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学院に戻る

 落ち着けるようにと枕元にアロマを焚いてウォンは同じようにお茶を飲んだ。


「まぁとにかく怪我を治して、学院に一刻も早く戻れるように勉強することですね。明日からの先生をお呼びしていますから」


「えっ?」


「何です? その顔は、このままゆっくり出来るわけないでしょう。貴女の成績は下から数えた方が早いんですからね」


 ベッドサイドには教科書が置かれ、しっかりと勉強ができる環境が整えられた。

逃げ出そうにも廊下には十五分置きにメイドが通り、部屋は二階だが降りるためのロープのようなものはなく、さらに下は薔薇の花壇だ。

仕方なく勉強を始めたマリエルは、痛み止めの薬の影響もあって眠った。

怪我が治っても勉強の遅れがあると、ウォンが許してくれなくて学院に戻るのに半年かかった。

ようやく一年生の学習範囲に追いついただけで、及第点とは言えないが、これ以上は本気で脱走すると考えて学院に戻すことを決めた。


「これ以上、頭を使ったら溶けるわ」


「溶けてから言ってくださいね。それに、ようやく追いついたところですから少しでも気を抜けば簡単に最下位ですよ。本当にようやく可もなく不可もなくの中間層になれたところなんですから」


「分かってるわよ」


「本当に分かってるんですかね? 聞くところによると婚約者のいる方に不必要に言い寄っていると」


「言い寄ってないわよ! 生徒会の手伝いをしてただけよ」


「本当にそうであることを祈ってますよ」


 次に何か問題を起こせば、マリエルの意思に関係なく退学になるだろう。

イベント通りに進んでいるはずなのに崖っぷちな感じは拭えない。

何としてでもフーリオンを攻略して、最終的には王妃になれるニーリアンに近づきたかった。


「だから大丈夫だって言ってるでしょ」


「・・・少しでも成績を落とせば退学ですからね」


「分かってるって言ってるでしょ」


 マリエルを乗せた馬車は順調に学院へ向かった。

今回は、門番にも話が通っていたのだろう。

一度も止まることなくマリエルは貴族校舎に到着した。

馬車から降りたマリエルに対して怪訝そうな視線が集まるが、気にすることなく教室へ向かう。


「マリエル!」


「もう怪我は大丈夫なのか?」


「えぇ、大丈夫よ。心配をかけてごめんなさい」


 視線だけでフーリオンとオーリエンを探したが二人はいなかった。

それと同時に、アンネワークもジャクリーヌの姿もない。

マリエルの復帰を単純に喜ぶ二人に、連れられて生徒会室へ行く。


 そこには今まで会っていなかった双子の庶務がいた。

兄のマルクスと弟のカルタスだが、一卵性の双子ではあるが、身長と表情に違いがあるから初対面でも見分けられる。


「暴漢に襲われたのは災難だったね」


「いえ・・・」


「僕たちからも謝らせて欲しい。豊穣祭の生徒の安全配備は僕たち庶務が手配していたからね。ねぇ兄さん」


「・・・あぁ。怪我をしたと聞いたのでな」


 怪我は治ったから大丈夫だということを強調し、マリエルはこのまま補佐を続けたいということを伝えた。

それにはマルクスとカクタスから難色を示される。

二人はそれぞれの婚約者にあまり良い感情を持っていないが、貴族として婚約者以外の令嬢に近づくのが好ましくないという分別はつく。

幼い頃から交流のある家ならば、多少は見て見ぬふりをしてくれるが、マリエルの家では難しい。


「ロチャードが怪我をしていたときに書類を届けてくれたのは正直、助かった」


「あぁ、だがロチャードも復帰し、さらに君は怪我をした。このまま生徒会補佐を続けてもらう必要がない」


「そうですよね。皆さんのお役に立てるのが嬉しくて、つい我が儘を言ってしまいました」


「我が儘ではないが、そうだな。今度の交流会まではお願いしよう」


「交流会?」


 何かイベントが起きる予想はできるが、思い出すためのノートに書いた記憶が無かった。

ただ、今すぐに補佐を辞めるということにならないのならマリエルは頷いた。

初めて聞く交流会までに双子を攻略してしまえば良いと思った。


「あぁ、副会長のルシーダが留学している学校の生徒が短期間だが我が学院に滞在される。その式典の準備が色々とある」


「お、お手伝いさせてください」


「まぁ書類を仕分けてもらうという普段と変わらないことだから意気込む必要はない。それに伯爵家とは言え最近まで庶民だった君を表舞台に立たせるわけにはいかない」


「幸いにも王族が在籍しているから、当日は忙しいということはないだろうね」


 今まで攻略しようにも顔すら合わせられなかったルシーダに会えるとなってマリエルの心は弾んでいた。

これで生徒会の攻略対象は問題ないと思い、マリエルの頭の中はフーリオンとオーリエンのことでいっぱいになっている。

だが、その目論見が崩れるとは夢にも思っていなかった。

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