詰問と信仰と女神
「さて。それでは今から拷問、および詰問を始める」
魔王はそのプレッシャーを遺憾なく発揮し、カーテンで遮光された部屋で無慈悲に執行を言い渡した。
部屋の中央に置かれた椅子には、容赦なく縛り付けられたターゲット。
「なんで……俺なんだ……」
そう。俺が思いっきり縛られていた。
菊蘭や女神はもちろん、タキシードの女までいる。
「被告人、我と共に死ね」
「弁護の隙もないのか!?」
「安心せよ、お前も殺して我も死ぬ」
「世界で一番安心できねぇ言葉吐くんじゃねぇよ!」
くっ、どうしてこうなった!
屋敷にあの二人を連れ帰った瞬間この有様だ!
「被告人、何か言い残す事はあるか」
魔王は冷たく俺を睥睨してる
「やっちゃえー! ガツンとやっちゃえー!」
女神はそれはもう煽る煽る。
「魔法少女は大人も楽しめますから! 楽しめますから!」
菊蘭は謎の援護射撃で魔王を後押し。
「え、これ、なん……え? これいいの?」
女だけが常識的な反応を示してくれた。
もうその反応だけで、今までの全部許せそうだ。
「……り、理由を、理由を聞かせろ」
「理由だと? はっ、地に堕ちたな被告人。よもやそこまで貴様の目が曇ろうとは思わなんだ」
「いや言われなきゃ分からねぇよ」
「だまらっしゃい! いいかよく聞け被告人、我は、我は怒っている!」
ダン、と、床を踏みつけ怒りをあらわにする魔王。
「今日新しい肉便器候補を連れてきたとおもったら、また新たな性処理用美少女か!? 節操がないだろうが!!」
「え、魔法少女的に18禁はその、同人誌でやてもらいたいといいますか……」
「え、私いまから犯されるの!? なんで!?」
「見てみろ! 貴様のせいで処女が泣いておるわ! いや、今から鳴かせるのか! 嬌声という名の鳴き声を!」
「上手い事言ったみたいな顔してんじゃねぇぞ! 誤解だ誤解!」
「だったら何故連れ帰ってきた! 菊蘭はともかくとして、その仮面女は別にリリースOKであろう!!」
「こんな危ない奴、兵士にどうの出来るかよ! 屋敷内ならある程度戦力があるし下手な行動も出来ない!」
「はい我それ認めぬー! 認めぬからー被告人は我と一夜ならず連続して夜を共にし温かい家庭を持て! それが罪の償いだ!」
「お前それ押し通したいだけかよ!?」
くっ、全方位敵しかいねぇのか!?
「まちなさい、今まで散々煽ってきましたが、それは流石に女神として見過ごすわけにはいきません」
「あぁ? 我に楯突こうというのか? ダーリンのセフレ如きが、肉便器に敵うとでも思うたか」
「黙りなさいクソ魔族。私はセフレだけどセフレみたいな心境でもないのよ、ラギの事別に好きでもなんでもないもん」
「そりゃそうであるな、所詮身体だけ。心まで通わぬ、お前なぞ真の仲間ではないわ!」
「あーっ!! それ一番ひどいんですけど! 真の仲間じゃないってどういう事よ! 女神を裏切るっての!?」
「だいたい貴様は、ただただ何一つとして仕事をせず、ダーリンに付きまとうだけではないか!」
「ちーがーいーまーすー! 私だって屋敷に結界貼ったり、モンスターが近寄らないようにしーてーまーすー」
「ハッ! その程度、赤子でも成せるわ! 笑わせるなよ、ダーリンハーレムに加入しなければ共に歩めぬ事と知れ!」
「ハーレムなんて私が見過ごせるわけないでしょ! 私好きな人には一途に見て欲しいタイプだし!」
「器量が知れるな! 女ならば妻として一番でなくても、あああ! でも我の雌の部分が、一番見て欲しいのぉおおおんほおおおおと言っておる!」
「そらみなさいほらみなさい! 女神たる私の言い分が正しいと立証されてたわね! 所詮肉便器、性解消用の道具だこと!」
「なにおおおおおお!!」
「なによぉおおおお!!!」
「…………菊蘭、縄解いてくれ。それと女、菊蘭と一緒に俺についてこい」
二人は素直に俺の指示に従ってくれた。
話の脱線に脱線を繰り返した、魔王と女神は部屋に残して、俺達は不毛な争いの現場から離脱する。
「……すまんな。仮面女、色々と情報も持った謎の奴なのに……キャラ殺しちまって」
「私でもびっくりしてるから大丈夫だよ」
「まぁ気を落とさないでください二人とも。最悪、私の手にかかれば男でも女でも天国行きです」
菊蘭は、はげますようにグッとサムズアップをする。
超サキュバスだからって常に性欲方面で応援しなくてもいいんだぞとすら、つっこめない。
「まぁなんだ、とりあえず食堂で話を聞こう。何も出せないが、悪いな」
「え、私もしかしてもてなされてる?」
もう面倒すぎて、敵である仮面女の扱いも雑である。
今から真面目にとか無理難題だ。
俺は食堂へ行き、適当な位置に仮面女を座らせ、その対面へ座る。
菊蘭はちょこんと、仮面女の隣に座った。
まだ俺がこの女に何かすると思っているのだろう……だが、もうそんなやる気は失せた。
聞く事聞いたら放流だ。
それで悪さおこして俺の行動を阻害するようなら、今度こそ屠る。
「それで、テメェの目的とどんな『組織』に入ってるか言え」
「っ!? どうして組織の事を」
「お前は魔獣を借りた、と言った。そっからもしかしてと思っただけだ。別に嘘偽りを離してもいいぞ、俺の能力で全て看破できる。嘘だと分かった瞬間殺す」
「…………」
女は割れた仮面から覗く、藍色の瞳を訝し気に細める。
もちろん能力についてはブラフだが。
今のコイツにそんなブラフを看破する、リスクは背負えないだろう。
この状況下で、そんな危険行為に出られる奴は、そもそも俺の屋敷内で大人しくしていない。
「……私は、信者なの。その信者の中で集められた組織の一人」
「組織の人数は」
「4人……私含めて4人。組織の名前は『信仰』」
信仰……えらくシンプルな名前だな。
なにか深い意味があるのか、それともどうでもよかっただけか。
なんにせよ、バックには女神が居る事で確定だ。
「信者って言ったな。何の信者だ、『火』『風』『土』『雷』『水』『光』『闇』。この七人のうち誰だ」
「その誰でもないよ、その七人はむしろ私達の敵でさえあるかもね。少なくともその女神たちは、私の信仰する女神を仲間だとは思ってない」
「七人目以外の……女神か……」
女はこくりと頷く。
「八人目の女神、『無の女神』。それが私の信仰する女神だよ」