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双子に会う

 何となく毒気を抜かれた教師は黙々と授業を進めて自分の間違いを無かったことにした。

ロチャードは間違いに気づかなかったことを反省するよりも横槍を入れたアンネワークに敵対心を持った。

伯爵家でありながら第二王子の婚約者になったことを快く思っていない一人であり、王家の信頼を得るために歴代の当主たちが苦労をして公爵家まで登りつめたのにあっさりと信頼を得たことに腹を立てていた。


「貸しを作ったなどと思わないことだな」


「わたくしは間違いを指摘しただけです」


 アンネワークとしては向上心のあるブルデング公爵家を好ましく思っており分かりやすい喧嘩の売り方をするから楽だった。

この貴族らしくないところでフーリオンとオーリエンのご学友候補から外れたのだが生徒会長を務めるくらいだから優秀ではある。


「ふー」


「ん? もう読んだのか?」


「あんまり面白くなかった」


「そうか。新しい本を探しておこう」


 古代語を辞書なしで読める者は片手で数えられるくらいしかいない。

学校で古代語を教えている教師も辞書なしで読めるが一部の時代だけだ。

アンネワークは時代問わずに辞書なしで読めるからその凄さは押して図るべしだった。


「そろそろ移動しよう」


「どこに?」


「アンネ、今日は大講堂でマナー講習会だ」


「行かない。休む」


 一度見たら覚えられる記憶力を持ち、どんなマナーも完璧に熟すことのできるアンネワークだが全員で受けるマナー講習会だけは嫌っていた。

いつもならデザートをフーリオンたちの分まで食べることができるのにマナー講習会のときは食事を楽しむよりもマナー技術が優先されるため苦痛だった。


「休んだらサファリナ講師の個人指導になるぞ」


「頑張りましょうね? アンネワーク嬢」


「頑張ったら料理長がタルトを作ってくれるってよ」


「うん、頑張るよ」


 タルトの言葉にアンネワークは気分を持ち直して元気よくフーリオンの手を握って大講堂へ向かった。

月に一度あるこのマナー講習会は地獄の講習と呼ばれており、生徒からは不評だった。

食器を一度でも鳴らしたら減点となり、合計十点減点されると特別補修講習へ無条件に案内される。

誰が食器を鳴らしたか百の音を聞き分けるというサファリナは大講堂の生徒すべての行動を把握していた。


「ふー、タルトのために頑張るよ」


「そうだな」


 マナー講習から逃げたいのはアンネワークだけではない。

できることなら生徒全員が逃げたいが五代前の国王が貴族のマナーの悪さを嘆いて取り入れたものだからおいそれと廃止にはできなかった。


「ニーリアン様が国王になられた暁には廃止の王命を出してもらわないと」


「・・・そうだな」


「そこは兄上に頼まないんだね」


「どうして?」


 現国王に頼むには自分の身分が低いということをしっかりと理解しており、三人の王子たちはまだ次期継承者であると宣言されていないから同じ立場だ。

その残酷なまでに冷静な判断は二人の王子のプライドにひびを入れた。

大講堂には疎らではあるが生徒が集まっており席も埋まりだしていた。

マナー講習ではあるが始まるまでは他教室の者との交流会にもなっている。


「「あら、アンネワーク様ごきげんよう」」


「御機嫌よう。シュレット様、ミルゼット様」


「「あちらの席が空いているようですわよ。フーリオン様のご婚約者でいらっしゃるもの。マナーもさぞや完璧でございましょう」」


「そうですわね。マナーのように美しいものなら一度見れば忘れませんもの。シュレット様とミルゼット様は双子でいらっしゃるからきっとマナーもそっくりなのでしょうね」


「「っそうですわね。御機嫌よう」」


 一卵性の双子である二人は何をするにも同じだがマナーに関してだけは妹ミルゼットが苦手としており全くの同じというのは難しかった。

さらに二人は一卵性の双子の子爵家令息に嫁ぐことが決まっており、そのことも同じだという印象が強まっていた。

双子姉妹がアンネワークを目の敵にするのには同じ伯爵家でありながら子爵家に嫁ぐというところに納得していないからだ。

頭脳によりアンネワークはその座を射止めたのだが、普段の食堂での強襲を見ていれば不満を持つ者が出てきてもおかしくない。

それを止めれば良いだけのことだが、芝居命のアンネワークから取り上げることをフーリオンはしない。

アンネワークたちが勧められた席はサファリナ講師から一番良く見える場所で立場の弱い平民たちも追いやられていた。

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