ。流石の辣腕だな。



「ねぇ人の子よ。貴方はどうなの?」


「どうって?」


「見た目よ見た目! どう思ってるの! これ重要なんだからね!」


「それ別に重要なことでもなくないか?」


「いいから! どうなの!」


「はぁ? どうって言われてもな」



 俺はクルイスをまじまじと見る。

 今現在も、仕事着なのか黒スーツを着用はしているが、短く整えられた深い蒼の短髪に、深海のような瞳。


 すらりとした手足に似合う落ち着いた雰囲気のクルイスは、深窓の令嬢のようで……どうしてか心惹かれるものがあった。


 礼儀正しい作法と相反するような、笑ったときに見せる可愛らしい顔……。

 確か、アイツが……あの幼馴染が言っていたな。


 これが『ギャップ萌え』だと。



「女としての私なぞ、そんなもの既に捨て去っております。無用な提言ですよ女神」


「改めて見るとなんか可愛いよなクルイスって。性格とのギャップがあっていいと思う」


「いえ、私には勿体ないお言葉です」


「ねぇ補佐官さん。照れ隠しに私に塩かけるのやめない?」


「クルイスとは気も合うし、可愛いしで言う事なしだ。これからもよろしくな」


「はい。私でよろしければ、喜んでラギさまの一助になりましょう」


「だーかーらー! 照れ隠しに塩かけるのやめなさいよ!! しょっぱいのよ!!」



 なにやらセフレ女神が騒いでいるが、もしかして塩で退治できるのだろうか。


 そんなことを考えていると、クルイスは逡巡するように腕を組む。



「ふむ……女としての私を評価された事なぞありませんでしたから……こうして不可解な行動をとっているのですね」


「納得してんなら早く止めて!? 塩対応を物理でやる人初めて見た!」


「一度は裏切り利用した私すらも受け入れる、ラギ様の寛大なお心に示す、信頼からくる行動なのでしょうねこれは」


「え、あれ、そうなの? アンタ」


「はい。ラギ様が魔王様や私を含めて救ってくださったと聞いたときには胸がなんだが熱くなりましたし、ラギ様に好みだと仰っていただいた時には恥ずかしながら多幸感に包まれておりましたし、ラギ様の為ならば魔王様と同じように全身全霊でお尽くししたいと、心より奉仕をしたいと思います」


「うん、まごうことなき信頼だな」


「それ絶対別の感情はいってない!? ねぇ!? 恋じゃない!?」


「なにもかもを恋だなんだと連想して騒がないでいただきたいですね、無粋で淫らな女神よ」


「まったくだ。これを信頼感と言わずしてなんていうんだ、性欲解消用肉」


「そんな言い方しないでよーっ!? ならセフレのがまだいい感じに聞こえるわ!」



 どちらにせよ落ちるとこまで堕ちた感は否めないが、本人がいいならいいだろう。



「はぁ。肉便器の魔王にセフレの女神……まともなのはお前だけだよクルイス」


「……心中お察しします」



挿絵(By みてみん)




「そ、それで? ラギ。貴方はこれからどうするの? 行くアテとかあったりするのかしら」


「俺はこれから『レア能力コレクション』を開始する。かねてからの野望だ、そして運よくその為の舞台も整った」


「舞台?」


「俺は『女神連盟』に狙われてるんだろ? だったら話は簡単じゃないか」


「貴方……まさか!!」



 女神は目を見開いて驚愕する。或いは慄く。


 俺はそれに、こう答えた。



「女神の能力をコレクションする所から始めよう。言うなれば『神狩り』だ」



 レアといえば、神の保有する力ほど珍しいものは森羅万象どこを探しても見当たらないだろう。


 『神狩り』。うん、良い響きだ。人間が神を打倒する下克上が実にいい。



「ついでに『女神連盟』も滅びる。一石二鳥だな」



 女神、それにクルイスすらも俺の言葉茫然としていた。


 無理もない、人間が神を相手取って戦おうとしているんだ、或いは滑稽に写る事だろう。



「さて、女神。『女神連盟』にどうやったら接触できるか教えてもらおうか」



 だが、そんな鬼畜難易度、逆境は、俺にとって普通の事。

 これまで通り、いつも通りにクリアして見せよう。


 不幸も幸福もひっくるめて俺の新生活――――スタートだ。 



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