情報と観光と水の都
「ここが、私の国『ルリラン』です」
転移先で俺達を迎えたのは、水の女神ルシフと。
美しい水の都だった。
「すげぇ……綺麗な国だな……」
白壁の家々や、あちこちにある水路、その上を木彫りのボートで行き来する商人に、心地よい温暖な気候。
水と人々の生活が見事に調和した素晴らしく清廉で……心が洗われるような国だった。
「インナちゃん……この国、ロリとショタが多いですね?」
「たぶん、そういうのがウリの国なんだよ」
コイツらどうやって送り返そうかな。
「子供達が多いのは、今はまだ大人が寝ているからですよ」
「DVですか!? いや、これは家庭、いやさ国の闇ですね」
「やばいよ菊蘭ちゃん……この国闇を抱え込んでいるよ……」
あ、ルシフの目が一瞬強張った。
……こんな母性の塊みたいな人こそ、キレるときは怖いっていうもんな。
「すまんルシフ、事情をあまり説明せず持ち込んでしまって」
「ちょっとラギ師匠さん! 私達をモノ扱いってどういうこと!」
「邪魔モノ扱いって言った方がいいか、俺達は観光しにきたんじゃねぇんだぞ」
「でもラギ師匠、アレ見てください」
「なんだよ」
「ちょっとちょっと! 見て超綺麗! あ! あの果物もめっちゃ美味しそうなんですけどー!」
「……『神の裁き』」
「のわああああああああ!!!」
俺ははしゃぐ駄女神に遺憾なく能力を行使する。
ここはレーネの神殿外だし、威力が減少されているのが口惜しい。
「はぁああ!? いきなり使うそれ!? というか、なんで使えるのよ私の『神域』!」
「お前と一緒に暮らしてんだから、ある程度俺にも信仰の恩恵があったって事だろ? まぁ今試したワケだが」
「返してよ私のアイデンティティ! ねぇそれ被るといよいよ私女神じゃなくなっちゃううう!!!」
「黙れ! 元から女神らしくもねぇテメェが言うな!」
「まぁまぁお二人とも落ち着いて。それに、観光くらい良いじゃありませんか。情報収集もかねて、という事で」
「その通りよ! やっぱり話の分かる女神は違うわよねぇ、誰かさんとは大違いなんですけど!」
くっ、なんだそのあからさまな顔は……殴ってやろうか。
……しかし、ここでドンパチやりにきたワケじゃない。
大人になろう。俺。
「あー。それじゃ各自、情報収集として聞き込みして来い。ただし、大人からは聞くな。理由は分かるな?」
「え、なんでですか?」
「え、なんでなの?」
「は? なんでか分かんないわね?」
全滅だった。
こいつら全員帰すかもう。
「あのな。子供の方がよく大人を見ている事だろう、それに情報が事前に収集してあったが、その対象は全て『被害者』つまり大人だけ。そこを調べても新発見はない」
「まぁ! 凄いですねラギ。よもや一瞬でそこまで考えつくなんて、お母さんは驚きましたよ」
「ふふん! そりゃ女神たる私を倒した男だもんね!」
「へっへーん! 私の能力を無効化までした人だもん!」
「まあ? 私の師匠ですし? それくらいは当然ですね!」
なんでお前らが得意げなんだよ。
「私は神殿に戻って少々休息をとるので参加は出来ませんが……それでも、良き結果になるよう祈っていますね」
「働きづめなのか?」
「えぇ。お母さんが傍に居られない寂しさもあると思いますが、頑張るのですよラギ」
と、またもや抱擁をされ、溢れんばかりの肉体を押し付けられる。
確実に窒息しそうな圧力と物量なのだが、一切苦しくなくむしろ心地よいこのテクニックはなんだろうか……。
「――――はい、そりゃあああああ!!」
「のわっ!? き、菊蘭!?」
俺は菊蘭に無理やり引っ張られ、正気に戻る。
「あら、残念ですね……」
「ラギ師匠は私の師匠なので! 息子である前に師匠なので! 駄目です! 近親相姦には至らせませんよ!」
「そこまで発展するかよ……てかそもそも血縁関係なんてねぇよ」
「ラギ。お母さんというのは、血縁関係がなくとも成立するのですよ。つまり義母です」
「おぉ! 義母ってなんかエッチっぽいね!」
「待ってくださいインナちゃん! 義母は大体NTRが多いと私の読書家としての知識が反応しています! このままじゃ師匠はバットエンドです!」
「どんな知識だよそれ!! いいか! 情報収集は二手に分かれるぞ! インナと菊蘭、俺とレーネだ! 夕方にここで落ち合う! 分かったな!」
「へっへっ、了解ですよ師匠ぉ。しっかりやりまさぁ、幼女なんて私にかかれば一瞬でさぁ」
「つまりはロリやショタ共と接触すればようござんすね? げっへっへっへ」
「なんのキャラだよお前ら……犯罪臭を漂わせるな。ったく、ほらちゃっちゃと行って来い」
「「はーい!」」
俺は盛大に不安の残る組にいくらかのおこずかいを渡してから送り出し、ルシフはそれを微笑みながら見守って転移した。
後に残ったのは、俺とレーネの二人だ。
「よし。それじゃ聞き込みを始めるぞ」
「ねぇ。ラギ! 私お腹空いたんですけど!」
「あ? なんだテメェ」
「はぁ!? 私がお腹空いたって言ってんのよ!? まだ朝食も食べてないのよ!? 貢物あって然るべきよ!」
「うるせぇ! そんなん情報収集が終わってからだ! ……と、言いたいところだが」
「え!?」
「……実は俺も、菊蘭の稽古で朝から何も食べて無くてな」
レーネは顔を花園の様に綻ばして、俺の手を取る。
「な、ならすぐ行きましょう今行きましょう! ほらほらあれなんか美味しそうよ!」
「あ、おい、待て! そんな慌てんなって!」
「あははっ、ほら早く早く!」
「ったく、はしゃぎすぎかよ」
……俺は、1週間くらい水で生きていけるし、朝食抜いたくらいで何とも無い。
だが……レーネは今回の件に関してやる気を見せている。
そのやる気は、今後いつ発揮されるかわからないものだ。
だったら、少しくらいその頑張りを汲んでやるのも、屋敷の主としての務めだろう。
「さ、じゃんじゃんお店まわるわよ!」
「目的忘れんなよー! あ、おい、手ぇ引っ張んな転ぶだろうが!」