物語が進む
泣いているアンネワークはフーリオンが抱き上げて第三応接室に向かった。
期待に満ちた瞳で見ていた観客は白けた顔を隠すことなく園遊会を後にする。
見ていた王族たちも不快だという表情を隠すことなく冷めた目を乱入したマリエルに向けていた。
賛辞の拍手を貰えると思っていたマリエルは観客たちの冷めた対応に目を丸くしていた。
今回はフーリオンの婚約者であるアンネワークが主役をするということで、王と王妃、第一側妃に第一王子まで揃い踏みで見ていた。
アンネワークは王家からも気に入られている。
「そなた、名は?」
興味のなさそうな声で王妃はマリエルに問いかけた。
「マリエル・ゴンゴニルドです」
「そう」
王家からお褒めの言葉を貰えると思い黙っていると、王を含め王族は全員席を立って退出してしまった。
それに驚いたマリエルは近づこうとするが護衛たちに止められて何も出来なかった。
「一体、何だったの?」
マリエルは自分がしたことが王家の不興を買ったとは思い至らず名前を問われた意味を分かっていなかった
園遊会が終わると設備の撤収とばかりに作業員が集まった。
マリエルは邪魔だと言われながら端に追いやられ訳の分からないまま教室に戻った。
ヒソヒソと話ながらマリエルを見ているが誰も声をかけず好意的な目はひとつも無かった。
「一体、何よ。何も悪いことをしてないわ」
「本気でそう思っていらっしゃるのかしら?」
「あんな大根芝居を見せられて黙っていられるわけないわ。私は王族の方のためにしたのよ」
マリエルの行動はいくら問題児ばかりを集めたクラスの所属であっても許されるものではなかった。
連帯責任という名の厄介払いをされる可能性があったからハーメイナはマリエルに問いかけた。
「王族の方からは何か言葉を賜ったのかしら?」
「名前を聞かれたわ」
「そう。金輪際、わたくしたちに話しかけないでいただけるかしら?」
ハーメイナは、マリエルの乱入が自分達にどんな影響を与えるか正確に理解している。
「もちろん爵位に関わらず全員にという意味ですけれどもご理解してもらえたかしら?」
「はぁ? どういう意味よ。関わるなって!」
「文字通りですわ。貴女が関わることで、お家断絶の憂き目に合いましたら目も当てられませんもの」
「お家断絶? 何を言っているの?」
ハーメイナは深く溜め息を吐いてマリエルの顔をじっと見た。
そこには侮蔑の感情が宿っていたが向けられたマリエルは理解できないとばかりに睨み返した。
「園遊会は庶民の方が自分の特技を王族の方ひいては貴族の方に見ていただく場ですのよ。それを貴族の貴女が台無しにしたのよ。それはお分かりかしら?」
「主役の貴族が既に台無しにしてたじゃない。だから私は何とかしようと思ったのよ。台無しに何かしてないわ」
「台無しにしたのよ。そして貴女と親しくすることで同じだと思われたく無いのです」
ハーメイナは優しく噛み砕いて説明したがマリエルはまだ理解してなかった。
それは根本的な認識が抜けているからだ。
「貴女の言う主役の貴族は第二王子のフーリオン様のご婚約者であり王族の方から覚え目出度い方ですの」
「えっ? 疎まれてるんじゃ」
「誰がそのようなことを? 婚約者のアンネワーク様が舞台に立たれるということでご公務を調整されてご覧になられたのです。そのアンネワーク様の見せ場を奪った。それがどれだけ大変なことかご理解いただけたかしら?」




