表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界にはメガネが足りない  作者: 末尾いづる
5/51

第四話 「ようやく目が覚めましたか」

 幼い頃、火事に遭ったことがある。

 その時、家の中庭で俺は仲の良かった祖父と焚火をして、焼き芋を頬張っていた。

 食べるのに夢中で、知らないうちに焚火の火が家に移っていた。


 気が付いた時にはすでに手遅れで、炎は木造の古い家屋をあっという間に飲み込んだ。

 それを眺めながら「不細工な花火じゃのー」なんて不満げに呟く祖父を連れて、俺は慌てて安全な場所にまで逃れた。


 幸い家の中には誰もいなかったが、近所の公園で餅まきに参加していた両親と祖母が帰ってきた時は皆、焼け落ちた家を前にして立ち尽くしていた。


 確かに死傷者は誰一人としていなかった。しかし、それでもこの火事は俺の心に深い傷跡を残した。

 俺は守りたいものを、守れなかったのだ。

 家の中、俺の部屋に飾られていた数々のメガネ達。彼女達を救うことができなかった。

 彼女達がゆっくりと炎に炙られ、変形しながら燃え尽きていく姿がありありと目に浮かび、焦げるにおいと煙が充満する中、俺は焼け落ちていく家に向かってただ泣き叫ぶしかできなかった……。



 ――焦げるにおい。

 かつてのトラウマを想起するような匂いが鼻をつき、ハッと目を覚ます。


「…………ここは……?」


 俺は木造の建物の中に寝転んでいた。ただ、それは火事に遭った俺の家とは異なり、内装は簡素なもので家というよりは休憩するための小屋と表現した方が適しているかもしれない。

 そして、寝たままの状態で顔を左に向けると。



 部屋の中央ではすさまじい火柱が立っていた。



 え……?

 咄嗟に壁際まで後ずさる。驚きのあまり声が出ない。目を見開くが、どう見ても火柱だ。テレビで料理人がフランベとか言ってアルコールで豪快に火柱を立てるのを見たことがあるが、これはどう見てもそれ以上の大きさだ。


 ……え、すごい炎なんだけど! ああ、そうかさっき見てた幼い頃の火事の夢はこれのせいか。納得!


「何これ、どういう状況……!?」

 やっとの思いで声を絞り出すと。



「ようやく目が覚めましたか」



 どこからか女の子の落ち着いた声が聞こえてきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