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忠告を受ける

 馬との親交を深めるためという名目でブラッシングをすることになった。

いくら乗馬を嗜みとする貴族が多いといっても世話までは自分でしない。

好きで世話をするという令息もいるが、令嬢は有事の際に乗れることを優先とする。

嫌々しているのが分かるから馬も居心地が悪く逃げ出したりと入り乱れていた。


「んしょ、んしょ」


「・・・ふるる」


 背が低いから届かないが精一杯ブラッシングをするアンネワークの姿があった。

触れているのか分からないくらいの力で撫でるからブラッシングはできていないが頑張っているのは分かる。


「よし!」


「できたみたいだな」


 令息たちは家で学んで来ているのでブラッシングも乗るのもお手の物だった。

苦労している令嬢を助けようと声をかけるがプライドが高い令嬢たちに突っ撥ねられて引き下がっている。

上位貴族の令息はそのあたりを心得ているから黙って見ているに止めていた。


「きゃぁ」


「ぶるるるるる」


 叫び声が聞こえて振り返るとリレーヌが担当の馬に蹴られそうになっていた。

辛うじて当たる前に避けているが怪我をしそうになって顔を青褪めさせていた。

興奮した馬はそのまま走り出しアンネワークに差し迫った。


「アンネ!」


「ぶるるるるる!」


 フーリオンがアンネを抱き寄せて当たることはなく、モルショーンは向かってきた馬に後足で立ち上がり前足を叩き付けた。

これで我に返り大人しくなり手綱を引かれて戻って行った。


「モルショーン、よくやった」


「ありがとう」


 褒められると照れて素直になれないというモルショーンは恥ずかしそうに顔をアンネワークに摺り寄せた。

誠実な対応をされればモルショーンとて乗せないということはしない。

誰だって初対面で命令されれば気分を害する。


「・・・授業は終わりのようだな」


「モルショーン、厩に戻るよ」


 まともに扱えないため授業にならないが必修であるから受ける必要があった。

税収の少ない領地の出身の者は馬に乗るというような雅なことはできなかった。

これでやる気を失っていく令息令嬢たちが多い。


「では夕食にまた迎えに行く」


「うん、またね」


「アンネワーク様、あちらでリレーヌ様がお待ちでございます」


 呼ばれたから仕方なく行くが有意義な話ができるとは思っていない。

ジャクリーヌは夕食までに終われば良いなとこれからのことを考えていた。

中庭にはテーブルと椅子が用意されており、お茶会さながらの様子だった。


「お待ちしておりましたわ。どうぞ、おかけになって」


「お招きありがとうございます。リレーヌ様」


「お茶会ですもの難しい話はしないつもりです。簡単なことですの。アンネワーク嬢にフーリオン殿下の婚約者の座を辞退していただきたいのです」


「それはどういうおつもりでの発言でございましょうか? アンネワーク様はきちんと試験に合格しフーリオン様がお選びになられた婚約者でございます。その王家の意向に否を唱えるのはリレーヌ様でも許されることではないと存じますが?」


 優雅にお茶を飲んでいるリレーヌはジャクリーヌの正論にも動じることなく、ただ聞き流す。

公爵家という立場であるからリレーヌが王家の判断に否を唱えたとジャクリーヌやアンネワークが声を上げても揉み消される。

それどころか反対に名誉を著しく貶めたとして公爵家から訴えられる可能性もある。


「わたくしは王家のためを思って申し上げているのです。伯爵令嬢へ寵愛を向けることを許さないほど狭量な女ではありませんよ」


「アンネワーク様は難関と言われる試験で満点の成績を出されるほど博識であり、それをフーリオン様がお認めになられた。フーリオン様のご慧眼をお疑いになられるということでございましょうか?」


「いいえ、フーリオン殿下がアンネワーク様の博識を見出されたことは疑いようがありませんわ。でも伯爵家出身の王太子妃が出迎えたとなると他国の方は軽んじられたと思われるやしれませんもの。先ほども申し上げましたように王家のためを思って申し上げているのです。貴女も王家に忠誠を誓う身であるのなら潔く身を引くのも、また忠義ではなくて?」


 この忠告は王家が軽んじられないための身を呈したもので不忠ゆえのものではないことを強調した。

このことを報告したらリレーヌは我が身の大切さよりも王家のために尽くしたとして誉められこそすれ処罰されることはない。

心の底では何を考えているかは分からないが体裁は整っている。


「リレーヌ様のお言葉しかと心に刻みましたわ」


「まぁ分かってくれたのね? アンネワーク様」


「えぇわたくしがこのままフーリオン様の妻となり王太子妃になった際には他国から軽んじられてしまうことに心を痛めておいでだということは分かりましたわ。フーリオン様にもリレーヌ様の大局を見据える目をお持ちだということをお伝えしておきます。御機嫌よう」


 家格で軽んじられることはままあることだから対処の仕方くらいは学んでいる。

アンネワークはフーリオンの前では素の表情を見せているが淑女として振る舞うことは十分にできる。

そうでなければ王家が試験の成績が良いからといっても婚約者と認めるはずがなかった。

根本的なところを失念しているからリレーヌはやり返されてしまっていた。

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