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常識と有能と訪問者


 翌日。


 昨夜の騒動の疲れや傷も癒えないまま、眠りについていた俺であったが。


 目が覚めると。



「すややー……すやすや」



 隣に裸の魔王が居た。


 いやまぁ、これくらいは想定内。コイツならやるだろう。



「むにゃむにゃ……いやもう美少女だからぁ」



 右隣が魔王なら左隣は女神の姿だった。


 ……これには少しばかり閉口するが、まぁこんな事態もあるだろう。


 身体の怪我も治っているし、女神が魔法で治したついでに寝ていったと考えられなくもない。



「おや、お目覚めですね。お体の具合は如何ですかラギ様」



 だが。


 ベットの横で、マグカップを二つ持ったクルイスは……一体どういう事だろう。

 夢……じゃ、ないよな……。



「クル、イス……本物か……?」


「えぇ」


「……ありがとう」 



 思わず感謝の気持ちが出ていた。


 白いカッターシャツと黒のズボンというラフな格好で、二つのマグカップからは温かそうな湯気が出ている。


 少し遅めの起床、そこには目覚めを見越した温かい飲み物。

 

 ……普通だ、あぁ。常識だ……っ!



「ありがとう」



 二の句が継げぬとは言わせないし言えない。ありがとう、普通……ようこそ普通。


 常識人クルイスの存在は回復魔法では癒せない精神の回復には欠かせない。


 

「……心中お察しします。よければご一緒に珈琲など、如何ですか?」


「ありがとう」



 感謝の心が満ちていく。


 なんだこの手の行き届いた配慮は。

 魔王の補佐官という地位に恥ずかしくない辣腕、是非……是非俺のパーティに入って欲しい。



「なぁ。クルイス、俺と一緒にならないか?」


「ラギ様のパーティにという事ですね。しかし私にも請け負うべきタスクが御座いますから」


「そうか……俺はお前が欲しいんだがな」


「そのお気持ちだけで大変光栄に思いますよ」


「だが気が変わったらいつでも言ってくれ。俺にはお前が必要なんだ」


「ふふっありがとうございますね」



 クルイスとそんな会話をしながら食堂に向かう、格調高い家具と落ち着いた色合で上品な絨毯。


 どれも心を落ち着かせるシックな内装、落ち着いた空間……あぁ癒される。

 至福の時間とはまさにこの事なのだろう。

 

 口の中に広がるコクのある深い味わいが、この幸せな時間を更に濃密なものに仕上げていた。



「いや、良い時間だった。また話そう」


「はい、私も久しぶりに良い気分転換ができました。またお誘いしますから、その時もよろしければ」


「あぁ。もちろんだとも」



 俺は転移で魔王場へ帰還するクルイスを見送って、屋敷のロビーへと向かった。


 窓から差し込む日差しは柔らかく館内を照らして穏やかに外の空気を伝えている。


 散歩でもしてみよう、幸いこの周辺は家も無く緑が豊かだ。

 きっと良い午後が過ごせるに違いない。


 そんな仄かな期待と、安穏とした小さな楽しみに胸を膨らませて、俺は玄関の扉を開けた。



「こんにちわ。デリヘルで」



 扉を閉めた。

 この華美でもなく、しかし心地の良い時間を……俺はのんびりと何事も無く過ごす……そう決めたのだ。


 だから、扉を開けた先に居た菊蘭なんて、俺は見なかった。



『あ、すいません! コスプレが良かったですか!』


「小鳥のさえずりにしては大きいな……」


『小鳥のパイズリ? ロリ巨乳ハーピーを指名ですか?』 


 

