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淫魔と影とその力


「菊蘭ちゃんは回避に専念して! 私が隙探してクーロンに一撃喰らわせる!」


「分かった!」



 私はゾンビのように迫りくる大人たちを身体捌きでいなしていく。

 次々と人数はやってくるがどれも攻撃は回避できない程じゃない。


 ラギ師匠や、私の面倒を見てくれたあの太夫さんのお陰だ。



「へぇ。そっちの足手まといは中々やるじゃねぇか……っと!」



 クーロンは背後から現れるインナちゃんの延髄蹴りを見越したように回避、すぐに操る大人達の中に隠れる。


 

「くそ! ちょこまかと!!」


「無駄だ! テメェらが俺の肉壁らを殺さないあまあまプレイでよぉ! 俺に攻撃が届くかよ!」



 インナちゃんも私も、攻撃は全部致命傷にならないように。

 影の能力も、縛るくらいにしか機能していなかった。


 それ故に攻撃方法は単調になって、せっかく訪れるチャンスもことごとくが失敗する。



「ほらほらこの空間が夢になっちまうぞ! 雑魚共が!」


「ふっ、くっ! そんな安い挑発するくらいだったらカウントダウンでもしててください! そっちのがよほど有意義です!」


「菊蘭ちゃん! あの大技発動するには時間がかかる! まだ気にしなくて……」



 と。

 クーロンは、この戦場に笑い声を響かせた。 


 面白くて仕方ないといった、余裕に溢れた声。笑い声。

 


「おい、おいおいおい! もしかしてまだ時間はあるってか!? 傑作だな雑魚共!!」



 攻撃を躱す、いなす、無力化をする。

 それでも現れ続ける。何度も何度も倒してもキリが無かった。


 包囲状態は徐々に狭まって、インナちゃんもクーロンの攻撃よりも、どうしても私のサポートに回ってしまっている。



「既に準備は『貴様らが来た時から』やってんだ! そうだな――――」



 ごめんね……その気持ちがあふれる。

 インナちゃんがいなかったらとっくに、私は倒されてる、何も出来ないで終わってる。


 焦りが募る、まだか。チャンスはまだかと焦燥感が胸を焦がす。



 時間、時間……残りは何時間? ……いや、何十分……ですか……!


 

「――――残り『3分』だ」



 3分。180秒。


 それがタイムリミット。



「夢を操る俺が、最高のフィールドで葬ってやるよ!! それが嫌ならそれまでに俺を倒してな!!」



 戦況は……防戦一方だ。


 息も上がる、動きも鈍る、ここまで戦闘を経験したことも無かった。

 苦しい、苦しい、苦しい、傷も増える、攻撃も喰らう回数も増える。



「危ないっ! 菊蘭ちゃん!」


「……っ、ありがとインナちゃん!」



 インナちゃんに助けてもらいながらの戦闘。


 自分の無力さを痛感する。でも戦況は抗戦に転向することはありません。



「ほらほら残り『1分』!!」



 1分。残り60秒。


 私は目の前の攻撃を防ぎきるので精一杯で、インナちゃんも隙を見て攻撃もすることも無くなって。

 時間は過ぎていく。一秒、一秒が、焦りを募らせます。


 しかし私は動くのを辞めません、最期の力を振り絞って、全身の痛みと苦しみに耐えます。



 すると。



「――――はい、時間切れ」



 タイムアップは簡単に、訪れました。



「あはははははははは!!!! 世界を塗り替えろ! 『睡深測定スリープモード』!!!」



 周囲のモノの輪郭がおぼろげになって。

 

