表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/37

神への宣戦布告



「はい終了おしまい




 魔王の体は聖なる輝きで貫かれた。




「魔王、さま……?」


「あら、魔王の右腕ともあろう人が、無能を晒すではありませんか」



 鮮血が舞う。


 舞う。


 聖域たる神殿が……血で染まる。



「がっ……あ……」



 魔王の肩から腰にかけた傷。


 女神の手にするのは、光で形成された神々しさの塊のような剣。


 それは傷を創る。作る。


 赤、肉、それに骨。黒みがかった濃い血液。


 肉片。



「くどいんですよね、貴方たち。さっさと撃たないから魔王、死にますよ」


「ま、魔王様……っ!」


「あぁどうか動かないで。動いたらトドメ刺してしまいます。この『神薬』で回復もさせませんよ」



 女神は懐から、透明なこぶし大の球体を取り出し、目の前で軽く振る。そこには淡い蒼の液体が入っていた。



「死ぬまであと5分以内。その前に私の要求を飲んでくだされば、この薬で魔王を救いましょう」


「薬、だと……? 貴様……最初から、これが目的かッ!!」


「えぇ」



 クルイスは、魔王の致命傷を見ても錯乱せず冷静に


 そう、冷静に握りしめた拳から血を滴らせながら。怒りを滲ませる。



「私の要求は魔王軍の解体、及び指揮権の譲渡。まぁ、つまり、魔界を私に売りなさい。そうすれば命は助けましょう」


「……下種がッ。ラギ様が目的ではなく……魔王軍が目的か……!」


「これは救いです。私だって騙すような真似はしたくないのです、しかし魔族が相手となればまた別。魔族はこの世を荒らす汚れですから」



 女神当然のように、魔族を見下す。


 この行為すらも……『正義』であるように。



「……こんなのが、俺の住む世界の『神』か。今度は俺ら人間を騙し討ちすんのか」 


「何を言うのです、人の子よ。私が守るべきか弱き民に手はかけません。これはそう、断罪なのです。罪は、汚れた魂は、裁かねばなりません」



 女神は、足元の魔王を踏みつける。


 土と血で透き通るように美しい白の髪は汚れていく。



「同情しますよ、人の子よ。魔族、しかも魔王に好意を抱かれ、よもや婚姻なぞ迫られるとは。さぞ気味が悪かった事でしょう」


「あぁ、正直邪魔だった」


「えぇそれが正常な判断です。相手は魔族なのですから。では、こちらに来なさい。魔王の右腕なんて者の傍よりも女神たる私の傍に、神の隣に立つ栄誉を与えましょう」



 俺は、慈愛に満ちた微笑みをする女神の元に歩いていく。


 そして……頬をなにかが掠め。


 振り返ると、クルイスの胸は聖なる光に貫かれていた。

 

 

「そういえば、か弱き人の子に銃を向けるとは。罰の対象でしたね」



 冷酷なまでに残忍で、残酷なまでに揺るぎの無い攻撃。


 俺は、歩みを止めずに女神の元まで到達する。



「……最初から、魔王とクルイスを始末する気だったか」


「はい正解ですよ。しかし申し訳ありませんでした。魔王と側近を罰する為とはいえ、餌として利用してしまい」


「なんだ、俺も殺すのかと思った」


「何を言うのですか! 私はか弱き人の子に手をかける道理などありません。人間ほど美しく気高い者たちはいないのですから」



 女神は心外だと言わんばかりに反論した。


 それはまごうことなき、神としての深い愛を感じる。



「此度は大変でしたね。そして利用したお詫びに、貴方のスキルは悪用しなければ無罪放免とします。それと、叶えられる範囲であれば私が加護と祝福を与えましょう」


「なら……俺に魔王を殺させろ。引導は俺が渡す」


「もちろんよろこんで許可しますよ、醜い悪は人に滅ぼされるのが定めなのですから」


「全く、気持ち悪い奴だった、ようやくおさらばできる」



 俺は。虫の息の魔王を見下ろす。



「お気の毒に……よければ私が慰めましょう。聖なる加護であれば貴方を浄化できます」


「そりゃいい、約束だぞ。破るなよ」


「勿論です。貴方は愛すべき人の子なのですから」 



 女神は俺の言葉がお気に召したのか……薬を出したままだった。

 

