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この世界にはメガネが足りない  作者: 末尾いづる
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第七話 「仲間はいません」


 メガネをかけるように説得を始めて数分後。

 結局説得には失敗したが、幼女に迫るこの構図の危うさを自覚した俺は何とか落ち着きを取り戻し、疑問に感じていたことを尋ねることにした。


「ところで、君は冒険者なんだろ? 森に何しに来たんだ?」

「クエストです。ちょっとキノコの採集に」

「へぇ。ってことは君はまだ駆け出しの冒険者ってこと?」

「む。駆け出しってわけではありません。ちょっと初心に戻ろうかと思って」

「ふーん」

「な、なんですか。本当の本当ですからね。ニヤニヤしてこっちを見ないでください」

「ごめんごめん。じゃあそういうことでいいよ」

「あ、信じてませんね」


 少女はむすぅっと頬を膨らませる。

 普通の女の子ならあざとくて鬱陶しく感じられるかもしれないそんな仕草が、この子の場合はさまになっていてとてもかわいい。


 一つ一つの仕草にドキドキさせられている俺がチョロ過ぎるのだろうか。

 高鳴る心臓を抑えようとしていると、別の疑問が浮かんだ。


「仲間はいないのか? 冒険者って言えばパーティーを組んでクエストに出るってのが鉄則だと思うんだが」


 クエストとなれば役割を分担した仲間と一緒の方がより成功率は高まる。ましてや冒険者となれば危険を伴うわけだから、いざという時に頼れる仲間がいると心強いはず。もちろんこの世界でも俺の浅いファンタジー知識が通用する確証はないが……。


「仲間はいません。一人です」


 女の子は俯きがちにそう答えた。


「なんで? 大勢いたほうが安全だし、効率的だろ?」

「大勢だと強くなれません。それに……」

「それに?」

「な、なんでもありません!」


 ううん? なんだ? 

 何か隠している様子だが、これ以上問い詰めるのは気が進まない。本人が話したくないならそれでいい。それよりも、今の俺の状況を何とかすることが最優先だ。


 それに、この子のおかげで命拾いしたことに変わりはない。

 すっかり俯いてしまった女の子の方を真っすぐ見つめて、俺はある提案をした。


「手伝うよ」


「はい?」


 女の子はきょとんとして首を傾げる。俺はそんな様子もお構いなく、同じように続ける。


「手伝うよ」

「クエストを、ですか?」

「うん。 頭数多い方がいいだろ」

「いやいや、ギルドに登録もしていない一般人に協力させるのはちょっと。あなた本当に何も知らないんですね」

「うーん。でも、恩返しはしたいんだよなあ。それに……」

「それに?」

「できれば町まで連れていってほしい」

「……なるほど、それが最大の目的ですか」

「……はい」


 俺は今、この世界ではちっぽけな存在であることを実感させられている。

 異世界に来て剣と魔法であらゆる敵を打ち払い、大活躍できるならしてみたいものだったが。


「仕方ないですね。どうせ簡単な採集クエストです。一緒にちゃちゃっと終わらせちゃいましょう」

「ありがとうございます!」


 実際は異世界に来て幼女に縋るしかないなんて、ありえない。

 でもそうするしかこの世界で生きていけないヒモみたいな俺、マジウケる。


「じゃあ行きましょうか。ええと……」

「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は須藤啓太。ケイタって呼んでくれ」

「スドウケイタ……。はい、ケイタさん。私の名前はチコナです。よろしくお願いします」


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