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今、巷では婚約破棄が流行ってるんです  作者: 都森 のぉ
第2章・アンネワーク
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処分がない

 フーリオンは、アンネワークを支えて乗馬できるほど体力はないため、ウォルトルがその役を請け負った。

水に濡れてしまったアンネワークを気遣うようにモルショーンは揺れないように歩く。


「アンネ、何があった?」


「急に背中を押されたの。あっちに綺麗な花があるって言われて」


「そうか」


 大事にしたくないという学院の意向に従い、表向きにはアンネワークが足を滑らせたということにした。

だが、背中を押した令嬢は次の長期休暇で自主退学することが決まった。

令嬢は、否定したが、目撃者がいるという言葉に観念した。


 目撃者とは、影のように付き従い、アンネワークを護衛する暗殺者のことだ。

命の危険が及ばない限り、姿を見せないという約束のもと護衛している。


「まぁ! 急いで着替えましょうね」


「頼んだ」


 寮母にアンネワークを預けると、フーリオンも着替えるために寮へ戻った。

関係各所への報告は、その間にウォルトルが済ませておき、体を温める飲み物を貰いに食堂へ向かう。


「嬢ちゃんが湖に落ちた?」


「風邪とか大丈夫なんか?」


「ほれ、生姜茶だ。ポットに入れてあるから冷めにくいはずだ」


「助かる」


 陶器のポットを布で巻いて、第三応接室まで運ぶ。

寮母が風呂に入れて温めてくれたのだろう。

ほんのりと頬が赤くなっていた。


「料理長から生姜茶を貰ってきた」


「ありがとう」


「ありがとう。ウォルトル様」


「それで、報告に関してもすでに終わらせてあるから、今日はこのまま寮に帰ってもいいと思うぞ」


「そうだな」


 アンネワークを突き落とした令嬢は、同じ伯爵家で学院の成績で言えば、上位に入る。

だが、婚約者試験には辛うじて受かる程度なので、アンネワークとは勝負にならない。

それでもアンネワークがなれるなら自分でも良いのではないかと思い込んだ結果、アンネワークを消す方法を選んだ。


「今回の動機は、アンネワーク嬢が婚約者として相応しくないことになれば、自分に可能性が出てくるのではないかと思ったからだそうだ」


「・・・それで」


「家族は、試験の結果から可能性はないと言い聞かせて、幼馴染の令息との婚約を進めていた。それで焦ったんだろうな。早くしないと婚約できなくなる。これが動機だ」


「・・・令嬢の処分は?」


「これから決まるだろうが、何事もなかったかのように幼馴染と結婚して、社交界に出られない辺境の地に左遷・・・もしくは、修道院だな」


 令嬢がしたことは、完全に独り善がりで、家の責任を問うのも難しかった。

学院が大事にしないと判断した以上は、爵位剥奪という処分も難しい。


「どっちもだな。結婚したあとに修道院に入れろ。下手に未婚だと、還俗したときに面倒だ」


「還俗させるつもりもないくせに。一応、上に報告はしておく」


「あぁ」


 嫌味を言われたりすることは、よくあることで慣れてもいたが、直接的にされたのは初めてだった。

直接、アンネワークに危害を加えれば、それは貴族社会から爪弾きに遭い、家族を路頭に迷わせることになる。

今回、アンネワークを突き落とした令嬢は、そこが欠如していた。


「・・・さすがに部屋まで送れないからな。気を付けて戻れ」


「うん」


「大丈夫だ。俺が言っただろう。何があっても俺が守る」


「うん」


「ほら、ゆっくり休め」


 アンネワークを見送ったあと、フーリオンも第三応接室を出た。

アンネワークがいないなら授業に出るつもりはなく、まっすぐ男子寮に戻った。


「・・・入るぞ。フーリオン」


「もう入っているだろう」


「意見として報告だけはしてきた。だが、左遷が濃厚だな」


「そうだろうな。突き落とされたことは事実だが、結果は少し水を飲んだ程度だ。穏便に済ませたいというのが本音だろう」


 王族の婚約者を亡き者にしようとしたなどという話は十分な醜聞になり得る。

加害者だけの問題ではなく、被害者であるアンネワークのことにまで事態は発展する。

婚約者の身分が伯爵家であることに難色を示した重鎮たちが、こぞってアンネワークを批判し、そして自分たちに縁のある令嬢を進めてくるだろう。


「あとは待つしかないな」


「そうだな。ウォルトル、ご苦労だったな」


「これくらいはフーリオンの右腕として当たり前だ」


「それと、王妃から招待状が来た」


 飾りのない白い封筒には、今度の週末が柿落とし公演の芝居の券と護衛にウォルトルを貸し出すようにという要件のみの手紙が入っていた。

券は一枚だけで、王妃が誘っているのはアンネワークだけだ。


「はいはい、用意しておきますよ」


「悪いな」


「俺、フーリオンの護衛なのよ。それがどうしてまた、王妃様まで・・・アンネワーク嬢ならまだ分かるさ。フーリオンの婚約者だからな」


「いかにも護衛を連れていますという風貌じゃないことを恨むんだな」


 ウォルトルが側にいても物々しくないというだけで、王妃はかなりの頻度でウォルトルを指名していた。

フーリオンの護衛だが、普段は学院の敷地内におり、剣の腕も確かなので例外的に連れ出されていた。


「これを持ってアンネワーク嬢を送り届ければいいのね」


「あぁ」


 ウォルトルなら学生という肩書もあるため、アンネワークの道中も護衛できるため便利な護衛となっていた。

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