 右手に武器、左手に薬。


 足元には、魔王。



「さて。なら首でも締めるか。地味だが効果的だろう」


「それは良い考えです。しっかりやるのですよ」


「もちろんだ」


 

 そう言いながら俺は――――女神の手から薬を掠め取る。

 そして女が反応するよりも素早く、球体の蓋を開け魔王に飲ませた。


 蒼い液体は血みどろの口に流れてゆく。


 閉じた目は…………。



「おや」



 上から注ぐ、声。



色付きの水・・・・・を飲ませて、どうするのですか?」



 笑い声。


 声。



「あははははっ! あははは! もうほんとうに単純なのですね! 露骨に薬チラつかせて、そしたらまんまとノせられて! あぁ! ざんねんです!」



 視界には赤に染まった魔王。


 虚しく滴る蒼い液体。

 

 動かない、もうわずかにしか生きていない。



「こんな重症を治す薬なんてあるわけがないでしょう? 愚かな人間よ」



 俺は深く抉られた肉に触れる。

 ぬらりと生温かく、これからその温度さえ無くなる箇所に、触れる。


 体温が、生々しく伝わる。


 ……俺を庇おうとして、こうなった結果を見届ける。



「やはり愛すべき人の子でも、魔王の瘴気にあてられましたか。なれば残念ですが『断罪』です」



 ……まだ、魔王は辛うじて生きている。

 ……死力を尽くし、保身ではなく覚悟で身を挺したこの魔王は。


 まだ、生きるのを諦めていない。

 

 残り僅かな命を燃やし続けている。 



「では、魔族に与する罪人を――――一処刑します」



 頭上で死神のような声。


 俺は動かない。見向きもしない。



「――――に、げて」



 魔王の口から漏れる、うめき声に似た、声。

 死力を振り絞り、涙と共に漏らした、王の本音。


 この期に及んで……出された最後の声。


 そうして。

 背後で何か空気を裂く音を聞く。



 光の剣は……完全に振り下ろされた。



 慈悲も無く、無残に、無用に、殺意すらない『処刑』は決行された。



「なん、っで……どうして!!?」



 その光の剣は……殺傷能力も格段に上がっているのだろう。


 その凶刃は今まで遮るものなく、全てを断ち切ってきたんだろう。



「どうして、コレを受け止められるのよッ!!」



 だが、俺には関係なかった。



「……どうやら。俺は経験値スキルポイントを振ってなかったらしいんだ」



 武器は押し返される。徐々に、徐々に。


 魔王と俺を覆う『ドーム状の結界』が、その情なき処刑を拒んでいた。



「数多の死線、幾多の絶望、暴力と血と断末魔を浴びながら、一切の成長レベルアップをしなかった」


「そん、な……くっ、それでも私は神なのですよ!」


「だったら味わってみるか、成長レベルアップした攻撃を」



 そうして完全に武器を押し返し、俺はノータイムで攻撃に転向。

 女神の美しい肌に、その身に、その神々しい御身に……右拳を叩き込んだ。


 虚を突いて防御さえ間に合わない高速の攻撃は、女神の肩に命中し骨を砕く。



「くっ、こんなもの! 『ハイヒール』!」



 女神は回復魔法を発動……そして。すぐさま失敗を感じたのか、ハッと目を見開く。



「もうおせぇよ。『ハイヒール』」



 俺は魔王の身とクルイスを対象に、『回復魔法』を発動した。


 ……結果は。

 まぁ、完全回復、とまではいかず気は失っているままだが、死は避けられただろう。

 