 莫大な魔力の波動をクーロンに感じて。


 その『夢の世界』は顕現したのだと確認して。



「先ずは、防具『パーフェクトギガント』! こいつは絶対に壊れない! そして武器は魔剣『グラティクル』! こいつはどんなモノも切断できる! さらには」



 ――――私は。



「――――ふふっ、可愛いですね」



 と、禍々しい武具に身を包むクーロンを、子供をあやすように言います。


 私の態度を不信がっていたのか、それろも強い武具の紹介を邪魔されたのが気に食わなかったのか、クーロンは苛立ったように睨みました。 



「あぁ? もう終わりだ、その調子乗った態度すらできなくさせてやるよ」


「果たしてそうですか? まだ何か見落としている事はありませんか?」


「何もねぇ、死ね。召喚――――『魔龍ブラックドラゴン』」



 空を埋め尽くさんとするような漆黒の竜が、出現します。

 その牙は全てを貫く様に鋭く、爪は鋭利に、何もかもが絶対的な力を感じる見た目でした。


 数多の兵と最強の武具と凶悪な竜が、敵として立ちはだかっていました。



「後は任せて……インナちゃん」


「うん。後は宜しくね、バトンタッチだ」



 私とインナちゃんはハイタッチを交わす。



「――――さて、今日も世界をちょっと幸せにしちゃおうかな」



 暗雲に隠れていた月が、その姿を現します。 

 そうして『私の姿』もまた、その光に照らされ……白日の下に晒されます。

 


「き、貴様……なんだ、なんだソレは・・・・・・!!」 



 クーロンは目を剥いて、叫びました。

 まぁそうでしょう、気付いたら……。


 大人達が全員縛られているのですから。



「――――『影縫糸』。影の糸を用いた……とある『糸使い』の技の応用です」



 あの人の糸術は戦闘技術としてしっかり私は学んでいました。


 技の精度は遠く及ばないけれど、『今の私』ならば……そしてインナちゃんの影との協力で、あの妙技に近づける事でしょう。


 

「糸だと……!? いや、いや違う!! それよりも、なんだその姿は!!」


「これですか? ふふっ、では――――問題です・・・・。私の正体は何でしょう?」



 私は、待ち望んだこのフィールドで……攻勢を開始します。



「『ヒント』。私はこのフィールドを待ち望んでいました――――『灯篭』」



 魔龍の体は一瞬にして影の糸に絡めとられ、その行動の一切を封じられます。

 

 いかに暴れようとも、複雑に絡まった糸からは一切逃れることなどできません。



「『ヒント』。私とインナちゃんの目的は、『夢の世界』になるまで耐える事――――『赤蜘蛛』」



 糸は一気に収束。鈍く光る鱗も鋭い牙も、分け隔てなく切断され細切れになります。

 竜はその姿を煙の様にして消えました。


 しかし、クーロンに襲う『恐怖』は消えずにその濃度は増していました。



「き……貴様…………『淫魔サキュバス』か!!」


「大正解です。魔法少女……いえ、魔法熟女マジカル☆きくらんとは私の事です」


「ふざけた事を……!!」


「ふざけてなどいませんとも。……夢魔とも呼ばれる私に、こんなご褒美のようなフィールドを用意してくれるなんて。ありがとう御座います」



 と、私は拍手をもってその功績を讃えます。


 ――――夢の中というフィールドで『充分に成長した自分の身体』は、もはやこんな最強如きでは止まらないでしょう。


 若さを捨て熟女レベルまで育ってしまいましたが、たまには良いものです。



「ツ!? な、なんで、なんで俺の武具が消えるんだよ! 俺は、俺のスキルは夢を操るスキルで!」


「あら、既にこの場は『掌握』しましたよ。それに……『吸収ドレイン』は、サキュバスの十八番でしょう?」


「くっ、雑魚が……雑魚のくせに貴様ら!!」


「ふふっ、強がって可愛らしいですね。少しイジメたくなっちゃいます」



 私は……この形態だからこそ完全に支配下においた『呪い』を駆使します。


 それは、『催淫』。

 淫魔の基礎的な能力にして、相手を魅了し意のままに操る力。


 夢の中で、更に淫靡な夢を見てもらうと致しましょう。



「良い淫夢ゆめを……見てくりゃれ?」



 クーロンは桃色の瘴気に包まれて、眠りに落ちました。


 ついでに糸で縛っておきます。

 目が覚めても何も出来ないよう、念入りに。



「おつかれ! 菊蘭ちゃん! いえー!」


「おつかれです! いえー!」



 私はハイタッチを交わして、勝利の喜びを噛みしめました。


 

