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看病をされる

 マリエルの熱が下がるまで三日かかり、回復して学院に戻ると、さらに周りの目は冷たくなっていた。

なぜ熱を出し、王城で看病されていたのか本当のことを説明できないため噂が噂を呼んでいた。


「まぁよく学院に来られましたわね」


「本当ですわ。フーリオン殿下に王城に行きたいと言い寄ったとか」


「それで心優しい殿下が王城に招いたところ熱を出したとか」


「わたくしが聞いた噂では、ニーリアン殿下に看病をさせたとか」


「なんと厚かましい」


「わたくしなら恥ずかしくて休学しますわ」


「えぇ、王族の方の手を煩わせるなど、本当にあり得ませんわね」


 令嬢たちが聞こえよがしに言うため、マリエルが熱を出していた間の状況が良く分かった。

だが、そんな陰口を気にすることなく、教室に向かう。


「・・・熱は大丈夫なのか?」


「うん、大丈夫。心配かけてごめんなさい。フーリオン様」


「そうか。昼は食堂で食べよう」


「いいの? いつも仕事があるって言ってたのに」


「あぁ、今日は特別だからな」


 フーリオンの台詞が好感度が順調に上がっているときに言われる台詞だ。

事あるごとにマリエルと共にいることが特別だと表現する。

その言葉が無くなると好感度が下がった指標になるから気にしていた。


「体が辛いような言ってくれ」


「ありがとう」


「そろそろ教師が来る。席に座った方がいい」


 初めてフーリオンと昼休みを過ごすことにマリエルは浮かれており、マリエルを気に掛ける視線に気づかなかった。

王城に連れて行かれたと聞き、心配をしていたロチャードとグリファンのことは、マリエルの頭から消えていた。


「・・・相談があるのだけど」


「相談?」


「うん、私が犯人だって疑われているみたい。フーリオン様から私は無実だって言って欲しいの。私は、あのとき側にいただけだもの。そうでしょ?」


「そうだな」


 何かを考え込むようにしてフーリオンは腕を組んだ。

今ならフーリオンは味方をしてくれると信じているマリエルは、返答を待った。

だが、その返答を貰う前に、割って入る声があった。


「ふー!」


「・・・・・・アンネ」


「あのね、話したいことがたくさんあるの!」


「俺もあるよ。先に良いか?」


「なぁに?」


「婚約破棄をして欲しい。いや、この言い方ではアンネにしてもらうことになるな。婚約破棄をしたい」


「な、なにを、言って・・・ふー?」


 フーリオンは無表情に冷たく告げた。

話し声がしていた食堂はフーリオンの宣言で、静まり返った。

婚約破棄を告げられるつもりはないアンネワークは、フーリオンに縋りつくが、優しく腕を外される。


「ほんとに? だって・・・」


「すまない」


「卒業したら結婚しようって」


「そうだったな」


「一緒にお芝居見ようって」


「約束もしたな」


「だって、だって・・・」


「お願いだから受け入れてくれ。もう耐えられないんだ」


 アンネワークの目からは大粒の涙が溢れ出し、フーリオンは辛そうに見つめる。

子どもの駄々を宥めるようにフーリオンは言葉を続ける。


「俺は王族だ。だが、偽れないんだ」


「どうして? 何か悪いところあった? だったら直すから」


「すまない。アンネに悪いところなんてない。だが、これ以上は耐えられそうにない。だから受け入れてくれ」


 泣いたままのアンネワークの横を通り過ぎたフーリオンは、人気のない図書室へ向かった。

窓際の席に座り、読むつもりのない本を開いた。

そこに現れたのは、こっそりと追いかけていたマリエルだ。

声をかけるのも躊躇いながらもマリエルは、近付いた。

気づいていながらもフーリオンは、黙ったままマリエルを見ない。


「あの・・・」


「何だ?」


「あの・・・」


「・・・これで、俺も後には引けなくなったな」


「あの、元気を出して」


「君に慰められるとは思わなかったな」


 フーリオンは、立ち上がると軽くマリエルを抱きしめた。

急に抱きしめられてマリエルは硬直した。


「やっぱり違うな」


 そう言い残してフーリオンは、立ち去った。

残されたマリエルは、頬を真っ赤にして、フーリオンの攻略が成功したことを噛みしめていた。


「これよ、これ。やっぱり上手く行ってたんだわ。これで次はダンスパーティよね。これで完結よ」


 そんな呟きを聞いている者がいるとは思わずに、マリエルは幸せに浸る。

良い夢が見られると、興奮冷めやらぬままにマリエルは眠りについた。

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