 ……いいや、仕切り直せ。


 少しばかりいつもよりゆったりで、ほのぼのとした時間は、まだ終わっていない。



『ちょっと、ご要望の子の出勤確認してみます! あと我が街にはパネルマジックという魔法は一切存在しないのでご安心を!』


「また珈琲でも呑むか……空いた部屋でゆっくりと」


『空いた部屋でずっぽりと? はい、でしたらこちらで宿をとりますが』


「掃除だ、掃除をしよう。気分転換にもなるしな」


『ラギさんのラギさんをお掃除ですね! オプション無料でご案内です!』


「いやここは寝るかもう! 二度寝だ!」


『わ、私を含めた3Pですか! なるほど分かりました』


「もう何もしねぇ! 何一つだ!」


『大丈夫です、動かなくても私らが動きますので!』


「だぁーっもう!! なんだよ何の用だよ何しに来たんだよ菊蘭!!」



 開け放った扉の先で、菊蘭は驚いたような声を上げる。



「わっ、びっくりしましたー。なにかオプションの追加ですか?」


「そんなサービスは全部ひっくるめて一切合切いらねぇよ!」


「あぁそうですか……それは残念です……」


「それで、何しに来たんだ……。というか、髪色……変わってないか? それに服も……」



 菊蘭は黒髪と着物の女だったような気がしたが……今は紫がかった赤い髪に蒼いリボンでテールを作り、服はジーンズに白いシャツというラフすぎる格好に代わっている。


 なんだ……一体何があったんだ……。



「これが本来の髪色ですよ? 女神さまの魔法で黒く染めていたのです、服は一度こういうラフな格好してみたくって!」


「そうか、まぁ自由そうでなによりだ」


「はい! これもラギさんがあの時教えてくれたおかげです、ありがとうございました」



 と。菊蘭は深く、俺に一礼した。



「顔上げろよ、俺は大した事してねぇ」


「いいえ。ラギさんがいなければ私は……あのままずっと幸せになろうとしなかった……。ずっと不毛な思いやりが続いました。死んでいるっていうラギさんの言葉……今なら分かります」


「それで。何しに来たんだよ、というかよくここが分かったな」


「国王様が教えてくれました。それで昨日のお礼をと思って」


「国王が……?」



 国王ならこの場所を知っていてもおかしくはないが……。


 しかしどうして国王に会っているんだ?



「今、女神バロンさまが国王様と、栄え過ぎたっていうあの街を今後どうするかについてお話していてですね、私ではお邪魔になるので……」



 ……あの合理主義ならやりかねないが。そっちと話をつけにいったか。

 

 まぁ、合理的に街を栄えさせる為に洗脳作戦で効率化を計るような奴だ、上手い事折り合いをつけるのだろう。



「なので女神さまの分も一緒にお礼をと。女神さまも『貴方の行動は褒められませんが功績は讃えましょう』と感謝していましたよ」


「ものまね滅茶苦茶うまいな……。なんにせよ、上手く騒動はまとまりそうでよかった」


「はい。本当に、ありがとうございました! ラギさん!」



 国王からの依頼的には捕縛ではなかったが……これで完了だ。俺が完了報告しなくとも必要ないだろう。


 ……もしや、それも見据えて女神バロンは国王の元へ……?


 だとしたら……切れ者にもほどがある……よく無事にあの夜戻れたな俺……。



「そ、それで、ですね。その……ラギさん」


「どうした? 礼ならもういいが」


「いえそれは言っても足りないのですが……」



 菊蘭はもじもじと急にしだして、口の中で言葉を遊ばせているのか、ごにょごにょとハッキリしない。


 そのたびに形が整って両腕で挟まれた見るだけで柔らかさが伝わりそうな胸が強調され、たゆんたゆんと揺れている。


 これが街中だったら確実に周囲の目線を独り占めしていた事だろう。

 この物静かな立地にしたのは正解だったな。 

 


「ええと、ラギさん達は……旅をしているのですか? 国王様が言っていましたけど……」

 

「そんなもんだな。拠点がここなだけだ」



 今回は偶然女神がこの国にいたというだけで、他の国にいるというなら勇んで赴く。


 

「で、でしたら! 私を肉便器として置いてください!」


「もういるんだ」


「ですよね!」


「ですよね!?」


「ラギさんのような素敵な殿方なら居ても当然です、ならセフレとしてでいいですから!」


「それもいるんだ」


「ですよね! ちなみに何人パーティですか?」


「俺含めて三人だな」


「ラギさん、肉便器さん、セフレさん?」


「あぁ……」


 

 言葉にすると破壊力がすさまじいな。


 そうして俺が何か弁明をと考えていると、菊蘭は意を決したように一歩俺に近づき。



「なら。そこに私こと! サキュバスを仲間に入れてみませんか!」



 と、一生懸命に言った。



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