クラスが変わる
パーティーの余韻に浸る間もなくマリエルは園遊会イベントとグリファンとロチャードの会話を書き留めていた。
演技は完璧にしたつもりだったが褒められることもなく周りからは小言ばかり言われた。
好感度が他の人より高くなったグリファンですら褒めることなく曖昧に濁していた。
「園遊会イベントはシークレットルートのフーリオンの好感度を上げるのに必要なのにイマイチだったのよね」
乱入のタイミングも科白も完璧だったのに失敗した。
その原因が掴めずマリエルは苦悶していた。
「園遊会イベントは毎月あるから次に成功させればいいのよね」
切り替えが早いのがマリエルの長所でもあり短所でもあった。
「それはそうと、グリファンのあの台詞って終盤で言われるやつよね」
最初に書き出したゲームの流れでは終盤も終盤で言われる胸キュンポイントとしてネットで騒がれていたから覚えていた。
「もしかして好感度上げすぎた? でも図書館で勉強とお菓子くらいしかしてないし」
グリファンはマリエルの行動を良くは思っていないが突き放すまではしていない。
「ロチャードと会うのも編入当日の職員室に行くときなのに園遊会イベント後に会うし」
編入当日に会うはずの副会長のルシーダと会長のロチャードとは好感度を上げることができていない。
「今がシークレットルートだとしてイベントの起こり方が違うとしてもグリファンだけの好感度が上がっているのは困りものよね」
特定の一人だけの好感度が上がると自動的にルート確定してしまうから序盤は広く浅く好感度を上げる必要がある。
「明日はクラス替え発表の日だし早く寝よ」
クラス替えでグリファンがいるクラスに上がれることを信じて疑っていないマリエルは掲示板を見て驚くことになる。
「・・・どういうことよ。どうしてグリファンたちと同じクラスじゃないの?」
上位クラスの名簿から順番に見ていくが名前がなく、ようやく見つけたのは通常クラスの最下位クラスの名簿だった。
試験で半分しか解けていないのに上位にいけるはずはなかった。
「これじゃロチャードに会えないじゃない」
「ロチャードがどうかしたのか?」
「あっグリファン、おはよう」
「おはよう」
「あのね、その」
独り言を聞かれていた恥ずかしさと口に出しているつもりがなかったことでマリエルは動揺を隠せないでいた。
周りはグリファンが話しかけた見慣れない少女に視線を向けた。
「きちんと謝ろうと思って、その、この間のこと」
「あぁ、それなら今日の勉強会のときに連れて来るよ」
「本当!」
「あぁ」
「ありがとう」
これでロチャードとの仲を深めることができると思い心からの笑みを浮かべた。
見た目は美少女だから笑顔が可愛いのはもちろんだった。
貴族令嬢として教育を受けた者は人前で喜怒哀楽を大きく表現することはない。
マリエルの感情表現は新鮮に見えた。
「困ったことがあればいつでも教えてくれ。生徒会として編入生の補助は仕事のうちだから」
「うん、ありがとう」
「じゃ放課後に」
昨日は情熱的にマリエルの助けになりたいと言いながら今日は生徒会としてという理由がついた。
マリエルはグリファンの好感度を測りかねていた。
「とにかく授業を受けないといけないのよね」
授業態度について連絡が次に行けば問答無用で家に連れ戻されかねない。
そうなると完全に手詰まりになる。
何としてもそれだけは避けないといけなかった。
「家に連れ戻されるのがバッドエンドじゃなくてゲームオーバーっていうのも謎のひとつよね」
ゲームオーバーにリーチがかかっているマリエルにとって毎月ある学力試験は試練と言っても良かった。
ゲームなら攻略対象者への好感度アップのミニゲーム扱いだが今のマリエルにとっては学校に残れるかどうかの重要なイベントだった。
クラス替えになると必ず起きるのは席順だった。
座席だけが書かれた紙が黒板に貼り出され早いもの順で名前を書いていく。
希望するところが被ることもあるが、そこは爵位によって決められる。
そんな仕組みを知らないマリエルは適当に選んで席に座った。
教科書を全部運ばないといけないから朝から重労働だった。




