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追手が迫る

 ついさっきまでいた部屋に戻ることになった。

そこでは、庭で何があったかを聞かれると思ったが、雰囲気が違った。


「お前が手引きしたのか?」


「手引き? 何のこと?」


「とぼけるなぁ。お前があの庭に暗殺者を招き入れたんだろう。王家の方々がお忍びで来られていたから警備は万全だった。なのに、暗殺者が入り込み、伯爵令嬢の髪を切った」


 フーリオンの叫びを聞いて、振り返ったアンネワークは逃げようと蹲った。

そのせいでナイフが首を切らずに、髪を切るに留まった。


「しかもお前は、豊穣祭のときにも騒ぎを起こしていたな」


「違うわ! あれは私は関係ないわ」


「今回、偶然にも護衛が近くにいたから取り押さえることができたが、逃走の経路も教えるつもりだったんだろう? だから、あの庭に行った。違うか?」


「だから違うわよ。私は、たまたま居ただけで、本当に関係ないの」


 どれだけ弁明してもマリエルが犯人であると決めてかかっている。

マリエルも何が起きているか分かっていない。


「だから、違うって言ってんのに・・・だいたい襲われるのはヒロインでしょ。悪役令嬢のアイツがどうして・・・あっ、そうよ」


「何だ? 白状する気になったか?」


「違うわよ。あの暗殺者を取り押さえた護衛よ。彼に聞けば、分かるわ。だって彼は、フーリオンの子飼いの暗殺者でしょ? 秘密裏に守るようにって言ったはずだもの」


「・・・てめぇ、どこでその情報を知った? 極秘事項で、普段は姿すら見せない男だ。それをどうして一介の伯爵令嬢が、それも最近まで平民だった女が知ってる? やっぱり、間者か」


「えっ? 違うわよ。でも、知ってるものは知ってるの」


 マリエルのことは怪しいが、証拠もないのに引き留めることはできない。

それにマリエルの身柄の解放として、生徒会が要請をかけた。

たかが生徒会だが、高位貴族からの要請となると無視はできない。

仕方なくマリエルは釈放された。


「ちっ、仕方ねぇ。だが、俺はてめぇが無罪だとは思ってねぇ。必ず尻尾を掴んでやる」


「だから違うって言ってるでしょ」


「証拠を見つけたら、牢屋に入れてやるから覚悟しろ」


「違うわよ。間違ってたら、あんたなんかクビにしてやるわ」


 マリエルの迎えとして、ロチャードとグリファンが来ていた。

ロチャードとグリファンは公爵家だ。

この二つの家から確認をされれば、証拠がないのに無理はできない。


「災難だったな」


「もう本当よ」


「話を聞くだけというには、ずいぶんと時間がかかったな」


「何か、私が暗殺者を手引きしたって疑われているみたい」


「マリエルが? ありえないだろう」


「あぁ。どこに目をつけているのだか。父に言って不当な取り調べは、しないように忠告してもらう。無実の人間を拘束するなど、あってはならないことだからな」


 二人はマリエルが、王妃に直談判をした一幕を知らない。

歓迎会が終わったら姿が見えなくなり、そして取り調べを受けているということを知った。

暗殺者が学院に入り込んだということは知っているが、それでマリエルが拘束される理由にはならないとして、不当であると申し立てをした。


「今日は留学生を迎えた初日だから食堂で立食パーティをしている。疲れているなら個別に食べることができるが、どうする?」


「せっかくだもの立食パーティに出るわ」


「たぶん、まだルシーダもいるはずだ」


「そうだな。紹介もしたいから行こう」


 留学生を歓迎する立食パーティは、まだ続いており、終わる気配もなかった。

娯楽というものがない学院生活で、パーティは息抜きには持って来いだ。


「ルシーダ」


「あぁ、ロチャード、グリファン、姿が見えないから帰ったのかと思ったよ」


「悪い悪い、迎えに行っていたんだ」


「迎え?」


「あの、マリエル・ゴンゴニルドと言います。お名前を教えてください」


 紹介される場合は、自分から名前を名乗ることはしない。

だが、マリエルは、ルシーダとの最初の会話をしようと、ゲームの選択肢で正しいものを選んだ。


「ずいぶんと積極的なお嬢さんだ」


「私、いいとおもいます。だから自信をもって名乗って良いと思います」


「何を言っているのか分からないが、僕はルシーダ・コルガングだ。爵位は、父が侯爵家を賜っている」


「悪いな。マリエルは、お前に会えると思って気が急いていたんだ。それにさっきまで不当な取り調べを受けていたから」


 マリエルの行動を擁護するための理由をグリファンが告げたが、ルシーダは納得しなかった。

貴族令嬢として、紹介を待たずに名乗り出るのは、無礼だとしている。

マリエルの爵位がルシーダよりも下であるということも紹介を待つのが礼儀だ。


「不当?」


「あぁ、ただそこにいたというだけで、取り調べを受けたんだ」


「取り調べ? 話を聞くだけではなく?」


「話を聞くというには、かなり長い時間、拘束されていた。同じようにいたのならジャクリーヌ嬢やアンネワーク嬢も聴取があったはずなのに、呼ばれていないようだからな」


 マリエルが怪しいと思われたのは、王家の者たちで庭を鑑賞するというのは、王妃の思いつきで決まったことだ。

なのに、そこに暗殺者が現れて、アンネワークが襲われた。

誰かが情報を流して手引きをしなければ、都合よく襲うことができない。


「災難だったと気の毒には思うが、調べが確定しないうちには気安くすることはできないな」


「そうか、まぁ冤罪だと思うから疑いはすぐに晴れる。そのときは、仲良くしてくれ」


「分かった。これからグレイソンたちを寮まで案内することになっている。また明日」


「あぁ」


 挨拶はできたが、ルシーダからは好印象を得られないことにマリエルは苛立ちを隠せなかった。

これでようやく生徒会の攻略対象者と顔見知りになったのに、好感度が低いとシークレットルートの成功率が低くなる。

ルシーダがいないなら立食パーティに出続ける必要はない。


「ごめんなさい。ロチャード、グリファン、ちょっと気分が悪いみたい。やっぱり寮に帰るわ」


「大丈夫か? 送ろうか?」


「いいえ、大丈夫よ。女子寮に来たりしたら騒がれちゃう」


「なら、休むと良い。今日は色々あったからな。交流会も終わったし、生徒会の補佐も終わりだ」


「ロチャード、そのことなんだけどね?」


「マリエル、今日は休むと良い。話があるなら明日聞くから」


「グリファン、待って」


 いつもなら話を聞いてくれる二人が遮ってまでマリエルを帰らそうとした。

それは、複数ある出入口のひとつに軍人の姿を見たからだ。

女子寮の中までは入らないと予想して、ロチャードとグリファンは視線で結託した。

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