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技と知恵と開かれた扉




「ガァアアアア!!」



 魔獣はその巨体に合わない速度で、周囲に凶悪な被害をもたらす。

 俺に敵意はあるようだが、魔獣の目的は周囲の破壊のようで、俺からの攻撃を回避し僅かな反撃の後に家や店を破壊する。


 ズタズタになった露天の梁や、抉れた砂の壁、散乱する食材や野菜、瓦解したベンチ。

 まさに災害のようだった。



「……妙だな」



 俺はなるべく周囲の民衆に、その果敢に戦う姿を見せる為攻撃しては回避されを数回繰り返していたが……頭に一つの疑問が浮かび上がる。



「早く! あの男が引きつけている間に避難を!」

「ありがとう見知らぬ者よ!」



 兵や民衆は俺の立ち回りを勝手に解釈し、口々に感謝を言葉にしながら逃げてゆく。

 その間にも魔獣はただ破壊を続け、地面は割れ、被害は拡大しつつある。

 それが…………『妙』だった。

 


「なんで…………誰も死んで無いんだ?」



 瓦礫はある、残骸はある、どれもこれも災害のようなグチャグチャの有様だ。


 だが……それはあくまで建物や設置物等の『無機物』に限定されており、全く生物が死んでいない。

 これだけの被害をこの魔獣は出している、そして間違いなく俺が注意を引き付け撹乱する前から魔獣は居たのだから、この被害に巻き込まれた民衆が居て然るべきだ。


 なのに、この場には誰一人として死人がいない。

 何分か立ち回り、スキをみて周囲を確認したが血痕の一つもなく怪我人さえいない奇妙な光景が広がっていた。



「オラッ!!」


「グガァッ!!」



 俺は蹴りを魔獣の腹部に向かって放つ、しかしそれは魔獣の飛び退きで回避される。

 そして機械的に唸りを上げ、狼のようなその前脚から伸びる爪で俺を薙ぐように切り裂こうとした。


 重さは無いが充分に素早い攻撃、俺はそれを受け流して回避をする。

 だが、ここで追撃は来ない。

 あくまで狼型の魔獣は、無機物を破壊し続ける。


 

「…………目的が、ピンと来ねぇな」



 この魔獣は前回インナと遭遇した際に現れた種類と同じ、『信仰』の所有物。

 だが奴らの目的は強者の捜索だ、国内の破壊活動に勤しむ理由が分からない……。



「ま、そろそろタイムリミットだな」



 ……色々と考えたい事もあるが、これ以上戦闘を引き伸ばすのは不自然だ。

 

 俺は、それまで通りにまた魔獣に向かい、そして同じ挙動で他所を向く魔獣の腹目掛けて走り込む。



「グガガガアァアアアア!」



 魔獣は俺の行動を既に察知し、回避の体制をとる。

 これまで通りなら、俺の攻撃が間に合わずそれは簡単に回避され、殺る気の無い反撃が空を切るような展開になっただろう。


 俺は、回避行動を取ろうとする魔獣を狙うように右の足に力を込め。

 その右足の裏に…………レーネの神域を極小の範囲で威力抑えて発動した。


 身体が瞬間的に音を超える。


 キィィ、と空気を裂いて。



「グガァア……アァ……」



 俺の身体は魔獣の腹をブチ抜き魔獣は霧のように消え去って、加速はそこで終了する。  



「ふぅ、案外上手くいったな」



 超々限定的な神域の使用による『加速』。

 単純な発想ではあったが、その威力は絶大なようで、周囲を若干破壊しながらの攻撃になってしまった。


 まぁこれだけ壊れていれば、俺の攻撃の余波なんて些細なものだろう。必要経費だ。



「す、すごい……、あんな凶悪な魔獣を一瞬で……」

「おい! みんな! あの人が魔獣を倒してくれたぞ!」

「見ない顔だが誰だ!? あんな強さ見たことないぞ!?」



 …………ぐっ。

 民衆がこぞって俺に感謝を述べ、ある者は涙ながらに頭まで下げる。

 遂には俺を囲んで人だかりが作られてしまう有様だった。

 記者のような人にまで口々に詰め寄られてしまう。


 ……くっ、鬱陶しい事この上ない。ええい、俺の腕を掴むな!

 ……だがこれも必要な事だ……大会優勝の為の……!



「あはは、これも人の為です。皆さんが無事で良かった」



 俺はまうこれ以上ないくらいの作り笑いを浮かべ、充分に騎士団長キシムの名を売る。

 

 この人だかりの中には露天の店主もいたようで、礼をするからと金品や極上な肉を渡そうとしていたが、俺はその全てを断った。



「あれだけの功績残して礼も受け取らねぇとは……大した奴だな」

「身も心も清らかななのね……! 私もう感激で泣きそうよ!」

「あはは、その気持ちが俺への報酬と言う事で」



 ……名も売ったし、帰ろうとしても中々帰らせてはくれない。


 そして俺が無理矢理ここを突破でもさるかと本気で考え始めた時。

 俺の腕を力強く握り、引っ張る感覚があった。



「おい何してんだよ、もう行こうぜ」

「クーロン!」



 クーロンは面倒くさそうに俺を引っ張ってくれていた。

 ……助かった。

 俺一人じゃどうにも出来なかった、こうして第三者が連れ出せば周りの人間も諦めてくれるだろう。



「おい! 美少女が男装してるぞ!」

「みてあの子の肌超すべすべ! ねぇ君石鹸何使ってる?」

「ちょっと! 貴女絶対可愛いお洋服似合うと思うの! コッチにいらっしゃい!」

「やめろ!! 俺は男だ!!」

「「「はっはっは、ご冗談を!」」」



 …………あぁ、クーロンが女共にさらわれていく。


 助けを乞うように必死に俺に手を伸ばすクーロンだったが……。



「助けてくれぇえええええ!!!」



 残念ながら、俺の手は全然届きもしなかった。

 なんだ女どものあの速度……プロか? 人攫いのプロ集団か? 

