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話は続く

 この状況を助けてくれるとして、ニーリアンを見たが、笑顔を向けるだけで何も言わない。

隣に座っているフーリオンを見たが、マリエルに視線すら向けなかった。


「ただ、ここまでのことで国家反逆を企てたなどということにはならん」


「だったら・・・」


「話は最後まで聞け。誰かの気を引こうとした。それで済む。だが、それが全て最初から仕組まれていたことなら話は変わってくる」


「仕組まれた? 私は何もしていないわ」


「ならば何故、家族でも知らん当人の秘密を知っていた?」


「秘密?」


「そう。王族や生徒会に属する者たちの過去や趣味嗜好など事細かに書かれたノートがある。これは筆跡からマリエル・ゴンゴニルドの物であると確定した」


 宰相が見せたノートは、アンネワークが盗んだと思っていたノートだった。

アンネワークが持っていなかったのは、宰相に渡していたからだと思い、アンネワークを問い詰めようと一歩踏み出したときだ。

両脇に控えていた護衛騎士がマリエルの腕を掴んで止める。


「ちょっと! 人の物を盗んでおいて、いけしゃあしゃあと他の人に渡すってどういうことよ」


「・・・人聞きの悪いことをおっしゃらないでいただきたいわ。先日も申しましたけど、わたくしは心当たりがありませんわ」


「盗んでないとでも言うつもり? あとで返すつもりだったとか? それとも落とし物として届けた? なら、そのときに言いなさいよ」


「では、宰相にお聞きになればよろしいのではありませんか? そのノートを渡したのは誰か」


「ふん。そのノートは確かに私の物よ。でも無くなったのよ。盗まれたの」


「このノートが盗難品であるかどうかは論点ではないが、私の手に届けたのは、学院長だ」


「学院長?」


 想像していない人物が出て来て、マリエルは戸惑った。

ゲームでは関わりがなく、学院というくらいだからいるのだろうなというくらいの認識だ。


「その学院長に渡したのは、私ですよ」


「司書さん」


「戸締りの見回りをしていたら忘れ物がありましてね。中を見れば誰のものか分かるかと思い、開いたところ想像を絶することが書かれていましたので、学院長に判断をお任せしたのですよ」


 ノートの裏表紙に家紋を書いておくのが暗黙のルールとして定着している。

もし無くても庶民の子は限られているため持ち主を探すのに苦労はしない。


「つまりノートは不注意による忘れ物であり、アンネワーク嬢が盗んだという事実はどこにもない」


「それは、私の勘違いだっただけで、謝ればいいんでしょ。悪かったわね」


「・・・・・・わたくしの嫌疑が晴れたようで何よりですわ」


「そこで、このノートに書かれた内容が重要になってくる」


 どうして内容が重要になるか分からないマリエルは、未だに宰相から追及されることに不快感を覚えた。


「ここには、学院で起きることが事細かに書かれており、実際のいくつかは多少の違いはあれど、概ね一致している」


「それが何だっていうのよ。それは物語よ」


「だとしてもだ。どうして・・・オーリエン殿下に婚約者がいると知っている?」


「だからそれは物語だって言ってるでしょ」


 ここはゲームの世界であり、物語の世界だ。

マリエルの言っていることは間違っていない。


「・・・編入日には迷ったと言っておったな」


「えぇそうよ」


「だが、このノートによると、わざと迷うことで、ルシーダが迎えに来ると書いている」


「それは・・・」


「ほかにもあるぞ。劇に乱入することで王族から覚えめでたくなり、在籍している両殿下、ひいてはニーリアン殿下に見初めてもらう」


 今までの行動は、ノートに書き出したイベントに沿って動いていた。

順番に検証されてしまうとマリエルに否定することはできない。


「殿下の気を引くために必要なのは、暴漢に襲われること」


「ちが・・・」


「現に、豊穣祭のときに襲われて、腕に怪我を負っている」


「それは、たまたま」


「たまたま? いきなり走り出して人気のない路地に入り、たまたま暗殺者がアンネワーク嬢を襲っているところに、たまたま出くわして、たまたま腕を切られたというのか? このノートには、怪我をすることまで書かれている」


 否定したくとも出来ないマリエルは、黙って宰相の言葉の続きを聞く。

客観的に見てもマリエルの行動はおかしい。


「だが、おかしいと思わんか? 暗殺者に襲われていながら命が助かるというのは」


「そ、それは一緒に襲われたアンネワークも同じでしょう」


「そうとも言える。だが、こうは考えられんか? 暗殺者があの路地にいることを知っていた何者かが襲われるために自ら飛び込んだ、と」


「そんなの詭弁だわ。憶測に過ぎないじゃない」


 マリエルが分かっていて行動したと捉えられる言い方に思わず反論した。

だが、ここは黙っている方が得策だった。

この言葉では、マリエルが真実を誤魔化すための発言にしか思えない。


「アンネワーク嬢を襲った暗殺者は、こう証言した。頼まれて依頼を受けたのに、邪魔をされた。だから腕を切ったと」


「わ、私が頼んだんじゃないわ」


「確かにな。誰が依頼人かは分からんそうだ。だが、暗殺者はアンネワーク嬢を抱えて人気のない路地まで移動した。なのに、マリエル嬢の当時の証言では、路地に入って行くアンネワーク嬢を見たから追いかけたと、そうだったな?」


 ここでも証言が食い違った。

マリエルは歩いて路地に入るアンネワークを見ていないから食い違って当然だ。

何か言い訳をしようにも思い浮かばない。

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