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好感度が下がる

 顔を青褪めさせているマリエルを見て何かあったと思ったグリファンはそのまま走り出しそうなマリエルの手を掴んで押し留めた。


「どうした? 何かあったのか?」


「あっあの、これ、拾ったんだけど、誰か分からないから持ったままになっていて」


「演劇部の台本だな。だが落し物の問い合わせには無かったと思うが」


「さっき司書さんがアンネワークさんが無くしたものだって教えてくれて」


 マリエルの答えは断片的だがグリファンには伝わった。


「だがアンネワーク嬢の顔を知っているのか?」


「あっ知らない」


「なら生徒会から返しておこう」


「お願いね」


 グリファンに台本を預けると安堵したように溜め息を吐いた。

そんなマリエルの様子を苦笑したようにグリファンは見つめた。


「そんな入り口で何をしているんだ?」


「あぁロチャード」


「逢引ならもう少し隠れたところでしてもらえないか」


「彼女とはそういう中ではないさ。わざわざ来てもらって悪いな。マリエルがきちんと謝罪をしたいと言っていたからな」


「そのことならもう受け取った」


 簡潔にたまたま廊下で会ったときに謝罪を受けたという。

マリエルとしては謝罪が終わったから普通に話ができると思っていた。


「話がそれだけなら僕は失礼する」


「待って」


「まだ何か?」


「えっと一緒に勉強会しない?」


「なぜ君と勉強を共にしなければならない? 生徒会の仕事があるのでね。失礼」


 素っ気なく立ち去るロチャードを引き留める上手い理由が思いつけずマリエルは親交を深めることができなかった。

友人の頑なな態度にグリファンは肩を竦めてマリエルを図書館へと誘導した。

勉強をしていても心ここにあらずの状態のマリエルに教えることを諦めてグリファンも離れた。


 閉館の時刻になってマリエルは司書に声をかけられて急いで教科書を抱えたが課題は何一つとして進んでいなかった。

幸い次の授業は一週間後だから週末を利用すれば良いがマリエルの記憶力はそこまでよくなかった。

同時に授業を進めていた教師も最下位クラスの生徒に対して情熱を傾けてはいなかった。

教室の貴族たちに無視をされたまま日々を過ごしてグリファンとも少し距離が開いてしまう。

寮の部屋でマリエルは独り言ちた。


「一体、どうしてよ。グリファンとの好感度は上がっていたはずでしょ。それにロチャードとも会えないし、もっと言えばルシーダはどうなってるのよ」


 攻略が全く進まないことに苛立ちを募らせてマリエルはクッションを叩きつけた。

貴族の学校にしては行事が多く、月に一回は王族が見に来る行事がある。

そこで有能であると認められれば身分が低くても実力だけで上にいける。

そのために頑張る子爵家、男爵家、平民が多かった。


「えっと、次の行事は乗馬大会よね。さすがにこれは男子だけだから乱入はできないわね」


 その前に馬に華麗に乗る技術を持っていない。

授業で何度か馬に乗る機会があったが、乗るだけで走らせるということなど夢にも近かった。


「たしか応援する人を選ぶことで好感度が上がるのよね」


 乗馬大会の前に応援する人を選択する項目が出る。

選ぶと、その人が走るときに目も開けていられないほどの突風が吹き帽子が飛ばされてしまう。

帽子があると走る妨げになると思い、取りに行くと眼前に迫っており、あわや轢かれると誰もが思うところに見事な手綱捌きにより事なきを得る。


 あとで叱られるが、帽子が邪魔になってはいけないという気持ちに打たれて好感度が上がる。

観客が目も開けてられないほどの突風なのに騎手が普通に走っているのは不思議なことだがヒロインのところだけ吹いたのだとされている。


「今のところ好感度が上がってるのはグリファンだけ、でも放課後に図書館で待っていても会えない。一度だけ忙しくなるからって言われたけど」


 グリファンの好感度がどの程度なのか測りかねていた。

あまり上げすぎると確定してしまい狙っているシークレットルートのイベントが発生しなくなる。

だが予定よりも他の攻略者への好感度が上がっていないことがマリエルの懸念事項だった。


「ロチャードとは好感度どころか顔見知り程度に近いものね」


 まだ初期だから好感度を上げる機会が少ないのは仕方ないとしてもグリファンだけというのは都合が悪い。


「当日の出場者が誰か分かればいいのに」


 攻略対象者の好感度によってシークレットキャラが出てくるか決まる。

出てくるが応援は出来ないので好感度の上がり具合の指標になる。


「あっ帽子をどうしよう」


 男爵家と子爵家は帽子を被り、伯爵家以上は日傘を使って日除けをする。

持ってきた荷物には帽子ではなく日傘が用意されていた。

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