 もう……見えなくなってやがる…………。



「めげるなよ!!」



 せめて、俺だけでもクーロンを激励してやった。


 でもな、俺……見たんだ。



「……一瞬、満更でもなさそうにしてたよな」



 女どもに攫われる際、口々に言われる男としてでなく女としての賞賛。

 男扱いではなく女の子としての扱いに……ほんの一瞬だが……俺の動体視力、今まで得た経験値の証は見ていた。


 クーロンの頬が若干緩んでいた事に。


 

「…………ちゃんと戻ってこいよ」



 俺は噛みしめるように、ゆっくりと呟く。


 しかし……その夜……。

 クーロンが宿に戻って来る事は無かった。

 命の心配は元よりしていないし、あれでも『信仰』のメンバーだ。

 水の女神はアイツの民衆を操るという目的を改心させる為と、まだ子供だからという理由で匿っていたが…………匿われるような実力でも無い。


  だが…………ある意味命を散らすより惨い事になっているのではないかと、俺はアイツの身の上に同情した。

 いや、女神の優しさを裏切ってあの国の大人を操った罰だと言えばそれまでだが……それにしたって、これはあんまりだろう。



「……ラギ殿、クーロンは無事だろうか」



 床に座り鋼の鎧を磨くキシムの顔は、なんとなくクーロンの結末を予想したのか哀しげだった。


 俺はベットに寝転びながら、大丈夫だろうと気休めを言う。

 


「まぁクーロンは残念だったが。それよりもキシム、明日は三回戦だろう? 鎧なんていつ使う?」

「……その件なんだが…………そうだな。これは言うべきだろう」

「……何かあったのか」



 キシムは俺に向き直り、その実直な眼差しを向ける。


 大分に真剣な内容のようだ。



「俺は今日、とある筋から情報を手に入れたんだが」

「それは信用に足るのか?」

「あぁ。物分り良い輩だ、俺が問い詰めて数分で話してくれたよ」

「…………何をして問い詰めたかは聞かねぇよ」

「……心遣い感謝する」



 俺はキシムの持ち物に『得体の知れない小瓶』があったのを思い返しながら、話を聞く。



「それで、その情報によれば。どうやら俺を妨害する者が居るらしいんだ」

「そいつの居場所までは、流石にか?」

「あぁ。上手いやり方だ、情報源を複雑化させ複数からアプローチしている」

「なら特定は難しいか……。んで? 妨害っていうのは大会の事だよな。正直俺のセレモニーの『宣伝』が要因な気がするが……」

「その線はある意味ではそうなのだろう。これは俺が優勝する事を望まぬ誰かの意志なのだから」



 現時点で、キシムの大会での評価はうなぎ登りだ。

 あの宣伝無しでも、教養のある所作に整った顔立ち、それに剣の腕も立つ。

 その長所に加え、今回の魔獣の一件であの王子すら評価を抜いたとも判断できる。


 いわば優勝候補筆頭に躍り出た訳だ。狙う理由としては十分過ぎた。



「これ以上の大会参加は、明確な妨害が発生し危険もある。だから」

「だからお前と離れて行動しろと? 馬鹿を言え」

「危険が伴うんだ。巻き込む訳には」

「だったら俺からの誘いを受けた段階で断るべきだったな。ここまでくれば何をしようが手遅れだ。だったら最後まで一緒に居るのはおかしな事か?」

「…………かたじけない」

「謝るなよ、仲間だろ」

「ラギ殿……」



 キシムは俺の言葉に何か感じ入ったのか、緊張を浮かばせた顔を綻ばせる。

 


「次の戦いも、必ず勝ち抜いてみせよう」

「あぁ。火の粉は全部払ってやるから気にすんな」



 そして、俺達は固い握手を交わした。

 強い決意を表すようにガッチリと。


 この握手は、今まで感じた事のない何処か泥臭さを感じたが、不思議と不快には思わなかった。

 今まで周りは女ばっかだったからな、こういうのは新鮮だ。



「…………ん?」


 

 ふと。俺はドアをノックする音を聞き取る。


 握手を解いて、ドアノブを引くとそこには……フードを深く被った妙齢の老人が立っていた。



「貴方は……大会の……!」



 後ろで驚いたような声を上げるキシム。


 老人はその声を遮るように。



「…………くれぐれも、お静かに」



 と。ガラガラと乾いた声で懐から一枚の羊皮紙を取り出し俺に差し出す。

 あせた色のその紙にある文字を読み。


 俺は思わず声を出してしまう。

 


「…………バカな、こんなの『早すぎる』!」



 差し出された紙に書いてあった文字はある程度は予想はしていた。


 だが……タイミングがはやすぎる……!

 大会が始まってまだ二日しか経過していない……!!

 

 老人は俺の驚き唖然とする反応を見届け。



「キシム様。優勝おめでとうございます」



 と。


 紙に書かれた文字を読み上げ、小さく拍手をした。




まだ評価をしていないという方で 


『主人公ええやん』『女の子可愛いやん』

『先が気になるやん』『挿絵ええやん』

『男の娘ってホモ?貴様死にたいのか……!?』等、思った方は


ぜひ↓にある『ポイント評価』を、その場の勢いで、最大評価をお願いします。

一日1000善くらいの効果があります。


あと、感想もお待ちしてます。具体的に私の励みになりモチベーションに繋がります。


もうそれ全部やったよーという方。


たぶん来世はソロモン王です。おめでとうございます

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