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間違いを正す

 思い通りにいかないことに腹立てながらリレーヌは片づけを取り巻きに命じて一人部屋に戻った。

授業は行われているが入学前に家庭教師から学び終えているリレーヌにとっては受けても受けなくても変わりはなかった。


「まったく忌々しいことですわ。わたくしが伯爵家ごときを心配するはずがありませんでしょうに」


「リレーヌお嬢様、如何されましたか?」


「何でもないわ。下がっていなさい」


「失礼いたしました」


 実家から連れて来たメイドはリレーヌの入学に合わせて雇ったため気の利いた行動というものには疎かった。

さらにリレーヌの行動を逐一報告するから目に余る行動をしすぎると父親から叱責されてしまう。


「どうして建国以来王家を支えてきた公爵家の令嬢であるわたくしが同じ公爵家と言っても歴史も浅いブルデング公爵家に嫁がなければならないの?」


 歴史が長ければそれだけ敵も多く派閥というものが重要になってくる。

確実な繋がりというものを持っていない家は、結婚というのが一番早い繋がりの持ち方だ。


「お嬢様、そろそろ授業が終わります。次の授業へ向かわれた方が良いのではありませんか?」


「うるさいわね。わたくしは考え事をしているの」


「旦那様から授業に出ない場合は報告せよと指示を受けております」


「分かったわよ。出れば良いのでしょう。本当に融通が利かないわね」


 身の回りの世話を命じることはできても直接の雇用主が父親である以上はリレーヌにも命じることができないこともある。

仕方なく授業を受けるために教室に向かうが気乗りはしない。

すでに知っている内容をもう一度聞くのは苦痛でしかなかった。


「わたくしは学年でもトップクラスの頭脳を持っているのに授業を受けろだなんて無意味だわ。お父様もどうして分かってくださらないのかしら」


 トップクラスではあるがアンネワークには及ばない。

今は同じ公爵家と婚約しているが成績次第では王子たち誰かの側室に召し上げることを虎視眈々と狙っている。

そのことを知らないリレーヌは父親の思惑には気づいていなかった。


「あら? ロチャード様ご機嫌麗しゅうございます」


「うん? あぁリレーヌか」


「何かお困りでございますの?」


「あぁ令嬢方から王族との懇親会を企画して欲しいという要望が多くてな。一応、お耳には入れているのだが今は一学生の身分であるから大々的にはできないという返答をされてな」


「まぁそんなことがございましたのね。わたくしから令嬢たちに自粛するように話しておきますわ」


「それは助かる。今度お礼に宝石でも贈ろう」


「婚約者として当然のことをいたしたまでですわ」


 リレーヌは笑顔で会話を終えると淑女の礼をして教室に向かった。

ロチャードはリレーヌが消えた先を冷たく睨んでいた。


「何が婚約者として当然のことだ。女は大人しく半歩下がっていれば良いんだ」


 リレーヌの家が何を求めて婚約を申し入れて来たのかは手に取るように分かった。

同じ公爵家でも家格で劣るブルデング公爵家ならば婚約解消を申し出ても拒否されないという思惑と婚約している間のリレーヌへの貢ぎ物目当てだった。

さすがに婚約を解消したから贈り物を返せとは外聞が悪いからできないし、令嬢の方も贈り物を返すという不作法もできない。

解消に至るまでに目を覆いたくなるような不貞行為があれば返すかもしれないが大抵は売り払う。


「何が令嬢たちに自粛するように伝える、だ。先頭を切っているくせに。忌々しい」


 公爵家になったのは曽祖父の代だから家の歴史としては長くても公爵家としては新参者だ。

そこに劣等感というものも持っていてロチャードの父親が公爵家として歴史の長いリレーヌの家との繋がりを欲しているのも知っていた。

公爵家として家格を上げるために生徒会長をしているロチャードは授業をむやみに休むということを良しとはしていなかった。

それでも行ったら行ったで、同じ生徒会の会計であるグリフォンやフーリオンにアンネワークと顔を合わせることになるから心労が絶えないのは間違いがなかった。

救いはリレーヌが別のクラスだということだった。


「よって、この文法は誤りであり・・・ブルデング様、授業に遅れるのなら事前に連絡を」


「申し訳ございません」


「早く席に着くように。どこまで話しましたかね。そう、この文法は誤りであり、正しくは・・・」


 教師に叱責され気落ちしている間に授業はどんどん進んでいく。

心ここにあらずという状態なのを教師は見抜いて問題を出した。


「ブルデング様、この古代語を現代語訳するように」


「ぇっ、はい」


 公爵家になったのが最近であっても家庭教師によって学んではいる。

それでも授業を聞いていないと分からないところは出てくる。

言葉に詰まり訳すことができないでいるロチャードに救いの手が差し伸べられた。


「はい」


「ワフダスマ様、何ですか?」


「先生が書かれた古代語の慣用句ですが綴りに誤りがあり、それでは文法として成り立ちません」


「えっ?」


 必死で訳そうとしていたロチャードも書いた本人である教師も気づかずにいた。

古代語としては難しい部類に入るが現代語訳に訳された本が何冊も出回っており話の内容は馴染みのあるものだった。

それを教材として使っていたが古代語の難しいところは綴りを間違えると文法が成り立たなくなるというところにあった。

満足そうにアンネワークは答えると持っていた古代語の本を辞書無しで読み始めた。

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