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今、巷では婚約破棄が流行ってるんです  作者: 都森 のぉ
第2章・アンネワーク
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興味がない

 編入生が来ると分かってもアンネワークの生活に支障はない。

マリエルが入学許可証を持っていないから門番に追い返されても、当日に夜まで彷徨っていてもアンネワークは興味も持っていなかった。


「ふふん」


「ご機嫌だな」


「そうよ。だってジョロルビッチ先生が今度の園遊会で主役をさせてくれるっていうのよ」


「それは良かったな。おめでとう。アンネワーク嬢」


「ありがとう。ウォルトル様」


 上機嫌にアンネワークは編み物をしている。

複雑な模様のレースのコースターが完成するたびに、授業を進める教師の機嫌が下がる。

何か難問を出してアンネワークの鼻を明かしてやろうとするが、全て失敗する。


「そうそう、編入生なんだけどね」


「編入生がどうかしたの?」


「学院内を迷ってたらしいよ」


「迷うものなの?」


 学院は貴族校舎と平民校舎が分かれているため、慣れない平民が貴族校舎に入ってしまうことはあるが、迷うほど建物は多くない。

アンネワークが所属する演劇部の者は、台本を渡したり、一緒にご飯を食べるために貴族校舎に来ることはあった。

最初はアンネワークが平民校舎に行っていたが、周りが緊張して大変だということで、ベティエたちが来るということに落ち着いた。


「方向音痴なんじゃない?」


「それは大変ね」


 他人事のようにアンネワークは呟くと興味を無くした。

訳アリクラスにマリエルが編入したと聞いても記憶には残らず、来るべき園遊会に向けて稽古をしていた。


「あっ! おじさん」


「嬢ちゃん、ここはアブねえぞ」


「すぐに離れるわ。園遊会で主役をすることになったの。おじさんの舞台でできるの楽しみなのよ」


 園遊会の設営をしている裏方は、普段は劇場の設営をして国内を回っている。

芝居好きなアンネワークとは、すでに顔見知りだった。


「そうかそうか。嬉しいこと言ってくれるねぇ」


「おじさんの舞台は、足音の響き方が違うってお姉さまたちが言っていたもの。私もそう思うわ」


「なら腕によりをかけて舞台を作るさ」


「私も腕によりをかけて、お芝居をするわ。練習は、あっちのベンチでしてもいい?」


「あぁ。ケガしないようにな」


 台本を持ったアンネワークは邪魔にならないようにベンチの前で科白の復習をする。

当日、裏方は劇を見ることはできない。

それでもアンネワークが芝居を成功させることを誰もが祈っていた。


「私の愛するマルグリットを虐めた・・・ここは指を差す方がいいかしら? それとも苦しそうに?」


 台本を読み返してアンネワークは少しずつ稽古を進める。

休憩のためにベンチに座ると、背後の窓が開いた。

ベンチは建物と近く、図書室のすぐ傍だ。


「頑張っていますね。アンネワーク」


「あっ! セバス」


「見違えるほど上手くなっていましたよ」


「ほんと!? ありがとう」


「一度、休憩しませんか? 美味しいスコーンをもらったのです」


 スコーンと聞いて目の色を変えたアンネワークは、そのまま窓から図書室に入った。

注意することなく、セバンスティーノは手を貸し、アンネワークを図書室の奥の茶話室に案内した。

知られていないが、本を読みながら談話できるように申告すれば使える部屋だ。

もし、本を汚してしまった場合は、実費による弁償という規則があるが、貴族が主な利用者のため特に不満も上がらない。


「でも、ひとつだけにしないと、ふー、に怒られてしまうわ」


「では、残りは包んでおきましょう。どれがいいですか?」


「この苺のスコーンを食べるわ」


 セバンスティーノは同盟国の公爵家であり、次期王であるからアンネワークよりも身分が遥かに上だが、給仕をするのも趣味という変わり者だった。

アンネワークは、セバンスティーノの給仕を気に入っているから喜んで受ける。


「美味しいわ」


「それは良かったです。それで園遊会が終わったあとの試験は大丈夫ですか?」


「それが心配なの」


 本人は心配しているが、学院の試験で落ちるほどアンネワークの成績は悪くない。

むしろ何も勉強しなくても満点を取れるだけの知識はある。

心配しているのは、知識だけでは解けない数学の試験だ。


「計算間違いをしないようにしないと、またジョロルビッチ先生に言われてしまうわ」


「ジョコルウィッチ先生ですね」


「この間の小試験でも計算を間違えたら、笑われたのよ」


「そうなんですね」


 ジョコルウィッチがアンネワークを気に入っているのは、貴族らしくない性格とどれだけ公式を暗記しても実際に計算をしないと答えが出せないため、アンネワークが唯一、満点を逃す可能性がある教科だからだ。

その程度でアンネワークが学年上位から陥落することないが、他の教師に比べて、アンネワークに勝てる要素があった。


「そろそろフーリオン殿下が迎えに来る時間ですよ」


「本当だわ」


「スコーンは包んでおきましたよ」


「ありがとう」


 油紙に包まれたスコーンを持つとアンネワークは上機嫌に図書室を出た。

アンネワークを迎えに来ていたフーリオンと廊下で合流する。


「セバスに貰ったのよ。夕食を食べたらお茶しよう」


「そうだな」


 お茶のときにスコーンをひとつだけにしておいたお陰で、夕食を食べられたアンネワークは、応接室でお茶会の準備をする。

料理長を筆頭に、料理人は全員がアンネワークに甘いため、ジャムや生クリームが欲しいと伝えれば用意してくれた。


「料理長」


「どうした?」


「今日、あとでお茶会をするの。だからジャムと生クリームを分けて」


「ジャムと生クリームということは、スコーンだな。分かった。用意しとく。それとスコーンも出しな。温めといてやるよ」


「ありがとう!」


 どれだけ忙しくてもアンネワークの用事を優先する。

アンネワークが入学して間もなく、新人が食材の発注を間違えて野菜が届かないということが起きた。

さすがにそれは大問題だとして急遽、野菜の手配に動いたが、学院全員を賄えるだけの野菜は用意できなかった。

そこを助けたのがアンネワークだった。


 貴族は立食パーティというものに慣れている。

これは学院に入ったばかりの令嬢令息でも自分の誕生日パーティなどで経験はある。

肉はローストビーフにして、野菜や果物は一口で食べられるように串で刺した。

提供の仕方を変えたのだ。


 そうすると、途端に社交の場になり食事よりも会話を楽しんだため料理が少ないことには誰も文句を言わなかった。

危機を救ったアンネワークを料理人は神のように崇めていた。


「それと今度、主役をするんだってな」


「そうなの」


「頑張れよ」


「うん、ありがとう」


「料理長、オーブンが呼んでますよ」


「今、行く」


 料理長が離れると、アンネワークもフーリオンに手伝ってもらい座った。

アンネワークが料理長と話すようになってからデザートの種類が増えた。

前までは、ワッフル一択だったが、シャーベットだったり、プリンだったりと増えた。

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