断罪が再開する
謹慎と言われて寮の部屋か、実家に連れて行かれると思っていたが、着いたのは王城だった。
これにはマリエルも先の展開が分からず、黙って案内されるままに従う。
「こちらの控えの間でお待ちください」
「ねぇ、どうして王城に連れて来られたの?」
「わたくしでは答えかねます。控えの間にお連れするようにと申し付かっただけですので」
「なら、誰が分かるの?」
「王城に招かれるときには、国王陛下ならびに王妃陛下、さらに王族の方が確認されたいことがある場合にございます」
簡潔に答えて侍女は退席をした。
まだ聞きたいことがあったが、マリエルは控えの間に一人になった。
「何よ。招いといて何も言わないとかあり得ないし」
「それは悪かったな」
「えっ? あっニーリアン、さま」
「急ぎ確認しなければいけないことがあった。何も言わずに連れて来ることになってすまない。そう肩肘を張る必要はない。国王が訪ねることに、ありのまま話してくれれば悪いようにはしない。さぁ行こうか」
ニーリアンのエスコートで謁見の間に入ったマリエルは、玉座に王、その両隣に王妃と第一側妃が座っており、一段下がったところに空席とフーリオン、オーリエンがいた。
離れたところには、ニーリアンの婚約者とアンネワークとジャクリーヌも座っていた。
壁際には宰相を含めた各大臣が同席している。
「そなたが、マリエル・ゴンゴニルド伯爵令嬢に相違ないか?」
「はい、ありません!」
「では、なぜ王城に呼んだのか話そう」
謁見の間まで案内していたニーリアンが笑顔でマリエルを見ていたから良い話だと信じていた。
ついにニーリアンの婚約者になり、次期王妃なのだと思い、王の言葉を今か今かと待ち侘びた。
「マリエル嬢、国を揺るがす意思ありと見て、その身柄を拘束する。罪状は、国家反逆罪。異論はないな?」
「へ? 何言ってんの? 国家反逆罪とかありえないし、私は何もしていません」
「異論があるということだな。ならば、そなたがした罪を詳らかにすることとしよう」
宣言されたのは、マリエルが罪人であるということだ。
そんなつもりはないし、国家を転覆させる意思など本当に持っていない。
「宰相よ、調べた内容を明らかにせよ」
「かしこまりました」
報告書の束を持つと、宰相はマリエルに向かって内容を読み上げた。
それはマリエルが編入してからのことが事細かに記されている。
「編入日よりも前に学院に入ろうとしたと門番から証言があります」
「それは・・・」
イベントのために早く行ったなどと正直に答えれば、頭のおかしい人となり申し開きもできなくなる。
ここは養父にも言った理由を告げる。
「私は平民だったから少しでも学院に馴染もうと思って早く行っただけです」
「そういうことにしておこうか」
「違います。本当にそうです。信じてください」
「・・・次に、再度、編入日を迎えたときに敷地内を彷徨っていた。門番はきちんとした道を教えていたにも関わらずだ」
信じてもらえずに、一つ一つ検証される。
だが、どれだけ本当のことを言ってもマリエルへの疑いは晴れない。
「私、方向音痴で途中で道が分からなくなってしまって、それで彷徨っていたんです」
「方向音痴・・・ならば案内を頼めば良かろう」
「でも、私のためだけにお願いするのは気が引けて」
殊勝な態度で答えたが、宰相は鼻を鳴らしただけに留めた。
まだマリエルに確認しなければいけないことは沢山あった。
「その次だ。ある日、演劇部の台本が一冊無くなったと報告があった」
「台本?」
「そう。持ち主はどこで無くしたかは分からない。ずいぶんと探したようだ」
「あっ、園遊会があった中庭で拾ったわ。すっかり返しそびれていたわ。アンネワークのものだと、教えてもらったの」
「返すのに時間がかかっているようだな。それに無くしたのは半年も前のことだ。それまでに教師に預けるなど方法はあったろうに」
拾ったものを返し忘れたというのは罪ではないが、ずいぶんといい加減な性格であることは印象付けてしまう。
マリエルとしては、台詞を覚えなければいけないから重要なアイテムだったが、終わってしまえば必要のないただの紙と化した。
「ただ返すのを忘れただけよ」
「そうではないという報告があるのだよ」
「はい?」
「あの中庭は、ちょうど図書室の窓から見えるのですよ」
マリエルは後ろにいたセバンスティーノに気づかなかった。
声がして振り返ると、いつもの司書の服装ではなく、同盟国の大使の服装をしていた。
「貴女が台本を拾ったというベンチも窓に近いのですよ」
「だから、何だって言うの?」
「図書室の空気を入れ替えようと思い、窓を開けていたのですよ。そしたら貴女の声が聞こえて来ましてね。この台本があれば練習ができると言って持ち去ったのを見たのです」
「えっ?」
マリエルの方からは本棚の陰になっていて見えなかったが、セバンスティーノからは良く見えた。
無意識の独り言まで聞かれていたとなると言い訳は難しい。
「そのあとにも図書室で勉強をしているときに持っていたようですから不思議に思ったのですよ」
「それは・・・」
「さっき拾っただけだと証言したが、状況を聞くと故意に持ち去ったとしか思えんな」
「でも、返すつもりはあったわ」
「それだけではないぞ」
宰相の合図で、ロチャードとグリファンが謁見の間に入って来た。
助けて欲しいと駆け寄ろうとしたが、二人の表情は重い。
「二人に問う。園遊会の劇でマリエル嬢が乱入したときの理由は、王族の方に失礼だと思ったから思わず飛び入りしてしまった。そう当人は言っておったのは間違いないか?」
「・・・間違いありません」
「はい、何度も聞きました」
「そうなると、その理由も怪しくなる。台本を持っておったのだから練習して挑んだことになる。証言が食い違うのう」
反論できる言葉をマリエルは思いつかず、唇を噛みしめて黙った。