「貴方……神を愚弄するのもいい加減にしなさいよ」



 もう、その端麗な顔に余裕は無かった。


 口調も、身のこなしも、女神のソレでなく……荒々しい本性が垣間見える。



「どうした? 猫は被らねぇでいいのか」


「そんなものッ! 顕現ッ!!」



 女神の手には眩く光で形成された剣。

 ではなく、実体化した白銀の剣が握られていた。


 それは黄金の呪文が刀身を覆い、振るうだけで悪性がそぎ落とされそうな神聖さがあった。



「これが私の……『神域』。神の武器にして神の威光。これを見た人間は貴方が初めてよ、おめでとう」



 女神はその武器を構える。


 気おされそうなプレッシャー。そして。



「ハアッ!!」



 女神が繰り出すノーモーションの斬撃を、俺の結界は防ぎ切った。

 だが、神域と謳われた剣は俺の結界を跡形もなく粉砕し、俺は守りを失う。


 二撃目の攻撃は既に目の前に。

 

 俺は光の剣を『複製』し、応戦する。



「へぇ、中々やるじゃない! けど、コピーできたのはその状態だけのようね!」


「…………」

 


 俺は言葉の代わりに剣戟を交える。

 足元の魔王に注意を払いながら、ある時は飛びのき、ある時は場所を変えて。


 この神聖な、賛美歌でも聞こえてきそうな精巧な造りの神殿で、戦いの手を休めることなくより苛烈に演出する。



「くっ、あと少し、あと少しなのに……!」


「焦るなよ女神。可愛い人の子に後れを取るのか?」


「うるさいッ!! はぁあああああッ!!」



 剣は加速する。女神の剣は黄金の魔力を纏って剣先は光の軌跡を描いていた。

 

 対応は徐々に間に合わなくなり、肩に、頬に、傷が増える。



「あはははっ! まだ私は本気でもないのよ! 今ならまだ謝罪を」


「なら本気で来い。殺すぞ」


「……っ! 強がって! 一瞬で決めてやるから!!」



 神域と呼ばれた剣は輝きを増し、その光は女神の身体をも揺蕩うように出現する。


 分かりやすい強化だと、俺は光の剣を握りなおす。



「『神体強化』。見せてあげるわ、私の全力。一瞬だから焼き付けなさい」



 声のトーンを落とし、一呼吸の後に――――俺の身は空中にあった。



「遅いわ」



 連撃に次ぐ連撃。もはや女神の行動すべてが光そのもののような、残像が実態を持っているような攻撃だった。


 空中から身体は落ちることなく、俺の身体は女神の容赦のない攻撃にさらされる。

 重力さえものともしない、絶対的な神の連撃。


 その過激な、生命を断つ殺意の籠った攻撃は……まさに『神業』だった。



「……だ」


「なに? 懺悔ならちゃんと」


「がっかりだ」


 

 俺は自身の剣を真横に払う。

 それだけで、女神は地面へと衝撃で押し出された。


 その顔に美しい顔には……無様な驚愕が張り付く。


 

「お前に『合わせてやってた』が、全力でそこまでか……がっかりだよ、女神」



 俺は地面へと着地。女神を一瞥する。



「あらそう」



 女神は……笑う。


 まるで…………『本命』はコレではないと、嘲笑うように。



「――――『神の断罪ジャッジメント』」



 瞬間。


 俺の身体が眩い光の柱に包まれた。



「高濃度の魔力を圧縮し生み出した神の魔法よ。か弱い人間が……神に勝てるとでも思った?」



 そうして、その光は爆発する。 

 極度の魔力を圧縮した魔法の爆発、そしてその使用者は神。

 

 静謐な神殿は一瞬で局地的な破壊を招き、爆炎と死滅を色濃く残した殺意の神の魔法は……俺の身体を包んだ。


 逃げる隙もなく、俺はその攻撃をまともに食らう。


 

「あーあ、私の神殿が滅茶苦茶。結構好みだったから処刑はしたくなかったケド……魔族の味方をするなんて神の反逆、見過ごせないわ」



 そして。


 女神の声・・・・が、聞こえなくなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