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祝福と魔法少女と決着


「ガッ……ぐっ、どう、して!?」


「どうしても何も、簡単な事だ。お前の問題……お前自身が殺される寸前までいたぶられれば、嫌でも情報と救助をしたくなるだろう」


「ひっ……!」



 絶対命令権は、十全に効いているようで、女はもう背後には現れない。


 ただ底なしの絶望を目の当たりでもしたのか、最早殴られ立ち上がる事さえせず、子供の様にただ恐怖に怯えていた。



「も、問題。私の能力が発動しないのは、何故でしょーか」


「しいて言えば、女神からの祝福、と言っておこう」



 土の女神からの祝福。


 それはつまりそのまま、『女神の加護を受ける』事に他ならない。そしてそれは『奇跡』を意味する。



「女神様からのキスなんて、最高の祝福だとはおもわないか?」



 間接キスは、少なくとも俺が能力を使えるくらいには。

 加護で一時的に使用可能になるくらいには、『奇跡』は起こったのだろう。


 それを見越しての土の女神のあの行為だと……ようやく気付けた。



「なに、それ……意味わからない!」


「分からなくていい、ただお前はその情報とやら吐いて、救助とやらをする前に死ななきゃいいんだ」



 俺は既に戦闘意欲も無くなった女に近づく。

 

 もう能力は使えない。

 しかし完全に使えていたわけじゃない、おそらく時間経過で再度使用可能になるだろう。 



「問題。今から行われる拷問で、お前はいつまで持つでしょうか」



 そうなる前に。まずは生きたまま、何かをもぐ事から始めようか。

 


「い、いや、助けて……助けてええええええ!!!」


「ちょっと待ったぁあああああああ!!!」



 勇ましい声が。俺と女以外の声が、響いた。


 その声の主は身軽な装いで、全速力で、一心不乱に俺と女の間に立ち。



「悪も暴力も許さない! 正義の魔法少女マジカルえええええええええええラギさぁあああああああああん!!!!?」



 超サキュバスは、絶叫した。


 

「あ、悪落ち……展開ですか……ッ!!」



 ギリィッ! と、歯を食いしばる菊蘭。


 さながら魔法少女が親友のクラスメイトと戦わなければいけないシーンのように。



「残念だったな。俺は元から悪側こうだ」 


「クッ! それでもいけません! 大丈夫ですか、そこの女の人!」


「私を……助けて、くれるの……?」


「勿論! だって私は愛と正義とあと……」


 

 まだ肩書が決まっていないようだった。



「そう、あと金! 愛! 正義! 金! の魔法少女なのだから!」



 さすが色町出身、金が必要だと言う現実的な側面を忘れていなかった。



「おい、言っておくが、そいつはこの冒険者やら兵士やらを手にかけた悪者だぞ」


「え!? マジですか!?」


「う、うん……」



 しかしその事実を確認したのにも関わらず、菊蘭は両手を広げ、女を守る。


 

「だったら尚の事駄目です! 悪い事をしたらお仕置きじゃなくて、まずはきちんとごめんなさいです!! こんなのただの暴力です!」


「それは綺麗ごとだ」


「それでも! 誰かがそうやって片付けちゃったら、誰がこの子を守るんですか! 悪い事をしたら謝って仲直りして! それさえしてあげないのは巨悪です!」



 純真、純粋。あまりにも、何も知らなさすぎる理想論。

 だが、菊蘭の言葉は……俺が発せない、もう言えない言葉だった。


 その姿が。幼馴染アイツと被る。



「だが、残念だったな。俺は巨悪でも構わない。どけ菊蘭」


「退きません! あ、ちがう。逃走どきません!!」


「ちょっとカッコよく言っても何も変わらんぞ」


「私はこの子の味方です! さぁかかってきなさいラギさん!」


「ほう?」


「さあて、今日もまた世界をちょっと幸せにしちゃおうかな!」



 なんだろう、ドヤ顔で言ってるが決め台詞だろうか。


 

「しちゃおうかな!」



 あ、俺が反応しないから二回言った。


 コイツ、シチュエーションを大切にするタイプだな?



「ならかかってこい、死ぬ気でな」


「え、待ってください! なんでそんな本気なんですか! ほら私仲間! 昨日助けてもらった! あと手加減とかは!?」


「絶望を教えてやる」


「いやああああああ!! ラギさんラスボスうううううううう!!!」



 魔法少女はそれでも果敢にその場に踏みとどまり、戦おうとその右こぶしを俺に放った。



「あ」



 そして誰が、攻撃が空振りしその反動で転んで……守ろうとした女の頭にしこたまぶつけて両者気絶なんて展開になると思うだろうか。

 正直、その空回り方には同情した。


 ……一応両方持って帰るか。


 倒れた奴らは……まぁ、なんだ、強く生きて欲しいと思う。多分土の女神あたりがなんとかしてくれるだろう。


 俺は二人を担いでのうのうと帰宅した。


 道中でめっちゃ人に見られたが、まぁ仕方ないこれも師匠の仕事だろうと、無理やり自分を納得させる。



 恐らく魔法少女の初戦であろう戦闘は……こうして自滅で終わったのだった。




 ◇



 私は、退屈な神殿で暇を持て余す。


 ぷらんぷらんと、玉座みたいな椅子から脚を投げ出して……それでもこの退屈は消えそうにない。



「暇だなぁ、退屈だなぁ」



 こんなにも女神が退屈なものだとは思わなかった。


 『8人目の女神』


 その肩書は、私のものになったけれど女神になってもずーっとずーっと、渇くような退屈感は変わらない。


 つまんない、つまんない、つまんない、つまんない。


 もう大陸とか一個無くなっちゃっても良いと思うんだけど、それはさすがに女神としてはやっちゃいけないんだろう。


 女神連盟に加入したかったけど、満場一致で断られちゃうし……。

 土と光の女神は居なかったから、もう一度裁決してくれないかな、本当……。


 

「全員殺そうかな」



 ああでも我慢、我慢。……って、あれ。

 

 どうして我慢しなくちゃいけないんだっけ? ああそうだ私女神になったんだった。


 どうでもよくて忘れちゃった。

 そうかそうか、でも女神になったからって、お行儀よくしてないと駄目なのかな。


 いいやこれはもういいよね、だって私八人目だし。イレギュラーって事で、多少のヤンチャは許されちゃうよね。


 だって退屈なんだもん、つまんないんだもん。


 いくらこれが『夢』の為だからって、やっぱりつまらないのはつまんない。


 だから殺そう。でも一気に全員は駄目。

 私がどれだけ強いのか分からないけど、流石に全員は勝てないと思うから。

 

 

「そうだね、先ずは。信者さんたちに頑張ってもらおうかな」



 信者さんの中でも、優秀な人を集めた『集団』を作った。

 その人達は私の夢の為にたくさん働いてもらおう。


 もしかしたら、もう既に『行動』してるかもしれない。


 そうだったらうんと褒めよう。真面目なのはいい事だもんね。



「よーっし、頑張るぞー」



 さあて。世界を幸せにしちゃいましょうかね!









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