「良かった……私も、友達を守れました……! インナちゃんが助けてくれたおかげです!」


「何言ってんの! 菊蘭ちゃんが頑張った結果だよ! だけど……」


「だけど?」



 インナちゃんは縛られたクーロンや、大人達を見て頬をぽりぽり掻きます。



「何でみんな亀甲縛りなの……?」


「縛り方これしか知らないので……」



 ……だって、あの街のみんな教えてくれるのこんな縛り方ばかりなんですもん。

 

 

「でもどうしましょうかね、コレ」


「菊蘭ちゃんの身体のこと? そういえば術者が戦闘不能なのに元に戻ってないねぇ」


「これはじきに戻るでしょう。呪いを全力で解放してるのもあるのでしょうが……そうでなく、この大人たちです!」


 

 亀甲縛りで放置された何十人の大人達という光景は、ともすれば精神にダイレクトダメージ喰らいそうな有様です。



「子供たちは眠っているとして……こんなのラギさんに見られたら怒られ……」


「誰に見られたらって?」


「ぎゃあああああ!! 『影縫糸』っ!!」


「無駄だ」



 私の猛威を振るった影糸も、ラギ師匠は綿あめのように引きちぎります。


 その地獄の様に悪い目つきと、尖がった精神を表しているかのような黒い髪。

 やはり……この人は強さの次元が違います。 


 今の私が全力でも、ようやく戦闘になるかどうかといったところでしょう。



「ったく、夜中に何してんだ……なんだこの地獄。それと何だよお前のその姿」


「いやぁ色々あったんですよ。ところで師匠」


「なんだ」


「どうして少し、前かがみなんですか?」


「…………寝違えた」


「へぇええええ? そうですかああああ?」 


 

 私はこの成熟ボディを余す事無くぴとりとくっつけます。


 ラギ師匠は目を合わせてくれませんが……。



「そうですよねぇ。呪いの力も全開で、私も淫魔の力が覚醒してますし……。ふふっ、私と一緒に気持ちいい事します?」


「するか! 弟子は大人しくしてろ!」


「私はシちゃうのは構いませんよ、師匠の事好きですし。嫌じゃないですけど? ほら絶対気持ちいですって、極上で色町の華、本気の私の魅力は国を堕とすほどだってバロン様も言ってましたし技は修得済みですよぉ?」


「うるせぇ! 離れろ!!」


「はわぁ……アダルト菊蘭ちゃんマジアダルトだよぉ……こいつは18禁だよぉ……!」


「ほらほらラギ師匠、ええのんか? ここがええのんか?」


「やめろ! レーネもルシフもこっち向かってんだぞ!」


「良いではないか良いではないか。そんな都合よく来るわけないです、3秒あれば一瞬ですよ!」



 インナちゃんは、あ、フラグだ。とぼやきます。


 そのすぐ後でした。新しい声が増えたのは。



「ああああああああああッ!!? 亀甲縛りの群れ!? ラギがなんかやたらエロい女に襲われ……なんでちょっとラギは嬉しそうなのよおおおおおおお!!!! ざけんなコラァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


「えー、いやそんな地獄が私の国にあるわけうわああああああああああああ!!! 亀甲縛りの大群とアダルトな女性がラギさんとアダルトなモザイク必須の攻防を!!? 私の国が18禁でモザイクかかってますううううう!!?」



 ――――あ、やばいですかね?



「菊蘭……そろそろ覚悟はいいな?」


「……菊蘭ちゃん。南無」


「インナちゃあああああああああああん!!!」



 教訓。


 あんまり調子に乗らない。



 by、魔法少女マジカル☆きくらん 


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