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騎士と王子と守ったもの




「……后? 貴方は大会に敗れたのよ、ヘクタ王子」

「それは認められない。僕は王子だ、美しい君を娶るのは当然のこと」



 ヘクタ王子はさも当然だというように言ってのけた。

 ……生まれついての高貴な身分。それゆえの驕りが見て取れる。



「貴女はそんな凡俗と釣り合わない。僕のような王子が……」

「……嫉妬か? 王子様」

「口を慎みたまえ! 僕は王子だぞ!」

「…………キシム様?」



 俺は痛みと出血で眩む視界の中。剣を構え仁王立ち、明確に王子へ刃を向ける。


 ヘクタ王子はそんな俺をあざ笑うように白銀の鎧に提げられた長剣を引き抜く。

 正しい作法の構えで、お手本のような動作で。



「話が早くて足すかる。今から僕は彼女を賭けて決闘を申し込もうとしていたところだよ」

「それは違う、ヘクタ王子。俺は彼女を賭けたのではない。彼女を守るために、騎士として立ち上がっているのだ」

「キシム様! その傷じゃ戦えないわ!」

「あはははは! 僕も軽んじられたものだね。相当腕に自信があるとみえる!」

「俺の実力なんてたかが知れる……だが貴方を振り払うくらいの器量は持ち合わせているよ」

「その自信、蛮勇として語り継いでやろう。だが……忘れていないか?」


 

 そう言って彼は、顔を歪ませるように嗤う。



「既にこの国に僕の国の兵達が大挙として押し寄せている。しかも……モンスターの兵だよ、影の軍団さ」

「なっ……! そんな昼間に現れた魔獣も!?」

「その通り。全ては撹乱の為、魔獣を警戒させ本願である兵達の存在を隠したのさ! だから」



 俺はヘクタ王子の言葉ごと手に持つ剣で、首をはねるように攻撃を繰り出す。

 王子は素人でもないのだろう、これも定石通り白銀の長剣で俺の剣を受けた。しかし俺の攻撃に動揺したのかその顔には汗が滲んでいる。



「君は……人の話を聞くものだ」

「これは守る戦いだ、ならばお前は敵だろう」


 

 剣戟。

 鍔迫り合いなど許さない徹底した殺意。研ぎ澄まされた一撃ずつ王子を追い詰める。

 躊躇なく相手が何であろうと、次の瞬間には致命傷を与えられるような猛攻。

 一歩、一歩、相手を圧倒する。

 


「くっ。ファイアボール!」

「……っ」



 だが俺の攻撃は、ヘクタ王子が放つ火球により中断され、その火球は俺の剣を天上めがけてはねのけた。



「凡俗が! 魔法を扱えない三流が僕とお前の差」



 故に、俺は剣を棄て渾身の力でその甘いマスクを、殴りぬく。

 拳は顔面にめり込むように沈み、体重移動を加えた一撃はヘクタ王子を床に叩き落とす。

 王子は目を白黒させ自分の身に何が起こったか分からないといったように、理解できないというように恐怖を顔に表す。

  


「何を驚く必要がある。騎士が剣を棄てるのがそんなにおかしいか」

「……お、お前! 騎士ならその剣に誓いをたて」

「その誓いで今彼女を守れるものか」



 カランと音を立てて落ちる自分の剣を拾いあげ、起き上がることすらしない王子に剣を向ける。

 いい子いい子で育てられた温室育ちなど……手負いで十分だった。



「一撃で戦意を喪うとは……貴様の王子たる身分は遊びではないだろう」

「や、やめろ……! 優位性は僕にあるんだぞ! 一千を超える影の軍団が今この国を襲おうと!」

「だからなんだ。俺には関係ない」



 王子は言葉を失う。

 


「お前は……狂っている!!」

「いいや、それなら貴様だろう我欲に溺れた醜い統治者よ。国を襲う危機など、俺の役目でない」

「だ、だったら……進軍を僕は止めない! ははは! お前のせいで何十人の死人が出るんだ!」



 哀れな。よくも今までその化けの皮が剥がれなかったものだ。



「ほ、報告があります! 影の兵ですが!!」

「ほら、聞けよ。衛兵の絶望に満ちた報告を!!」

「たった『一人』が……全て城門にて迎撃しています!!」

「――――ばか、な」

「また迎撃から漏れた兵も……一人が全て対応しており……我が国に被害はありません!」



 俺は時間が止まったように、嬉しそうな報告をする兵を茫洋と見つめる王子の首元に刃を当てる。



「俺には関係ない。これは『仲間』の役目だ」



 ……信じていたぞ。ラギ殿、クーロン。






 ◇




「――――『神の裁きジャッジメント』」



 俺は高速で神域を発動しつつ城門前で、次々と現れる敵兵を広範囲で駆逐する。

 爆音と閃光が乱発する戦場。絶叫と圧倒的な制圧がここまでくるとある種の爽快ささえあった。

 

 一騎当千とは言うが……俺を苦戦させたきゃ……。



「桁が圧倒的に足りねぇよ雑魚共が」


 

 さて、もう残り100を切ったかな。




 ◇




「『睡深計測スリープモード』!!」



 自身の二回りほどの大剣を振り回し、ラギの撃ち漏らしを丁寧に屠っていく。

 身体も軽く動きのキレもいい。


 ラギから渡された『秘策』いや、秘薬……『媚薬』っていうから何事かと思ったら、こりゃ『催眠効果』のある薬だったな。

 一時的に身体を『睡眠状態』だと錯覚させてんのか……。


 

「剛刀『サイクロンドロップ』!!」



 俺は飛び上がり、大剣を何倍もの大きさにしてうじゃうじゃ湧く兵をぶっ潰す。

 局地的な睡眠状態ってのは奇妙だが……悪くねぇが……。



「おい! 美少女が大剣持って戦ってるぞ!!」

「あれ! あれ私がメイクしたのよ! ちょーくぁわいい!!!」



 ……せめて男の格好で戦いたかった!!




 ◇

 



「ま、待ってくれ……殺さないでくれ……!」



 己の策がすべて潰え絶望したのか、王子は助けを懇願する。

 ……俺としては、ここで命を潰えた方がこの者の為であると思うのだが……こんな場内で他国の王子を見せしめでは殺せない。

 暗殺ならばまだ殺せるが……そんな空気でもない。



「ならば許しを請うのはこの俺でなはい。彼女やこの城の兵はもちろん、国民全てに謝罪が必要だ」



 王子はがくりとうなだれ、兵に連行された。

 こうして企みが全て破壊されなければ諦められないとは、これではどちらが三流か分からないな。



「……っ!? キシム様!?」



 ……うん?

 身体に力が入らない、視界が何故か溶けて暗くなる。

 背後で絹を裂くような声が聞こえ、そういえば……俺は深手を負っていた事にそこで気づいた。

 ……こんな無茶、いつもなら絶対にしないのだが……あぁ、俺は存外。王子に怒りを滾らせていたのだろう。


 国の上に立つような人間が驕り我慾を満たすためだけに動くその浅ましさを……俺は騎士としてでなく、キシムとして許せなかったのだ。


 …………ああ。ここで終わりは口惜しいが、誰かを守れて死ねるのは……最期に騎士らしくあれて本望だ…………。



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